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トラウマ・インフォームドケアとは?心の傷に寄り添うメンタルヘルス支援について~神戸市、芦屋市、西宮市のカウンセリングの実例より~

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トラウマ・インフォームドケアとは?心の傷に寄り添うメンタルヘルス支援について

トラウマ・インフォームドケアとは?心の傷に寄り添うメンタルヘルス支援について

2025/02/18

みなさん、こんにちは。

神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。

 

さてトラウマを経験した方々は、日常生活の中で見えない苦しみを抱えています。

 

その影響は、感情の不安定さや対人関係の難しさ、慢性的なストレス反応として表れることが少なくありません。

 

こうした背景を持つ方々に対して、従来の治療法だけではなく、「トラウマ・インフォームドケア(Trauma-Informed Care, TIC)」 というアプローチが重要となります。

 

トラウマ・インフォームドケアは、単にトラウマを治療するだけではなく、「トラウマがもたらす影響を理解し、それを前提とした環境づくりや支援を行うこと」 を目的としています。

 

そこでこのブログでは、「Trauma-Informed Care and Mental Health」 という論文を踏まえて、トラウマインフォームドケアの基本概念や、その実践方法について詳しく解説します。

 

1. トラウマとは?~その影響とメンタルヘルスとの関係~


トラウマとは、強い恐怖や無力感を伴う出来事を経験した際に生じる心理的ダメージ のことを指します。

 

トラウマとなる出来事は個人によって異なりますが、一般的には以下のような経験が深刻な心理的影響を及ぼすとされています。

 

● トラウマを引き起こしやすい出来事

 

事故や災害

→交通事故、地震、火災など
身体的・心理的虐待

→幼少期の虐待、家庭内暴力(DV)、いじめ
戦争や暴力的な事件

→戦場体験、犯罪被害、テロ事件
喪失体験

→大切な人の死別、離婚、流産など
医療的トラウマ

→手術や慢性疾患の治療に伴う苦痛


こうした出来事がもたらす心理的ダメージは、長期的に個人のメンタルヘルスに影響を及ぼし、適切なケアが行われない場合、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病、不安障害などの精神的疾患を引き起こすリスクを高めます。

 

1-1. トラウマがメンタルヘルスに与える影響


トラウマの影響は、単に「辛い記憶」として残るだけではなく、感情・身体・行動の3つの側面 に深く関わります。

 

● 感情面の影響


過度の不安や恐怖感
・突然の音や刺激に過敏に反応する(驚きやすくなる)
・特定の場所や状況に対する強い恐怖(例:事故の現場に行けない)


抑うつ症状
・何に対しても興味や喜びを感じにくくなる
・無気力や絶望感を抱えやすくなる


怒りやイライラのコントロールが難しくなる
・些細なことで怒りを感じやすい
・周囲の人とのトラブルが増える


トラウマを経験した方は、日常生活の中で突然フラッシュバック(過去の記憶が鮮明によみがえる現象)を経験しやすく、それにより感情が大きく揺さぶられることがあります。

 

これが慢性的なストレス反応 を引き起こし、抑うつ症状や不安の増大につながります。

 

● 身体的な影響


トラウマの影響は、脳のストレス応答システムを通じて、身体にも深刻な変化をもたらします。

 

慢性的な疲労感
・体が常に緊張状態にあるため、エネルギーを消耗しやすくなる


睡眠障害(悪夢や不眠)
・寝つきが悪くなる、夜中に何度も目が覚める
・夢の中でトラウマを思い出す(悪夢)


頭痛や胃腸の不調
・ストレスによる自律神経の乱れが影響
・食欲不振や消化不良、過敏性腸症候群(IBS)などの症状が現れる


このような身体的な症状は、医療機関を受診しても原因が特定されにくい ことがあります。

 

そのため、心のケアと並行して身体の健康管理も重要になります。

 

行動面の影響


トラウマを抱える方の中には、その苦痛を和らげるために回避行動を取ることがあります。

 

人との関わりを避ける(対人関係の回避)
・親しい友人や家族とも距離を置く

・社会的孤立が進み、さらに気分が落ち込む


リスクの高い行動をとる(アルコールや薬物への依存)
・一時的に不安を抑えるためにアルコールを摂取する
・睡眠薬や鎮痛剤を過剰に使用する


自己否定や自己価値の低下
・「自分には価値がない」と思い込み、自己肯定感が低くなる
・「どうせ誰も助けてくれない」と感じ、支援を拒否する


こうした行動は、一時的には苦痛を紛らわせるものの、長期的に見ればトラウマの悪化や新たな問題を生む 可能性があります。

 

