「手放せない私」でいい~ネガティブ感情と共に前を向くための心理学~
2025/08/22
みなさん、こんにちは。
神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
さて、私たちは日々の生活の中で、怒りや不安、悲しみといったネガティブな感情に揺さぶられることがあります(当然、私もそうです)
そんなとき、「手放しましょう」という助言をSNSやネット、そして人から耳にすることも少なくありません。
確かに、つらい感情を抱えて生きるのは苦しく、「なくしたい」と思うのはとても自然なことです。
しかし、感情は物のように簡単に捨てられるものではありません。
むしろ「手放さなければ」と思い込むことで、「できない自分」を責めてしまい、余計に心を追い詰めてしまうこともあります。
心理カウンセラーとしての臨床経験からも、ネガティブな感情は決して無意味なものではなく、私たちに大切なことを知らせてくれるサインであることが多いと感じています。
そこで、この記事では、私が専門としている心理療法であるACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の視点も交えながら、「感情を手放す」のではなく「上手に抱えて生きる」方法について解説したいと思います。
1.ネガティブな感情を「手放す」という言葉の問題

「怒りや悲しみ、不安は手放しましょう」
自己啓発系のコンテンツなどでは、よく耳にする言葉です。
この言葉は確かに耳ざわりは柔らかく、「そうか、手放せば楽になるんだ」と思わず納得しそうになります。
しかし、感情は物のように机の上に置いて去れるものではありません。
そもそも、感情は脳と身体に深く結びついており、「不要だから捨てる」というふうに切り離すことは本質的に不可能なのです。
2.感情はそもそも「手放せない」もの~脳の仕組みから~

感情は、脳の中で主に扁桃体(危険や不安に即座に反応する領域)と前頭前野(理性的にコントロールする領域)の相互作用によって生じています。
例えば、不安や恐怖は、生命を守るために脳が瞬時に危険を察知し、身体を緊張させるシステムから生まれます。
この働きは「手放す」ことができるものではなく、むしろ生存に必要不可欠なものです。
つまり、感情は「敵」ではなく「生き延びるためのサイン」として常に私たちの内側から発火しているのです。
これは、感情というものが「理由があって、そこに存在している」ということを意味します。
これを「消そう」「なかったことにしよう」とすればするほど、脳は「まだ危険が残っている」と判断し、むしろ感情を強めてしまう危険すらあるのです。
3.ネガティブな感情を抱える苦しさ

とはいえ、です。
怒り、不安、悲しみ…。
これらの感情を抱え続けることは非常につらいことです。
「早く消えてほしい」
「こんな気持ちを持ち続けたくない」
…というように思うのは自然な欲求です。
ただし、「手放さなければならない」と思い込むと、逆に…
「手放せない私は弱いのでは」
「執着している私が悪いのでは」
…と自責感を強めてしまうことがあります。
ネガティブな感情と、それを手放せない自分自身への否定。
この二重の苦しみは、心の回復を大きく妨げてしまいます。
4.「手放す」ことが生むリスク

確かに、「手放す」という言葉は、一見すると優しい表現に見えますが、そこには大きなリスクも潜んでいます。
例えば…
✔「ネガティブな感情は持ってはいけないものだ」という誤解につながりやすい
✔苦しみを抱えた自分を「ダメだ」と否定してしまう
✔押し殺した感情が心身に影響し、フラッシュバックや身体症状(頭痛、胃痛、不眠)として現れることがある
このように、感情は押し込めても消えることはなく、むしろ形を変えて再び表面化します。
そのため、ネガティブな感情がある場合、「手放す」以外の方法をとる方が健康的であり、また効果的です。
5.感情は「手放す」のではなく「持ち方を変える」もの

認知行動療法の第三世代であり、臨床的に効果が認められているACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の立場からすると、感情は消す対象でも、手放す対象でもありません。
大切なのは「そのままそこにあるもの」として受け入れ、抱えながら自分の大切な方向に進むことです。
これは、「自分自身の感情に対して優しくなる」という表現に置き換えることもできるでしょう。
そのためには、まずは感情の意味についての理解が役立ちます。
例えば…
✔悲しみは「大切なものを失った」というサイン
✔不安は「守りたいものがある」というサイン
✔怒りは「自分にとって譲れない境界が侵された」というサイン
このように感情は、人生において「自分が何を大切にしているのか」を知らせてくれる存在でもあります。
こう考えると、感情は決して敵ではないことがお分かりいただけるかと思います。
6.感情を優しく抱えて前へ進む

では、具体的にどうすればよいのでしょうか
答えは「感情を抱える力」を育てることです。
ACTでは、感情を「なくす」のではなく「そのままそこにある」と認めながら、自分の価値に沿った行動を選んでいくことを重視します。
これは、「ネガティブな感情があっても、より良い生き方ができる」ということを意味しています。
例えば私の場合ですが、当然私も不安や焦りといったネガティブな感情を抱くことがあります。
しかし、感情は敵ではありませんし、そもそも脳が生み出すものなので、生まれてしまった感情は脳の作用なのでどうすることもできません。
その感情と戦うという選択肢もあります。
ただ、その選択は逆にネガティブな感情へフォーカスすることになるため、ネガティブ感情はさらに高まります。
それよりも…
「あぁ、私はいま不安(ネガティブ感情)を抱えているな」
「(不安といったネガティブ感情に対して)サインを出してくれてありがとう」
「ただ、私はやりたいことや、やるべきこと(大切にしている価値に向かう行動)をやるね」
という付き合い方をしています。
こうすることで、感情と上手く付き合い、そして感情に巻き込まれることなく、私のやりたいこと・やるべきことができるようになるのです。
そこで、簡単なACTのワークをご紹介します。
【実践のヒント】
①「今、私は不安を感じているんだな」と気づき、ラベリングする
②「不安があるけれど、私はこの価値を大事にしたいから一歩踏み出してみよう」と小さな行動を選ぶ
③ネガティブな感情を敵視せず、「共に歩く存在」として扱う
こうした姿勢が、感情に振り回されずに生きていくための土台になります。
まとめ:感情と共に生きるという選択
感情は「手放すもの」ではなく「生きる上で共にあるもの」です。
ときに苦しく、重たく感じることもありますが、それは私たちが大切なものを持っている証でもあります。
どうか「消さなければ」「手放さなければ」と自分を責めずに、感情を抱えながらも自分の価値に沿った一歩を歩むことを意識してください。
その積み重ねが、より豊かな人生へとつながっていきます。
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こころのケア心理カウンセリングRoom
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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