複雑性PTSDの正しい理解とアプローチとは
2025/01/29
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
さて、私たちが人生の中で直面するトラウマは、心に深い傷を残すことが珍しくありません。
しかし、その中でも複雑性PTSD(Complex Post-Traumatic Stress Disorder)は、単発的なトラウマとは異なり、長期間にわたるトラウマ体験によって生じる特有の症状を伴います。
たとえば、虐待やDV、長期にわたる不適切な養育(いわゆる『毒親』による養育)、長期的ないじめなどがその例です。
そこで、この記事では、複雑性PTSDの特徴やその影響、回復のために役立つ治療法について解説します。
複雑性PTSDとは?~その特徴とは~
複雑性PTSD(Complex Post-Traumatic Stress Disorder)は、一般的なPTSD(心的外傷後ストレス障害)とは異なり、長期的で繰り返されるトラウマ体験が引き金となり、より複雑な症状を伴う障害です。
以下では、その特徴や影響について詳しく説明します。
1-1. 複雑性PTSDの背景と原因
複雑性PTSDは、以下のような長期間にわたる深刻なストレスやトラウマ体験によって引き起こされます。
● 原因となるトラウマ体験
→幼少期の虐待(身体的、性的、心理的な虐待やネグレクト)。
→配偶者や恋人からの長期的なDV(ドメスティックバイオレンス)。
→長期の人権侵害や抑圧的な生活環境。
→長期的ないじめやハラスメント。
これらの状況では、被害者が安全を確保したり、状況から逃れたりするのが困難であることが特徴です。
1-2. 一般的なPTSDとの違い
複雑性PTSDは、通常のPTSDといくつかの点で異なります。
一般的なPTSDは主に単発的なトラウマ(例: 交通事故、災害、犯罪被害など)に起因しますが、複雑性PTSDではトラウマが長期的で継続的なため、症状の種類や深刻さが増します。
● 通常のPTSDの主な症状
→フラッシュバックや回避行動。
→過覚醒状態や恐怖反応。
→トラウマ体験を思い出すことで強い苦痛を感じる。
● 複雑性PTSDの追加的な症状
・感情調整の困難
→怒り、悲しみ、不安などの感情をコントロールすることが難しい。
・自己認識のゆがみ
→自分自身を無価値だと感じたり、自己批判的になる。
・人間関係の問題
→他者への不信感が強くなり、親密な関係を築くのが難しい。
・持続的な不安感や孤独感
→常に心の中に孤独や恐怖がある。
1-3. 複雑性PTSDの主な症状
複雑性PTSDは、その複雑さからさまざまな心理的、身体的な症状を引き起こします。
● 感情の調整が難しい
→怒りが爆発的になったり、些細なことで強い不安感に襲われる。
→感情を麻痺させてしまう(何も感じない、無気力な状態になる)。
● 自己イメージの否定
→「自分は役に立たない」「何をやってもうまくいかない」という否定的な自己評価。
→自分に対して過剰な責任を感じる、もしくは罪悪感を抱く。
● 他者への不信感
→他人からの助けを受け入れられず、孤立してしまう。
→他者の意図を過度に疑い、親密な関係を避ける。
● フラッシュバック
→特定の状況や音、匂いなどが引き金となり、トラウマ体験が繰り返し思い出される。
● 持続的な不安や恐怖
→理由のない不安感や恐怖感が続く。
→安全な環境にいても安心感を持てない。
1-4. 複雑性PTSDが日常生活に与える影響
複雑性PTSDを抱える方は、心理的な苦痛だけでなく、日常生活にも深刻な影響を受けます。
● 社会生活への影響
→学校や職場でのパフォーマンス低下。
→人間関係の摩擦や孤立。
● 身体的影響
→頭痛、消化器系の問題、慢性的な疲労感など、身体症状が現れることもあります。
● 自己否定的行動
→自己を傷つける行動(例: 自傷行為や過度の飲酒)に走る場合があります。
1-5. 複雑性PTSDの治療における課題
複雑性PTSDの治療は、単なるトラウマ体験の克服だけでなく、深い自己認識や感情調整の回復が必要です。
● 長期的な治療計画が必要
→複数の症状に対応するために、さまざまな治療アプローチが必要です(例: 認知行動療法、マインドフルネス、対人関係療法など)。
● 治療へのハードル
→他者への不信感があるため、カウンセラーや医療者との信頼関係を築くのに時間がかかることもあります。
研究論文が示す研究結果~複雑性PTSDへの理解へ向けて~
この論文「Complex post-traumatic stress disorder」は、複雑性PTSD(Complex PTSD)が持つ特徴的な症状や、それが従来のPTSDとどのように異なるかを詳しく分析し、治療や診断における課題を浮き彫りにしています。
以下では、論文の主要な研究結果を詳しく解説します。
1. 複雑性PTSDの診断基準
