脳の働きが気分を決める?うつ病と自己参照的プロセスの関係
2025/01/21
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
さて、私たちが感じる気分や思考は、脳の働きによって形成されます。
その中でも「デフォルトモードネットワーク(DMN)」と呼ばれる脳の領域が、うつ病と深く関わっていることをご存じでしょうか?
そこでこのブログでは、脳科学の視点から、うつ病を引き起こす可能性のある自己参照的プロセスとDMNの役割について解説します。
また、日常生活やカウンセリングで取り入れられるアプローチも紹介します。
1. デフォルトモードネットワーク(DMN)とは?
1. デフォルトモードネットワーク(DMN)について
デフォルトモードネットワーク(DMN)とは、私たちの脳が「何も特定の作業をしていないとき」に活性化する、脳内のネットワークを指します。
具体的には、ぼんやりと考え事をしているときや、過去を思い出したり、未来を想像したりしているときに働きます。
デフォルトネットワークは、脳の複数の部位が連携して形成されており、自己参照的な思考(これは後述します)や感情の処理に関与しています。
2.デフォルトモードネットワークの基本的な役割
デフォルトネットワークは、以下のような「内的な状態」に関わる思考や感情の処理を司っています。
● 過去の記憶を振り返る
例
→楽しかった旅行の思い出や、仕事で失敗した経験を頭の中で再生する。
● 未来を想像する
例
→週末の予定を考えたり、次の仕事のプレゼンを頭の中でシミュレーションしたりする。
● 自己と他者の関係を考える
例
→自分が友人や同僚からどう思われているか、家族との関係をどう改善するかを考える。
● 価値観や目標を確認する
例
→「自分はどんな人生を送りたいのか」「どのような選択が自分らしいのか」といった深い内省。
3.デフォルトネットワークの主要な構成部位
デフォルトネットワークは主に以下の脳領域で構成されています。
そして、それぞれが特定の役割を果たしており、ネットワークとして一体となって機能します。
内側前頭前野(mPFC)
自己参照的思考、特に自己評価や自己意識に関与。
後帯状皮質(PCC)
自己関連記憶の処理や、現在と未来の自己をつなぐ役割。
楔前部(Precuneus)
深い内省や自伝的記憶の活性化に関与。
側頭葉
記憶の再構成や、社会的文脈の理解をサポート。
4.日常生活でのDMNの働き
デフォルトネットワークがどのように機能しているかをイメージしやすくするため、いくつかの具体例を挙げます。
● 通勤中の電車内
電車の中で本を読んだり仕事のメールを打ったりしていないとき、自然と頭の中で「今日の予定」や「昨日の出来事」について考えていることはありませんか?
このときデフォルトネットワークが活性化しています。
● シャワーを浴びているとき
シャワーを浴びながら、次の休日の予定や今日の仕事の反省を頭の中で巡らせることがあります。
このような内的な思考の時間にデフォルトネットワークが働いています。
● 寝る前の時間
ベッドに入って目を閉じると、過去の出来事を思い出したり、明日の予定を考えたりすることが多いです。このときもDMNが活性化しています。
5.デフォルトネットワークとうつ病の関係
デフォルトネットワークは日常の自己参照的な思考に役立つ一方で、過剰に活性化するとネガティブな影響を及ぼすことがあります。
特に、うつ病では次のような問題が起こるとされています。
● 反芻(Rumination)の増加
ネガティブな出来事や自己評価を繰り返し考えることで、悲観的な思考が強化される。
● ネガティブな自己イメージの形成
デフォルトネットワークが「自分は価値がない」「失敗ばかりする」という否定的な自己参照的思考を強化する。
● 感情的なバランスの崩れ
ポジティブな未来を想像することが難しくなり、希望を失う原因となる。
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デフォルトモードネットワーク(DMN)は、私たちが「何もしていない」ときに働き、自己参照的な思考を支える重要な役割を果たします。
しかし、うつ病ではDMNが過剰に活性化し、ネガティブな思考を増幅させる可能性があります。
このメカニズムを理解することは、うつ病の治療や予防において非常に重要です。
2. 自己参照的プロセスとは?
