HPSが「疲れやすい」要因について:HSPと「感覚処理感受性」の関係とは?
2025/04/02
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
さて、このブログをご覧の方の中には「HSP(Highly Sensitive Person)」という言葉をご存じの方の多いかと存じます。
HPSは1990年代に心理学者エレイン・N・アーロン博士が提唱し、人口の約15〜20%(5人に1人)存在すると言われています。
今回はHSPの方の疲れやすさを「感覚処理感受性」の観点から解説したいと思います。
1.HSPの「疲れやすさ」とは~感覚処理感受性との関係~
HSPの特徴を理解するために、特に重要となるのが「感覚処理感受性(Sensory Processing Sensitivity)」という概念です。
元となった今回の論文においても、HSPの特性を説明する中心的なメカニズムとして、この感覚処理感受性が挙げられています。
感覚処理感受性とは、視覚や聴覚、嗅覚、触覚、そして他者の感情といった外界からの刺激を、非常に深く、詳細に処理しようとする生物学的な性質を指します。
つまり、HSPの方は単に感覚が鋭いだけでなく、受け取った刺激を脳内で非常に細かく、時間をかけて処理するという傾向が強いのです。
その結果として、わずかな刺激に対しても、非HSPの人に比べて強い反応を示しやすくなります。
例えば、HSPの人は以下のような傾向があります。
● 視覚・聴覚への高い敏感さ
明るすぎる光や、大きすぎる音、人混みの騒がしさなどに圧倒されやすく、これらが原因で疲労感や不快感を覚えやすくなります。
一般の人が何とも感じない程度の刺激でも、HSPの方はそれを強く感じ取り、心身のエネルギーを消耗してしまうことが多いのです。
● 情緒的・感情的刺激への敏感さ
他人の感情に対しても鋭い感受性を持っているため、周囲の人が怒りや悲しみ、不安といった強い感情を抱いていると、それを自分の感情のように感じ取ってしまいます。
そのため、HSPの方は共感力が非常に高い反面、感情的なストレスを受けやすいという特徴もあります。
● 情報処理の深さによる疲労感
外界からの刺激を単純に強く感じるだけでなく、それらを深く詳細に処理することに多くのエネルギーを使うため、刺激が多い状況に長くいると疲れやすくなります。
また、状況に適応するまでに時間を要することも少なくありません。
今回の論文では、こうしたHSPの感覚処理感受性に関連する神経学的な研究も紹介されており、HSPの方が脳の特定領域(特に感情処理や意識的な情報処理を担う領域)の活性化が、非HSPに比べて高いことが示されています。
このような生物学的根拠が存在することで、「HSPである」という気質は単なる性格的な弱さや過敏さではなく、生まれつき持っている神経系の特性であることが明確になっているのです。
HSPの人々が抱える課題は、社会生活において刺激を避けることが難しい状況下で、いかに自分の特性を理解し、適切に対処していくかという点にあります。
このように、HSPは単なる繊細さや敏感さではなく、「深く豊かに世界を感じ取る力」を持った個性であると捉えることができます。
HSPの特性を自分の中で否定するのではなく、「自分が持つ繊細な感覚を人生をより豊かにするための強み」として肯定的に捉えていくことが、心地よく生きていくための大きな鍵となります。
2.研究から分かるHSPのストレスと対処法
今回紹介する論文(Benham, 2006)では、HSP(Highly Sensitive Person:非常に敏感な人)と呼ばれる人たちが、日常生活においてどのようにストレスにさらされやすく、またそのストレスに対してどのように反応しやすいのかを科学的に検証しています。
この研究で最も興味深い点は、HSPがただ単にストレスに弱い存在なのではなく、「適切な環境や対処法を整えることで、むしろ高い回復力(レジリエンス)を発揮できる」ということです。
つまり、HSPが抱える生きづらさやストレスは、個人の弱さではなく、「環境との相性」が深く関係していることを明確に示しているのです。