複雑性PTSDは、従来のPTSDと異なり、国際疾病分類第11版(ICD-11)で独自の診断基準として認められました。
以下の点が特徴で
● PTSDの基本症状を持つ
→フラッシュバック(トラウマ記憶の再体験)。
→回避行動(トラウマ関連の記憶や状況を避ける)。
→過覚醒状態(常に緊張し、不安が強い状態)。
● 複雑性PTSD特有の症状
・感情調整の困難
→自分の感情を適切に制御できず、過剰な怒りや悲しみ、麻痺感を抱く。
・自己イメージの歪み
→自分を無価値だと感じたり、深い罪悪感や恥を抱く。
・対人関係の困難
→他者との関係を築いたり維持するのが難しい。
これらの症状が、特に長期的かつ繰り返されるトラウマ体験(慢性的な虐待やいじめ等の体験など)によって引き起こされることが確認されています。
2. 複雑性PTSDと従来のPTSDの違い
論文では、複雑性PTSDが従来のPTSDと区別されるべきである理由がいくつか挙げられています。
● 長期間のトラウマ経験の影響
従来のPTSDは主に単一のトラウマ(例: 自然災害や交通事故)によって引き起こされることが多いですが、複雑性PTSDは長期間のトラウマ(例: 家庭内暴力、継続的ないじめ)によって引き起こされることが特徴です。
● 症状の複雑さ
複雑性PTSDは、感情調整や自己イメージの問題、対人関係の困難といった広範な症状を伴います。
これにより、診断や治療がより困難になります。
3. 感情調整の困難
論文では、複雑性PTSDの中核的な問題として感情調整の困難が挙げられています。
具体的には…
● 強い感情反応
→些細な出来事でも過剰な怒りや悲しみを感じる。
→感情のコントロールができず、衝動的な行動に至ることもある。
● 感情の麻痺
→一方で、感情を完全に遮断してしまうこともあり、日常生活で喜びや楽しみを感じられなくなる。
● 症状の影響
感情調整の困難は、職場や家庭内での関係性を悪化させる要因となり、孤立感を増幅させる結果となります。
4. 自己イメージのゆがみ
複雑性PTSDを抱える方は、自分に対する否定的な見方が非常に強いことが指摘されています。
● 自己批判と罪悪感
→自分を「価値のない存在」と感じ、過去の出来事について不必要な責任を感じる。
→この感情が抑うつ症状を引き起こす要因になる。
● 恥と自己嫌悪
→自己肯定感の欠如により、他者と自分を比較して恥を感じたり、自己嫌悪に陥ることがあります。
5. 対人関係の困難
複雑性PTSDでは、他者との健全な関係を築くことが困難となることも明らかにされています。
● 他者への不信感
→過去のトラウマが他者との関係に影響を及ぼし、過剰な警戒心や疑念を抱く。
● 孤立感
→親しい関係を築けず、孤立する傾向があります。
結果として、社会的支援を得ることが難しくなります。
6. 慢性化するリスク
論文では、適切な治療が行われない場合、複雑性PTSDが慢性化し、生活全般に深刻な影響を及ぼす可能性があることも強調されています。
● 併存症のリスク
→複雑性PTSDを抱える方は、抑うつ、不安障害、物質使用障害といった他の精神疾患を併発するリスクが高い。
● 社会的影響
→職場でのパフォーマンス低下や失業、人間関係の破綻など、社会的な問題も引き起こされやすい。
7. 治療と介入の重要性
論文では、複雑性PTSDに対する適切な治療アプローチが、症状の改善に非常に重要であることが指摘されています。
● 個別化された治療計画
→複雑性PTSDは、ご本人ごとに症状や背景が異なるため、個別化された治療計画が必要です。
● 包括的な治療
→認知行動療法(CBT)、対人関係療法、感情調整トレーニング、トラウマフォーカス治療が推奨されています。
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この論文は、複雑性PTSDが単なるトラウマ障害ではなく、長期的で深刻な影響を及ぼす複雑な症状群であることを明確に示しています。
特に、感情調整の困難、自己イメージのゆがみ、対人関係の問題が、生活全般に影響を与える大きな要因であることがわかります。
ただし、適切な診断と治療が行われることで、複雑性PTSDを抱える方が再び安心感と充実感を取り戻すことが可能です。
まとめ
複雑性PTSDは、その症状の複雑さから生活の質を大きく損なう可能性があります。
しかし、適切な治療を受けることで、心の安定と回復を実現することができます。
トラウマに向き合うのは勇気が必要ですが、一歩踏み出すことで新しい未来が開けるはずです。
皆さんのお住まいの地域でのカウンセリングサービスを活用しながら、自分らしい生活を取り戻していきましょう。
参考論文
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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