トラウマと抑うつが共にあるとき:理解と支援の重要性
2025/04/15
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
人生の中で、私たちはときに、心を大きく揺さぶる出来事、例えば暴力や災害、いじめや虐待、突然の喪失などに直面することがあります。
そうした「トラウマ体験」は、時に長く尾を引き、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や大うつ病性障害(MDD)といった精神的な問題を引き起こすことがあります。
こうした状態は、決して「心が弱いから」ではなく、強いストレスに対する自然な反応であり、誰にでも起こりうるものです。
なかでも近年の研究によって明らかになってきたのが、PTSDとうつ病が併存するケースの多さです。
Flory & Yehuda(2015)の論文によれば、PTSDを抱える方のおよそ半数が大うつ病障害も併発していることが報告されています。
この併存は、単なる偶然の重なりではありません。
むしろ、トラウマ体験によって心と体の働きが深く傷つき、心理的・生物学的な仕組みの両面から複雑に影響を受けていることが示唆されています。
本記事では、このFlory & Yehuda(2015)の研究をもとに、PTSDとうつ病の併存についてわかりやすく解説します。
1.PTSDと大うつ病性障害の併存はなぜ起こるのか?
PTSD(心的外傷後ストレス障害)と大うつ病性障害(MDD)が同時に見られるケースは非常に多く、実際、PTSDを抱える方の約半数が大うつ病性障害を併発していると報告されています(Flory & Yehuda, 2015)。
このような高い併存率は、偶然の重なりではなく、心と脳のメカニズムの深いところで何らかの共通する因子が働いている可能性を示唆しています。
Flory & Yehuda(2015)は、この併存が生じる理由について、主に2つの視点を提示しています。
1-1. 症状の重複による診断の交差
まず1つ目の視点は、PTSDと大うつ病性障害には共通する症状が多く見られるため、診断が重なりやすいというものです。
具体的には、以下のような症状が両者に共通しています
✔睡眠障害(不眠または過眠)
✔集中力の低下
✔興味や喜びの喪失(アネドニア:Anhedonia)
✔エネルギーの欠如や疲労感
✔罪悪感や自己否定の思考
これらの症状は、PTSDの「覚醒の高さ」や「過覚醒」、あるいは「回避」などの症状の一部としても、大うつ病性障害の中核症状としても現れるため、臨床的には両方の診断基準を満たしてしまうことがあります。
この観点では、PTSDと大うつ病性障害の併存は、症状の構造的な重なりによって生じている可能性があると考えられています。
1-2. トラウマに対する「表現型」の違いとしての併存
2つ目の視点は、より心理力動的かつ病態理解に深く踏み込んだ視点です。
Flory & Yehudaは、PTSDと大うつ病性障害の併存を、「トラウマ関連の表現型」と呼ばれる、トラウマ体験に対する反応パターンの一つであると提案しています。
この立場では、併存は単に診断の重複や見落としではなく…
✔トラウマに対する反応の深刻さ
✔自己と世界に対する意味づけの変容
✔感情調整能力の脆弱さ
✔認知的なスキーマの変容(例:「自分は無力である」「世界は危険だ」)
…といった要素が複合的に絡み合って、「トラウマに対する複層的な反応の現れ」として、PTSDと大うつ病性障害の両方の症状が同時に立ち現れているのだと説明されます。
つまり、心が深く傷ついたときに、それを「恐怖(PTSD)」として感じるのか、「絶望(うつ病)」として受け取るのか、またはその両方を同時に経験するのかは、その方の感受性や置かれた環境、過去の関係性によって決まるということです。
1-3.心の「分断」と「空白」を埋める視点へ
このように、PTSDと大うつ病性障害の併存には、「単なる偶然」や「診断のつけ方の問題」を超えた、心の深層に関わるパターンがあることが見えてきます。
✔安全が脅かされる(PTSD)
✔価値が見失われる(うつ病)
この2つの心の痛みは、しばしば表裏一体であり、どちらか一方を癒すだけでは十分とはいえないケースもあります。
そのため、両方の視点から包括的に理解・支援していくアプローチが、臨床においてますます求められているのです。
2.生物学的要因と治療の考察:心と身体の交差点にあるメカニズムとは?
PTSDと大うつ病性障害が併存する背景には、心理的要因だけでなく、生物学的メカニズムの異常が深く関係していることが、Flory & Yehuda(2015)の研究により明らかにされています。
2-1. ストレスホルモン(HPA軸)の調節異常
人間の身体は、強いストレスに直面すると、視床下部-下垂体-副腎系(HPA軸)が活性化され、「コルチゾール」と呼ばれるストレスホルモンが分泌されます。
この反応は一時的には適応的ですが、慢性的なストレス下では…
①このシステムが過剰に反応する場合(うつ病に多い)
②逆に過敏に抑制されてしまう場合(PTSDに多い)
という方向性の異なる調節異常が報告されています。
大うつ病性障害ではコルチゾール値が高くなる傾向がありますが、PTSDではコルチゾールが逆に低くなることもあり、これは「コルチゾール受容体の過感受性」によると考えられています。
この相反する反応の共存が、PTSDと大うつ病性障害の併存状態を一層複雑にしているのです。
2-2. 治療への示唆:心理療法と薬物療法の統合的アプローチ
これらの生物学的知見は、PTSDと大うつ病性障害の治療戦略の立案にも大きな影響を与えています。
■ 認知行動療法(CBT: Cognitive Behavioral Therapy)
認知行動療法は、否定的な思考パターンやトラウマ記憶への過剰な反応を見直すことで、症状を軽減させることが実証されています。
トラウマ焦点型CBTでは、過去の体験を安全な枠組みで再処理しながら、「自分はもう危険な状況にいない」と再認識することが治療の柱になります。
■ 対人関係療法(IPT: Interpersonal Psychotherapy)
特に大うつ病性障害に有効とされるIPTは、人間関係の葛藤や喪失体験を整理し、感情的なつながりを再構築するアプローチです。
PTSDを背景にした孤立感や信頼関係の断絶に対して、重要な治療手段となります。
■ 薬物療法との併用
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬は、PTSDと大うつ病性障害の両方に有効とされており、心理療法だけでは十分な効果が得られない場合の併用が推奨されています。
また、近年では感情調整に関与する薬剤(SNRIや非定型抗精神病薬など)も選択肢に含まれています。
最後に:生物と心理の両面から理解し、ケアする
PTSDと大うつ病性障害の併存には、心理的トラウマ体験の深さと、その人の生物学的な脆弱性の交差点に存在する複雑な構造があります。
そのため、「心の問題」としてだけでなく、「身体が記憶する反応」として捉える視点が不可欠です。
症状を理解し、過去の体験を丁寧に見つめ直しながら、必要に応じて医学的サポートも活用する…。
こうした多角的なアプローチが、PTSDと大うつ病性障害の回復において極めて重要になってきます。
参考論文
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こころのケア心理カウンセリングRoom
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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