自傷行為の背後にある「心の声」とは?MBTによる自傷へのケアについて
2025/04/13
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
「なぜ自分を傷つけてしまうのか、わからない…」
「どうしてもリストカットがやめられない…」
「自傷行為を何とかしたい…」
カウンセリングの現場で、からこうした言葉を聞くことは少なくありません。自傷行為は周囲からは理解されにくく、本人も理由が明確に説明できないことが多いものです。
そこで今回は、Rossouw & Fonagy(2012)を踏まえつつ自傷行為やリストカットのメカニズムやケアについて解説します。
具体的には、自傷行為の背景にある「感情の調整困難さ」や「対人関係の脆弱性」に焦点を当て、特に「メンタライゼーション能力(mentalization)」の低下がどのように自傷と結びつくのかをご説明いたします。
1.自傷行為~心の痛みの「ことば」にならない叫び~
自傷行為というと、刃物を使ったリストカットや皮膚をひっかく行為を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし実際には、髪を抜く、爪を噛みすぎる、リストカットのように皮膚を無意識に傷つけるといった「目に見えにくい自傷」も多く存在します。
これらの行為は、多くの場合、強い感情の混乱や不安を処理しきれないときに、自分を落ち着かせるための手段として無意識に行われているのです。
Rossouw & Fonagy(2012)の研究は、自傷行為が単なる「注意を引くため」や「衝動的な行動」として簡単に片づけられるものではないことを、明確に示しています。
この研究によれば、自傷に至る多くの方は、自分の感情をうまく認識したり、他者との関係性の中で生じる“心のやりとり”を理解する力~メンタライゼーション能力(mentalization)~が十分に発達していない傾向があることがわかっています。
2.メンタライゼーションとは何か?~「こころ」を理解する力としての役割~
「メンタライゼーション(Mentalization)」とは、心理学の用語で、自分自身や他人の心の動き(気持ち・考え・意図・欲求など)を想像し、それに意味を与えて理解する力を指します。
この能力は、人間関係を築き、感情を調整し、自分らしく生きていく上で非常に重要な基盤となります。
心理療法の文脈では、特に自傷行為や感情の混乱が強い場合、このメンタライゼーションの機能がうまく働いていないことがしばしば見られます。
たとえば、こんな場面で使われる力です
✔「友達がLINEの返信をくれなかった」 →「嫌われたのかもしれない」と思う前に、「今日は忙しいのかもしれないな」と相手の状況を想像できる。
→ 他者の心の状態を推測し、関係を柔軟に捉えるメンタライゼーション。
✔「私は今、イライラしている」 →「でも本当は、寂しくて誰かにわかってほしいだけなのかもしれない」と、自分の感情の“奥”を見つめる。
→ 自分の内面にある感情や動機を丁寧に読み解くメンタライゼーション。
このように、メンタライゼーションとは単なる「共感」ではなく、感情や行動の背景にある「心の意味」を理解しようとする知的かつ感情的な働きなのです。
2-1.メンタライゼーションが育たないとどうなるのか?
