マインドフルな運動がうつ症状を和らげる?
2025/02/05
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
さて、心の健康を保つために「運動が良い」と言われることは多いですが、具体的にどのような運動がうつ症状の軽減に役立つのでしょうか?
今回紹介する「Effects of mindful and non-mindful exercises on people with depression: A systematic review」の研究では、マインドフルな運動(意識的に呼吸や動作に注意を向ける運動)と、非マインドフルな運動(単純な身体活動として行う運動)の効果を比較し、どちらがうつ症状により良い影響を与えるかを調査しました。
このブログでは、研究の結果をもとに、うつ症状を和らげるための効果的な運動方法について詳しく解説します。
1. うつ症状と運動の関係
うつ症状を抱える方の多くは、気分の落ち込み・意欲の低下・不眠・身体の重さなどを経験します。
一方、運動はこれらの症状を和らげる効果があることが科学的に示されています。
その理由は、以下のような生理的・心理的なメカニズムによるものです。
1-1. なぜ運動がうつに効果的なのか?
① エンドルフィンの分泌(幸福ホルモンの増加)
運動をすると、脳内で「幸福ホルモン」とも呼ばれるエンドルフィンが分泌され、気分が向上します。
エンドルフィンには鎮痛作用やストレス軽減効果があり、運動後に気分がスッキリするのはこのホルモンの働きによるものです。
・軽い運動(ウォーキングやストレッチ)でもエンドルフィンは分泌される
・特に有酸素運動(ジョギング・水泳など)はエンドルフィンの分泌を促す
・運動習慣をつけることで、長期的にストレスに強い心身が作られる
② 自律神経の調整
うつ症状の一因として、自律神経の乱れが挙げられます。
自律神経には交感神経(活動モード)と副交感神経(リラックスモード)があり、これらのバランスが崩れるとうつ症状が悪化しやすくなります。
運動によって交感神経と副交感神経の働きが整い、不安や緊張が軽減されることがわかっています。
特に、ゆっくりとした呼吸を意識する運動(ヨガ・ストレッチ)は、副交感神経を活性化し、リラックス効果を高めます。
③ 脳の可塑性の向上
運動を継続すると、脳の神経細胞が活性化し、情報処理や感情のコントロール能力が向上するとされています。
特に、以下のような神経科学的な変化が起こることが研究で示されています。
・BDNF(脳由来神経栄養因子)の増加 → 脳細胞の成長を促進
・海馬(記憶や感情調整に関与)の神経新生が活発化
・前頭前野(思考・意思決定・感情調整に関与)の活性化 → ネガティブ思考の抑制
このような神経の変化によって、抑うつ的な思考のループを断ち切る助けとなります。
④ 達成感の獲得
うつ症状の特徴の一つとして、無力感や自己評価の低下が挙げられます。
運動をすることで、「できた!」という達成感を得ることができ、自己肯定感の向上につながります。
・短時間の運動でも「自分は動ける」という感覚が自信につながる
・「1日10分のウォーキング」など、小さな目標を設定しやすい
・運動を継続すると「自分にもできる」という成功体験が積み重なる
1-2. マインドフルネスとは?
マインドフルネスとは、「今、この瞬間に注意を向け、評価や判断をせずに受け入れる心の在り方」を指します。
うつ症状を持つ方は、過去の失敗を繰り返し考えたり(反芻思考)、未来への不安に囚われやすい傾向があります。
マインドフルネスの実践により、こうした思考パターンを和らげることができるのです。
例えば、以下のような状況があるとします。
・「あの時の発言はまずかったのでは…」と何度も後悔する
・「この先、どうなるかわからない…」と不安で動けない
こうした思考のループに陥ると、現在の瞬間を十分に味わえなくなります。
マインドフルネスは、意識を「今」に向けることで、不必要なストレスを軽減し、心の安定を促します。
● マインドフルな運動とは?
マインドフルネスと運動を組み合わせることで、運動の効果をさらに高めることができます。
① 呼吸や体の動きに意識を向けながら行う運動
マインドフルネスを取り入れた運動では、体の動きや感覚に意識を向けることが重要です。
例えば、次のような運動が適しています。
ヨガ
→ポーズと呼吸を組み合わせることで、心身の緊張を和らげる
ピラティス
→体幹を意識しながらゆっくりとした動作を行い、集中力を高める
ストレッチ
→筋肉の伸びを感じながら、ゆっくりと深い呼吸を意識する
② 目の前の動作に集中し、雑念を手放す
ウォーキング ウォーキングも、マインドフルネスを取り入れることで、より深いリラックス効果を得ることができます。
・足が地面に着く感覚を意識する
・周囲の景色や音に注意を向ける
・呼吸のリズムを整えながら歩く
これにより、単なる運動ではなく、心のリフレッシュとしての効果も期待できます。
③ 瞑想を取り入れたストレッチ
ストレッチは、身体をほぐすだけでなく、意識を「今ここ」に向ける手助けになります。
・筋肉が伸びる感覚に集中する
・ゆっくりとした呼吸とともに行う
・「気持ちいい」と感じる瞬間を大切にする
これらの運動を習慣化することで、うつ症状の改善に役立ちます。
2. 論文が示す「マインドフルな運動」と「非マインドフルな運動」の違い
この研究では、うつ症状を抱える方を対象に、マインドフルな運動と非マインドフルな運動を比較し、それぞれの効果を分析しました。
その結果、マインドフルな運動の方が、心理的な安定やストレス軽減により大きく寄与することが示されました。
2-1. マインドフルな運動の効果
● マインドフルな運動とは?
