「自閉症(アスペルガー)っぽさ」は本当に自閉症?ASD症状の見方をあらためて考える
2025/10/04
みなさん、こんにちは。
神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
さて…
「この人は社交性が低いから、自閉症かもしれない」
「私は日常で人付き合いが苦手だけど、もしかしてASDなのか…」
こうした思いに、少なからず心がとらわれたことがある方もいらっしゃるでしょう。
どうしても私たちは「らしさ」や「特徴性」を見つけることに敏感であり、行動や言葉づかい、反応のパターンを「診断ラベル」に結びつけたくなりがちです。
ですが、最新の研究はこうした「自閉症スペクトラム症(アスペルガー)っぽさ」が、自閉症スペクトラム症そのものであるとは限らない可能性を訴えています(Lord & Bishop, 2021)
つまり、自閉症スペクトラム症の症状と似た表現を示している人が必ず自閉症スペクトラム症という診断に結びつけられるわけではない、ということです。
そこで、このブログでは心理カウンセラーとして、自閉症スペクトラム症(アスペルガー)症状の捉え方を見直す視点を解説したいと思います。
1. 論文の主旨と背景:自閉症スペクトラム症の症状 ≠ 自閉症スペクトラム症の診断

Lord & Bishop(2021)の研究では、まず「自閉症スペクトラム症の症状」という言葉は、しばしば誤解を生む可能性がある」と主張しています。
そもそも、Lord & Bishop(2021)の論文タイトルは、「Let’s Be Clear That ‘Autism Spectrum Disorder Symptoms’ Are Not Always Related to Autism Spectrum Disorder(『自閉症スペクトラム症の症状”が、必ずしも自閉症スペクトラム症そのものと関係するわけではないことを明確にしよう」)というものです。
このように、研究論文のタイトル自体が、この論文の主張を端的に示しています。
つまり「自閉症スペクトラム症の症状」と呼ばれる特徴が見られたとしても、それが直ちに自閉症スペクトラム症という診断に結びつくわけではない、ということです。
1-1.論文の問題提起
Lord & Bishopは冒頭で、「自閉症スペクトラム症の症状という言葉はしばしば誤解を生む」と明言しています。
実際に日常の場面でも、私たちはある方の行動特徴を「自閉症スペクトラム症(アスペルガー)っぽい」と感じ、それをすぐに診断と結びつけてしまいがちです。
その流れを整理すると、以下のようになります。
✔誰かの言動を「自閉症スペクトラム症っぽい」と感じる
↓ ↓ ↓
その特徴を、自閉症スペクトラム症の典型的な症状リストと照らし合わせる
↓ ↓ ↓
その結果、「自閉症スペクトラム症の可能性がある」と安易に結びつけてしまう
一見すると筋が通っているように見えますが、このプロセスには大きな落とし穴があります。
1-2.「症状」と「診断」の違い
なぜこの流れが危ういかというと、自閉症スペクトラム症で見られる行動や認知スタイルの多くは、他のさまざまな要因によっても説明できるからです。
つまり、表面に現れる「症状」が必ずしも自閉症スペクトラム症という障害の存在を意味するわけではない、ということです。
具体的には、以下の可能性も存在します。
✔発達的要因
→注意欠如・多動症(ADHD)、発達性協調運動障害など
✔心理的要因
→不安障害、社交不安、強迫傾向
✔神経学的要因
→感覚過敏、脳の特定部位の機能差
✔環境要因
→養育環境、ストレスの多さ、トラウマ経験
※個人的には特に自閉症スペクトラム症の方の中にトラウマや複雑性PTSDの臨床的な症状を持っている方は珍しくないと思って言います。
これらの要因が、結果として「自閉症スペクトラム症に似た行動パターン」を生み出すことがあります。
したがって、症状だけを根拠に判断を行うことは誤診や過剰解釈につながる可能性が高いのです。
2. なぜ自閉症スペクトラム症の症状は「似て見える」のか?~共通性と重なりの理解~

