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自傷行為の本当の理由とは?トラウマ・感情調整・愛着の視点から~神戸市、芦屋市、西宮市のカウンセリングの実例より~

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自傷行為の本当の理由とは?トラウマ・感情調整・愛着の視点から

自傷行為の本当の理由とは?トラウマ・感情調整・愛着の視点から

2025/03/06

みなさん、こんにちは。

神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。

 

さて、「もう、どうしようもなく辛い」「この気持ちをどうにかしたい」…。

 

そんな思いから、自分の体に傷をつけてしまう方がいます。

 

自傷行為(セルフハーム)は、決して単なる「気まぐれな行動」ではありません。

 

多くの場合、そこには深い感情的な痛みや孤独感、過去のトラウマが隠れています。

 

「自傷行為をする方は、注意を引きたいだけ」という誤解もありますが、実際には自分の苦しみをうまく表現できず、感情をコントロールする方法として自傷を選んでしまうことが多いのです。

 

では、なぜ自傷行為をしてしまうのでしょうか? そこにはどんな心理的な背景があり、どのように回復へと向かうことができるのでしょうか?

 

そこで、このブログではKim L. Gratz(2003)の研究論文「Risk Factors and Functions of Self-Harm」を踏まえて、自傷行為のリスク要因とその心理的な機能について詳しく解説していきます。

 

自分や大切な人が自傷行為に悩んでいる場合、どのように理解し、支えていけばいいのかを一緒に考えてみましょう。

 

1. 自傷行為とは? 


自傷行為(セルフハーム)とは、自分の体に意図的に傷をつける行動のことを指します。

 

ただし、ここで重要なのは、「自殺を目的とした行為ではない」という点です。

 

具体的には、次のような行動が含まれます。

 

✔カッターや刃物で皮膚を切る(リストカットなど)
✔タバコやライターなどで皮膚を焼く(火傷を作る)
✔針や鋭利なものを皮膚に刺す
✔爪で皮膚を引っ掻いて傷を作る
✔傷が治らないように、意図的にかき壊す

 

自傷行為は単なる「気まぐれな行動」ではなく、心の中にある強いストレスや孤独感をどうにかして和らげようとする行動です。

 

しかし、一時的には楽になっても、根本的な苦しみの解決にはつながりにくいことが多いため、適切なサポートが必要になります。

 

2. 自傷行為のリスク要因


自傷行為は、単なる一時的な衝動ではなく、幼少期の経験や心理的な特性が影響を与えていることが多いと考えられています。

 

Kim L. Gratz(2003)の論文では、特に以下の要因が自傷行為の発生リスクを高めると指摘されています。

 

(1) 幼少期のトラウマとその影響


幼少期に経験した虐待やネグレクト(育児放棄)は、自傷行為のリスクを大きく高める要因となると多くの研究で報告されています。

 

幼少期に心の安全を脅かされるような経験をすると、自己価値の低下や感情調整の困難さが生じ、成長後に自傷行為を用いた自己調整行動につながる可能性が高まります。

 

● 性的虐待


多くの研究で、幼少期の性的虐待と自傷行為の間に強い関連があることが指摘されています。


性的虐待を受けた方は、成長後に自己破壊的な行動を取る傾向が高いとされ、特に感情のコントロールが難しい状況に直面した際、自傷行為を用いるケースが多く見られます。


ただし、すべての性的虐待経験者が自傷行為を行うわけではなく、他の要因(愛着の質や心理的サポートの有無など)とも複雑に絡み合っているため、慎重な理解が求められます。


● 身体的虐待


幼少期に親や養育者から暴力を受けた経験がある場合、自傷行為のリスクが高まる可能性があります。


研究結果にはばらつきがあるものの、特に男性において、身体的虐待と自傷行為の関連が強く見られるとの指摘もあります。


暴力を受けることで、「痛みを伴う行為=当たり前のもの」と無意識に学習してしまい、成長後に自傷行為を通じて自己処罰を行うことがあると考えられています。


● ネグレクト


親からの適切なケアが不足すること(ネグレクト)は、子どもの自己評価を著しく低下させる要因となり得ます。


ネグレクトには、以下の2種類があります。


感情的ネグレクト

→親が子どもの気持ちを受け止めず、愛情や共感を示さない。


身体的ネグレクト

→適切な衣食住を提供せず、基本的な生活環境を整えない。


特に感情的ネグレクトは、自傷行為と強い関連があることが研究で示されています。

 

