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親になれなかった親に育てられなかった子:複雑性PTSDと「育てられなさ」の関係

親になれなかった親に育てられなかった子:複雑性PTSDと「育てられなさ」の関係

2025/10/09

みなさん、こんにちは。

神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。

 

今日は養育期の逆境体験によって生じる「複雑性PTSD」について解説していきたいと思います。


幼いころ、親や養育者との関係で…

 

「受けとめられなかった」

「無視された」

「暴言を浴びせられた」

「見放された」

 

…そんな体験は、時間がたっても簡単には消えないものです。

 

そのため、大人になってから、なぜか自分には怒りや絶望、孤独感が常につきまとうということになってしまいます。


✔なぜか心が揺れやすく、人と深く関係を築くのが怖い。
✔なぜか自分を責めてしまう、自己肯定が難しい。

 

これらの痛みは、ただの「過去からの余波」ではなく、「幼いあなた」に根ざした傷の声ともいえるでしょう。

 

そこで、このブログでは「複雑性PTSD(C-PTSD)」という視点を通して、養育における逆境体験がどのように心を傷つけ、その痛みがどのように現在の自分自身に影響しているかを見つめ直しつつ、そして、癒しと回復への道を解説したいと思います。

 

1. 複雑性PTSD(C-PTSD)とは? ~単発のトラウマを超えた影響~

 

 

ここでは、一般的なPTSDと複雑性PTSDの違いについて解説したいと思います。


1.1 PTSDと複雑性PTSDの違い

 

私たちが一般に知っている PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、事故、自然災害、暴力被害など、単発または限定されたトラウマ体験をきっかけとすることが多く、再体験(フラッシュバック)、回避、過覚醒などが主な症状です。

 

しかし複雑性PTSDは、長期的、反復的、対人的なトラウマ体験(例:子ども時代の虐待、ネグレクト、慢性的な暴力など)を背景に、PTSDの症状に加えて、自己調整能力や対人関係、自己概念の歪みなどが深刻化したものを指します。


この考え方は、複数の学者が繰り返し提唱してきており、特に Judith Herman(1992年)の論文がその代表例とされています。
 

ICD-11(国際疾病分類第11版)でも、複雑性PTSDは …

 

PTSD に加え「自己統制障害(Disturbances in Self-Organization, DSO)」を伴うものして、新たな診断カテゴリーとして位置づけられています。


 

1.2 養育逆境体験を 「複雑トラウマ”」の文脈に位置づける理由

 

「養育逆境体験」とは、子どもとして育てられる過程で受けた次のような体験です。

 

具体的には…

 

✔見捨てられ感、愛情の欠如、無関心

✔精神的暴言、感情的虐待、罵倒、過度な批判

✔ネグレクト(世話不足、基本的な欲求の放置)

✔親/養育者との境界混乱、予測不能な対応

✔継続的なストレス環境(家庭の混乱、介護負担、親の精神的問題等)

 

という、主にこれらのものを指します。

 

これらは一回の事件とは異なり、反復的・慢性的に繰り返される性質を持ちます。

 

こうした「養育トラウマ」は、まさに 複雑性PTSDの典型的な背景に重なります。

 

心理的・発達的観点から見ると、子ども時代に「自己制御力」「対人安心感」「自己価値観」が形成される基盤期であり、この基盤期に脆弱さや混乱が生じると、心の内側に広範なズレ(歪み)が残る可能性があります。

 

つまり、養育逆境体験を複雑性PTSDの文脈で捉えることで、単なる「トラウマ症状」を超えて、「愛情・信頼・自己のありよう」がなじまなかった根源的な痛みを捉える視座を得ることができます。

 

2. 複雑性PTSDがもたらす主な特徴・領域~その「痛みの構成要素」~

 

 

複雑性PTSDの特徴は、単発的なトラウマ後に生じるPTSDの症状(再体験・回避・過覚醒)にとどまりません。

 

長期にわたる養育上の逆境体験によって、心の深い層が揺らぎ、「自分」「他者」「世界」への感覚そのものが変化してしまうことがあります。

 

そこで、ここでは、複雑性PTSDがもたらす主要な苦痛の領域を、順を追って見ていきましょう。

 

2-1.感情面の問題

 

まず目立つのが、感情のコントロールが難しくなるという点です。

 

具体的には、小さな刺激で涙が出たり、怒りが爆発したり、逆に何も感じられなくなることがあります。

 