マインドフルな運動とは、「今、この瞬間の身体の動きや感覚に意識を向けながら行う運動」のことを指します。
ただ体を動かすだけでなく、呼吸や感覚に注意を向けることで、心身のリラックス効果を高める特徴があります。
● 研究が示すマインドフルな運動の効果
研究によると、マインドフルな運動は、非マインドフルな運動よりもうつ症状の軽減に効果的であることが示されました。
特に以下の点が強調されています。
ストレスホルモン(コルチゾール)の低下
→ 慢性的なストレス状態を緩和し、心身のリラックスを促す。
感情の調整力の向上(ネガティブな思考からの解放)
→ 「過去の失敗」や「未来への不安」にとらわれにくくなる。
睡眠の質の向上
→ 自律神経が整い、入眠しやすくなり、深い睡眠が得られる。
自己受容の促進(自分自身を責める思考の軽減)
→ 「できない自分」を責めるのではなく、ありのままの自分を受け入れる感覚が育まれる。
● 特に効果が高かったマインドフルな運動の種類
研究では、以下の運動が特に効果的であると示されています。
① ヨガ
ヨガは、呼吸・ストレッチ・瞑想を組み合わせた運動であり、うつ症状の緩和に優れた効果を発揮します。
特に以下のような効果が確認されています。
・ゆったりとした動作と呼吸を合わせることで、副交感神経を活性化し、リラックス効果を高める。
・身体の緊張をほぐし、心の緊張も和らげる。
・「今、この瞬間に意識を向ける」ことで、ネガティブな思考のループを断ち切る。
② 瞑想を伴うストレッチ
ストレッチは単なる柔軟性の向上だけでなく、マインドフルな意識を取り入れることで、心身の調和を促進する効果があります。
・筋肉が伸びる感覚に意識を向けることで、「今、ここ」に集中できる。
・ゆっくりとした呼吸を意識しながら行うことで、副交感神経が優位になり、リラックス効果が高まる。
・短時間でもできるため、毎日の習慣として取り入れやすい。
2-2. 非マインドフルな運動の効果
● 非マインドフルな運動とは?
非マインドフルな運動とは、身体を動かすことが主な目的であり、意識を向ける要素が少ない運動のことを指します。
例えば、ジョギングや筋力トレーニングなどがこれに該当します。
● 研究が示す非マインドフルな運動の効果
研究では、非マインドフルな運動も一定の効果があることが示されています。
特に以下の点で、うつ症状の改善に寄与することがわかっています。
エンドルフィンの分泌による気分改善
→ 「幸福ホルモン」とも呼ばれるエンドルフィンの分泌により、一時的に気分が向上する。
運動習慣の確立による健康維持
→ 体力の向上により、疲れやすさや身体の不調が改善される。
生活リズムの安定化
→ 適度な運動習慣が、睡眠や食事などの生活習慣を整える助けになる。
3. うつ症状におすすめの運動習慣
うつ症状を改善するためには、無理なく続けられる運動を取り入れることが大切です。
● おすすめの運動プログラム
・週3回、20~30分のウォーキング(歩くことに意識を向ける)
・ヨガやピラティスを取り入れる(深い呼吸を意識する)
・寝る前の軽いストレッチ(体の動きに集中する)
「運動しなきゃ」と思うとプレッシャーになってしまうため、「リラックスするための時間」として運動を取り入れることがポイントです。
まとめ
研究の結果、マインドフルな運動は、ストレス軽減や感情の安定に特に効果的であることが示されました。
特にヨガや瞑想を伴うストレッチが、うつ症状の改善に寄与することが確認されています。
しかし、非マインドフルな運動(ジョギングや筋力トレーニング)も一定の効果があり、運動を続けること自体が心身の健康に良い影響を与えることがわかっています。
● 今日からできるマインドフルな運動習慣
・寝る前にストレッチをしながら深呼吸
・ヨガを取り入れ、呼吸と動作に意識を向ける
・ウォーキングの際に、足の感覚や呼吸に集中する
うつ症状が強く、「運動する気力がわかない」という場合は、まずは短時間でも良いので、自分のペースで始めることが大切です。
ぜひ、自分に合った運動を取り入れて、うつ病の症状の軽減に取り組んでみてくださいね
参考論文
Effects of mindful and non-mindful exercises on people with depression: A systematic review
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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