うつ病の方が感じる感情の違いとは?
2025/01/19
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
今日はうつ病と感情の関係についてお伝えしたいと思います。
感情の反応性は、私たちの日常生活における経験を形作る重要な要素です。
具体的には喜びや悲しみ、驚きなど、さまざまな感情は、私たちが周囲の出来事にどのように反応し、対処するかを導きます。
つまり、感情によって私たちは次のアクションを決めるのです。
しかし、うつ病においては、この感情反応性が変化し、日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。
そのため、このブログでは、感情反応性の変化がうつ病にどのように関係しているのかを、最新の研究結果をもとに解説します。
また、治療やセルフケアの視点から、回復の道筋についても考えていきます。
1. うつ病と感情反応性について
1-1. 感情の反応性とは?
感情の反応性とは、周囲の出来事や刺激に対してどのように感情的に反応するかを指します。
たとえば、楽しいニュースを聞いて喜びを感じたり、悲しい映画を見て涙を流したりすることが、感情の反応性の一例です。
この反応は、私たちが日々の生活を豊かにし、人間関係を築き、ストレスに対処するための重要な機能です。
感情の反応性は通常、ポジティブな刺激(楽しい出来事など)にはポジティブな感情を、ネガティブな刺激(悲しい出来事など)にはネガティブな感情を引き起こします。
しかし、うつ病ではこのバランスが崩れることがあります。
1-2. うつ病における感情反応性の変化
うつ病を抱える方は、感情の反応性が通常とは異なるパターンを示すことが多くみられます。
具体的には、次のような特徴が見られます。
● ポジティブな感情の低下
通常なら喜びや楽しさを感じるはずの出来事に対して、反応が乏しくなることがあります。
この状態は「アンヘドニア」と呼ばれ、うつ病の主要な症状の一つです。
例
→好きな趣味や食べ物に対して以前ほどの興味や喜びを感じなくなる。
● ネガティブな感情の増幅
うつ病の場合、ネガティブな出来事に対する感情が強調される場合があります。
たとえば、些細なミスを過剰に気にしたり、自分を責める思考が続くというものが典型例です。
例
→上司からの軽い指摘を「自分は全く役に立たない」と感じるなど。
● 感情の平坦化
感情の幅が狭まり、ポジティブでもネガティブでも、何かを強く感じることが少なくなることもあります。
例
→特別な出来事に対しても、「何も感じない」といった状態。
1-3. 日常生活への影響
感情反応性の変化は、うつ病を抱える方の日常生活にさまざまな形で影響を及ぼします。
対人関係の困難 喜びや感謝の感情が表れにくくなるため、人間関係がぎこちなくなることがあります。
また、ネガティブな感情が増幅されると、相手の言動を否定的に解釈することが増える場合もあります。
活動の減少 ポジティブな感情が得られにくくなると、好きだった趣味や活動から遠ざかりがちになります。
これがさらに気分の低下を招く「悪循環」を生むことがあります。
また、仕事や学業への影響 感情の平坦化や過剰なネガティブ感情が、集中力やモチベーションを低下させる可能性があります。
その結果、パフォーマンスが下がり、ストレスがさらに増加するという現象に結び付いてしまいます。
1-4. うつ病における感情反応性を理解する意義
感情反応性の変化を理解することは、うつ病の治療やセルフケアにおいて重要です。
この変化を意識し、適切な対応を取ることで、回復に向けた第一歩を踏み出すことができます。
2. 論文が示す感情反応性のメタ分析
ここでは、研究論文「A meta-analysis of emotional reactivity in major depressive disorder」を元に感情反応性についてみていきたいと思います。
2-1. メタ分析の概要
この論文では、うつ病を抱える方の感情反応性に関する複数の研究を統合し、共通する傾向やパターンを明らかにしています。特に、ポジティブな感情とネガティブな感情の反応性がどのように変化するかに焦点が当てられています。
2-2. メタ分析の結果
● ポジティブな感情反応性の低下
特徴
→うつ病を抱える方は、ポジティブな出来事や刺激に対する感情反応が顕著に低下していることが示されました。
例
→好きな音楽や友人との楽しい会話でも、喜びや満足感を感じる能力が弱まる。
臨床的意義
ポジティブな感情反応性の低下は「アンヘドニア(無感情症)」の一部であり、治療や診断において重要な指標となります。
● ネガティブな感情反応性の増加
特徴
→ネガティブな出来事に対する反応が増幅される傾向が確認されました。
例
→批判的な言葉や失敗体験に対して過剰に反応し、自己批判や無価値感が強まる。
臨床的意義
→ネガティブな感情の増幅は、うつ病を抱える方の心理的負担を増加させ、症状の悪化や長期化につながる可能性があります。
● 感情の平坦化
特徴
→ネガティブ、ポジティブのいずれの感情反応も減少し、感情の幅が狭まる「平坦化」も観察されました。
例
→以前は感動を覚えた場面でも、何も感じない状態になる。
臨床的意義
→感情の平坦化は、社会的なつながりや対人関係に影響を及ぼし、孤立感を強める要因となります。
2-3. ネガティブな感情の意義