幼少期に「誰にも気持ちをわかってもらえない」「存在を認めてもらえない」と感じた方は、感情を表現する手段として自傷を用いることがあります。


● 幼少期の分離や喪失


幼い頃に親との分離(離婚や死別など)を経験すると、成長後の心理的安定性に影響を及ぼすことがあります。


特に、愛着の形成が未完成な時期に親と引き離されると、不安定な自己イメージや人間関係への恐れが生じやすくなるため、自傷行為を通じて感情をコントロールしようとすることがあります。


(2) 愛着の質と親子関係


幼少期に築かれる愛着関係は、心の安定や対人関係の基盤となります。

 

健全な愛着が形成されていると、ストレスや不安があっても他者に助けを求めることができます。

 

しかし、愛着が不安定な場合、自分の感情を適切に処理することが難しくなり、自傷行為という手段に頼ることが増える可能性があります。

 

愛着の不安定性は自傷行為のリスクを高めると考えられています。


幼少期に十分な愛情やサポートを受けられなかった場合、「自分は大切にされる価値がない」と感じやすくなり、自己処罰的な行動として自傷を行う傾向が高くなります。


一方で、安定した愛着関係がある場合、トラウマの影響を軽減できることが研究で示されており、サポート体制の強化が重要であることがわかっています。


(3) 個人的なリスク要因


自傷行為は、環境的な要因だけでなく、個人の性格や感情の処理能力とも関係があります。

 

以下のような心理的特徴が、自傷行為のリスクを高める可能性があるとされています。

 

● 感情の反応性


感情が高まりやすい(過敏に反応しやすい)方は、ストレスを感じたときに適切に処理することが難しく、衝動的な行動をとりやすくなります。


特にネガティブな感情(怒り、不安、悲しみ)が強くなると、それを抑えるために自傷行為を選択することがあります。


感情を適切に調整するスキルが不足している場合、ストレスに直面したときに「自傷=即時的な感情の解放」として習慣化してしまうことがあります。


● 衝動性


衝動的な行動をとる傾向が強い方は、自傷行為を繰り返しやすいとされています。


しかし、すべての自傷行為が衝動的に行われるわけではなく、計画的に行う方もいるため、一概に「衝動性=自傷行為の原因」とは言えません。


ストレスへの対処法を持たないまま衝動的な行動をとると、自傷行為が悪循環に陥る可能性があるため、適切な感情調整スキルを学ぶことが重要です。


(4)まとめ


自傷行為は、幼少期のトラウマ、愛着の不安定さ、感情の調整困難、衝動性など、さまざまな要因が重なり合って生じるものです。

 

特に、幼少期の環境や人間関係がその後の行動に大きく影響を及ぼすことが明らかになっています。

 

自傷行為に対する理解を深めることで、本人や周囲の人が適切な支援を行い、回復への道を歩むことが可能になります。

 

3. 自傷行為の機能:なぜ人は自分を傷つけるのか?


自傷行為には、単なる衝動的な行動ではなく、個人にとって特定の心理的な役割や機能があることが研究で示されています。

 

Kim L. Gratz(2003)の論文では、「自傷行為がどのような目的を果たしているのか?」について詳しく分析されており、主に4つの機能があると指摘されています。

 

(1) 感情の調整:強い感情を抑えるための手段


最も一般的な自傷行為の目的は、「感情の調整」 です。

 

多くの方が、「強い負の感情(怒り、不安、孤独感、絶望感)」に対処するために自傷行為を行うことが分かっています。

 

たとえば…

 

✔強い怒りやストレスを抱えているとき、身体的な痛みを感じることで感情が和らぐ
✔孤独や無気力に襲われたとき、血を見ることで「自分が生きている」と感じる

 

このように、感情がコントロールできないときに、自分の身体に直接影響を与えることで一時的に心を落ち着ける手段として機能するのです。

 

※ 科学的な根拠


研究では、自傷行為を行う前後で生理的なストレスレベル(コルチゾール値など)が変化することが確認されています。

 

つまり、自傷によってストレスが軽減されると感じる方が多いのです。

 