自己参照的プロセスとは、自分自身に関する情報を処理したり評価したりする心の働きを指します。
たとえば、「自分の行動は他人にどう映っているのだろう?」「私はこの仕事が得意だろうか?」といった思考がこれに当たります。
日常生活で私たちが自己認識や自己評価を行う際に、無意識に発動しているこのプロセスは、脳のデフォルトモードネットワーク(DMN)と深く関連しています。
1.自己参照的プロセスの具体例
自己参照的プロセスがどのように日常生活に現れるかを、いくつかの場面で考えてみましょう。
(1)人前でのスピーチの準備
→スピーチの練習をしているとき、「この言い方で伝わるだろうか」「服装は適切だろうか」と、自分がどう見られるかを気にしているとき、自己参照的プロセスが働いています。
(2)過去の出来事を振り返る
→友人との会話で気まずい沈黙があった場合、「あの時、何か失礼なことを言ったのでは?」と考えるのも自己参照的プロセスの一例です。
(3)未来の計画を考える
→「次の休日に何をしようかな?」と考え、自分の好みや興味を基に計画を立てる行為も自己参照的プロセスです。
(4)ソーシャルメディアの利用
→SNSで投稿を見たとき、「自分はこんな風に楽しい生活を送れているだろうか?」と比較する思考も、自己参照的プロセスの一環です。
2.自己参照的プロセスの役割
このプロセスには、ポジティブな面とネガティブな面があります。
● ポジティブな役割
自己認識の促進
→自分の価値観や目標を認識し、生活の選択肢をより良い方向に向ける助けとなります。
例: キャリア選択や趣味の発見。
● 社会的つながりの強化
自分が他人にどう映るかを考えることで、他者との関係性を円滑にする役割を果たします。
例:礼儀や共感を意識した言動。
● ネガティブな影響
自己参照的プロセスが過剰に働いた場合、次のような問題が生じることがあります。
● 過度の反芻(ぐるぐる思考)
ネガティブな出来事を繰り返し考え、「自分は失敗した」「自分はダメだ」と自己批判が強まります。
● 自己否定的な思考の固定化
他者との比較による劣等感や自己不信感が募る。
● 感情的バランスの崩れ
自己参照的プロセスがネガティブな思考ばかりに偏ることで、不安や抑うつ症状が悪化します。
3.自己参照的プロセスとうつ病の関係
うつ病では、自己参照的プロセスが主にネガティブな方向へ働きます。
過去の出来事への執着
→失敗や後悔を繰り返し思い出し、自己批判が強化される。
未来への悲観的な展望
→「どうせ何をやっても無駄だ」という思考に陥り、希望を失う。
社会的自己意識の肥大
→ 他人からの評価を過度に気にし、自分を否定的に見る。
3.デフォルトネットワークと自己参照的プロセスの関係
1.改めて、デフォルトネットワーク(DMN)とは?
デフォルトネットワーク(DMN)は、私たちが何もしていないときや内面的な思考をしているときに活発になる脳の領域群です。
具体的には、自己に関する考えや、過去の出来事を振り返ったり未来を計画したりする際に活動します。
たとえば、仕事の合間に「次の週末は何をしよう?」と考えるときや、夜寝る前に「今日のあの発言は失礼だったかな?」と反省するようなときに、デフォルトネットワークが働いています。
2.デフォルトネットワークと自己参照的プロセスの関係
自己参照的プロセスは、デフォルトネットワークの主要な役割のひとつです。
このプロセスが、私たちが「自分」についての情報をどのように処理し、評価し、記憶に結びつけるかを支えています。
3.うつ病とデフォルトネットワークの過剰活性化
うつ病では、デフォルトネットワークが過剰に活性化していることが多くの研究で示されています。
この過剰活性化は、特に自己参照的プロセスに関連しており、次のような悪影響を引き起こします。
(1)ネガティブな反芻の悪循環
デフォルトネットワークが過剰に働くと、「反芻(ぐるぐる思考)」が増加します。
反芻とは、過去の失敗や不安について繰り返し考えることです。
悪循環の例
→仕事でミスをした後、「自分は何をやってもダメだ」と自己批判を繰り返す。
→過去の人間関係の失敗を思い出し、「あのときもっとこうしておけばよかった」と後悔し続ける。
このような反芻は、問題解決にはつながらず、むしろ自己批判を強化し、感情的な苦痛を増大させます。
(2)ポジティブな自己参照の欠如
うつ病では、ポジティブな自己参照的プロセスが極端に低下します。
● ポジティブな自己参照とは?
