ポジティブ思考は毒になる?~「気をそらすこと」が不安対策に有効な理由~
2025/02/07
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
さて、日常生活の中で、不安を感じることは誰にでもあります。
仕事のプレゼン前、人間関係のトラブル、将来への漠然とした不安…。
私たちはさまざまな場面で心がざわつく経験をします。
そんなとき、多くの方は「ポジティブに考えれば大丈夫」「気にしすぎないようにしよう」と自分に言い聞かせます。
しかし、こうした無理なポジティブ思考が逆にストレスを増やしてしまうことも少なくありません。
不安を完全になくすことはできませんが、上手に軽減し、乗り越える方法は存在します。
最近の研究では、不安を和らげるために「気をそらすこと(ディストラクション)」が有効であることが示されています。
そこで、このブログでは、ポジティブ思考と気をそらす方法の違いを解説し、実際に試せる効果的な対策について紹介します。
1.無理なポジティブ思考は逆効果になることも
「ポジティブに考えれば不安はなくなる」という考え方は、一見すると前向きで理想的な方法のように思えます。
しかし、最近では「トキシック・ポジティビティ(毒性のある前向き思考)」が問題視されています。
これは、ポジティブな言葉で無理にネガティブな感情を抑え込もうとすることで、逆に精神的な負担を増やしてしまう状態を指します。
たとえば、「大丈夫、なんとかなる」「ポジティブに考えよう」「気にしすぎないで」などの励ましの言葉は、一時的には安心感を与えるかもしれません。
しかし、これらの言葉が無理に使われたり、相手の気持ちを無視して発せられたりすると、本来の感情を否定することになり、結果的にストレスや不安が増してしまうことがあります。
ポジティブ思考の落とし穴
ポジティブ思考自体は決して悪いものではありません。
しかし、「不安を感じてはいけない」「ネガティブな感情は持つべきではない」という考え方になってしまうと、次のような問題が生じることがあります。
● ネガティブな感情を否定してしまう
「不安を感じるのはおかしい」と思い込んでしまい、自分の本当の気持ちを受け入れられなくなります。
そのため、結果として、感情が抑圧され、心の負担が増してしまいます。
● 根本的な問題解決にならない
実際の問題に向き合わないまま、「とにかく前向きに!」と自分を励ますだけでは、状況の改善にはつながりませんよね。
長期的に見ると、解決すべき課題が先送りされてしまう危険性があります。
● 不安がより強くなる可能性がある
「ポジティブに考えなきゃいけない」というプレッシャーを感じることで、逆に不安やストレスが増大してしまう場合が多々あります。
そのため思考の幅が狭まり、「前向きに考えられない自分はダメだ」と自己否定につながることにもつながります。
無理にポジティブにならなくても大丈夫
不安やネガティブな感情を持つことは、人間として自然なことです。
大切なのは、それらの感情を無理に抑え込むのではなく、適切に受け入れながら対処する方法を見つけることです。
そこで役立つのが、「気をそらす(ディストラクション)」という方法です。
この方法では、不安な気持ちを無理に変えようとせず、一時的に意識を他のことに向けることで、感情の負担を軽減することができます。
2. 研究が示す「気をそらすこと」の効果
最新の研究によると、ポジティブ思考よりも「気をそらすこと」のほうが、不安を軽減するのに効果的であることがわかっています。
● 実験の概要
被験者は学生で、全員が体育の授業で「バスケットボールのシュートをクラス全員の前で評価される」という課題に取り組むことになりました。
一方のグループには、「自分はできる」「きっと成功する」といったポジティブな自己暗示を繰り返させました。
もう一方のグループには、「木の枝に止まる3羽の鳥」や「父親の車のこと」など、まったく関係のないことを考えさせる(気をそらす)よう指示しました。
その結果、ポジティブ思考をしたグループは、逆に不安が増し、ネガティブな考えが増えたのに対し、気をそらしたグループのほうが、不安のレベルが低く抑えられたのです。
この研究から、不安を感じたときは無理にポジティブになろうとするのではなく、「別のことに注意を向ける」という方法のほうが、実際には効果的であることが示唆されています。
気をそらすことは一時的な対処法である
