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「躁とうつが同時に来る苦しさ」双極性障害の混合エピソードとは?~神戸市、芦屋市、西宮市のカウンセリングの実例より~

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「躁とうつが同時に来る苦しさ」双極性障害の混合エピソードとは?

「躁とうつが同時に来る苦しさ」双極性障害の混合エピソードとは?

2025/04/06

みなさん、こんにちは。

神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。

 

さて、双極性障害というと「ハイテンションな時期(躁)」と「ひどく落ち込む時期(うつ)」が交互にやってくるというイメージを持つ方も多いかもしれません。

 

しかし、実際の臨床現場では、躁と抑うつの状態が同時に存在する「混合エピソード」と呼ばれる状態が頻繁に見られ、これが症状の理解と対処を一層難しくしています。

 

今回は、米国で行われた大規模な臨床研究をもとに、双極性障害の「混合エピソード」について、そしてそれがなぜ見逃されやすく、どのような影響を生活にもたらすのかを詳しく解説していきます。

 

1.混合エピソードとは?~躁と抑うつが「同時に」存在する状態~


双極性障害と聞くと、多くの方が「気分が高ぶって活動的になる躁状態」と「気分が沈んで何も手につかなくなる抑うつ状態」が交互に現れるイメージを思い浮かべるかもしれません。

 

しかし、実際にはこのように明確に分かれて現れるとは限りません。

 

混合エピソード(mixed episode)とは、躁状態または軽躁状態の症状がある一方で、抑うつ症状も同時に存在する状態を指します。

 

たとえば次のようなケースが該当します。

 

エネルギーは過剰にあるのに、心の中では強い自己否定感や無価値感がある

 

外見上は活動的なのに、内心では涙が止まらず、生きていることがつらい

 

衝動性が高まり、怒りっぽくなる一方で、気持ちは落ち込み希望が持てない

 

睡眠が取れず思考がせわしないのに、何をしても楽しいと感じられない

 

このように、一見すると矛盾したような感情や行動が同時に現れるのが混合エピソードの特徴です。

 

1-1.DSMにおける定義と限界


DSM-5(『精神障害の診断と統計マニュアル』第5版)では、「躁エピソード」または「軽躁エピソード」の診断基準を満たしながら、同時にうつ病の診断項目の一部を満たす場合、その状態は「混合特徴(with mixed features)」として診断されます。

 

ただし、この診断は基準に適合した場合のみ下されるため、実際の臨床現場ではDSMの診断を受けない「非定型の混合状態」が数多く存在するという指摘もあります。

 

これが、次に紹介するBauerら(2005)の研究で明らかになった重要な点です。

 

2.研究の概要:双極性障害における「混合状態」の高い頻度とその臨床的意義


2005年に発表されたBauerらの研究では、アメリカの大規模な健康保険ネットワークに属する441人の双極性障害の患者を対象に、躁的・抑うつ的症状が実際にどのように分布しているのかを詳細に調査しました。

 

2-1.主な研究結果

 

● 躁・軽躁エピソード中の患者のうち、94.1%が同時に抑うつ症状を示していた
これは、いわゆる「躁状態=明るく元気で多幸感に満ちている」というイメージとは大きく異なり、実際には多くの人が躁状態であっても深い悲しみや不安を抱えていることを意味します。

 

● 抑うつエピソード中の患者の70.1%にも、躁的な症状がみられた
たとえば、イライラ感、衝動性、焦燥感、思考の飛躍などの軽躁的な兆候を伴うケースが多く、うつ状態に一様な「沈黙」や「無気力」だけが現れるわけではないということが示唆されました。

 

● DSMの診断基準で正式に「混合エピソード」とされる人は2.7%にとどまったが、診断に該当しない形で混合的な症状を呈している人が6.1%も存在していた
→ この「6.1%」という数字は見過ごされがちですが、DSMの診断基準を満たさないだけで、実際にはかなり多くの人が「グレーゾーン」の混合状態に苦しんでいることを意味しています。

 

3.この研究が私たちに教えてくれること


Bauerらの研究は、双極性障害を「躁とうつが明確に分かれて出現する病気」と単純に捉えるのでは不十分であり、より現実に即した「症状の同時性」への理解が必要であることを示唆しています。

 

特に、DSMの基準に当てはまらないケースでは…

 

✔症状が正しく診断されない

✔適切な治療が遅れる

✔双極性障害を抱えるご本人が「自分は何かおかしいのでは?」と混乱し、自己否定感を強めてしまう

 

といった二次的な問題が起こりやすくなります。

 

このような混合状態は、一般の方だけでなく専門職にとっても非常に判断が難しいものであり、「症状を型にはめる」のではなく、「双極性障害を抱えているご本人の語る体験を丁寧に聴く」姿勢が何よりも重要なのです。

 

4.症状の同時性と生活の質への影響


研究ではさらに、躁的な症状と抑うつ症状の同時出現が生活の質(QOL)を大きく低下させることが報告されています。

 

✔躁・抑うつの両方の症状が重なると、精神的な健康度(SF-36メンタルスコア)が大きく悪化

 

✔身体的な健康スコアも低下傾向にあり、全体的なQOLが著しく低下

 

つまり、躁とうつの症状が同時に存在するというだけでなく、その組み合わせそのものが、より深刻な機能障害や苦痛を生み出しているのです。

 

まとめ:ラベルよりも実態を見る視点が大切


この研究が教えてくれるのは、「躁か、うつか」といった二択ではなく、実際に何が起きているのかという「状態の全体像」に目を向けることの大切さです。

 

混合エピソードは決して珍しいものではなく、むしろ多くの方が経験している現実です。

 

そして、その理解こそが、「どうしてこんなに苦しいのか分からない」という孤立した思いを和らげ、回復への第一歩になります。

 

症状への理解を通して、適切なケアを行ってくださいね。

 

参考論文

 ‘Bipolarity’ in bipolar disorder:distribution of manic and depressive symptoms in a treated population

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この記事の執筆者

駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)

心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。

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