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境界性パーソナリティー障害の「生きづらさ」を科学する

境界性パーソナリティー障害の「生きづらさ」を科学する

2025/08/07

みなさん、こんにちは。

神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。

 

さて、日々の臨床で…

 

「気持ちのコントロールができない」

「人間関係がうまくいかない」

「どうしても衝動的に振る舞ってしまう」

 

…というお悩みに触れる機会は少なくありません。

 

特に、境界性パーソナリティー障害(BPD)やその傾向を持つ方は、「人間関係の不安定さ」「強い感情の波」「自分の気持ちの把握の難しさ」といった「生きづらさ」を抱えることがよくあります。

 

そこで今回ご紹介するのは、こうした問題の背後にある「こころの仕組み」、特に「メンタライゼーション」と「感情調整(エモーション・レギュレーション)」がどのように関わっているかという研究を踏まえつつ、境界性パーソナリティー障害の「生きづらさ」とそのケアについて考えてみたいと思います。

 

1. 「メンタライゼーション」とは何か~自分や他人の心を理解するチカラ~

 


「メンタライゼーション」とは、「自分自身や他者の心の動き」、つまり気持ち、考え、欲求、意図、信念などを「理解し、想像し、推測する能力」を指します。


これは単なる知識や頭の良さではなく、「自分と他人の『内面世界』がどう動いているのか」を把握し、その動きをもとにコミュニケーションや行動を調整するスキルです。

 

1-1:心理学における「心の理論(Theory of Mind)」との関係


このメンタライゼーションは、心理学では「心の理論(Theory of Mind)」と呼ばれることもあります。


「心の理論」とは、「自分や他人は『見たもの・聞いたもの』だけでなく、それぞれの考えや感情に基づいて行動する存在だ」と理解する力です。

 

例えば…

 

✔「あの人が怒っているのは、自分が約束を守らなかったからかもしれない」

✔「自分が今イライラしているのは、昨日のストレスがまだ残っているからだ」

✔「相手がそっけない態度を取るのは、何か嫌なことがあったのかもしれない」


…といったように、相手の態度や自分の行動の背後にある「こころを推し量る」のです。

 

1-2:日常の中のメンタライゼーション


私たちは無意識のうちに、日々こうしたメンタライゼーションを使っています。

 

「あの人は今どんな気持ちだろう?」
→ 相手の表情や声のトーン、態度から、その人の内面を想像すること。

 

「自分はなぜこんなにイライラしているのだろう?」
→ 単なる「怒り」という感情の裏に、悲しみや不安、疲れといった別の気持ちが隠れていないか自分を観察すること。

 

「こんな行動をしたのは、こう思われたくなかったからかもしれない」
→ 自分や他人の「動機」を見つめ直すことで、誤解やトラブルを減らすことにもつながります。

 

1-3:なぜメンタライゼーションが大切なのか


この「こころを読み解くチカラ」は、人間関係や感情の安定、トラブル回避、さらには自分自身を受け入れるうえでも不可欠です。

 

具体的には…

 

✔相手の気持ちを推し量れることで、無用な衝突や誤解を避けられる

✔自分の感情や動機を理解できることで、自己否定や衝動的な行動を減らせる

✔困ったときに「なぜ自分は今こう感じているのか」と一歩引いて考えられる

 

こうした「メンタライゼーション力」は、子どもから大人まで、人生のさまざまな場面で生きやすさや心の健やかさにつながります。


逆にこのチカラが弱いと…

 

「自分や他人の心がわからず人間関係でつまずく」

「感情の整理ができずに生きづらい」

 

…といった「生きづらさ」が起こりやすくなります。

 

2. 境界性パーソナリティー障害と「メンタライゼーションのクセ」~科学的知見から~

 


今回参照にしているSharpらの研究は、境界性パーソナリティー障害(BPD)の傾向と「心の読み取り力(メンタライゼーション)」の関係性を科学的に明らかにしたものです。

 

研究では、「映画を見て登場人物の心情や意図を推測する」という課題を用い、被験者が他人の感情や思考をどのように読み取るかを詳しく調べました。

 

