うつ症状を改善する「感情体験」の重要性とは?
2025/04/04
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
さて、私たちは日々さまざまな感情を抱いて生きています。
嬉しいことや楽しいことだけでなく、時には深い悲しみや不安、怒りや孤独を感じることもあるでしょう。
こうしたネガティブな感情はできれば避けたいと感じるかもしれませんが、実は自分の感情に正直に向き合い、それを深く感じることが、心の健康を取り戻す大切な鍵になることが、近年の心理学研究で明らかになってきました。
実際にカウンセリングを行う中で「感情に向き合う」というプロセスが、多くの方のうつ症状の改善に大きく貢献していることを日々実感しています。
そこで今回は、「感情体験の深さ」がうつ病治療にどのように影響するのかを、最新の研究成果を踏まえて丁寧にお伝えしていきます。
体験的療法とは?
「体験的療法(Experiential Therapy)」は、自分自身の感情や身体感覚と深く向き合い、その奥にある「意味」や「ニーズ(欲求)」を丁寧に探っていく心理療法のひとつです。
頭で理解するよりも「感じること」を大切にし、「今この瞬間にどんな感情が湧いているのか」に意識を向けていくプロセスが中心となります。
このアプローチには、さまざまな技法が含まれており、たとえば「フォーカシング」では身体の内側にある感覚に注意を向けて感情の輪郭を捉えていきます。
また、「エンプティチェア(空の椅子)」技法では、目の前にいる「想像上の相手」と対話することで、自分の中にある怒りや悲しみなどの感情を安全に表現することができます。
体験的療法では、怒りや悲しみ、不安などのネガティブな感情を否定することなく、その感情が教えてくれるメッセージに耳を傾けていきます。
こうした過程を通して、自分でも気づかなかった深い気持ちや本当の望みに出会い、感情に振り回されるのではなく、感情を受け入れ、柔軟に扱うようになっていくことができます。
1.感情体験の深さとうつ病治療の関係とは?
Posらが発表した研究「Depth of Emotional Experience and Outcome」は、体験的療法の文脈の中で「感情の深さ」がうつ病の治療効果にどのような影響を与えるかを研究しました。
この研究の中心的な問いは、「クライエントが自分の感情をどれだけ深く体験できるかが、治療の成果にどのように関連するか?」というものでした。
研究では、うつ病のクライエントに対して体験的療法を実施し、そのセッション中に現れる感情表現の深さ(emotional depth)を、専門家が複数の指標を用いて客観的に評価しました。
治療の前後にうつ症状の程度も測定し、感情体験の深さと症状改善の関係性を解析しています。
2-1.感情を深く体験できることは、うつ症状の改善と明確に関連していた
研究の結果、感情をより深く体験し、それをセッション内で表現できたクライエントほど、うつ病の症状が顕著に改善していることが明らかになりました。
ここで言う「深い感情体験」とは、単に感情を表面的に述べるのではなく、「自分自身の内面に強く結びついた感情」に触れ、それを十分に感じ、意味づけし、言語化していくプロセスを指します。
たとえば、自分の中にある「悲しみ」や「怒り」「無力感」などを単に説明するのではなく、その感情が…
「どこから来ているのか」
「なぜそれが自分にとって大切なのか」
…といった内面的文脈とともに理解することで、はじめて「深さ」を伴う体験になります。
この深い体験は、自分の感情との関係性を変える力を持っており、「自分はこういうことで苦しんでいたのか」といった気づきが、症状の軽減や回復に大きく寄与するのです。
2-2.表面的な感情体験では治療効果が限定的である
反対に、自分の感情を浅くしか捉えられない、あるいは感情を避ける傾向が強いクライエントは、うつ病の改善度が低いという傾向も明らかになりました。
感情回避は、うつ病における維持因子の一つとも言われており、「感じたくない感情」を無意識に抑え込むことで、気分の重さが長期化する場合があります。
たとえば、悲しみを感じることを「弱さ」と捉えたり、怒りを「出してはいけないもの」として封じ込めてしまうと、感情の健全な処理が行えず、内側に閉じ込めた感情が「無気力」「自己否定」「罪悪感」といったかたちで心を蝕んでいきます。
この研究では、「感情を避ける」傾向にある人ほど、セラピーから得られる恩恵が限定的になることが統計的に示されており、うつ病の改善においては「感情との向き合い方」が非常に重要な鍵となることが裏づけられました。
3.なぜ感情を深く体験することでうつ病が改善するのか?
この問いに対する答えは、心理的プロセスの中核にある「感情の意味づけ」と「自己理解」にあります。
以下に、感情体験が治療においてどのような機能を果たすのかを詳しく説明します。
3-1.本質的な問題や未充足な欲求が明確になる
深い感情体験を通して、多くの方は自分の内面に存在していた「気づかれていなかった本当の問題」や「満たされていない欲求」に初めて気づきます。
たとえば…
✔悲しみの奥にある「愛されたい」という欲求
✔怒りの背後にある「正当に扱われたい」という願い
✔孤独感の中にある「つながりを求める気持ち」
これらの感情は、単に「不快なもの」として避けるべき対象ではなく、私たちに「大切なニーズ」を教えてくれる大切なサインです。
その感情をしっかりと受け止め、理解することで、自己理解が進み、問題の根源にアプローチすることが可能になります。
3-2.感情に対する恐怖や否定が和らぐ
うつ状態にある多くの人は、つらい感情を「感じてはいけない」「これ以上傷つきたくない」と思い、感情を回避しようとします。
しかし、感情を回避することで、かえって感情への恐怖や不安が強化され、心が常に緊張状態に置かれがちです。
体験的療法では、安全な場で感情を表現し、感じきることを繰り返す中で、「感情は危険なものではない」「しっかり感じても、私は壊れない」という実感が少しずつ育っていきます。
この経験を重ねることで、感情への過剰な警戒心が和らぎ、感情の波に対する耐性が高まり、結果として情緒的な安定が得られやすくなります。
3-3.自己肯定感の向上と心の回復
自分の感情を丁寧に体験し、「そう感じて当然だった」と自分に対して共感的な態度を取ることは、自己受容の土台となります。
「私は私でいいんだ」と思える感覚が生まれると、自己否定的な思考からの脱却が促進され、うつ症状の中核である「無価値感」や「無力感」の軽減につながります。
このプロセスは、単なる一時的な症状緩和ではなく、長期的な「心の回復力(レジリエンス)」を高めるという点でも重要な意義を持っています。
まとめ
Posらの研究は、うつ病治療における「感情の深さ」が極めて重要であることを科学的に裏づけるものです。
体験的療法を通じて、自分の感情に深く触れ、その意味を丁寧に紐解いていくことで、単なる症状の緩和ではなく、「自分らしく生きる力」を取り戻していくことができます。
感情と向き合うことは、時に勇気のいる作業ですが、その先には確かな変化があります。
皆さんの心が少しずつ自由に、穏やかに広がっていくことを、心より願っています。
参考論文
Emotional Processing During Experiential Treatment of Depression
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こころのケア心理カウンセリングRoom
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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