親のケンカが残す心の傷:大人になっても癒えない心理的影響とは?
2025/05/10
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
さて、家庭の中で聞こえてきた繰り返される言い争い。
何度も「もうやめて」と願ったけれど、止まらない両親の怒鳴り声。
そのような経験は、大人になった今も、自分の心のどこかに重く残っているかもしれません。
「暴力はなかったから、大したことではない」と思おうとしても、実はその「非暴力の葛藤」こそが、私たちの心に長く影を落とすことがあるのです。
つまり、子供に対する暴力がなくても、言い争いや怒号といった「親間葛藤」は、その子供が大人になってからのうつ病や自己肯定感の低下、パートナーシップの不安定さと深く関わっていることが明らかになっているのです。
1.親間葛藤とは何か? そしてそれがもたらすもの
「両親がよく喧嘩をしていた」「いつも怒鳴り合っていた」
こうした経験を持つ方は、少なくありません。
しかし、それが子どもの心にどのような影響を残すのかは、意外と見過ごされがちです。
Turner & Kopiec(2006)の研究は、こうした「親間葛藤(interparental conflict)」が子どもの長期的な心の健康に与える深刻な影響を明らかにしました。
この研究では、幼少期から思春期にかけての家庭内環境と現在の精神状態との関連を分析しています。
1-1.親間葛藤と精神疾患の関連
研究結果は次のような事実を示しています
✔幼少期に親間葛藤を経験した人は、大うつ病性障害(うつ病)を発症するリスクが約2.6倍。
✔アルコール依存または乱用のリスクは約1.6倍。
✔この関連は、親の離婚や身体的虐待の有無にかかわらず独立して現れる。
つまり、「うちは暴力はなかったから大丈夫」とは言い切れないということです。
たとえ暴力的ではなくとも、怒鳴り合いや長期にわたる言い争いは、子どもの心に深い影響を与える可能性があるのです。
2.どのようなメカニズムで影響するのか?
親間葛藤(interparental conflict)は、子どもの心に深い影響を及ぼし、それが成人後の精神的な健康に長く尾を引くことが、TurnerとKopiec(2006)の研究によって明らかになっています。
とくにこの研究では、親間葛藤が子どもの「心の3つの領域」に影響を与え、それぞれがメンタルヘルスに連鎖的に作用することが示されました。
それぞれを以下に詳しく解説します。
2-1.親子関係のストレス(Parent Strain)
親の間での激しい言い争いや怒鳴り合いを目にして育つと、子どもは無意識のうちに「自分が悪い子だから両親がケンカをするのではないか」と自責的にとらえるようになります。
これにより、親に対して本音を言えなくなったり、愛着形成が不安定になる傾向が強まります。
さらに、葛藤状態にある親は子どもへの関わりが疎かになることが多く、養育や支援の質が低下したり、過度な干渉・否定的な言動が増えたりすることが報告されています。
これが「親子関係における慢性的なストレス(chronic strain)」を引き起こし、自己肯定感や情緒の安定性に悪影響を及ぼします。
2-2.パートナー関係のストレス(Partner Strain)
親間葛藤にさらされた子どもは、成長してからの恋愛やパートナーシップにおいても「どうせ分かってもらえない」「相手に見捨てられるのではないか」といった不安を抱きやすくなります。
これは、親のやり取りを見て育ったことによる「社会的学習(social modeling)」の影響です。
怒りや攻撃的なコミュニケーション、距離の取り方などが無意識に模倣され、自分の人間関係にも緊張や摩擦が生じやすくなるのです。
結果として、「パートナーとの関係が不安定」「相手に心を開けない」「衝突が長引く」といった状況が日常化し、これがストレス源となって心の疲弊につながります。
2-3.自尊感情の低下(Low Self-Esteem)
親間葛藤を経験した子どもは、「親の怒りを止められなかった」「自分が家族の問題の原因ではないか」という思いを抱くことがあります。
こうした思い込みは自己評価を大きく傷つけ、自尊心の低下を引き起こします。
Turnerらの研究では、親間葛藤にさらされた人ほど自尊感情が有意に低い傾向にあり、この自尊感情の低さがうつ病や精神的な不調の強い予測因子であることが確認されました。
このような低い自己評価は、恋愛・仕事・対人関係すべてにおいて「どうせ自分なんて」という認知を強め、結果として社会的孤立や精神的不調へとつながっていくのです。
まとめ:親間葛藤の影響は、子供の「いま」にも及ぶ
以上のように、親の葛藤がもたらす影響は、単なる「子どもの時のつらい記憶」にとどまらず、成人後の自己理解、人間関係、ストレス対処能力といった深層にまで及びます。
しかし、このメカニズムを理解することは「癒し」のスタートラインでもあります。
心理カウンセリングでは、過去の親間葛藤の記憶に優しく光をあて、今の生きづらさとのつながりを丁寧にひも解いていくことが可能です。
3.カウンセリングでできること
このような長期的な心の影響に対して、心理カウンセリングでは以下のような支援が行えます。
● 安全な対話の場の提供
安心して「過去の家族のこと」「今の自分の感情」を語れる場所を持つことは、心の回復にとって第一歩となります。
● 自己理解と気づきのサポート
「自分が悪い子だったから…」という思い込みに気づき、それを丁寧に解きほぐしていくことで、新しい自己認識が育っていきます。
● 対人関係の再構築の手助け
ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)や認知行動療法などを通じて、対人不安の軽減や信頼関係の築き方を学ぶ支援も可能です。
4.心の傷は「無かったこと」にはできないけれど…
家庭の中で起きた出来事、たとえば、両親の間に繰り返された言い争いや感情的な衝突は、子どもにとって大きな心の負担になります。
しかし、多くの方がその経験を「大したことではなかった」とか「暴力じゃなかったから問題ない」と、自分の感じた痛みや混乱をなかったことにしようとします。
ですが、心の傷は、見えないからといって消えるものではありません。
研究でも明らかにされているように、子ども時代に両親の間の激しい口論や怒鳴り合いにさらされた経験は、たとえ身体的な暴力がなかったとしても、成人後の心の健康に深く影響を及ぼすことが分かっています。
このような心の痛みを癒していくために最初に必要なのは、「あの時、確かに私はつらかった」と、自分自身の感情を正当に評価し、認めることです。
✔「離婚しなかったから大丈夫だったはず」
✔「手をあげられたわけじゃないから平気なはず」
…そうやって、自分の感じてきたことに蓋をしてしまうのではなく、「あのときの私は、混乱していたし、さみしかった」と言葉にすること。
これは、とても勇気のいる作業です。
だからこそ、ひとりで抱え込まずに、信頼できる友人やカウンセリングという安全な対話の場で、ゆっくりと自分の心に向き合っていくことが大切になります。
心の傷を「無かったこと」にしようとするのではなく、「確かにあったこと」として大切に取り扱うこと。それこそが、真の意味での癒しと回復への一歩になるのです。
参考論文
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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