脳科学から見る認知行動療法の効果とは?
2025/03/01
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
うつ病は、単なる気分の落ち込みではなく、脳の機能そのものに影響を及ぼす病気です。
治療には薬物療法や心理療法が用いられますが、その中でも「認知行動療法(CBT)」は、科学的な根拠に基づいた治療法として高い効果が認められています。
しかし、認知行動療法がどのように脳に作用し、うつ病の症状を改善するのかについては、まだ広く知られていません。
そこで、今回ご紹介する論文 「Modulation of Cortical-Limbic Pathways in Major Depression: Treatment-Specific Effects of Cognitive Behavior Therapy」では、認知行動療法が脳の神経回路をどのように変化させるのかについて、詳しく分析されています。
このブログでは「認知行動療法が脳に与える影響」に焦点を当て、うつ病改善の科学的メカニズムについて解説していきます。
1.うつ病と脳の関係
うつ病は、単なる気分の落ち込みではなく、脳の構造や機能に深刻な影響を与える疾患です。
気分の変化だけでなく、思考パターンやストレスへの反応、行動にも大きな影響を及ぼすことが、神経科学的な研究から明らかになっています。
特に、前頭前野・扁桃体・海馬といった脳の重要な部位が関与しており、それぞれの働きが低下したり過剰に活性化したりすることで、うつ病の症状が引き起こされます。
以下では、それぞれの脳の部位がうつ病とどのように関わるのかを詳しく解説します。
1-1. うつ病になると脳はどう変化するのか?
うつ病を発症すると、脳の働きに以下のような変化が生じます。
● 前頭前野(Prefrontal Cortex)
✔役割:
前頭前野は、感情のコントロールや論理的な思考、意思決定を担う脳の領域です。
私たちが物事を冷静に考えたり、ネガティブな感情を調整したりするために重要な役割を果たしています。
✔うつ病の影響:
うつ病では、前頭前野の活動が低下するとされています。
これにより、次のような症状が現れやすくなります。
・ネガティブな思考が強まる
→「どうせ自分には価値がない」といった否定的な考えに囚われる
・決断力の低下
→日常的な判断(食事の選択など)さえも難しく感じる
・感情のコントロールが難しくなる
→ちょっとしたことで落ち込みやすくなる
前頭前野の機能が低下すると、「ポジティブな出来事を受け止める力」が弱まり、ネガティブな情報ばかりを重視してしまう傾向が強まります。
● 扁桃体(Amygdala)
✔役割:
扁桃体は、恐怖や不安、危機的状況への反応を司る脳の部位です。
感情を瞬時に判断し、危険を察知する役割を持っています。
通常、扁桃体は前頭前野とバランスを取りながら機能します。
✔うつ病の影響:
うつ病では、この扁桃体が過剰に活性化することが確認されています。
その結果、次のような影響が出ます。
・不安が強まる
→「この先、何か悪いことが起こるのではないか」と過剰に心配する
・ 恐怖を感じやすくなる
→他人の何気ない一言を深刻に受け止めてしまう
・ストレスへの過敏性が高まる
→ちょっとしたことで動揺しやすくなる
本来、扁桃体は危険を察知して回避するために機能する部分ですが、うつ病では「些細なことでも脅威に感じる」ようになり、過剰に不安を抱えやすくなります。
● 海馬(Hippocampus)
✔役割:
海馬は、記憶の形成やストレスの調整を担う脳の部位です。
過去の経験を学びに変え、適切なストレス耐性を持つために重要な働きをしています。
✔うつ病の影響:
うつ病では、海馬の**萎縮(サイズの縮小)が確認されています。
この影響により、以下のような症状が現れやすくなります。
・ストレスに過敏になる
→少しのプレッシャーでも過度にストレスを感じる
・ 記憶力が低下する
→「さっき話したことを思い出せない」「仕事のスケジュールを忘れる」
・過去のネガティブな記憶ばかりが浮かぶ
→「昔の失敗をずっと思い出してしまう」
海馬が萎縮すると、「ストレスをうまく処理できない」「記憶の整理ができない」といった問題が生じ、さらにうつ病を悪化させる要因になります。
1-2. うつ病による脳の変化がもたらす症状
これらの脳の変化が組み合わさることで、うつ病の症状が生じます。
● ネガティブな思考が止まらない
→ 前頭前野の機能低下により、ネガティブな考えが強まる
● ストレスや不安を過剰に感じる
→ 扁桃体の過剰な活性化により、些細なことでも恐怖を感じやすくなる
●気分の落ち込みが続く
→ 海馬の萎縮により、ポジティブな経験をうまく記憶できず、うつ状態が長引く
つまり、うつ病は単なる「気持ちの問題」ではなく、脳の機能が大きく関係しているということが、科学的に明らかになっています。
2. 認知行動療法(CBT)は脳にどう作用するのか?
