「うまく悩む」ためのメソッド:心理カウンセラーが不安との付き合い方を解説
2025/03/09
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
さて、不安や悩みを抱えていない人は、ほとんどいないのではないでしょうか。
実際、ある調査では人口の約90%が何らかの不安を感じているといわれています。
仕事でのプレッシャーや対人関係、さらには将来への漠然とした心配ごとなど、私たちの頭のなかは不安でいっぱいになりがちです。
しかし、「不安は化学反応のようなもので、上手にコントロールすれば価値あることに活かせる」という視点もあります。
現代社会にはニュースやSNS、気候変動、感染症など多種多様なストレッサーが存在します。
それらを必要以上に脅威ととらえてしまうと、私たちの心身は飽和状態に陥ってしまうのです。
ところが、適切な対処法や情報を得ることで、不安は「悪いもの」だけではなく「有益なエネルギー」に変わり得ます。
以下では、最新の脳科学が示す不安の役割や、具体的にどのように不安を活用すればよいのか、そのヒントをご紹介します。
1. 不安がもともと「生存」に役立っていた理由
不安という感情は、単に私たちを苦しめるだけのものではありません。
実は、古代から現代に至るまで人類が生き延びてこられた背景には、不安が大きく貢献してきた側面があります。
もし危険を察知する能力に欠けていたら、原始の時代、外敵や自然災害に対して十分な備えができず、私たちの祖先は絶滅していたかもしれません。
そこで、ここでは不安が「生存」にどのように寄与してきたのかを詳しく見ていきましょう。
1-1闘争・逃走反応
不安を感じたとき、私たちの身体では自律神経のうち「交感神経」が優位になり、「闘争・逃走反応(ファイト・オア・フライト)」と呼ばれる状態が引き起こされます。
具体的には以下のような変化が起こります。
✔心拍数や呼吸が速くなる
✔身体をすぐに動かせるように多くの酸素を取り込み、血液を全身に巡らせようとします。
✔血流が筋肉に集中する
✔素早い動作が可能になるため、筋肉の反応が鋭敏になります。
✔消化などの生理機能が一時的に抑えられる
これらの反応は、身体を守るために必要なエネルギーを、筋肉や感覚器官に優先的に配分するためです。
この仕組みは、ライオンやクマのような捕食者に遭遇した場合、俊敏に逃げる(逃走)か、武器や仲間と協力して戦う(闘争)かを即座に選択するために欠かせないものでした。
不安をきっかけに身体が瞬時に戦闘モードへ切り替わり、危険に素早く対処できるように準備を整えていたわけです。
結果的に、私たちの祖先は不安や恐怖の感情をフル活用して状況判断の精度を高め、生存率を向上させてきたと考えられています。
1-2.現代の過剰な反応
一方、現代社会ではライオンやクマなどの猛獣に遭遇する危険は、ほとんどなくなりました。
しかし、人間の脳や身体の構造そのものは、長い進化の歴史の中で培われた「闘争・逃走反応」を今も保持しています。
結果として、以下のような問題が起こりやすくなっています。
● 生活環境の変化に伴うストレス増加
ニュースやSNSでは、常にネガティブな情報や刺激が大量に流れています。
私たちはこれらを無意識のうちに「危険信号」と受け取り、原始の頃と同じレベルでストレス反応を起こしやすくなっています。
● 情報過多によるスイッチの暴走
もともと闘争・逃走反応は、危険が迫ったときに一時的に発動して身体を守る仕組みです。
ところが、現代は夜でもスマホやテレビから絶えず刺激を受け続けるため、スイッチがオフになる時間が少なくなりました。
不安を感じやすい人ほど、これが慢性化してしまう恐れがあります。
● 心身への悪影響
逃げたり戦ったりする必要のない状況で闘争・逃走反応が繰り返し起こると、交感神経が常に高ぶっている状態になってしまいます。
その結果、睡眠の質が悪化したり、イライラ感が増したり、免疫力の低下にもつながります。
このように、もともとは私たちを守るために進化してきた「不安」という感情が、現代では過剰に働いてしまうケースが増えているのです。
そこで、適切なリラックス方法や不安との向き合い方を身につけることで、もともと人間の生存を助けてきた「不安のメリット」を最大限に活かしつつ、デメリットを抑える必要があります。
2. 「休息と消化」を促す呼吸法
私たちが不安を感じているとき、身体は戦闘態勢(交感神経の活性)に入りやすくなります。
しかし、この状態が長く続くと疲労やストレスが溜まり、心身のバランスを崩す原因になってしまいます。
そんなときに役立つのが、副交感神経を活性化させるための呼吸法です。
2-1.副交感神経と「休息と消化」反応
● 副交感神経とは
自律神経のうち、リラックス時や安静時に優位になる神経です。
● 休息と消化(Rest and Digest)
副交感神経が活性化すると、心拍数や呼吸がゆっくりになり、消化器官の働きが促進されるなど、身体を休ませる方向に機能が切り替わります。
● ストレス軽減につながる理由
息を落ち着けることで「闘争・逃走反応」から離れ、筋肉や神経の過剰な緊張を和らげる働きが期待できます。
結果的に不安感が減少し、心に余裕が生まれやすくなるのです。
2-2.ワーク:4秒呼吸法
不安が強まっているときにも簡単に実践できる方法として、以下の「4秒呼吸法」をおすすめします。
たった数分程度でも習慣的に行うことで、大きなリラックス効果が期待できます。