「自分にはこんな良いところがある」「過去にこんな成功を経験した」という、肯定的な自己評価や記憶に基づいた思考を指します。
● うつ病ではどうなるか?
デフォルトネットワークの過剰活性化は、ポジティブな自己参照を阻害します。
その結果、ネガティブな記憶や評価ばかりが浮かび上がり、自信喪失や希望の喪失につながります。
(3)ネガティブな自己イメージの固定化
デフォルトネットワークの過剰な活動は、ネガティブな自己イメージを強化します。
例えば、「自分は価値がない」という考えが、繰り返される反芻によってますます深く根付いてしまいます。
4.治療の視点—デフォルトネットワークへのアプローチ
デフォルトネットワークの過剰活性化とうつ病の関連を踏まえた治療法として、次のようなアプローチが注目されています。
(1)マインドフルネス瞑想
マインドフルネス瞑想は、現在の瞬間に意識を集中させることで、デフォルトネットワークの過剰な活動を抑える効果があります。
● 効果
→過去や未来の思考から離れ、「今ここ」に意識を向ける。
→ネガティブな反芻を減少させ、感情的な安定を促進。
(2)認知行動療法(CBT)
認知行動療法は、反芻を減少させ、ポジティブな自己参照を促進する治療法として効果的です。
● 具体例
→ネガティブな自己批判を現実的な視点で再評価する。
→ポジティブな経験や成功体験を記録し、自己評価を改善する。
(3)認知再構成法
認知再構成法は、ネガティブな自己イメージや評価を現実的かつバランスの取れた見方に変える方法です。
● 具体例
→ネガティブな反芻に対して、「本当にそうだろうか?」と問いかける練習を行う。
→ポジティブな視点を意識的に増やす。
(4)行動活性化(Behavioral Activation)
ポジティブな自己参照を増やすためには、成功体験や喜びを感じられる活動を増やすことが有効です。
● 具体例
→適度な運動や趣味を日常生活に取り入れる。
→小さな成功を積み重ねることで、自己評価を回復させる。
5.まとめ
デフォルトネットワークと自己参照的プロセスは、私たちの自己認識や感情処理に大きな役割を果たします。
しかし、デフォルトネットワークが過剰に活性化すると、ネガティブな反芻や自己批判が強まり、うつ病の悪化を招く可能性があります。
このような悪循環を断ち切るためには、マインドフルネス瞑想や認知行動療法などを活用して、デフォルトネットワークを適切に調整し、ポジティブな自己参照を増やすことが非常に効果的です。
4.脳の悪循環を断ち切ることでうつ病を改善する
デフォルトモードネットワーク(DMN)と自己参照的プロセスは、うつ病の悪循環を形成する重要な要因です。
デフォルトネットワークの過剰な活性化による反芻やネガティブな自己評価は、感情や思考をさらに深刻化させ、症状を長引かせる可能性があります。
多くのうつ病の症状は、このような脳の機能不全に起因していると考えられています。
しかし、脳科学に基づいた治療アプローチは、こうした悪循環を断ち切る可能性を秘めています。
認知行動療法(CBT)やマインドフルネス療法、さらには適切な生活習慣の調整などを通じて、脳の働きを調整し、症状を改善する効果が期待されています。
うつ病を根本から理解し、科学的な視点を取り入れることは、回復への重要な一歩となるでしょう。
参考論文
The default mode network and self-referential processes in depression
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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