うつ病の治療において、認知行動療法(CBT)は脳の機能に直接的な変化をもたらすことが、さまざまな研究で示されています。
このブログで取り上げる論文「Modulation of Cortical-Limbic Pathways in Major Depression - Treatment-Specific Effects of Cognitive Behavior Therapy」でも、認知行動療法が脳に与える影響が詳しく検証されています。
認知行動療法では、「考え方(認知)」と「行動」を調整することで、感情のバランスを取り戻すことを目的としています。
この治療を受けることで、脳の特定の領域が活性化し、うつ病の症状が改善することが科学的に明らかになっています。
2-1. 認知行動療法(CBT)の基本原理
認知行動療法では、「考え方のクセ(認知の歪み)」を見直し、行動を変えることで感情をコントロールするというアプローチを取ります。
うつ病の方が抱えやすい認知の歪みには、以下のようなものがあります。
● うつ病でよく見られる「認知の歪み」
✔極端な一般化
→ 「一度失敗したから、もう二度と成功できない」
✔自己批判の強さ
→ 「自分は価値のない人間だ」「他人より劣っている」
✔ 否定的な未来予測
→ 「この先、良いことなんて何もない」「自分には何もできない」
このような考え方が続くと、気分が落ち込み、無力感が強まり、さらにうつの症状が悪化する悪循環に陥ります。
認知行動療法では、「本当にこの考え方は正しいのか?」と冷静に振り返ることで、より現実的でバランスの取れた考え方へと修正していきます。
2-2. 論文が示す「認知行動療法の脳への影響」
認知行動療法は、単なる「考え方の修正」にとどまらず、脳の特定の領域に変化をもたらすことが神経科学の研究で確認されています。
論文では、特に「前頭前野」「扁桃体」「海馬」の3つの部位に影響を与えることが示されています。
① 前頭前野の活性化
● 前頭前野の役割
前頭前野は、感情のコントロール、論理的思考、問題解決能力を担う脳の領域です。
通常、健康な状態では前頭前野がしっかり機能することで、感情を適切に調整し、冷静に判断することができます。
● うつ病との関係
うつ病の方は、前頭前野の活動が低下し、ネガティブな考えが優勢になる傾向があります。
その結果、次のような症状が現れやすくなります。
✔ネガティブな考えが止まらない
→ 失敗やミスを必要以上に気にしてしまう
✔物事を客観的に見られない
→ 事実よりも感情に基づいた判断をしやすくなる
✔決断力が低下する
→ 日常的な意思決定(何を食べるかなど)さえ難しくなる
● 認知行動療法の効果
認知行動療法を受けることで、前頭前野の機能が回復し、論理的に考えられるようになることが研究で示されています。
(1)治療前:前頭前野の活動が低下し、ネガティブな思考に支配されやすい
(2)治療後:前頭前野が活性化し、悲観的な考えをコントロールしやすくなる
② 扁桃体の過剰な反応が抑えられる
● 扁桃体の役割
扁桃体は、恐怖や不安、危機的状況への反応を司る脳の領域です。
外部からの刺激に対して瞬時に反応し、ストレスや危険を察知する役割を担っています。
● うつ病との関係
うつ病では、扁桃体が過剰に反応しやすくなることが確認されています。
その結果、以下のような症状が出やすくなります。
✔不安が強くなる
→ 未来の出来事に対して過剰に心配する
✔恐怖を感じやすい
→ 他人の些細な言動に敏感になる
✔ストレスに過剰に反応する
→ 普段なら気にしないことでも、強いストレスを感じる
● 認知行動療法の効果
認知行動療法を受けることで、扁桃体の過剰な反応が抑えられ、不安や恐怖を感じにくくなることが研究で示されています。
✔治療前:扁桃体が過剰に反応し、ストレスを過度に感じやすい
✔治療後:扁桃体の反応が落ち着き、ストレスに対して冷静になれる
③ 海馬の機能回復
● 海馬の役割
海馬は、記憶やストレスの調整を担う脳の部位であり、特にストレスに対する耐性を決定する重要な役割を果たします。
● うつ病との関係
うつ病では、海馬が萎縮し、ストレス耐性が低下することが知られています。
その影響により、以下のような問題が起こりやすくなります。
✔ストレスに過敏になる
→ ちょっとした出来事でも大きな負担に感じる
✔記憶力が低下する
→ 物事をすぐに忘れる、集中力が低下する
✔過去のネガティブな記憶ばかりが浮かぶ
→ 楽しい思い出よりも、辛い記憶が優先される
● 認知行動療法の効果
認知行動療法を受けることで、海馬の機能が回復し、ストレス耐性が向上する可能性があることが研究で示されています。
✔治療前:海馬が萎縮し、ストレスを処理しにくくなる
✔治療後:海馬の機能が回復し、ストレスに対する耐性が向上する
まとめ
認知行動療法(CBT)は、単に考え方を変えるだけではなく、脳の機能そのものを改善することが研究で示されています。
● 前頭前野の活性化
→ 論理的に考え、ネガティブな思考をコントロールしやすくなる
● 扁桃体の過剰な反応を抑制
→ 不安やストレスを感じにくくなる
● 海馬の機能回復
→ ストレス耐性が向上し、記憶力も改善
これらの変化によって、うつ病の症状が和らぎ、心の安定を取り戻すことが期待できます。
もし、うつ症状でお悩みの場合は、認知行動療法を取り入れたケアも、ぜひ検討してみてくださいね。
参考論文
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こころのケア心理カウンセリングRoom
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電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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