1-2. トラウマは自然に消えるものではない


「時間が経てば忘れられる」と思われがちですが、トラウマの影響は放置すると慢性化することが多くみられます。

 

特に以下のようなケースでは、専門的なサポートが必要になります。

 

症状が1ヶ月以上続いている

日常生活や仕事に支障をきたしている
トラウマとなった出来事を思い出すと強いストレスを感じる
悪夢やフラッシュバックが頻繁に起こる

 

トラウマの影響を軽減するためには、適切なケアや治療を受けることが不可欠です。

 

精神科、心療内科による治療だけでなく心理カウンセラーによるカウンセリングや心理療法を活用することで、トラウマと向き合いながら少しずつ回復していくことが可能になります。

 

2. トラウマインフォームドケアの重要性

 

トラウマの影響は、個人の感情や思考、行動だけでなく、人間関係や社会的なつながりにも大きな影響を及ぼします。

 

そのため、支援者、心理カウンセラーはトラウマの背景を理解し、適切な対応を取ることが求められます。

 

トラウマインフォームドケア(TIC)は、単なる治療の枠を超え、トラウマを抱える方々が安心して回復できる環境を整えることを目的とするアプローチです。

 

2-1. トラウマインフォームドケアとは?


トラウマインフォームドケア(TIC)は、「トラウマの影響を理解し、それを考慮した支援を行うこと」を基本理念とするアプローチです。

 

これは、単に症状を治療するのではなく、トラウマがもたらす心理的・行動的な影響を理解しながら、個々の回復プロセスを尊重し、寄り添う支援を意味します。

 

● トラウマインフォームドケアの5つの基本原則


TICでは、以下の5つの基本原則を軸に、支援を行います。

 

① 安全性(Safety)


● 心理的・身体的に安心できる環境を提供する

 

トラウマを経験した方は、「安全である」と感じられない環境では、自分を守るために防御的な態度を取ることがあります。


そのため安全な空間作りが第一歩となり、落ち着いて話せる環境、リラックスできる場を提供することが重要です。


具体的な支援例

・相談室やカウンセリングの場を、落ち着いた雰囲気にする(刺激の少ない環境)
・予測できる対応を行い、不安を軽減する(約束を守る、急な変更を避ける)


② 信頼と透明性(Trust & Transparency)


● クライアントとの信頼関係を築き、情報をオープンにする

 

トラウマの影響で、「人を信じることが難しい」 と感じる方もいます。


そのため、信頼関係を構築するために、支援者が一貫性のある対応を行うこと が不可欠です。


具体的な支援例

・相談や治療のプロセスを明確に説明する
・何かを決定する際は、事前に十分な説明と合意形成 を行う
・一貫した対応をする(言動にブレがないことが安心感につながる)


③ 相互協力(Collaboration)


● クライアント自身が治療に積極的に関与できるようにする

 

トラウマの影響で、「自分には選択肢がない」「状況をコントロールできない」 という無力感を抱えることがあります。


そのため、支援の場面では、クライアントが主体的に治療や回復に関与できる機会を提供することが重要です。


具体的な支援例

・クライアントの意見や希望を尊重し、治療方針を一緒に決める
・「どの方法が一番安心できるか?」 など、選択肢を提示して本人の意思を尊重する
・対等な関係を築く(専門家 vs. クライアントという上下関係を作らない)


④ 力を引き出す(Empowerment)


● クライアントの強みや能力を尊重し、自己効力感を高める

 

トラウマを経験した方の中には、「自分には何の価値もない」「無力だ」 と感じることがあります。


そのため、「できること」 に焦点を当て、自己効力感(自分には対処できる力があるという感覚)を高めることが重要です。

 

具体的な支援例

・これまでの「乗り越えてきた経験」*を振り返り、成功体験を認識する
・「できたこと」 に焦点を当て、自己評価を高める
・失敗に注目するのではなく、「どこが良かったのか?」 という視点で話を進める


⑤ 文化的配慮(Cultural Sensitivity)


● 価値観や背景を尊重し、個別に対応する

 

トラウマは、個人の文化的背景や価値観によって受け止め方が異なります。


例えば、家族との関係、宗教的価値観、社会的立場などがトラウマの影響を左右することがあります。


そのため、支援者は「すべての人が同じように回復するわけではない」 ことを理解し、柔軟な対応を心がける必要があります。


具体的な支援例

・クライアントの文化的・社会的背景を理解し、適切なアプローチを取る
・「この方法はあなたに合っていると思いますか?」 と問いかけながら進める
・一方的な価値観を押し付けず、クライアントの意見を尊重する


