双極性障害の進行を防ぐために:早期介入の効果と具体的な対応策
2025/02/23
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
双極性障害は、躁状態とうつ状態を繰り返す精神疾患であり、適切な治療を受けなければ、症状が慢性化し、社会生活に大きな影響を及ぼすことがあります。
しかし、早期の段階で適切な介入を行うことで、病状の進行を抑え、安定した生活を送ることが可能になることが、近年の研究で明らかになっています。
そこで、このブログでは論文 「Evidence and implications for early intervention in bipolar disorder」 を踏まえて、双極性障害の早期介入の重要性とその実践方法について詳しく解説していきます。
1. 双極性障害とは?:その特徴と診断の難しさ
1-1. 双極性障害の主な特徴
双極性障害は、以下のような症状を持つ疾患です。
● 躁状態
・極端に気分が高揚し、活動的になる
・睡眠時間が短くても元気に過ごせる
・衝動的な行動(浪費、無謀な運転など)をとる
● うつ状態
・強い気分の落ち込み、興味や意欲の喪失
・疲れやすく、日常生活が困難になる
・自責感が強くなる
これらの症状が周期的に繰り返されるのが双極性障害の特徴です。
1-2. 診断の難しさと早期治療の必要性:なぜ双極性障害は見落とされやすいのか?
双極性障害は、うつ状態と躁状態の両方が特徴的な疾患ですが、特に発症初期では「うつ症状のみ」が目立つことが多く、その結果、うつ病と誤診されるケースが非常に多いことが知られています。
これは、特に双極性II型障害(軽躁とうつを繰り返すタイプ)で顕著です。
● 双極性障害と誤診の関係
双極性障害は、以下の理由からうつ病と誤診されやすいとされています。
・うつ状態の方が持続期間が長い
研究によると、双極性障害の方が経験するエピソードの 60〜70%は抑うつ状態 であり、躁状態や軽躁状態は相対的に短い期間しか現れません。
そのため、医師の診察時には「うつ症状」だけが確認され、双極性障害とは気づかれにくいのです。
・軽躁状態が本人にも自覚されにくい
軽躁状態では、活動的になり、意欲が増し、社交的になることが多いため、「調子がいい」「仕事がはかどる」といったポジティブな側面が強調されがちです。
しかし、軽躁状態は「正常な元気な状態」との区別が難しく、本人も異変として認識しないことが多いのです。
その結果、受診時には「最近の調子が悪い(=うつ状態)」という報告のみが医師に伝えられ、うつ病として診断されることになります。
● 診断の遅れがもたらすリスク
診断が遅れると、以下のようなリスクが生じることが指摘されています。
・症状の悪化
→誤った治療によって、症状がさらに複雑化する。
うつ病と診断され、抗うつ薬を服用した結果、躁状態を引き起こす(躁転)。
・再発のリスク増加
→双極性障害の再発率は高く、特に診断が遅れると適切な治療が行われず、気分の波が激しくなり、再発の頻度が増加する。
・社会生活への悪影響
→診断の遅れによって適切な治療が受けられないと、仕事や人間関係が不安定になりやすく、結果的に社会的な孤立を招くこともある。
● 早期診断と治療の重要性
このようなリスクを回避するために、双極性障害の診断には慎重なアプローチが求められます。
特に以下のような対応が重要になります。
・病歴の詳細な確認
→うつ状態だけでなく、これまでの気分の変化を振り返ることが重要。
→「以前に異常に元気だった時期があるか」「その期間に衝動的な行動(浪費、突発的な転職、過剰な社交性)があったか」を確認する。
・家族歴のチェック
→双極性障害は遺伝的な要因も関与するため、家族に双極性障害や精神疾患の既往歴があるかどうかを把握することが役立ちます。
・症状のモニタリング
→日記をつける、気分記録アプリを利用するなどして、自身の気分の変動を可視化することで、診断の精度が高まる可能性があります。
1-3.まとめ
双極性障害は、うつ病と誤診されることが多く、診断の遅れによって症状の悪化や再発のリスクが高まる可能性があります。
特に双極性II型の場合、軽躁状態が見逃されやすく、適切な治療が遅れるケースが少なくありません。
そのため、「うつ病の治療を受けてもなかなか改善しない」「以前、異常に活動的だった時期がある」 という方は、早めに専門医の診察を受け、双極性障害の可能性を検討することが重要です。
2. 「双極性障害の早期介入」の重要性
双極性障害は、早期に適切な治療を開始することで、症状の悪化や再発を防ぐことができるとされています。
