「なぜ私は生きづらいのか」の答え:複雑性PTSDと幼少期のトラウマ
2025/04/25
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
人間関係がうまく築けない、自分の感情がコントロールできない…。
そんな「生きづらさ」を感じるとき、その背景には、幼少期の逆境体験が深く関わっていることがあります。
幼少期に両親や周囲の大人たち、あるいは友人関係が逆境的だった、あるいは過度な期待を背負わされていた、あるいは家庭内で安心できる居場所がなかった…。
こうした経験が、大人になってからも心の奥に傷として残り、複雑性PTSDと呼ばれる状態を引き起こすことがあるのです。
今回は、心理学的な研究に基づき、子ども時代の逆境がどのようにして「心の複雑な傷」となり、成人後の生きづらさへとつながるのか。そのメカニズムと、回復へのヒントについて詳しくお話ししていきます。
1.「複雑性PTSD」とは何か?
「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」という言葉は、近年では一般にも広く知られるようになりました。
多くの場合、PTSDは交通事故や自然災害、犯罪被害など、比較的短期間で強烈な衝撃を受けた「単発的なトラウマ体験」によって引き起こされると理解されています。
主な症状としては、出来事を繰り返し思い出してしまう「再体験」、それを思い出さないようにする「回避」、そして常に神経が張り詰めているような「過覚醒」などが挙げられます。
しかし実際には、「トラウマ」は一度きりの出来事に限らず、長期間にわたって繰り返されることもあります。
たとえば、幼少期から家庭内で虐待やネグレクト(育児放棄)を受け続けていた場合や、支配的な親からの精神的圧力、愛情の欠如、周囲の大人との問題ある関係やいじめ、学業の行き詰まりといった「慢性的な逆境」にさらされていたケースです。
こうした環境では、子どもは「安心」や「信頼」といった人間関係の基本を築くことができず、生き延びるために感情を押し殺したり、自分の存在価値を否定するような思考を抱えながら成長することになります。
このような「長期的かつ繰り返されるトラウマ体験」によって引き起こされる、より複雑で深刻な心理的影響を説明するために提唱されたのが、「複雑性PTSD」という概念です。
これは、従来のPTSDよりも多次元的で、より深い心の傷を扱う必要がある状態を指します。
1-1.複雑性PTSDに見られる主な特徴
複雑性PTSDは、次のような症状を中心に構成されます
● 感情の調整が難しい
怒りが突然爆発する、逆にまったく感情が湧かない(情緒の麻痺)、常に無力感や強い抑うつ感にとらわれるなど、自分の気持ちを適切に感じたり表現したりすることが困難になります。
これは、トラウマによって感情を抑圧せざるを得なかった時期が長く続いた結果、感情の扱い方が分からなくなっているためです。
● 自己否定・自己概念のゆがみ
「私は価値のない人間だ」「愛される資格がない」といった自己否定的な思考が根強く、日常のささいな失敗ですら「やっぱり自分はダメだ」と捉えてしまいます。
これは、子ども時代に受けた「存在を肯定されなかった経験」の積み重ねが、自尊感情を大きく傷つけていることに由来します。
● 対人関係の困難
人との距離感をうまくとれず、過度に依存したり、逆に極端に人を避けたり、少しのことで衝突してしまうといったパターンが見られます。
特に親密な関係性(恋人・配偶者・親子など)では、自分の不安や恐れをうまく言葉にできず、「試すような行動」や「過剰な期待」が関係をこじらせてしまうことがあります。
● 解離的な反応
つらい記憶や感情が「現実のもの」として感じられず、まるで他人事のように遠ざけられる、あるいは記憶が抜け落ちているような感覚になることがあります。
これも、心が極度のストレスから自分を守るために選ぶ「生き延びるための戦略」です。
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複雑性PTSDは、その名の通り「複雑」であり、一見すると「うつ病」「不安障害」「境界性パーソナリティ障害」といった他の疾患と似た症状を示すことも少なくありません。
そのため、適切な理解と見立てが必要です。
重要なのは、複雑性PTSDは単なる「症状の多さ」や「重症度」ではなく、「どのような体験」がその背景にあるのかを見つめることによって見えてくるという点です。
