適応障害における「意味づけ」の効果:不安とうつを軽減するカギとは?
2025/02/02
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
日常生活の中で、誰しも大きな環境の変化やストレスに直面することがあります。
転職、引っ越し、人間関係の変化…これらは私たちにとって適応を求められる出来事です。
しかし、それらが強いストレスとなり、うまく対応できなくなると、適応障害と診断されることがあります。
適応障害は、不安や抑うつといった心理的症状を引き起こし、日常生活に影響を与えます。
最近の研究では、「意味づけ(Meaning-Making)」が適応障害の回復において重要な役割を果たすことが明らかになっています。
本記事では、「意味づけ」とは何か? なぜそれが適応障害の回復を助けるのか? について、認知行動療法(CBT)との関連性を含めて詳しく解説します。
1. 適応障害とは?
1-1. 適応障害の特徴
適応障害は、特定のストレス要因に対して過度な心理的・身体的反応が生じる精神疾患です。
通常、ストレスが発生してから3か月以内に症状が現れ、環境に適応するのが難しくなることが特徴です。
1-2. 適応障害の主な症状
感情的症状
→不安感、抑うつ気分、絶望感、イライラ
行動的症状
→集中力の低下、意欲の減退、社会的孤立
身体的症状
→頭痛、胃痛、疲労感
適応障害は、特定のストレス要因に起因するため、その要因がなくなると症状が改善することもありますが、長引くと慢性化し、うつ病や不安障害へと移行するリスクもあります。
2. 研究論文が示す「意味づけ」の役割
今回紹介する論文では、「意味づけ(Meaning-Making)」が適応障害における不安やうつの軽減にどのように関与するのかが分析されています。
特に、意味づけが心理的適応に及ぼす影響や、認知行動療法(CBT)との関連性が強調されています。
2-1. 「意味づけ(Meaning-Making)」とは?
意味づけとは、ストレスや困難な出来事に対して、自分なりの意味や価値を見出すことを指します。
これは、単なるポジティブ思考ではなく、「なぜ自分にこのようなことが起きたのか?」という問いに対する心理的なプロセスです。
私たちは、人生の中でさまざまな困難に直面します。仕事での失敗、人間関係のトラブル、大きな環境の変化などがあると、心が不安定になりやすくなります。
このとき、ただ「辛い」と感じるのではなく、「この経験にはどんな意味があるのか?」と考えることで、心の負担を軽減することができるとされています。
● 具体例
転職のストレス
→「この環境の変化は、自分が新しい可能性を探るチャンスかもしれない」
人間関係のトラブル
→「この出来事は、より良い人間関係を築くための学びになる」
仕事のミス
→「自分の弱点を知る機会になった。次はもっと成長できる」
このように、意味づけのプロセスを通じて、出来事をネガティブなものから学びや成長につながる経験として捉え直すことができるのです。
2-2. 適応障害における「意味づけ」の役割
研究では、意味づけが適応障害の不安や抑うつの軽減にどのように寄与するのかについて、いくつかの重要なポイントが示されています。
① 不安や抑うつの軽減
適応障害では、新しい環境や出来事への適応がうまくいかないことで、強いストレス、不安、抑うつを感じやすくなります。
意味づけのプロセスを取り入れることで、以下のような効果が期待できます。
・ストレスに対する認知の枠組みを変え、不安や抑うつを軽減する
・「自分がどう対処すればいいか」という主体的な考え方を促進する
・ネガティブな出来事を学びの機会として捉えることで、心理的適応力を向上させる
研究結果では、意味づけを積極的に行う人ほど、不安や抑うつの症状が軽減されやすいことが示されています。
② ストレスに対する耐性を高める
適応障害の大きな要因のひとつに、「ストレスに対する認知の歪み」があります。
例えば、仕事での失敗を「自分には能力がない」と捉えるのではなく、「失敗から学び、成長する機会」と意味づけることで、ストレス耐性が向上すると考えられています。
このように、意味づけのプロセスを通じて、出来事の解釈を変えることで、ストレスへの耐性を高めることができるのです。
③ 認知行動療法(CBT)の効果を高める
論文では、意味づけが認知行動療法(CBT)の治療効果を高めることが指摘されています。
認知行動療法では、「出来事」→「思考」→「感情」→「行動」のプロセスを見直し、否定的な思考を修正することを目的としています。
このプロセスに意味づけを取り入れることで、より前向きな思考パターンを構築し、ストレスに柔軟に対応する力を育てることが可能になります。
・否定的な出来事を新しい視点から意味づける
・自己成長の機会として捉え直す
・長期的な視点で「今の苦しみが将来どう役立つのか」を考える
こうした認知の再構築が、適応障害からの回復を促進することが研究によって示されています。