① 4秒かけて息を吸う
✔胸だけでなく、お腹が膨らむのを意識しながら、ゆっくりと空気を取り込みます。
✔できる限り鼻から息を吸い込むと、体内に空気がスムーズに入ってきやすくなります。
② 4秒息を止める
✔吸いきった状態で4秒ほど息を止め、身体の内側に意識を向けましょう。
✔このとき、肩や首筋などに緊張が残っていないかチェックし、余分な力を抜きます。
③ 4秒かけて息を吐く
✔口または鼻から、息を細く長く吐き出します。
✔吐きながら「身体の緊張を手放している」とイメージしてみてください。
④ 4秒止める
✔息をすべて吐ききったタイミングで、再度4秒静止します。
✔完全に息を吐ききった状態に慣れると、心身がフッと軽くなる感覚を得られるようになるでしょう。
この一連のプロセスを数回繰り返すだけでも、「落ち着いてきた」「頭の中がクリアになった」と感じる人は少なくありません。
続けるうちに、深いリラクゼーション状態を体感しやすくなるでしょう。
3. 「ポジティブ条件付け」でポジティブな感情を呼び起こす
不安や恐怖が生じるとき、脳の「扁桃体」が大きな役割を果たしていることはよく知られています。
扁桃体は、恐怖や不安を学習・記憶する「恐怖条件付け」を主に担っており、過去の痛い経験やトラウマを記録して、類似の状況が起こると一気に警戒モードを発動させます。
これ自体は私たちの身を守るための仕組みですが、現代社会では過剰に働く場合があり、それが慢性的な不安の原因にもなりがちです。
3-1.ポジティブ条件付けとは?
こうした過剰な恐怖条件付けに対抗する方法として、「ポジティブ条件付け」という方法があります。
これは意識的に「嬉しかった」「楽しかった」「笑えた」記憶を呼び起こし、脳の海馬の働きを利用してポジティブな感情を強化し、不安をやわらげようとするアプローチです。
脳には、ネガティブな出来事が起こると「この状況は危険だ」という記憶を強く留める一方で、ポジティブな思い出を深く刻む仕組みが相対的に弱い部分があります。
そこで、あえて「楽しい」「幸せ」と感じた記憶を詳しく思い出すことで、ポジティブな感情を脳内で活性化させるのです。
3-2.実践例:ポジティブ条件付けのステップ
① 楽しい記憶を一つ選ぶ
友人と大笑いしたエピソード、家族と過ごした温かい時間、達成感を得た成功体験など、自分にとって特別に「嬉しく」「幸せ」だった瞬間を頭に思い浮かべます。
写真や日記を見返して記憶を掘り起こすのも効果的です。
② その記憶に浸る
「誰と」「どこで」「何をしていたのか」、具体的な情景をできるだけ鮮明に思い出してみましょう。
まるでタイムスリップしたかのように、そのときの空気感や雰囲気まで思い浮かべます。
③ 身体の感覚を味わう
思い出のなかで感じた楽しさや安堵感を、頭だけでなく全身で味わうことを意識します。
そのときの笑顔や体温、心の弾むような感覚などをイメージし、じっくりと身体全体で受け取ってください。
こうした手順を踏むことで、脳は「ポジティブな感情がここにある」という情報を再認識しやすくなります。
あらかじめこうした「ポジティブ条件付け」を何度も練習しておけば、実際に不安を感じる状況に直面したときにも、意識的にポジティブな感情へ切り替えやすくなるのです。
3-3.ポイントと注意点
● 日頃からの習慣が大切
不安のピーク時には、ポジティブなことを考えようとしてもなかなか難しい場合があります。
したがって、「まだそこまで動揺していない段階」から定期的にこのワークを行い、ポジティブな思考回路を強化しておくことが重要です。
● ネガティブとのバランスをとる
不安や恐怖は、本来私たちを守るために備わっている自然な反応です。
無理やり「なかったこと」にするのではなく、過剰になりすぎて生活に支障を来さない程度に緩和することが目的です。
● 五感をフルに使う
思い出す際には、視覚だけでなく、聴覚・触覚・嗅覚・味覚など五感にも注目してみましょう。よりリアルに過去の体験を甦らせることで、ポジティブな感情がより強く再現されます。
4.不安を「味方」に変えるために
これまで見てきたように、不安は必ずしも克服すべき悪者ではなく、上手に扱うことで人生を豊かにしてくれるパートナーです。
● 自分だけで抱え込まない
不安が大きくなりすぎたら、信頼できる人や専門家に相談することをおすすめします。
話すだけでも心が整理されて、視界が開けるケースは多いものです。
● 小さな行動から始める
呼吸法やポジティブ条件付けなど、毎日の習慣として取り入れられる小さなステップを積み重ねてみましょう。
● 不安は皆さんを守るシグナル
不安が生まれる背景には、必ず何らかの理由があります。それを理解してあげることで、自分自身の思考パターンや感情パターンが見えてくるでしょう。
不安とうまく付き合う方法を学ぶと、世界の見え方はぐっと広がります。ぜひこの記事をきっかけに、自分に合った不安の活かし方を探してみてください。
皆さんの「悩む力」が、きっと前向きな未来を切り開いてくれることでしょう。
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こころのケア心理カウンセリングRoom
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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