そしてその体験の多くは、「子ども時代に安心して感情を表現できなかったこと」「大人に理解されなかったこと」に根ざしているのです。
次では、こうした複雑性PTSDにどう向き合い、どのような支援やアプローチが可能なのかについて詳しくお伝えしていきます。
2.幼少期のトラウマが成人後に及ぼす影響
私たちが大人になったときに感じる「生きづらさ」や、繰り返される心の不調には、実は幼少期に経験したトラウマが深く関係していることが多くあります。
こうしたつながりを明らかにしたのが、Cloitreら(2009)による大規模な臨床研究です。
この研究では幼少期に受けた虐待やネグレクトの種類とその後の心理的な症状との関係を詳細に検討しました。
その結果、「子ども時代のトラウマの質と量」が、成人後の症状の複雑さに決定的な影響を与えていることが明らかになりました。
2-1.トラウマの種類と成人後の症状の「複雑さ」は比例する
研究では、以下のような事実が示されています。
幼少期に経験したトラウマの種類が多いほど、成人後に現れる症状の種類も増える傾向があります。
たとえば、「性的虐待」「身体的虐待」「情緒的虐待」「ネグレクト(育児放棄)」などの複数の逆境体験をしていた方は、単一のトラウマ体験だけだった方に比べて、はるかに複雑な心理症状を抱えていました。
また成人期のトラウマ(暴力や性被害など)も症状に影響を与えるものの、子ども時代のトラウマの方がより強く持続的に影響することが明らかになっています。
これは、発達段階にある脳と心が「守られるべき時期」に傷ついたことが、自己形成そのものにダメージを与えるからだと考えられています。
2-2.「症状の複雑さ(symptom complexity)」とは?
ここで言う「症状の複雑さ」とは、単にPTSDのような単一の症状だけでなく、以下のような複数の心理的課題が同時に存在する状態を指します
✔PTSD症状(フラッシュバック、過覚醒、回避など)
✔うつ症状(気分の落ち込み、無力感、希望の喪失)
✔怒りのコントロール困難(突然の激しい怒り、持続する苛立ち)
✔解離傾向(感情の麻痺、自分が自分でないように感じる)
✔対人関係の問題(人との距離感がつかめない、過度の依存や回避)
これらはすべて、「自分を守るために身につけた心のパターン」が、大人になってからも無意識に続いてしまっている結果とも言えます。
2-3.なぜ子ども時代の体験が、今の私たちに影響するのか
子どもにとって、身近な大人(特に養育者)との関係は「世界との最初の接点」です。
そこで「愛されている」「受け入れられている」と感じられれば、人は自分を信じ、人を信じ、安心して世界とつながることができます。
しかし、繰り返し否定されたり、見捨てられたり、痛みを受けながら育った子どもは、自分の存在価値に疑いを持ち、「どうせ私は大切にされない」「信じたら傷つく」という前提を心に刻んでしまいます。
そして、その傷が大人になってからも、関係性や感情の扱い方、ストレスへの耐性などに影を落とします。
その結果、「なんとなく生きづらい」「人と親しくなるのが怖い」「感情がコントロールできない」といった形で表れることがあるのです。
2-3.心の痛みは「わかってもらえたとき」に癒される
大切なのは、「いま困っていることが、過去の体験とつながっているかもしれない」と理解することです。
心の傷は、放っておいても消えることはありません。
でも、その傷の存在に気づき、誰かと分かち合い、丁寧に向き合っていくことで、少しずつ回復していくことができます。
「子どもの頃のことを、いまさら話しても仕方ない」と感じる方もいるかもしれません。
でも実は、「今のあなたを苦しめている感情」の根っこが、子ども時代にあることも少なくないのです。
苦しみのルーツを優しく見つめ直し、これからの人生に新しい選択肢を増やせるように、ご自身のケアを考えてみてくださいね。
参考論文
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こころのケア心理カウンセリングRoom
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電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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