うつ病と不安の治療過程で起こる感情の変化とは?
2025/02/09
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
うつ病や不安症の治療を受けていると、「本当に良くなっているのだろうか?」と不安になることは少なくありません。
治療が進む中で気分の浮き沈みがあるのは自然なことであり、それがどのような意味を持つのかを理解することが大切です。
本記事では、論文「Changes in affect during treatment for depression and anxiety」をもとに、治療過程での感情の変化について詳しく解説します。
治療中の不安を軽減し、より前向きに回復に向かうためのヒントをお伝えします。
1. うつ病・不安症の治療中に起こる感情の変化
うつ病や不安症の治療は、単純に「良くなる」ものではなく、時間をかけて徐々に回復していくプロセスです。
気分の変動があるのは正常な反応であり、それを理解しておくことで治療中の不安を軽減できます。
この研究論文では、治療中に経験する感情の変化が詳しく分析されており、特にポジティブな感情とネガティブな感情がどのように変化するのかが示されています。
1-1. 治療によって気分はどのように変わるのか?
治療の初期段階では、「少し楽になったかも」と感じる日がある一方で、再び落ち込む日が訪れることも珍しくありません。
これは、脳の神経回路が新しい思考パターンを学習する過程であり、回復がスムーズに進んでいる証拠とも言えます。
● 回復のプロセスは波のように進む
・「今日は調子が良い」と感じる日があっても、翌日にはまた落ち込むことがある。
・改善と後退を繰り返しながら、少しずつポジティブな時間が増えていく。
・一見「治療がうまくいっていないように感じる」こともあるが、それは回復の正常な過程。
この波を乗り越えるためには、「良くなったり悪くなったりするのは自然なこと」と理解することが重要です。
特に、治療を始めたばかりの段階では、「もう大丈夫」と思った直後に、また症状がぶり返すことがある」ことを念頭に置いておくと、不安が軽減されるでしょう。
1-2. ポジティブ感情とネガティブ感情の変化
● ポジティブ感情(喜び・安堵・希望)の増加
治療が進むにつれて、徐々にポジティブな感情が増えていくことが分かっています。
ただし、この変化は直線的ではなく、最初は不安定な形で現れます。
・初期段階では、ポジティブな感情が一時的に現れても、すぐに消えてしまうことがある。
・「昨日は良かったのに、今日はまた落ち込んでいる」と感じることがよくある。
・時間が経つにつれて、ポジティブな感情が持続する時間が長くなる。
具体例
・以前は楽しめなかった趣味に少しずつ興味が戻る。
・ふとした瞬間に「なんとなく気持ちが軽くなった」と感じる。
・未来に対する希望を少しずつ持てるようになる。
● ネガティブ感情(不安・悲しみ・絶望)の変化
一方で、ネガティブな感情も治療の進行とともに少しずつ減少していきますが、完全に消えるわけではありません。
特に、ストレスの影響を受けやすく、一時的に強まることがあります。
・治療の初期段階では、ネガティブ感情が強く、ポジティブ感情が現れにくい。
・途中で「良くなった」と感じても、ストレスや環境の変化によって再びネガティブな感情が強まることがある。
・しかし、治療を続けることで、次第にその影響が弱まり、ネガティブな感情に圧倒されることが少なくなっていく。
具体例
・以前なら落ち込んでいた出来事に対して「まぁ、大丈夫か」と思えるようになる。
・不安が生じても、「今はそういう時期だ」と受け入れられるようになる。
・「最悪の事態」を想像することが減り、現実的な視点で物事を考えられるようになる。
2. 研究が示す「感情の変化」のメカニズム
本研究では、うつ病や不安症の治療が進むにつれてポジティブな感情が増加し、ネガティブな感情が減少するという傾向が確認されています。
しかし、感情の変化は単純なものではなく、個人によって異なるパターンをたどることが指摘されています。
この点を理解することで、治療中に起こる気分の波を受け入れやすくなり、焦りや不安を軽減することができます。
2-1. 治療の進行段階と感情の変化
研究によると、治療の進行段階ごとに感情の変化には一定のパターンが見られます。
これは、脳の神経回路が徐々に変化し、新しい思考パターンを学習するプロセスとも関係しています。
● 治療の初期段階
・大きな感情の変化は少なく、抑うつ感や不安感が持続しやすい。
・「治療を始めたのに、気分があまり変わらない…」と感じることが多い。
・うつ病や不安症に特有の「変わることへの恐れ」が強く、改善の実感を得にくい。
なぜこの時期は変化が少ないのか?