その結果、境界性パーソナリティー障害の傾向が強い人ほど、「オーバーメンタライジング」、すなわち「他者の心を過剰に、かつしばしば誤って推測してしまう」傾向が顕著であることが判明しました。

 

2-1:オーバーメンタライジングの例

 

オーバーメンタライジングの具体例は以下の通りです。


✔相手の何気ない言動に対して、「きっと自分のことが嫌いなのだろう」と強く思い込んでしまう

✔たまたま無表情だった、少しそっけない返事をされた、といった些細な場面で「裏の意図があるに違いない」と深く考え込み、不安や疑念が強まる

✔相手の表情や声色から「自分に対して否定的な感情を抱いている」と誤って解釈し、必要以上に落ち込む、あるいは相手を遠ざけてしまう

 

このように、「心の深読み」が強すぎてしまうことが、人間関係の摩擦や誤解、さらに自分自身への否定的な感情を増幅させる要因となりやすいことが示されています。

 

2-2:メンタライゼーションの「質」と「生きづらさ」


重要なのは、境界性パーソナリティー障害傾向がある方の場合、「他者の心が全く読めない(アンダーメンタライジング)」や「人に無関心」といった冷淡さではなく、むしろ「心の動きに過敏で、相手の内面を読み取りすぎて苦しくなる」という特性が目立つ点です。

 

この過敏さが…

 

✔ちょっとした人間関係の変化に対して過剰に不安を感じる

✔他者の反応に振り回されて強い孤独感や自己否定に陥る


…という「生きづらさ」の根本原因のひとつと考えられています。

 

Sharpらの研究は、こうした「メンタライゼーションのクセ(深読みしすぎてしまう心の使い方)」こそが、境界性パーソナリティー障害の社会的・感情的な困難さを理解するうえで極めて重要であることを示しています。

 

3.感情調整の困難と「過剰なメンタライゼーション」の関係~悪循環が「生きづらさ」を生む~

 


この研究でもう一つ注目すべきは、「感情調整の難しさ」と「過剰なメンタライゼーション(オーバーメンタライジング)」が密接に結びついている、という発見です。

 

3-1:感情調整とは何か


感情調整(エモーション・レギュレーション)とは、心の中に湧き上がる怒り、不安、寂しさ、恥ずかしさ、喜びといった多様な感情を、自分でうまく受け止めたり、表現したり、時には落ち着かせたりできる力のことです。


この力が弱いと、日常のささいな出来事でも感情が一気に高ぶったり、逆に鈍くなったりしやすくなり、コントロールが難しくなります。

 

3-2:「深読み」の悪循環


感情調整が苦手な場合、人はしばしば…

 

✔他人の何気ない言動や反応に過敏に反応する

✔相手の気持ちや意図を“深読み”しすぎてしまう

✔「本当はこう思っているのでは?」「自分を嫌っているのでは?」と、不安や疑いが膨らむ

 

こうした「過剰な心の読み取り=オーバーメンタライジング」が進むと、実際には根拠のない誤解や思い込みが増え、対人関係での摩擦や緊張が高まります。


その結果、「なぜそんな風に思ってしまうのか」と自分でも理由が分からないまま、他者とのやり取りに疲れや孤独を感じることが多くなります。

 

3-3:言葉にできない気持ちと孤立感


さらに、感情調整の困難さは「自分の気持ちを適切に言葉で伝えること」を妨げます。

 

つまり、本当は寂しかった」「怒っていた」「分かってほしかった」という内面の感情が整理できず、誰にも打ち明けられないまま蓄積されていくのです。

 

この結果として…

 

✔周囲との距離が広がり、孤独感が強くなる

✔我慢が限界を超えた時、突然の衝動的な行動に走ってしまう

 

…といった「負のループ」が生まれやすくなります。

 

3-4:生きづらさ」を強めるメカニズム


このような悪循環こそが、境界性パーソナリティー障害に特徴的な「生きづらさ」の正体だと言えるでしょう。

 

つまり…

 

感情がうまくコントロールできない

↓ ↓ ↓

相手の反応を深読みしすぎる

↓ ↓ ↓

疲弊や孤立感が強まる→さらに感情が不安定に…

 

という連鎖が生じることが、今回の研究データからも裏付けられています。

 

つまり、「感情の扱い方」と「心の読み方」の両方に働きかけることが、この「生きづらさ」からの回復において極めて重要なのです。

 

4. なぜ「メンタライゼーション」や「感情調整」はうまくいかなくなるのか?

