トラウマを癒すには?カウンセラーが解説する「ケアのはじめ方と回復への道」
2025/06/24
みなさん、こんにちは。
神戸市や芦屋市、西宮市などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
さて、私たちの人生には、時として想像もできないような辛い体験や、大きなショックが降りかかることがあります。
事故、災害、いじめ、虐待、DV、または身近な人の喪失や予期せぬ病気…
こうした出来事は心に深い傷を残し、「トラウマ(心的外傷)」として長く影響を及ぼすことがあります。
「もう過ぎたことだから気にしなくていい」「自分は大丈夫」と思っていても、ふとした瞬間に心がザワついたり、体調が優れなかったり、感情のコントロールが効かなくなったりすることとは、トラウマを抱えている方にとっては珍しいことではありません。
そこで今回は、医学論文「Recognizing and healing from trauma in primary care」を踏まえつつ、トラウマの理解とケアの進め方、回復への道のりを詳しく解説します。
1. トラウマとは何か?~症状・影響・気づき~
「トラウマ」は、単に「怖かった出来事」や「つらい思い出」とは異なります。
トラウマとは強い恐怖や無力感を伴う経験が、脳や神経、心、そして身体に深く刻まれ、時間が経っても苦しさが続く、「心身の負担」そのものです。
1-1.トラウマの主な症状
✔突然のフラッシュバック(記憶がリアルによみがえる)
✔夜間の悪夢や不眠
✔強い不安感や過剰な警戒心(常にビクビクしてしまう)
✔ちょっとした刺激で感情が揺さぶられたり涙が止まらなくなる
✔イライラや怒りっぽさ、感情の起伏が激しい
✔人や物事への興味喪失、無気力
✔気が付いたら衝動的な行動を取ってしまっている
✔記憶が飛んでしまっている時間がある
✔身体症状(頭痛、腹痛、吐き気、慢性的な疲労など)
これらは「気の持ちよう」ではなく、「脳と神経の自然な反応」です。
こうした症状を放置すると、心身の健康や人間関係、仕事・学業、生活全体に大きな影響を及ぼすリスクが非常に高まってしまいます。
2. なぜトラウマケアが必要なのか?
2-1.トラウマは「自然治癒」だけでは十分に癒えない
「つらい出来事も、いつか時間が解決してくれる」
「過去のことは忘れて前向きに生きれば大丈夫」
…このように考える方は少なくありません。
しかし、心の傷(トラウマ)は、必ずしも自然に癒えるものではありません。
一見、日常生活を普通に送れているように見えても、心の奥深くに傷が残っている場合、次のような特徴的な現象が起こります。
● 過去の体験を避け続けてしまう(回避)
たとえば、似たような状況や場所、人間関係、話題を“無意識”に避けることで、苦しさや不安を一時的に遠ざけられることがあります。
しかしこの「回避行動」が続くと、長期的には「フラッシュバック(突然、記憶が鮮明によみがえる現象)」や、不安症状、パニック発作が強くなりやすくなります。
本当は「向き合いたくない」「思い出したくない」という気持ちが、逆に心と身体を縛ってしまうのです。
● 自己否定感の悪循環
「傷いている自分は弱い」
「前向きに考えられない自分はダメだ」
…と、自分自身を責めてしまう方も多く見られます。
この自己否定感が続くと、孤立感や無力感が強くなり、日常の中で「生きている意味を感じられない」と思い詰めてしまうことさえあります。
● 心身の不調が慢性化するリスク
トラウマの影響は心だけにとどまりません。
慢性的な頭痛・腹痛・吐き気・睡眠障害などの身体症状や、心の緊張が長引くことでうつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)に進展したり、アルコールや薬物、ギャンブルなどの依存行動に陥ることも少なくありません。
● 人間関係のトラブルや社会的孤立
トラウマを抱えていると、「他人が信じられない」「傷つくのが怖い」と感じて、人との距離を取りがちになったり、社会生活に困難を感じることも多いのです。
2-2.早期のケアが回復のカギ
近年の科学的研究や臨床現場の知見から、「適切なトラウマケアを受けることが、回復へのもっとも確実な道」であることが明らかになっています。
● 心理カウンセリングの有効性
認知行動療法(CBT)、トラウマ・フォーカスト・セラピーなど、多くのエビデンスに裏付けられた心理療法があります。
これらの心理療法は、専門家と共に「安全な環境」でゆっくりと心の傷と向き合い、「過去に囚われない新しい自分」を取り戻すプロセスをサポートします。
● 家族・友人など周囲のサポートの大切さ
「信頼できる人がそばにいる」
「話を聞いてくれる人がいる」
…と感じられるだけで、回復の力は大きく高まります。
トラウマケアは「孤独な戦い」ではなく、支えてくれる存在と共に「一緒に乗り越えていく」ものなのです。