・長期間続いていた思考・感情のパターンが、すぐには変わらないため。
・「本当に良くなるのだろうか?」という不安や疑念が強く、ポジティブな変化を受け入れにくい。
● 治療の中盤
・気分の浮き沈みが激しくなる。
・「少し気分が楽になった」と感じる日が増えるが、突然また落ち込むこともある。
・「昨日は調子が良かったのに、今日はダメだ」と感じやすくなる。
なぜこの時期に浮き沈みが激しくなるのか?
・ポジティブな感情が増えてくるものの、まだ不安定なため。
・脳が新しい思考パターンを学習する過程で、一時的に古いパターンが強く出ることがある。
この時期には、「良くなってきたのに、また悪くなった」と感じることが多いですが、これは決して後退ではなく、回復の一部です。
むしろ、この波を乗り越えることでポジティブな感情が安定しやすくなるのです。
● 治療の後半
・ポジティブな感情が安定し、ネガティブな感情が減少する。
・「以前ほど気分の落ち込みに引きずられなくなった」と感じるようになる。
・ストレスや困難な出来事があっても、対処しやすくなる。
ただし、完全にネガティブな感情が消えるわけではない
・治療が進んでも、「不安になることがなくなる」「落ち込むことが一切なくなる」わけではない。
・ただし、それらの感情に対する捉え方が変わり、振り回されにくくなる。
2-2. 感情の変動を受け入れることの重要性
「昨日は気分が良かったのに、今日はまた落ち込んでいる…」
こう感じたとき、「治療がうまくいっていないのでは?」と不安になるかもしれません。
しかし、これは回復の過程でよくある現象であり、必ずしも悪いことではありません。
● 回復は直線的ではなく、波のように進む
・「良い日」と「悪い日」を繰り返しながら、少しずつ前進する。
・一時的な後退は、むしろ回復が進んでいるサインでもある。
● ネガティブな感情がゼロになるわけではない
・「治療を受けたら、もう二度と落ち込まなくなる」というわけではない。
・ただし、ネガティブな感情が出ても、以前ほど長引かなくなり、対処できるようになる。
● 「また落ち込んだ=失敗」ではない
・一時的な落ち込みを「失敗」と捉えず、「今はこういう時期だから仕方ない」と受け入れることが大切。
・感情の波があることを前提に、「今日はちょっと調子が悪いけど、また良い日が来る」と考えられるようになると、治療の効果がより高まりやすい。
3. 治療を前向きに進めるためにできること
治療中の感情の変動をうまく乗り越えるためには、以下のような工夫が役立ちます。
3-1. 日々の感情を記録する
治療が進んでいるのかを客観的に判断するために、感情の変化を記録することが効果的です。
● 方法
・気分記録表や日記をつける(「今日の気分は?」を簡単にメモ)
・ポジティブな出来事に注目する(「少し楽になった瞬間」を記録)
・日々の変化を可視化することで、「以前よりも少し楽になっている」と気づきやすくなります。
3-2. 期待値を調整する
「すぐに良くなるはず」と思い込むと、気分の浮き沈みに振り回されやすくなります。
● 意識したいポイント
・「回復には時間がかかる」と理解する
・「良い日も悪い日もあるのが普通」と考える
3-3. 生活習慣を整える
治療の効果を高めるためには、規則正しい生活が欠かせません。
● 実践すべきこと
睡眠をしっかりとる(睡眠不足は気分の乱れを引き起こす)
適度な運動を取り入れる(ウォーキングやストレッチでもOK)
食事のバランスを整える(栄養の偏りは気分の不安定を招く)
まとめ
うつ病や不安症の治療では、ポジティブ感情が増え、ネガティブ感情が減るという変化が見られます。
しかし、回復の過程では気分の浮き沈みがあるのが自然なことです。
治療を前向きに進めるためには、感情の変化を記録し、期待値を調整し、生活習慣を整えることが重要です。
焦らず、一歩ずつ回復に向かいましょう。
参考論文
Changes in affect during treatment for depression and anxiety
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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