 


私たちが「自分の気持ち」や「他人の心の動き」を理解し、冷静に対処できるかどうか…

 

そのチカラ(メンタライゼーションや感情調整)は、生まれつき備わっているものではありません。

 

むしろ、子ども時代の人間関係や育った環境が大きく影響します。

 

4-1:幼少期の「安全基地」の重要性


心理学では、「安全基地(secure base)」という概念があります。

 

これは、子どもが安心して気持ちを表現し、失敗や挑戦ができる「心の拠り所」となるような養育者(親や養育者、周囲の大人)の存在を意味します。


この「安全基地」が不安定だったり、親自身が不安定・攻撃的・無関心だった場合、子どもは…

 

✔「自分の気持ちをそのまま出すのは危ない」

✔「本音は隠した方がいい」

 

…と感じてしまい、自分や他人の心に意識を向ける力が十分に育ちにくくなります。

 

4-2:トラウマ体験や愛着の問題


幼少期の虐待、いじめ、突然の別れなどトラウマ体験があると…

 

「自分は誰からも守ってもらえない」

「信じていた人に裏切られた」

 

…といった強い不安や疑念を抱くようになります。

 

その結果、他人の気持ちを信じること、自分の感情を安心して見つめることが怖くなり、メンタライゼーションの発達が妨げられてしまうのです。

 

また、「愛着の不安」、つまり、親や養育者、周囲の大人や友人が十分に愛情を与えてくれなかった、逆に「過干渉」で自分の感情が尊重されなかった場合も…


「他人の気持ちを読みすぎてしまう(オーバーメンタライゼーション)
「逆に人の気持ちが分からない(アンダーメンタライゼーション)


などの偏りが生まれやすくなります。

 

4-3:情緒的な混乱や否定的な家庭環境


家庭内で怒鳴り合い、暴力、無視、否定などが日常的にあると、子どもは…

 

「感情は危険」

「自分の気持ちは邪魔」

「本当の自分を出してはいけない」

 

…と感じてしまいます。


このような情緒的に不安定な環境では、子どもは「自分や他人の心を冷静に観察する余裕」を持つことができず、メンタライゼーションも感情調整力も、十分に育まれません。

 

4-4:大人になってからのストレスや強い不安

 

メンタライゼーションや感情調節の問題の原因は、幼少期に限られません。


「ある程度、大人になるまで順調に育った」という方でも、人生のストレスや危機、例えば離婚、失業、人間関係のトラブルなどが続くと、一時的に「メンタライゼーションの力が崩れることがあります。


つまり、強いストレスや不安の中では、「今、自分がどう感じているのか」「相手の意図は何か」を冷静に捉えられなくなり、過剰な深読みや誤解、感情の爆発が起こりやすくなるのです。

 

5.心の深読みを減らし、感情を調整するには

 


境界性パーソナリティー障害(BPD)傾向が強い方はもちろん、多くの方が…

 

「相手の反応やちょっとした表情に過敏に反応してしまう」

「考えすぎて疲れてしまう」

「自分の気持ちが分からない」

 

…といった「こころの深読み」や「感情の波」に悩むことがあります。

 

Sharpらの論文が示すように、こうした傾向は「心の扱い方」を少しずつ学ぶことで変化させていくことが可能です。

 

ここでは、臨床現場や日常生活ですぐに実践できるヒントをまとめます。

 

