うつ症状を悪化させる考え方・軽減する考え方
2025/02/16
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
日々の生活の中で、私たちはさまざまな出来事に直面し、それに対して感情が動きます。
しかし、その感情をどのように処理するかによって、気分の安定度は大きく変わってきます。
特に、うつ症状を抱える方にとっては、ネガティブな感情の扱い方が心の健康に影響を及ぼすことが知られています。
そこで、このブログでは「Relationships between cognitive emotion regulation strategies and depressive symptoms: A comparative study of five specific samples」 という論文をもとに、認知的感情調整がうつ症状にどのように関わるのかを詳しく解説します。
1. 認知的感情調整とは?~気分を左右する思考の仕組み~
私たちは日々さまざまな出来事に直面し、そのたびに感情が揺れ動きます。
しかし、その感情に対してどのように向き合い、どのように処理するかによって、気分の安定度は大きく変わります。
認知的感情調整(Cognitive Emotion Regulation) とは、こうした感情を受け止め、整理し、適切に対応するための思考のプロセスを指します。
つまり、認知的感情調節とは、症状等に対する考え方によって感情を調節するというものです。
1-1. 認知的感情調整の役割
認知的感情調整は、感情の波に飲み込まれるのではなく、それを整理し、対処するための重要なスキルです。
特に、ストレスがかかった状況では、どのように考えるかが気分の浮き沈みを左右します。
たとえば、同じ出来事に直面しても、ある人は「失敗から学べばいい」と前向きに捉えるのに対し、別の人は「もうダメだ」と絶望的になってしまうことがあります。
これは、認知的感情調整の違いによるものです。
1-2. 認知的感情調整の2つのタイプ
認知的感情調整には、大きく分けて「適応的な調整戦略」と「不適応な調整戦略」の2種類があります。
それぞれの思考パターンが気分や心理状態にどのような影響を与えるのかを詳しく見ていきましょう。
〇 適応的な調整戦略(心の安定をもたらす思考パターン)
適応的な調整戦略とは、ストレスやネガティブな出来事があったときに、心の安定を維持しやすい思考の使い方です。
①再評価
出来事の意味を前向きに捉え直し、新たな視点で考える。
具体例
→「失敗したけど、次につながる経験になった」というように発想を変換する。
②受容
変えられないことを受け入れ、過度にこだわらないようにする。
具体例
→「思い通りにならないこともある。でも、それも人生の一部」と考える。
③視点変更
自分の考えだけでなく、他者の視点や異なる角度から物事を捉える。
具体例
→「この出来事を10年後に振り返ったら、大したことではないかもしれない」と考える。
これらの戦略を意識的に使うことで、ストレスを軽減し、前向きな気持ちを取り戻しやすくなります。
✖ 不適応な調整戦略(うつ症状を悪化させる思考パターン)
不適応な調整戦略は、ストレスやネガティブな出来事に対して適切に対処できず、心理的な負担を増やしてしまう思考のパターンです。
①反芻思考
過去の失敗やネガティブな出来事を繰り返し考え続け、解決策を見出せない状態。
具体例
→「なぜあの時、あんなことを言ってしまったんだろう」と何度も考える。
②自己批判
すべてを自分の責任と捉え、過度に自分を責めてしまう。
具体例
→「すべて自分が悪い。もっと努力していればこんなことにはならなかった」と思い込む。
③破滅的思考
物事を極端に悲観的に捉え、最悪のシナリオを想像してしまう。
具体例
→「この失敗のせいで、もう人生が終わった」「これから何をやってもうまくいかない」と考える。
このような不適応な思考パターンが続くと、ストレスが増大し、うつ症状が長引いたり、不安が強まったりすることが研究で示されています。
2. 認知的感情調整とうつ症状の関連性
「Relationships between cognitive emotion regulation strategies and depressive symptoms: A comparative study of five specific samples」 では、認知的感情調整がうつ症状とどのように関連しているかを分析しています。
本研究では、一般成人・うつ病を抱えている方・不安症を抱えている方など、異なる5つのグループを対象に調査が行われました。
その結果、適応的な感情調整を行うことで、うつ症状が軽減される一方で、不適応な感情調整を行うことで、うつ症状が悪化しやすいことが明らかになっています。
2-1. 適応的な感情調整がうつ症状を軽減する
認知的感情調整の中でも、適応的な戦略を活用することで、うつ症状のリスクを減少させ、ストレスをコントロールしやすくなることが示されています。
特に、以下の思考パターンがうつ症状を軽減する効果があるとされています。
● ポジティブな再評価を行う
同じ出来事でも、「視点を変えて捉え直す」ことで、ストレスの影響を和らげることができる。
具体例
→「仕事でミスをしたけど、これを機に成長できるかもしれない」と考える。
● 視点変更で冷静に状況を見る
問題に直面した際、「他者の視点」や「長期的な視点」で捉えることで、過剰な不安を軽減できる。
具体例
→「今は大変だけど、数年後にはこの経験が役立つかもしれない」と考える。
● 受容の姿勢を持つ
変えられないことを受け入れ、自己否定を減らすことで、回復力が向上する。
具体例
→「失敗も人生の一部。完璧じゃなくても大丈夫」と思えるようになると、ストレスが軽減される。
2-2. 不適応な感情調整がうつ症状を悪化させる
一方で、不適応な感情調整を繰り返してしまうと、うつ症状が長引き、心理的な負担が増加することも示されています。
以下のような思考パターンは、うつ症状の悪化につながると考えられています。
● 反芻思考(ぐるぐる思考)が強いと、うつ症状が長期化しやすい
何度も過去の出来事を振り返り、悩み続けてしまうことで、気持ちの切り替えができなくなる。
具体例
→「なぜあんなことを言ってしまったんだろう」「もう取り返しがつかない」と繰り返し考える。
● 自己批判的な思考が自信を低下させる
「自分が悪い」「何をやってもうまくいかない」という考えが強まると、自己肯定感が低下し、抑うつ感が増大する。
具体例
→「自分には価値がない」「どうせまた失敗する」と考えることで、さらに落ち込んでしまう。
● 破滅的思考(Catastrophizing)が不安を増大させる
「この状況は最悪だ」「今後、もっと悪いことが起こるかもしれない」と極端に悲観的に考えてしまう。
具体例
→「この失敗のせいで、もう人生が終わった」「これから何をやってもダメになる」と考え続ける。
2-3. 認知的感情調整の違いがメンタルヘルスに及ぼす影響
本研究の結果から、思考の使い方が、メンタルヘルスの改善や悪化に大きく影響を与えることが明らかになっています。
思考のパターンは、意識的に変えることが可能です。適応的な感情調整を習慣化することで、ストレスやネガティブな感情に対する対処能力を高め、気分を安定させることができます。
まとめ:認知的感情調整を意識することがメンタルヘルスを守る鍵
このブログでは、認知的感情調整とうつ症状の関係性 について解説しました。
以下は、そのまとめです。
●適切な感情調整戦略 を意識することで、うつ症状を和らげることができる
●不適応な思考パターン(反芻・自己批判・災害視) を減らすことが、回復の鍵となる
●認知的感情調整はトレーニング可能であり、実践を重ねることで習慣化できる
思考の使い方を見直すことは、うつ症状や不安の改善に非常に効果的です。
ぜひ、一人で抱え込まず、適切なケアを取り入れてみてくださいね。
参考論文
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こころのケア心理カウンセリングRoom
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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