ネガティブな感情というものは、どうしても否定的にとらえられがちですが、しかしネガティブな感情というものは、決して全否定されるべきものではありません。
ネガティブな感情は、うつ病においてしばしば増幅され、その結果、苦痛やストレスを強めるものとして捉えられます。
しかし、ネガティブな感情そのものが悪いわけではありません。以下のような意義を持つため、これを否定的に捉えすぎないことが重要です。
● 自己の状態を知るシグナル
ネガティブな感情は、現在の心理的・身体的状況が健全でないことを知らせる警告信号です。
例
→ストレスの蓄積を示すイライラや、不適切な人間関係を示す悲しみ。
● 行動の調整を促す役割
ネガティブな感情は、状況を改善するための行動を促進します。
例
→不安は危機管理行動を引き出し、悲しみは支援を求める行動につながる。
2-4. 結論と臨床的意義
このメタ分析は、うつ病における感情反応性の変化が、診断や治療計画の策定において重要な要素であることを示しています。
ポジティブな感情反応性の向上は、うつ病の改善や再発予防において重要です。
また、ネガティブな感情については反応性を抑えすぎるのではなく、その意義を理解しつつ適切に対処することが、バランスの取れた感情調整につながります。
3. 感情を取り戻すための治療とアプローチ
感情反応性が変化することで、うつ病を抱える方は喜びや満足感を感じる力が弱まり、ネガティブな感情が強調されることがあります。
このような状態から感情を取り戻し、バランスの取れた感情調整を実現するために、心理療法や生活習慣の改善を組み合わせた包括的なアプローチが大切です。
3-1. 認知行動療法(CBT)による感情の再構築
認知行動療法(CBT)は、うつ病の治療において最も効果的な心理療法の一つであり、感情反応性の改善にも役立ちます。
● ネガティブな感情に対するアプローチ
ネガティブな感情は、歪んだ認知(例: 自分を否定する思考)によって増幅される傾向があります。
認知行動療法では、こうした歪んだ思考パターンを認識し、より現実的で柔軟な思考に置き換えることで、ネガティブな感情の強さを和らげます。
● ポジティブな感情の再発見
楽しい活動や充実感を得られる行動を計画し、それに取り組むことで、ポジティブな感情を引き出す機会を増やします。
3-2. 行動活性化(Behavioral Activation)
行動活性化は、日常生活におけるポジティブな感情を取り戻すための実践的なアプローチです。
● 目標設定と行動計画
小さな行動目標を設定し、段階的に達成していくことで、自己効力感を高めます。
例
→「1日10分散歩する」から始めて、徐々に活動量を増やす。
● 回避行動の減少
うつ病では、ネガティブな感情を避けようとして活動を控えることがあります。
この「回避行動」を減らし、生活に活気を取り戻します。
● ポジティブな強化の増加
楽しい出来事や達成感を得られる活動を増やすことで、ポジティブな感情反応性を高めます。
3-3. マインドフルネスと感情受容
マインドフルネスは、感情の受容と自己調整を促進するアプローチとして効果的です。
● 感情に対する気づき
ネガティブな感情を否定せず、「今ここ」でそれを観察し、受け入れる練習を行います。
例
→不安や悲しみが現れたときに「これは一時的な感情」と認識する。
● 感情との距離を取る
感情を「自分そのもの」ではなく、一過性の経験として捉えることで、感情に圧倒されることを防ぎます。
● ポジティブ感情への感度を高める
日常の中でポジティブな瞬間に注意を向け、それを味わうことで、ポジティブな感情反応性を育てます。
3-4. 薬物療法によるサポート
心理療法と併用して、薬物療法は感情反応性の改善を支援します。
● 神経伝達物質の調整
薬物療法は、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質のバランスを整えることで、感情の調整を助けます。
● 治療の安定化
感情の変動を抑え、心理療法に集中できるようにする役割を果たします。
3-5. 日常生活でできる感情への働きかけ
心理療法や薬物療法と並行して、日常生活で感情を取り戻すための実践も重要です。
● 感情ジャーナルの活用
日々の感情や出来事を記録し、ポジティブな瞬間や自分を肯定できる出来事に気づく習慣を作ります。
● 身体活動の促進
適度な運動はエンドルフィンの分泌を促し、感情のバランスを改善します。
例
→ヨガや軽いジョギングなど。
● 社会的つながりの活用
信頼できる人との会話や交流を通じて、感情を共有し、ポジティブな感情を育てます。
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感情反応性の変化を改善するには、感情に直接働きかける心理療法と日常生活での実践が重要です。
ポジティブな感情を増やし、ネガティブな感情を適切に受け入れることで、バランスの取れた感情生活を取り戻すことが可能です。
専門的なサポートを活用しながら、自分に合ったアプローチを探ることで、回復への道筋が見えてくることが期待できます。
参考論文
A meta-analysis of emotional reactivity in major depressive disorder
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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