「気をそらす」という方法は、強い不安を感じたときに一時的に意識を他のことへ向け、不安の影響を軽減するために有効な手段です。
しかし、これはあくまで短期的な対処法であり、長期的に不安を根本的に解決するものではありません。
心理学的に見ても、感情を無理に押し込めるのではなく、適切に認識し、受け入れることが精神的な安定には不可欠です。
● 「気をそらすこと」の適切な活用法
気をそらすことを効果的に活用するためには、次の2つのステップを意識することが重要です。
① まずは気をそらして、不安の強度を下げる
不安が強すぎると、冷静な判断ができなくなったり、ネガティブな考えに支配されてしまうことがあります。
そのため、まずは気をそらして不安を軽減することが有効です。
・何か別のことに集中することで、過度な不安を和らげる
具体例
→散歩をする、音楽を聴く、パズルやゲームに没頭する
「考えすぎるのを一旦止める」という意味では非常に有効
・不安な状態のまま解決策を考えようとしても、思考が堂々巡りしてしまうため、一時的に意識をそらすことで冷静さを取り戻す
しかし、ここで大切なのは、気をそらすことを「現実逃避」として使わないことです。
気をそらすこと自体が目的になってしまうと、不安の根本的な解決にはつながりません。
② 落ち着いたら、自分の感情と向き合う
気をそらすことで不安が和らいだ後は、感情を無視せず、しっかり向き合うことが重要です。
具体的には、次のような方法が役立ちます。
・不安の原因を振り返る
「何が自分を不安にさせているのか?」を客観的に整理する
具体例
→「仕事のミスが気になっている」「人間関係に不安を感じている」など、具体的に書き出してみる
感情を言葉にする
・ノートや日記に不安をそのまま書き出すことで、頭の中を整理する
・信頼できる人に話すことで、気持ちを吐き出し、客観的なアドバイスをもらう
不安に対する対処策を考える
・不安の原因を理解した上で、「今、自分にできることは何か?」を考える
・すぐに解決できることがある場合は、具体的な行動を決める
・すぐに解決できない不安については、「今はどうしようもないこと」と割り切ることも大切
「気をそらすこと」を上手に活用するポイント
気をそらすことは、強い不安やストレスを一時的に和らげるための有効な方法ですが、根本的な解決策ではありません。
そのため、「逃避」として使うのではなく、「不安を冷静に受け止めるための準備」として活用することが大切です。
①不安が強すぎるときは、無理に向き合わずに一時的に気をそらす
②落ち着いたら、感情を整理し、適切な方法で処理する
③不安を避けるのではなく、コントロールする方法を身につける
このように、「気をそらす」ことと「感情を受け止める」ことのバランスを取ることで、不安と上手に付き合うことができます。
まとめ:不安との向き合い方と気をそらすことの活用法
不安は誰にでもある自然な感情ですが、過度に強くなると日常生活に支障をきたすことがあります。
そのため、不安を適切にコントロールする方法を身につけることが大切です。
このブログでは、不安を軽減するために「気をそらすこと」が有効であることを紹介しました。
ただし、「気をそらすこと」はあくまで短期的な対処法であり、長期的に不安を解決するためには、感情を受け止め、整理し、適切に処理することが不可欠です。
ポイント
● 無理なポジティブ思考は逆効果
無理に前向きに考えようとすると、かえって不安が強くなることがあります。
感情を押し込めるのではなく、まずは認識することが大切です。
● 気をそらすことは一時的な対処法として有効
不安が強すぎるときは、一旦別のことに意識を向けることで冷静さを取り戻すことができます。
ただし、逃避ではなく、不安と向き合う準備として使いましょう。
● 最終的には感情と向き合うことが重要
気をそらした後は、不安の原因を整理し、ノートに書き出したり、信頼できる人に話したりして、自分の気持ちを適切に処理することが大切です。
不安を完全になくすことは難しくても、適切にコントロールすることで、心の負担を軽減し、前向きに過ごせるようになります。
「気をそらすこと」と「感情と向き合うこと」のバランスを上手にとりながら、自分に合った対処法を見つけていきましょう。
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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