それでは、論文を踏まえて、HSPの方がストレスを軽減し、生きやすさを感じるためにどのような対処法が有効なのか、具体的に詳しく解説していきましょう。
2-1. 自己理解を深めることが第一歩
まず何よりも重要なのは、「自分自身がHSPである」という自己理解を深めることです。
HSPという概念を知らずに生きていると、自分が感じる疲れやすさやストレスに対して「自分は弱い」「周りの人に比べて劣っている」と自己否定的になりがちです。
しかし、自分が生まれつき「感覚処理感受性が高い」という気質を持っていることを理解すれば、「なぜ自分が人混みや騒音で疲れてしまうのか」「なぜ人の感情に敏感になりすぎるのか」という疑問に答えを見出すことができます。
自己理解を深めることは、自分に対する責めや否定を手放し、自分自身の繊細さを受け入れて、優しく接するための重要な第一歩となります。
これにより、自分が必要とする環境や対応策を冷静に考えられるようになり、生きづらさが徐々に軽減されていくのです。
2-2.適度に刺激を避け、回復時間を確保する
HSPの方は、生まれつきの感覚処理感受性の高さから、日常的な刺激(音、光、人間関係のストレスなど)を過度に受けやすい傾向があります。
そのため、意識的に自分が疲れてしまうような刺激を避けることが大切になります。
具体的には、以下のような方法があります。
● 静かな環境を確保する
一日の中で必ず静かで落ち着いた時間を設け、刺激から距離を置きましょう。
たとえば、自宅で照明を落とし、好きな音楽をかけたり、静かな空間で読書をするなど、自分が安心できる環境を意識的に作りましょう。
● 定期的に一人で過ごす時間を作る
常に人との交流や周囲の刺激にさらされていると、疲労が蓄積されやすくなります。
たとえ数分でも、一人でリラックスし、自分の感覚をリセットできるような時間を日常的に取り入れることが推奨されます。
● 疲れを感じたら積極的に休息を取る
自分の疲労感を無視せず、疲れを感じたら積極的に休む習慣を作ることが重要です。
これは決して怠けているわけではなく、自分の感受性を守るための正当なケアです。
これらを日常生活に取り入れることで、HSPの方はストレスへの抵抗力を高め、回復力を向上させることが可能になります。
2-3.カウンセラーのサポートを利用する
HSPの特徴を理解し、自己受容を進めるには、専門的なサポートを活用することも非常に有効です。
カウンセリングでは、自分の繊細さや敏感さを肯定的に捉え直し、「HSPであることを強みとして活かしていく方法」を専門家と共に探求することができます。
具体的なカウンセリングの効果としては、以下のようなものがあります。
✔繊細さを否定せず、受け入れる視点を得ることができる
✔自己否定や自己批判を和らげ、自己肯定感を高めることができる
✔自分に適した具体的なストレス対処法を習得できる
また、カウンセラーとの対話を通じて、自分では気づきにくいストレス要因を明確に把握できるようになります。
カウンセラーは、感覚処理感受性についての最新の心理学研究をもとに、個々のHSPの特徴に最適なアプローチを提案してくれるため、安心して自分の問題に向き合うことができます。
2-4.まとめ:HSPの繊細さは弱さではなく個性である
このように、研究からも明らかなように、HSPの人が感じるストレスや疲労は決してその人自身の弱さによるものではありません。
むしろ、HSPは「環境との相性」が非常に大切であり、適切な環境や対処法があれば高い回復力を持つことができます。
ぜひ、自分自身の繊細さを否定せず、その敏感さを人生の豊かさや自己成長の糧として肯定的に活かしていきましょう。
そして必要に応じてカウンセリングサービスなど、専門的な支援も積極的に利用して、自分らしく穏やかな毎日を送るための一歩を踏み出してみてください。
参考論文
The Highly Sensitive Person: Stress and physical symptom reports
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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