自閉症スペクトラム症(ASD)の診断基準に含まれる特徴は、実は他の心理的・発達的な状態でも見られることがあります。
つまり、「自閉症スペクトラム症のように見える行動」=「自閉症スペクトラム症」とは限らない、ということになります。
ここでは、代表的な重なりの要素を詳しくみていきましょう。
● 感覚過敏・感覚処理力の違い
自閉症スペクトラム症の方にしばしば見られるのが、感覚刺激への敏感さです。
例えば…
✔大きな音に驚きやすい
✔蛍光灯の光が強く感じられる
✔洋服のタグや特定の素材に強い不快感を示す
これらは診断の特徴としてもよく説明されますが、感覚過敏は自閉症スペクトラム症だけに固有のものではありません。
具体的には…
✔不安障害を持つ方は、身体が常に緊張状態にあるため、音や光に敏感になりやすい
✔感覚処理障害(Sensory Processing Disorder) では、特定の刺激を過剰に感じたり、逆に鈍感であったりする
✔発達途上の子どもでは、神経系が成熟する過程で一時的に強い感覚反応を示すこともある
上記の理由から単に「音や光に敏感だから自閉症スペクトラム症だ」と判断するのは早計であるといえるでしょう、。
● 社会性やコミュニケーションのズレ
実際に自閉症スペクトラム症と疑われる可能性がある領域はここだと思います。
自閉症スペクトラム症では、対人関係やコミュニケーションに特徴が見られます。
例えば…
✔目を合わせるのが苦手
✔会話のテンポが独特で、間合いが合わない
✔相手の気持ちを理解するのに時間がかかる
こうした特徴は診断上の大きな手がかりとされますが、実際には別の心理状態や性格傾向でも似た行動が見られることがあります。
具体的には…
✔うつ病
→気分の落ち込みや意欲の低下から、人と目を合わせない、会話を避ける
✔社交不安障害
→人前に出ると強い緊張で視線を逸らす、声が小さくなる
✔人格傾向(内向型・回避型)
→もともと社交性が低く、他者と距離を置きやすい
このように、社会的なズレや会話の難しさは、必ずしも自閉症スペクトラム症に特有のものではありません。
● 思考の固定性・こだわり傾向
これも誤解されやすい領域です。
自閉症スペクトラム症の特徴として、ルーティンへの強いこだわりや変化への苦手さがよく語られます。
例えば…
✔同じ道順で通学・通勤したい
✔食事や服装の習慣を変えたくない
✔興味関心が特定の分野に極端に集中する
これらも診断に重要な要素ですが、同じような特徴は他の心理的傾向でも現れます。
具体的には…
✔不安傾向の強い方
→安心感を保つために習慣や決まり事に固執する
✔強迫性障害(OCD)
→不安を避けるために特定のルールや行動を繰り返す
✔詳細志向や完璧主義の認知スタイルを持つ方
→順序や正確さに強い価値を置き、柔軟さを欠く場合がある
このように、「こだわり」や「柔軟さの欠如」はさまざまな背景から説明が可能であり、自閉症スペクトラム症に限られたものではありません。
2-1.重なりを理解することの重要性
ここで強調したいのは、「自閉症スペクトラム症的な表現が見られる」=「自閉症スペクトラム症そのもの」ではない、ということです。
症状の表れは多因子的であり、複数の要因が絡み合って似た表現に至ることが多いのです。
そのため、誤解を避けるためには、以下の姿勢が大切です。
✔行動を単独で判断せず、発達歴や生活背景を含めて広い視点から評価する
✔「診断ラベル」ではなく、実際にその人が困っていることや必要としている支援に目を向ける
✔他の可能性(ADHD、不安障害、強迫性障害など)を常に併せて検討する
このように多角的に理解することで、誤診や過剰なラベリングを防ぎ、その人に本当に役立つ支援を届けることができます。
3.私が心理臨床で意識していること

最後に、自閉症スペクトラム症(アスペルガー)に対して、私がどのように心理的なケアを行っているかをお伝えしたいと思います。
心理臨床の現場では、「もしかしたら自閉症スペクトラム症かもしれない」というご本人やご家族の声に出会うことがあります。
その際に私が常に意識しているのは、ラベルを急いで貼るのではなく、今その方が直面している困りごとや症状に寄り添い理解し、支援を組み立てていくという姿勢です。
診断名はあくまでひとつの手がかりに過ぎず、実際の生活の中で困っていることに具体的に応じることが、より現実的で有効なサポートにつながります。
3-1. 尊重的に聴く姿勢を大切にする
「自閉症スペクトラム症かもしれない」という思いに対して、私は否定や訂正から入るのではなく、まずはその不安や気づきを丁寧に受け止めるよう心がけています。
本人やご家族がどのように感じているかを尊重し、安心して思いを語っていただくことが、まずは最優先であり最初に行うべきものとなります。
3-2. 強みにも目を向ける
自閉症スペクトラム症的とされる特徴の中にも、集中力の高さ、視点のユニークさ、正確さなど、その人ならではの強みが含まれています。
私は臨床の場で、困りごとへの対応と同時に「その人が持っている強みをどう生かせるか」という視点を意識しています。
これは単なる補償ではなく、その方が自己肯定感を回復するための大切な要素になります。
3-3. 段階的なアセスメントと仮説検証
初めから自閉症スペクトラム症と断定せず、仮説を立てながら段階的に支援を進めることもケアでは大切です。
例えば「コミュニケーションが苦手」という困りごとがあったとき、それが発達的な特性によるものなのか、あるいは不安や環境要因の影響なのかを整理しながら、経過を追って検証していく必要が生じます。
このような仮説検証型のアプローチは、柔軟で実際的な支援へとつなげてくれます。
3-4. 個別に最適化された支援プラン
自閉症スペクトラム症の診断がついているかどうかに関わらず、その方が直面している困難は人によって異なります。
だからこそ「この診断だからこの支援」という一律の対応ではなく、困りごとの性質や生活環境を丁寧に把握し、個別に最適化された支援を設計することが自閉症スペクトラム症の支援では大切になってきます。
つまり、支援の焦点を「ラベル」ではなく「実際の困りごと」に置くことが、その人が生きやすさを取り戻すうえで大切になってきます。
自分自身が「自閉症スペクトラム症か否か」という診断が下ることで納得できる部分も多いかと思います。
そして心理臨床でも確かに診断がどのようなものかということは非常に重要です。
しかし、診断がどうであれ、最終的には、「その方の困りごとをどのようにケアし支援するか」ということに集約されて行きます。
もしも自閉症スペクトラム症ではないか感じておられる方がおられましたら、ネット等の簡易的なチェックシートではなくしっかりと医師に診断を依頼する事、そして専門的なサポートをぜひ検討なさってください。
参考論文
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こころのケア心理カウンセリングRoom
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電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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