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境界性パーソナリティー障害のケア~神戸、芦屋、西宮のカウンセリングより~

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境界性パーソナリティ障害と「物語の自己」~「自分が自分である」ことの難しさ~

境界性パーソナリティ障害と「物語の自己」~「自分が自分である」ことの難しさ~

2025/09/15

みなさん、こんにちは。

神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。

 

さて、皆さんは「あなたの人生を一つの物語として語ってください」と言われたら、どんな場面が思い浮かぶでしょうか。

 

幼いころの記憶、頑張って成し遂げた瞬間、大切な人との出会いや別れ…。

 

私たちは、こうしたエピソードをつなぎ合わせて「自分の人生はこういうものだ」と物語として語り直すことで、「自分らしさ」を形づくっています。

 

心理学では、この「自分を物語として構成する力」を「ナラティブ・アイデンティティ(narrative identity/物語の自己)」と呼びます。

 

簡単にいえば、これは過去の出来事と現在の自分、そして未来への希望をストーリーとしてまとめるチカラです。

 

これがなぜ重要かと言えば、ナラティブ・アイデンティティがあることによって私たちは「私は私である」という一貫した自己感覚を持ちやすくなるからです。

 

ところが、境界性パーソナリティ障害(BPD)の方にとって、この「自分を物語ること」は大きな困難を伴います。

 

というのは、過去の出来事が断片的に感じられたり、人との関係が満たされなかった経験が繰り返し強調されるような経験があるため、人生が一つの物語としてまとまりにくいのです。

 

そこで今回紹介する研究は、この境界性パーソナリティ障害におけるアイデンティティのゆらぎを「ナラティブ・アイデンティティ」という視点から検討したものです。

 

その結果は、境界性パーソナリティ障害の方が日常で抱える苦しみをより深く理解し、どのように支援できるかを考えるための大切な臨床的なヒントを与えてくれるものでした。

 

1.研究概要

 

 

まず、いつものようにエビデンス(科学的根拠)を重視する心理カウンセラーの立場ですので、軽く研究内容を解説しますね。

 

アメリカで行われたAdlerら(2012)の研究では、中高年の大人40名が参加しました。そのうち20名は境界性パーソナリティ障害(BPD)の特徴を持つ人たち、残り20名はそうでない人たちです。

 

参加者にお願いしたのは、とてもユニークな課題でした。


具体的には、「あなたの人生を、一冊の本にするとしたら、どんな『章』に分けられますか?」


…という問いかけです。

 

例えば…

 

✔学生時代:自分を探し続けた日々

✔就職:失敗から学んだこと

✔ライフイベント:大切な人との出会いと別れ


…など、自分の人生を章立てにして、印象的な出来事(転機や成功体験、失敗、特別な思い出)を語ってもらうのです。

 

研究者はその語りを丁寧に読み解き、次の3つのポイントに注目しました。

 

● エージェンシー(主体性)


これは、「自分の人生を自分のチカラで動かしている」と感じられているかどうかについてのものです。


例えば「私は努力して目標を達成した」という語り方と、「状況に流されて何もできなかった」という語り方の違いになって現れます。

 

● コミュニオン充足(人とのつながりの満たされ方)


このテーマは、人間関係の中で、どれくらい安心感や支えを感じられているかどうかに関わっています。


具体的には「家族に助けられた」「友人との関係で心が温まった」といった経験が語られるか、それとも「裏切られた」「孤独だった」という経験が中心になるかです。

 

● ナラティブ・コヒーレンス(一貫した物語のつながり)


これは、人生の出来事をバラバラではなく、ひとつの流れとしてまとめられているかというものです。


つまり、「あの挫折があったから今の私がある」というように過去と現在がつながっているかどうかというものです。

 

このように、研究では単に「どんな出来事があったか」を問うのではなく、「それをどう物語として語るか」を通して、境界性パーソナリティー障害の方のアイデンティティのあり方を探ろうとしたのです。

 

2.自分らしさをつなぐ物語:境界性パーソナリティ障害から見える自己のゆらぎ

 

 

本題に入る前に話は前後しますが、「そもそも『アイデンティティって何?』」ということから始めたいと思います。

 

2-1.アイデンティティとは何か?

 

私たちは日々の出来事を経験しながら、「私はこういう人間だ」「私はこう生きてきた」という感覚を少しずつ育んでいます。

 

この「自分らしさの感覚」こそがアイデンティティです。

 

心理学の中でも、近年注目されているのがナラティブ・アイデンティティという考え方です。

 

これは「自分の人生を物語として語れる力」と言い換えることができます。

 

過去の出来事、現在の自分、未来への期待や希望をストーリーとしてつなぎ合わせることで、人は「私は私である」という感覚を強め、人生の意味を見出していきます。

 

しかし、境界性パーソナリティ障害(BPD)の方にとっては、この「物語としての自己」を描くことが大きな困難を伴うことが研究によって示されています。

 

以下に、その主な研究結果を紹介します。

 

2-2.. エージェンシー(主体性)の低さ

 

境界性パーソナリティー障害の方の物語には、「自分が人生を動かしてきた」という感覚が乏しい傾向が見られました。

 

例えば…

 

「親や周囲がが全部決めている」

「他人に支配されていた」

 

…というものです。

 

このように、自分を人生の主人公として語るのではなく、外部の力に翻弄される存在として描かれることが多いのです。

 