5-1. 「自分は今、どんな気持ち?」「本当は何を感じている?」と自問する時間を持つ


多くの人は、「イライラ」「モヤモヤ」「ザワザワ」といった不快な感情を感じても、その背後にある本当の気持ち(たとえば不安寂しさ傷つきなど)を見過ごしがちです。


そのため、まずは一日に数回、「今、自分はどんな気持ちかな?」と静かに問いかける習慣をつけましょう。

 

ノートに書き出す、スマホのメモを活用するなど、具体的な方法にすると、より気持ちを整理しやすくなります。

 

5-2. 相手の反応に対して「たぶんこう思われている」と即断しないで、直接たずねてみる


境界性パーソナリティー障害傾向の方に限らず、多くの人が「自分の頭の中だけで相手の意図を決めつけてしまう」ことがあります。

 

例えば、メッセージの返事が遅いと「嫌われたのかも」と思い込むなどです。

 

しかし、実際に聞いてみると「ただ忙しかった」「体調が悪かっただけ」といったことが少なくありません。

 

自分の「深読み」に気づいたら、「もしかしたら自分の思い込みかもしれない」と一度立ち止まり、思い切って相手に「こう受け取ったけど、本当はどうだった?」と聞いてみることも大切です。

 

これが「メンタライゼーション」の第一歩となります。

 

5-3. 「深読み」してしまう時は、一度立ち止まって感情や身体感覚に目を向ける


相手の一言や態度に「グサッ」ときて、すぐに「あの人は私を責めている」「嫌われている」と深読みしてしまう時は、まず自分の呼吸や体の感覚に注意を向けましょう。

 

例えば…

 

✔胸が苦しい? お腹が重い? 

✔手足が冷えていない?

✔呼吸が浅くなっていない?

 

このように「体の反応」を感じてみることで、「自分の感情」に気づきやすくなります。

 

マインドフルネスやグラウンディングといったテクニックも有効です。

 

5-4. カウンセリングやメンタライゼーションをベースとした支援(MBTなど)を活用する


どうしても「自分の気持ちがわからない」「人間関係で苦しくなる」などの場合は、専門家の支援を受けることも選択肢です。


メンタライゼーション・ベースド・セラピー(MBT)は、境界性パーソナリティー障害や人間関係での困難に特化した心理療法であり、自分や他者の心の動きを理解しやすくするアプローチを積み重ねます。

 

具体的には、カウンセリングでは…

 

✔今ここで感じていることを安全な場で言葉にしてみる

✔自分の思い込みや感情のクセに気づきやすくなる

✔他者とコミュニケーションする練習を重ねる

 

など、実際的なサポートが受けられます。

 

5-5. 感情調整のトレーニング(自分の感情を表現する、受け止める)を積み重ねる


「気持ちを溜め込まない」

「不快な感情も否定せずに味わってみる」

「感情を誰かに伝えてみる」

 

…こうした小さな練習の積み重ねが、感情調整力を高める近道です。

 

例えば…

 

✔ノートに気持ちを書き出す

✔信頼できる人に「ちょっと話を聞いてほしい」と声をかけてみる

✔小さな「ありがとう」「うれしい」「さみしい」など、日常の中で感情を一言でも表現する

 

これらを繰り返すことで、「感情との付き合い方」が柔軟になり、人間関係の衝突や誤解も減っていきます。

 

5-6. 「こころの扱い方」を学ぶことで生きづらさを軽減できる


Sharpらの研究からも分かるように、こうした「自分や他者の心にやさしくなる技術」を学ぶことで…


✔境界性パーソナリティー障害の傾向のある方
✔人間関係で傷つきやすい方
✔感情がコントロールしづらい方


…とった多くの方が「生きづらさ」を軽減できることが科学的に示されています。

 

 

まずは、「深読みのクセ」や「感情の暴走」をやわらげ、「より安心できる人間関係」と「自分自身との良い関係」を育てていきましょう。


そのためにも、焦らず、少しずつ、日々の中でできることから始めてみてくださいね。

 

参考論文

Theory of mind and emotion regulation difficulties in adolescents with borderline traits

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この記事の執筆者

駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)

心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。

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