メンタライゼーションの力が未発達だったり、極度のストレスによって一時的に機能しなくなると、人は自分の気持ちがうまく整理できず、他人の反応を誤解しやすくなる傾向があります。
その結果として…
「わかってもらえないなら、自分を傷つけて表現するしかない」
「自分の感情をどう表現すればいいかわからず、過食や拒食、暴力などで『感じない』ようにしてしまう」
といったように、「こころの問題」が「からだの行動」にすり替わる形で表出されてしまうのです。
言い換えれば、メンタライゼーションの力は、「言葉でこころを表現する力」でもあります。
この力が十分に働いていれば、つらさや不安、怒りといった強い感情を、破壊的ではなく、対話や相談という安全なかたちで表現できるようになるのです。
2-2.メンタライゼーションは育てることができる
安心できる対人関係の中で、相手が「あなたはこう感じたのかもしれませんね」と、こちらの心の動きを丁寧に言語化してくれる経験を重ねていくと、少しずつ自分でもその「こころの読み解き」ができるようになっていきます。
3.メンタライゼーションに基づく治療(MBT)とは?~「こころを読み、理解する力」を育てる心理療法~
MBT(Mentalization-Based Treatment)は、「自分と他人の心を理解し、意味づける力=メンタライゼーション」を育てることを目的とした心理療法です。
Rossouw & Fonagy(2012)の研究では、自傷行為を行うクライエントに対して、このMBTが有効であることが示されました。
もともとは境界性パーソナリティ障害(BPD)の治療として開発されたMBTですが、現在では自傷行為や感情調整の困難を抱える方、トラウマ体験がある方、対人関係に問題を抱える方など、さまざまな領域で応用されています。
3-1.MBTの中心にある考え方:「こころを見つめる取り組み」
MBTでは、ご本人が自分の気持ちに気づき、それをことばにしていけるよう、次のような問いかけを通して支援が行われます
✔「いま、あなたはどんな気持ちですか?」
→ 自分の内面で生じている感情や思考に気づく取り組みです。
✔「そのとき、相手はどう感じたと思いますか?」
→ 相手の心の動きを想像することで、誤解や対人トラブルを減らします。
✔「その感情を感じているとき、体の感覚はどうですか?」
→ 感情と身体感覚のつながりに気づくことで、情緒のコントロール力を高めます。
こうしたやり取りを通じて、ご本人は「感情に飲み込まれず、俯瞰的に見つめる視点」を少しずつ身につけていくのです。
3-2.MBTの特徴:安全な関係の中で「心を言葉にする」
MBTにおいて大切にされているのは、安心できる関係性の中で、自分の心の動きを丁寧に観察し、言葉にしていく経験です。
たとえば、「怒ってしまったけど、その背景には寂しさがあった」「友達に無視されたように感じたけど、本当にそうだったのかな」といった「こころの読み直し」を、セラピストと一緒に行っていきます。
このとき、セラピストは「分析」や「評価」をするのではなく、「わからなさ」を一緒に探索する姿勢を保ちます。
「あなたの中では何が起きていたのか、一緒に考えてみましょう」というスタンスです。
3-3.MBTが目指すのは「感情に振り回されない心」
MBTによって育てられるメンタライゼーション能力は、単に「気持ちを理解する」だけでなく、次のような実際的な変化につながっていきます。
✔強い感情に圧倒されず、「少し距離をとって見ること」ができる
✔人間関係のすれ違いを冷静に受け止め、必要に応じて修復できる
✔「なぜこんな行動をしてしまうのか」に、自分で気づけるようになる
これらの変化は、自傷行為や過食・回避行動といった「衝動的な対処」からの脱却を可能にし、感情と行動の「間にあるスペース」を生み出すことで、より柔軟で穏やかな生き方へとつながっていきます。
MBTは、「感情を我慢する」ものでも「理屈で納得させる」ものでもありません。
むしろ、混乱している気持ちに丁寧に付き合い、「わからなさ」を一緒に見つめていく治療法です。
✔「私は、何を感じていたんだろう?」
✔「本当は、どうして欲しかったんだろう?」
そんな問いを、自分自身と、信頼できる他者との間で少しずつ育てていく…。
それが、MBTの大きな特徴です。
これこそが、メンタライゼーションに基づく治療(MBT)が重視する視点です。
4.研究結果が示すMBTの効果
Rossouw & Fonagy(2012)の研究では、自傷を行う方々を対象に、MBTと通常の治療を比較しました。
12ヶ月後の追跡調査において、MBTを受けたグループの方が、明らかに自傷行為の頻度が減少し、感情調整能力も改善していたことが確認されました。
とりわけ印象的なのは、MBTによって「なぜ自分が自傷をしてしまうのか」に対する理解が深まったという声です。つまり、自傷行為の根本にある「心の痛み」に光があたったことが、回復への鍵になったのです。
おわりに~自傷は「心の回復」の入口かもしれない~
自傷行為は、確かに心配で危険な行動です。
でも同時に、それは「もう限界です」「助けて」という必死のサインでもあります。
だからこそ、私たち心理カウンセラーは、行動そのものよりも、その「裏にある感情」を一緒に見つめることを大切にしています。
「なぜ、こんなことをしてしまうんだろう…」
その問いに向き合う意識を持ったとき、人は少しずつ変わっていきます。
どうか、リストカット等の自傷行為をなさっているご本人はもちろん、ご家族の方もどうか一人で抱え込まないでくださいね。
参考論文
Mentalization-Based Treatment for Self-Harm in Adolescents: A Randomized Controlled Trial
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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