● セルフケアや安心できる環境づくり
日常生活でのセルフケア(深呼吸、リラクゼーション、十分な休息など)や、安心できる場所・時間を持つことも回復には欠かせません。
3. トラウマケアの実際~どのように進められるのか?~
3-1.トラウマインフォームドケアの考え方
近年、トラウマケアの現場で最も重要視されているのが「トラウマインフォームドケア(Trauma-Informed Care)」というアプローチです。
これは、すべての支援やコミュニケーションの根底に「トラウマ体験が人の行動や感情に与える影響」を深く理解し、その前提に立って支援を行うことを意味します。
その具体的な内容を解説いたします。
1. 安心感と信頼関係の構築
トラウマを抱える方にとって、まず必要なのは「この場所は安全だ」「この人は信頼できる」と感じられる安全基地の存在です。
心理カウンセラーや医療者は、急がず、無理に過去を聞き出さず、穏やかで受容的な態度を徹底します。
静かな部屋や安心できる環境づくりも非常に大切です。
2. 自分のペースを尊重した対話
トラウマ体験は、語ること自体が苦しいものです。
「今、話すのがつらければ、無理に話さなくていいですよ」「大丈夫な時に、あなたのペースで話してください」と伝え、「トラウマを抱えている方がコントロールできる感覚」を大切にします。
3. 選択肢と自己決定権を持たせる
「何を話すか」「どこまでサポートを受けるか」など、本人が自分で選び、決められる権利を尊重します。
これにより、過去のトラウマで奪われてしまった「自分で自分の人生を選ぶ力」を、少しずつ取り戻していくことができます。
4. 共感的な態度・偏見や評価の排除
「そんなことで傷つくの?」「忘れた方がいいよ」といった言葉は、トラウマの傷をさらに深くします。
どんな体験も、その人にとって「どれほどの重みや苦しみがあるか」は他人には測れません。
心理カウンセラーをはじめとする支援者は常に、評価や偏見を手放し、「あなたの気持ちを大切にします」というスタンスを維持します。
3-2.ケアの進め方(カウンセリングの実際)
では、実際にトラウマケアがどのような流れで進められるのか、そのステップを詳しくご紹介します。
1. 安全・安心の確保
まずは、物理的・心理的な安心空間を作ることが第一歩です。
具体的には、静かで落ち着いた場所で、信頼できるカウンセラーや医療者がそばにいることを指します。
強いフラッシュバックや感情の高ぶりが起きても「大丈夫、ここにいるよ」と言ってもらえるだけで、恐怖や孤独感が大きく和らぎます。
2. 身体の反応や感覚に気づく
トラウマを持つ方は、「身体がこわばる」「動悸や吐き気」「呼吸が浅くなる」といった生理的反応を感じやすいものです。
そこで、「深呼吸やグラウンディング(『今ここ』に意識を戻す練習)」など、身体を使ったセルフケアを取り入れます。
「足の裏を感じてみよう」「呼吸を意識してみよう」とガイドすることで、感情の津波に飲まれすぎない力を育てていきます。
3. 感情や記憶への丁寧なアプローチ
次の段階では、「どんな時に苦しくなるのか」「どんな記憶がよみがえるのか」を、本人のペースでゆっくり言葉にしていきます。
ただし、無理に思い出を掘り起こすことは、かえって危険です。
そのため、「今感じていること」「身体の感覚」など、トラウマを抱えているご本人が安心して表現できる範囲から始めます。
4. 新しい意味づけと回復体験
トラウマ体験を…
「自分のせいではなかった」
「自分は弱いのではなく、苦しい体験を乗り越えてきた強さがある」
…と新しい意味づけでとらえ直すことは、自己肯定感の回復や未来への希望につながります。
心理カウンセラー等の支援者とともに「これまでどんな工夫で乗り越えてきたか」を振り返り、小さな成功体験や回復の手ごたえを一つひとつ積み重ねていきます。
5. 社会的な支援の利用
孤立しない環境づくりもトラウマケアには不可欠です。
信頼できる家族や友人、ピアサポートグループ、地域の支援サービスなど、多様な「つながり」を持つことで、「一人じゃない」という安心感が生まれます。
社会的な支援は、回復の力を大きく高めてくれます。
トラウマケアは、「一歩一歩、自分のペースで進めていくもの」です。
心理カウンセラー等の専門家とともに、安全で安心できる関係の中で、自分自身を少しずつ取り戻していく…。
それが、心の傷を癒すために最も大切なプロセスです。
どんな小さな一歩でも、それが回復への大切な始まりです。
トラウマを抱えた心の回復は可能であるという信頼を持っていただけると幸いです。
参考論文
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こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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