適応障害とは?:「環境の変化に対応できない心理」のメカニズムと対処法
2025/02/24
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
さて、新しい職場や引っ越し、人間関係の変化など、私たちの生活にはさまざまな環境の変化が伴います。
多くの方は時間とともに慣れていきますが、中には変化に対応できず、強いストレスを感じることがあります。
この状態が長く続くと、気分の落ち込みや不安感、無気力などの症状が現れることがあり、これを適応障害と呼びます。
適応障害は、「うつ病」とは異なり、特定のストレス要因に対する適応の難しさが原因となるのが特徴です。
では、適応障害の人は、どのような心理状態に陥りやすいのでしょうか?また、どうすれば適応できるようになるのでしょうか?
そこで今回は、「Exploring Characteristics of Preoccupation and Failure to Adapt Among Patients Suffering From Adjustment Disorder: A Qualitative Study」という論文を踏まえて、適応障害の心理的特徴や、その対処法について詳しく解説していきます。
1. 適応障害とは?~その特徴と心理状態~
1-1. 適応障害の基本的な特徴
適応障害とは、特定のストレス要因(職場の変化、転居、人間関係のトラブルなど)にうまく対応できず、精神的な不調が生じる状態を指します。
主な症状は以下の通りです。
✔気分の落ち込み(抑うつ感、不安感、無気力)
✔過剰な心配や不安(ストレス要因が頭から離れない)
✔集中力の低下(仕事や勉強に集中できない)
✔睡眠障害(不眠や過眠)
✔対人関係の回避(孤立しがちになる)
適応障害は、ストレス要因が明確であることが特徴であり、ストレスの軽減や適切な対処を行うことで回復しやすいとされています。
2. 適応障害の心理的特徴
適応障害は、ストレスに対して適切に対応できない状態が続くことで、精神的・身体的な症状が現れる疾患です。
その核心には 「とらわれ」 と 「適応の失敗」 という2つの要素が関与しています。
とらわれ(Preoccupation)
→ストレス要因に対して過度に考え込むこと
適応の失敗(Failure to Adapt)
→環境の変化に適応しようとしてもうまくいかないこと
この2つの要素が絡み合うことで、適応障害の症状が長引き、日常生活への影響が大きくなるのです。
2-1.「とらわれ(Preoccupation)」とは?
「とらわれ」とは、特定のストレス要因に対して 過度に考え込み、そこから抜け出せなくなる状態 を指します。
考えを巡らせることで状況が好転するなら問題ありませんが、適応障害のケースでは、同じ考えが堂々巡りし、解決策を見出せない状態 に陥ることが多くみられます。
2-1-1. とらわれの引き金(Preoccupation triggers)
「とらわれ」は、特定の出来事や状況をきっかけに引き起こされます。例えば以下のようなケースです。
● 職場での異動や環境の変化
→ 「この部署でやっていけるのか」「仕事が合わない気がする」
● 対人関係のトラブル
→ 「あの人に嫌われたかもしれない」「どうしてあのようなことを言われたのか」
●失敗や後悔
→「なぜあのとき違う選択をしなかったのか」「また同じミスをするのではないか」
このような出来事が、「とらわれ」を引き起こすきっかけになります
2-2-1. とらわれと負の感情(Preoccupations and negative emotions)
「とらわれ」は 強い負の感情を伴う ことが特徴です。例えば、次のような感情が生じることがあります。
● 不安
→ 「この先、どうなってしまうのか」「解決策が見つからない」
● 悲しみ
→ 「もう以前のようには戻れない」「自分には価値がない」
● 怒り
→ 「なぜこんな状況になったのか」「あの人のせいでこうなった」
この負の感情が続くと、気分が沈み込み、日常生活に影響を及ぼします。
2-2-3. とらわれを止めるための戦略(Strategies to stop preoccupation)
「とらわれ」による悪循環を断ち切るためには、以下のような対処法が有効です。
● 意識的に思考を切り替える
「なぜこんなことになったのか?」ではなく、「この状況でできることは何か?」と考える。
● 気分転換を取り入れる
散歩や読書など、考え続けるのをやめる時間を意識的に作る。
● 信頼できる人に話す
自分一人で抱え込まず、他者の視点を取り入れることで、考えのループから抜け出しやすくなる。
● 書き出す
頭の中で考え続けるのではなく、紙に書き出して整理することで、客観的に考えやすくなる。
2-2-4. とらわれの結果(Consequences of preoccupation)
「とらわれ」が続くと、日常生活や社会的な機能に深刻な影響を及ぼします。
● 仕事や学業のパフォーマンス低下
→考えすぎることで集中力が低下し、作業効率が落ちる。
● 人間関係の悪化
→ネガティブな感情が強くなることで、他者との関わりが億劫になり、孤立しやすくなる。
● 身体的な症状
→過度なストレスによって、頭痛・胃痛・不眠などの身体的不調が現れる。
● 抑うつ状態の悪化
→「とらわれ」が続くことで、気分が落ち込みやすくなり、うつ症状へと進行する可能性がある。
2-2.「適応の失敗(Failure to Adapt)」とは?
「適応の失敗」とは、環境の変化に順応しようとしてもうまくいかず、ストレスが増大する状態を指します。
2-2-1. 適応の困難/失敗の現れ(Manifestation of difficulties/failure to adapt)
適応障害の症状は、以下のような形で現れることが多くみられます。
● 回避行動が増える
→ストレスを感じる場面を避けるようになり、出社や外出をしなくなる。
● 感情のコントロールが難しくなる
→些細なことで落ち込んだり、突然怒りがこみ上げたりすることが増える。
● 新しい環境に馴染めない
→変化に適応しようと努力しても、気持ちがついてこず、常にストレスを感じる。
● 自己否定感が強まる
→「自分はこの環境に向いていない」「どうせうまくいかない」といった思考が強くなり、行動を起こしづらくなる。
2-2-2. 適応の困難/失敗に対処するための戦略(Strategies to address difficulties/failure to adapt)
適応の失敗を防ぎ、少しずつ環境に順応していくためには、次のような対処法が役立ちます。
● 小さな成功体験を積み重ねる
→大きな変化に対応するのではなく、「今日は○○ができた」という小さな達成を意識する。
● 自己肯定感を高める
→「自分は環境に適応できない」という思考を減らし、「できることもある」と肯定的に捉える。
● ストレス対処スキルを身につける
→深呼吸やリラクゼーション、適度な運動など、ストレスを軽減する習慣を取り入れる。
● 環境を整える
→必要に応じて、職場や生活環境を見直し、無理なく適応できる状況を作る。
まとめ:とらわれと適応の失敗を克服するために
適応障害の本質は、「とらわれ」と「適応の失敗」にあります。
「とらわれ」 が強いと、ストレスの原因を過剰に考え込み、解決策を見出せなくなります。
「適応の失敗」 によって、環境の変化に順応しようとする努力がうまくいかず、さらにストレスが増大します。
しかし、「認知の切り替え」「行動の変化」「適切なストレス対処法の習得」 を意識することで、少しずつ適応障害の症状を改善することができます。
一歩ずつできることから始め、焦らずに取り組むことが大切です。
参考論文
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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