2-2. トラウマインフォームドケアの重要性


トラウマインフォームドケア(TIC)は、単なる「優しい対応」ではなく、「トラウマを経験した方の心の安全を守りながら、回復をサポートするための科学的アプローチ」 です。

 

● トラウマインフォームドケアが重要な理由

 

・トラウマを再体験させないための配慮 を持つ(強制しない、押し付けない)
・クライアントが安心して話せる環境 を作ることで、回復を促進する
・信頼関係を築くことで、治療の継続率が向上する


トラウマを抱える方々にとって、「安全な場で、自分のペースで回復できる」 という実感は、何よりも重要です。

 

支援者が適切な対応を行うことで、トラウマの影響を和らげ、より良い未来へと進む手助けができるのです。

 

3. トラウマインフォームドケア(TIC)の効果と今後の展望


トラウマインフォームドケア(TIC)は、単なる心理的サポートにとどまらず、トラウマを抱える方の心身の回復を促し、より安定した生活を送るための重要なアプローチです。

 

トラウマインフォームドケアを適切に導入することで、トラウマの影響を受けた方が安心して支援を受けられ、回復のプロセスを前向きに進めることが可能になります。

 

3-1. トラウマインフォームドケアの具体的な効果


トラウマインフォームドケア(TIC)を実践することで、以下のような心理的・行動的な改善が期待できます。

 

 ① 心理的安全の向上


「自分は安全な場所にいる」「ここでは安心して話せる」と感じることは、トラウマを抱える方にとって非常に重要です。

 

トラウマインフォームドケアでは、クライアントが安心して自分の気持ちを話せる環境を整えることを重視しています。

 

心理的安全がもたらす変化

・信頼関係が築かれやすくなる → 支援者との関係が安定し、回復がスムーズに進む
・トラウマを再体験するリスクが減る → 無理に過去の経験を語らせることなく、ペースを尊重することで安心感が生まれる
・対人関係への恐怖が和らぐ → 「人を信じても大丈夫かもしれない」と思えるようになる


例えば…

・「ここでは否定されない」「話を聞いてもらえる」 という体験を積み重ねることで、対人不信が和らぐ
・「支援者が一貫した態度を取る」ことで、安心感を持てるようになる

 

② 症状の軽減


トラウマがもたらす影響には、強い不安感、抑うつ、睡眠障害、パニック発作 などがあります。

 

トラウマインフォームドケアを実践することで、トラウマに関連する症状が軽減され、生活の質(QOL)が向上することが期待できます。

 

症状の軽減により得られるメリット

・不安や恐怖がコントロールしやすくなる → 突発的なフラッシュバックやパニック発作の頻度が減る
・気分の落ち込みが和らぐ → 自分自身の感情と向き合う余裕が生まれ、前向きな気持ちを取り戻す
・睡眠の質が改善する → 悪夢や中途覚醒が減り、日常生活のリズムが整う


例えば…

・「夜になると不安で眠れなかったが、安心して寝られるようになった」
・「以前はちょっとしたことでパニックになっていたが、落ち着いて対応できるようになった」


③ 自己効力感の向上


トラウマインフォームドケアでは、「自分には回復する力がある」という実感を持つことを重視しています。

 

トラウマを経験した方は、「自分には価値がない」「何もできない」と感じることが多いため、「できることに目を向ける」ことが回復への第一歩となります。

 

自己効力感が高まると…

・「自分にも乗り越えられるかもしれない」 という希望が生まれる
・「小さな成功体験を積み重ねることで、少しずつ自信を取り戻せる」
・「サポートを受けながらも、自分の意思で前に進める」 という感覚を持てるようになる


例えば…

・「最初は怖かったけど、一歩踏み出してみたら少し楽になった」
・「小さなことでもできたと感じられるようになった」

 

まとめ


トラウマインフォームドケア(TIC)は、「トラウマを抱える方が安全に回復できる環境を整えること」 を目的とした支援アプローチです。

 

このブログで紹介したポイントを振り返ると、以下の点が重要となります。

 

✔トラウマはメンタルヘルスに大きな影響を与えるため、適切なケアが必要

 

 ✔トラウマインフォームドケアは、安全性・信頼・協力・エンパワメント・文化的配慮を軸にしたアプローチ

 

✔クライアント主体の支援を行い、安心して回復できる環境を作ることが重要

 

トラウマでお辛い状況の方は、トラウマインフォームドケアを取り入れたサポートを提供する専門機関の利用も検討してみてくださいね。

 

参考論文

Trauma-informed care and mental health

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この記事の執筆者

駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)

心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。

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