3. 意味づけを促す具体的なアプローチ
意味づけ(Meaning-Making)は、適応障害の回復を促す重要なプロセスです。
ストレスや困難な出来事に対して、「どのような意味があるのか?」を見つけることで、心理的な負担を軽減し、前向きな視点を持つことができます。
ここでは、具体的なアプローチを紹介します。
① ジャーナリング(書くことで思考を整理する)
ジャーナリングとは、自分の感情や思考を書き出すことで、気づきを得る手法です。
ストレスや不安を感じたときに、自分の思考を紙に書くことで、頭の中の混乱が整理され、ネガティブな感情を客観的に見ることができます。
● 実践方法
(1)テーマを決める
→「最近のストレス」「今抱えている悩み」「乗り越えた出来事」などを書き出す。
(2)自由に書く
→正しい文章を書く必要はなく、思ったことをそのまま書く。
(3)振り返る
→書いた内容を読み返し、「この出来事から何を学べるか?」を考える。
例えば、「仕事でミスをして上司に怒られた」という出来事があった場合、ジャーナリングを通して「この経験を通して、もっと慎重に仕事を進める方法を学んだ」「上司の指摘は成長のためのアドバイスだった」といった気づきを得ることができます。
② リフレーミング(物事の捉え方を変える)
リフレーミングとは、出来事や状況の見方を変えることで、新たな意味を見出す方法です。
同じ出来事でも、視点を変えるだけで、ポジティブな側面を見つけやすくなります。
● 実践方法
(1)ネガティブな出来事をリストアップする
→「〇〇がうまくいかなかった」「〇〇で失敗した」など。
(2)別の視点で捉え直す
→「この経験から学べることは?」「長期的に見たとき、この出来事はどう役立つ?」と考える。
例えば、「転職に失敗した」という出来事に対して、リフレーミングを行うと以下のようになります。
・「より自分に合った仕事を探す機会になった」
・「面接の経験を積んだことで、次の選考ではもっと自信を持てる」
このように、視点を変えることで、自分の経験に新しい意味を見つけやすくなります。
③ 物語化(ナラティブ・アプローチ)
ナラティブ・アプローチとは、自分の人生を「物語」として捉え、出来事の意味を再構築する方法です。
過去の出来事を整理し、自分なりのストーリーを作ることで、困難な状況にも前向きな意味を見出すことができます。
● 実践方法
(1)これまでの人生の重要な出来事を振り返る
→成功したこと、失敗したこと、辛かった経験などを書き出す。
(2)出来事を物語のように整理する
→登場人物(自分)、出来事の背景、転機となった出来事、学んだことを整理する。
(3)「今の自分」はどんなストーリーを歩んでいるか考える
→「この経験を乗り越えた自分は、どんな成長をしたのか?」を考える。
例えば、「過去に人間関係で傷ついた経験がある」とした場合、それを「過去の自分の試練」と捉え、「この経験があったからこそ、人の痛みがわかるようになった」と意味づけることができます。
④ 瞑想と内省(自分と向き合う時間を作る)
意味づけのプロセスでは、日々の忙しさの中で「自分と向き合う時間を持つ」ことも大切です。
瞑想や内省を行うことで、自分の心の状態を観察し、感情を整理することができます。
● 実践方法
(1)1日5〜10分、静かな環境で座る
(2)呼吸を整え、今の感情や考えを客観的に眺める
(3)「なぜこの感情が生まれたのか?」を深掘りする
(4)「この出来事にはどんな意味があるか?」を考える
瞑想を習慣化することで、日常のストレスを和らげるだけでなく、自分の思考パターンを理解し、出来事の意味を見つけやすくなる効果が期待できます。
⑤ 他者と対話する
自分一人では意味づけが難しい場合、信頼できる人と話すことが有効です。
他者との対話を通じて、新たな視点を得たり、思考を整理したりすることができます。
● 実践方法
身近な人と話す
→「最近こんなことがあって、どう思う?」と率直に相談する。
カウンセリングを活用する
専門家と話すことで、客観的な視点から出来事の意味を見出しやすくなる。
人と話すことで、「こういう考え方もあるんだ」「自分の捉え方が偏っていたかもしれない」と気づくことができ、出来事をよりポジティブな視点で捉えられるようになります。
まとめ
研究結果では、「意味づけ」が適応障害における不安や抑うつの軽減に重要な役割を果たすことが示されています。
特に、認知行動療法と組み合わせることで、より効果的な回復が期待できます。
適応障害は、ストレス要因がある限り誰にでも起こる可能性があるものですが、「この出来事にどんな意味があるのか?」と考えることで、回復への道が開けます。
ぜひ、皆さんなりの「意味付け」を考えてみてくださいね
参考論文
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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