ただし、これは一時的なものであり、長期的には問題を悪化させるリスクが高いことも指摘されています。

 

(2) 自己罰:自分を責めるための手段


自傷行為を行う方の中には、「自分は罰を受けるべきだ」「自分には価値がない」と感じている方が多くおられます。

 

これは、自己評価の低さや罪悪感から生じるものであり、特に以下のような心理状態が関係していると考えられます。

 

「自分は失敗ばかりしている」

→ 罰として自分を傷つける
「人を傷つけてしまった」

→ 罪悪感から自己処罰としての自傷行為を行う
「自分には価値がない」

→ 身体的な痛みを感じることで「当然の報い」と思い込む


このように、自傷行為が「自分を責める手段」として使われることがあります。

 

(3) 現実感の回復:「自分がここにいる」と感じるための手段


一部の方は、離人症や現実感喪失を経験することがあります。

 

これらの状態では…


✔「自分が自分でないような感覚」
✔「現実世界がぼやけて見える、遠く感じる」
✔「体が自分のものではないように感じる」

 

…といった症状が現れ、精神的な混乱を引き起こします。」

 

このような状況で、「自分が現実に存在している」ことを確かめるために自傷行為をすることがあります。

 

具体的には…

 

✔血を見ることで「自分は生きている」と実感する
✔痛みを感じることで「ここにいる」と認識する


などのメカニズムが関係しています。

 

このケースでは、自傷行為は「自分の存在を確認するための手段」として機能しているのです。

 

(4) コミュニケーションの手段:「助けて」を伝える方法


自傷行為は、「助けを求めるための行動」として行われることもあります。

 

しかし、これは単なる「注意を引くための行為」ではなく、自分の苦しみを言葉で伝えることができない方が、無意識に発するSOSのサインであることを理解する必要があります。

 

たとえば…


✔「自分の辛さを誰にも分かってもらえない」
✔「言葉にするのが難しい」
✔「でも、誰かに気づいてほしい」

 

といった思いを抱えている場合、自分の身体を傷つけることで「助けを求めていることを伝えようとする」のです。

 

特に、周囲の方が自傷行為に気づいたときに

 

「そんなことしなくても大丈夫だよ」
「何か話を聞くよ」


といった言葉をかけると、その方は「やっと自分の苦しみが伝わった」と感じることがあります。

 

ただし、これは本人が意識的に「誰かに気づいてほしい」と思っている場合もあれば、無意識のうちにそうした行動を取っていることもあります。

 

まとめ:自傷行為は単なる「衝動的な行動」ではない


多くの方は、「なぜ自傷行為をするの?」と疑問を持つかもしれません。

 

しかし、論文の研究が示すように、自傷行為には感情のコントロール、自己罰、現実感の回復、コミュニケーションの手段といった心理的な機能が存在しているのです。

 

このように考えると、自傷行為を行う方に対して「なぜそんなことをするの?」ではなく、「何か辛いことがあるの?」と共感を持って接することが大切になります。

 

また、自傷行為をしてしまうご本人にとっても、「これは悪いことだ」と自分を責めるのではなく、「どうして自分はこういう行動をしてしまうのか?」と考えることが、回復への第一歩になります。

 

大切なのは、自傷行為そのものを責めるのではなく、その背景にある「辛さ」に目を向けることです。

 

まとめ:自傷行為を理解し、回復への道を歩むために
 

自傷行為は、感情調整や自己罰、現実感の回復などの目的で行われることが多く、幼少期のトラウマや愛着の問題、感情調整の困難さが関与していることが研究で示されています。

 

しかし、これはその方自身を決定づけるものではなく、適切なサポートを受けることで回復が可能です。

 

● 回復のために大切なこと

 

✔自傷の背景を理解し、代わりの対処方法を見つける
✔自己否定ではなく、自分をいたわる視点を持つ
✔専門家のサポート(医療サービスや心理療法など)を活用する
✔家族や友人も正しい知識を持ち、寄り添う姿勢を大切にする


回復には時間がかかることもありますが、焦らず一歩ずつ進むことが大切です。

 

決して一人で抱え込まず、必要なサポートを受けながら回復への道を歩んでいきましょう。

 

参考論文

Risk factors for and functions of deliberate self-harm: An empirical and conceptual review

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この記事の執筆者

駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)

心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。

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