論文「Evidence and implications for early intervention in bipolar disorder」では、早期介入の重要性と、それを成功させるための具体的なポイントが詳しく述べられています。
2-1. 早期治療のメリット
研究によると、双極性障害において早期の治療開始は、以下のような大きなメリットをもたらします。
● 病状の進行を防ぐ
・発症初期に適切な治療を受けることで、症状が重症化するのを防ぐことができる。
・例えば、軽躁状態のうちに適切な治療を開始すれば、完全な躁状態へ進行するのを抑えやすくなる。
・うつ状態に移行する前に適切な介入を行うことで、深刻な抑うつエピソードを防ぐことが可能。
● 再発リスクを低減する
・早期に気分安定薬(リチウムなど)や心理療法を導入することで、再発率を低下させることが研究で示されている。
・早い段階で適切な治療を受けることで、気分の波をコントロールしやすくなり、安定した状態を維持しやすい。
● 社会生活への影響を軽減
・早期に治療を開始すれば、仕事や学校、人間関係への悪影響を最小限に抑えることができる。
・適切な治療を受けることで、休職や休学のリスクを低減し、社会的な役割を維持しやすくなる。
● 治療抵抗性を防ぐ
・双極性障害の治療が遅れると、薬が効きにくくなったり、治療の効果が出にくくなることがある。
・早期介入によって、病状が慢性化するのを防ぎ、より効果的な治療を受けられる。
2-2. 早期介入が成功するためのポイント
論文では、早期介入を成功させるためには、以下のようなポイントが重要であると述べられています。
● リスク因子の特定
・双極性障害は、遺伝的要因や環境要因が影響する疾患であるため、リスクの高い人を早めに発見することが重要。
・家族に双極性障害や他の気分障害の既往歴がある場合は、注意が必要。
・強いストレスやトラウマ、睡眠不足なども発症のリスクを高めるため、ストレス管理の工夫が求められる。
● 症状のモニタリング
・うつ状態や軽躁状態の兆候を早めに察知するために、気分の日記やアプリを活用するのが有効。
・例えば、「最近エネルギッシュすぎる」「睡眠時間が極端に減った」「お金の使い方が変わった」などの変化が見られたら注意が必要。
・家族やパートナーも変化を観察し、適切なサポートを提供することが大切。
● 薬物療法の適切な導入
・早期に気分安定薬を適切に使用することで、気分の波をコントロールしやすくなる。
・特に、軽躁状態の段階で気分安定薬を導入することで、躁状態の悪化を防ぐことができる。
・抗うつ薬の単独使用は、躁転(躁状態への移行)を引き起こすリスクがあるため注意が必要。
● 心理療法の活用
・認知行動療法(CBT)を取り入れることで、気分の波に振り回されることなく、安定した思考パターンを形成できる。
・家族療法を実施することで、家族が疾患への理解を深め、サポート体制を整えることが可能。
・ストレス管理スキルを学ぶことで、発症のリスクを減らし、症状の悪化を防ぐことができる。
3. まとめ
双極性障害は、早期に適切な治療を開始することで、症状の悪化や再発のリスクを減らし、社会生活への影響を最小限に抑えることができる ことが、研究によって示されています。
特に重要なのは、以下の4つのポイントです。
✔家族歴やストレス因子を把握し、リスクの高い人を早めに発見する
✔気分の日記を活用し、うつや軽躁の兆候を早期に察知する
✔気分安定薬を適切に導入し、気分の波をコントロールする
✔認知行動療法(CBT)や家族療法を活用し、ストレス管理のスキルを獲得する
早期の診断と適切な治療が、双極性障害の長期的な予後を改善する鍵となります。
もし、「気分の波が激しい」「以前と比べて活動的になりすぎている」などの兆候が見られる場合は、早めに専門家に相談することが重要です。
まとめ:双極性障害の早期介入がケアの進展を変える
双極性障害は、早期に正しい診断を受け、適切な治療を開始することで、症状の悪化を防ぎ、生活の質を大きく向上させることができます。
「ただの気分の浮き沈み」と考えず、少しでも違和感を感じたら、専門家に相談することを、ぜひ検討なさってください
参考論文
Evidence and implications for early intervention in bipolar disorder
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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