この「主体性を感じにくい」ことは、「自分には選択肢がない」「流されているだけ」という無力感につながりやすくなります。

 

2-3. コミュニオン(人とのつながり)の満たされなさ

 

人とのつながりは誰にとっても大切ですが、境界性パーソナリティー障害の方の物語では「裏切られた」「失われた」といった、満たされなかった関係が強調される傾向がありました。

 

つまり、他者との関係を強く求めているにもかかわらず、安心感や信頼に結びつきにくいのです。

 

この体験は孤独感を深め、「どうせ自分は愛されない」という思い込みを強めてしまうことに繋がってしまう可能性が高まります。

 

2-4. ナラティブ・コヒーレンス(一貫性)の低さ

 

境界性パーソナリティー障害の方の物語は、過去の出来事と現在の自分がつながらず、感情が唐突に変わることが多いことが見出されました。

 

例えば…

 

✔話の流れが急に飛んでしまう

✔出来事同士の関連が説明されずに終わる

 

そのため、人生全体が「一つのまとまった物語」として形をなさないのです。

 

この一貫性の欠如は、自己感覚のゆらぎや「私は誰?」という混乱を強める要因になる可能性を持っています。

 

2-5.整理すると…

 

アイデンティティとは「私はこういう人間だ」という感覚であり、ナラティブ・アイデンティティはそれを「物語」としてまとめる力です。

 

そして境界性パーソナリティー障害の方の物語には…

 

✔主体性の弱さ

✔つながりの満たされなさ

✔人生を一つにまとめる難しさ

 

といった特徴が見られることが研究から示されました。

 

これは本人の努力不足や本来の性格ではなく、境界性パーソナリティーに伴うアイデンティティの特徴です。

 

3.研究から見える臨床的意義

 

 

まず最初に、先ほどお伝えした内容を整理したいと思います。

 

3-1.アイデンティティ障害の具体像

 

境界性パーソナリティ障害(BPD)の方は、しばしば次のような体験をしています。

 

● 自分が行動の主体である感覚(エージェンシー)が弱い

 

✔「自分で決めて動いている」という実感が薄く、「周囲や状況に翻弄されている」と感じやすい。

✔結果として「自分が人生の主人公ではない」という感覚につながる。

 

● 他者との関係に満たされなさを抱く

 

✔他人との関係を求める気持ちは強いが、「裏切られるのでは」「愛されないのでは」という不安が強く、安定したつながりを感じにくい。

 

● 人生を一貫した物語として統合するのが難しい

 

✔自分の過去・現在・未来をひとつのストーリーとして語ることが難しく、「そのときどきの感情」にとらわれてしまう。

✔そのため「自分はこういう人間だ」と言い切ることが困難になりやすい。

 

3-2.臨床的意義

 

この研究の成果は、治療やカウンセリングの実践に大きな示唆を与えています。

 

(1)「自分の物語を語り直す」支援の重要性

 

DBT(弁証法的行動療法)やメンタライゼーション療法、精神力動的アプローチなどでは、感情や行動の調整だけでなく「自己理解」を深めることも大切にします。

 

このように境界性パーソナリティー障害の方に「物語の視点」を取り入れると、「私はこの経験をこう受け止めてきた」と言語化できるようになり、アイデンティティの回復につながります。

 

(2)治療ターゲットの具体化

 

✔エージェンシーを高める

→小さな選択や成功体験を言葉にし、「自分で選んだ」という感覚を強める。

✔つながりの体験を言語化する

→人との関係の中で得られた安心感や支えを改めて語り直すことで、「他者は信じられる存在」という感覚を育てる。

✔物語の一貫性を持たせる

→過去・現在・未来をつなぐ作業を支援し、「自分の人生には連続性がある」という感覚を取り戻す。

 

(4)治療同盟(カウンセラーとの関係)の強化

 

境界性パーソナリティー障害の方が自分の物語を語るとき、心理カウンセラーは「一緒に物語を紡ぐ伴走者」になります。

 

この関係そのものが、安全なつながりを体験する場となり、他者への不信感や孤独感を和らげる効果があります。

 

(4)日常生活への応用

 

この研究の結果は、セルフケアにも重要な意味を持ちます。

 

例えば日記を書く、信頼できる人に自分のエピソードを語るといった習慣は、臨床現場以外でも有効です。

 

加えて、「自分の物語を自分の言葉で語る」ことがセルフケアにつながり、気持ちの揺れを整理しやすくなります。

 

まとめ

 

この研究は、境界性パーソナリティ障害を「特性」や「症状」として捉えるだけでなく、「その人がどのように自分の人生を語っているのか」という視点から理解する重要性を示しました。

 

臨床的には…

 

✔自分の物語を語り直す支援

✔主体性・つながり・一貫性を回復する働きかけ

✔安全な関係性の体験

 

…といった要素が治療やカウンセリングでの大切なターゲットになります。

 

つまり、「あなたはどんな物語を生きてきたのか」という問いかけそのものが、癒しと回復の入り口になるのです。

 

まずはセルフケアとして日記をつける等を行い「自分とは何者か」という感覚を取り戻すようにして生きましょう。

 

そして、もしもサポートが必要でしたら心理カウンセラーに相談をして、回復を目指して下さいね。

 

参考論文

The distinguishing characteristics of narrative identity in adults with features of Borderline Personality Disorder: An empirical investigation

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この記事の執筆者

駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)

心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。

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