また感情の振れ幅が大きく、落ち込みやすさと衝動的な行動が同居することもあります。

 

そして、自分でもどうしてこんなに感情が揺れるのかわからず、疲れ果ててしまうことも少なくありません。

 

2-2.対人関係の問題

 

次に挙げられるのが、対人関係の困難さです。

 

養育者との関係の中で「愛されない」「裏切られる」という恐れを繰り返し経験すると、他者に対して根源的な不信感を抱えやすくなります。

 

そのため、親密な関係を築くことが怖くなったり、逆に相手に過剰に依存してしまったりすることがあります。

 

こうした揺れの中で、人との距離感を見失い、自分を守るために孤立するケースも珍しくありません。

 

2-3.自己イメージの問題

 

また、自己に対するイメージにも深い影響が生じます。

 

複雑性PTSDの方の多くが、「自分はダメだ」「壊れている」「誰にも受け入れられない」といった否定的な自己信念を抱えています。

 

つまり、子どものころに受けた無視や暴言が、「自分には価値がない」という誤った確信として内面化され、そのまま大人になっても残り続けるのです。

 

こうした自己否定は、慢性的な無力感や恥の感情を生み、うつ状態や対人不安を悪化させます。

 

2-4.解離性の症状

 

さらに、解離的な体験をする方も少なくありません。

 

これは、強いストレスの中で心が「現実から切り離される」ような感覚です。

 

例えば、「自分が自分でない気がする」「周囲が遠く感じる」「時間の感覚が曖昧になる」といった体験です。

 

これは心が壊れたわけではなく、過去の過酷な体験に耐えるために無意識に働いてきた防衛反応なのです。

 

2-5.身体的な問題

 

加えて、身体的な症状として現れることもあります。

 

慢性的な疲労、頭痛、胃腸の不調、睡眠障害などが続く場合、心の痛みが体を通じて表れていることがあります。

 

身体と心は切り離せないものであり、複雑性PTSDの方が「ずっと緊張しているような感じが抜けない」と感じるのは、神経系が常に“危険信号”を出し続けているためです。

 

 

このように、複雑性PTSDの痛みは、感情・思考・身体・対人関係など、人生のあらゆる領域に広がります。

 

つまり、単なる「トラウマの記憶」ではなく、「生き方全体に染みついた緊張」として存在しているのです。

 

心理カウンセラーの立場から言えば、このような痛みを抱える方に必要なのは、「過去を掘り返すこと」ではなく…

 

✔「安心して感情を取り戻せる空間」

✔「自分の反応に意味を見出すこと」

 

ということです。

 

複雑性PTSDの苦しみは、「異常な反応」ではなく、かつての自分が生き延びるために必死に作り出した、正常な適応のかたちでもあるのです。

 

3. 複雑性PTSDへの治療と支援 ~段階的に「安心」を取り戻すプロセス~

 

 

複雑性PTSDは、長い時間をかけて心が傷ついてきた分、回復にも丁寧なプロセスが必要です。

 

つまり、焦らず、安全に、そして段階を追って心を整えていくことが大切です。

 

ここでは、具体的なケアの進め方についてお伝えいたします。

 

3.1 段階的なアプローチ(フェーズ型治療)

 

多くの心理カウンセラーが勧めるのは、次のように3段階で進める方法です。

 

● 第1段階:安全の確立と安定化


まずは「今ここで安心できる感覚」を育てることから始めます。

 

呼吸法やリラクゼーションなどで感情を落ち着かせ、自分のペースを取り戻す練習をします。

 

● 第2段階:過去の体験の整理と理解


心の準備が整ったら、少しずつ過去の出来事や感情に向き合います。

 

急がず、自分の耐えられる範囲で、当時の出来事を「今の自分」として理解し直していきます。

 

● 第3段階:再構築と再生


過去を整理したあとは、「これからの生き方」を取り戻す段階です。

 

自分の価値観を再確認し、信頼できる関係を築く力を育てていきます。

 

このように段階を踏むことで、過去の記憶に急に触れて再び傷つく(再トラウマ化)リスクを減らし、安全に回復を進めることができます。

 

3.2 主な支援の内容

 

複雑性PTSDへの支援では、次のような方法がよく使われます。

 

● トラウマ教育

→自分の症状や反応が「おかしい」のではなく、過去の体験に由来する自然な反応だと理解すること。

● 感情調整の練習

→感情を抑え込まずに安全に表現する力を育てます。

マインドフルネスや呼吸法などが役立ちます。

 

ただし、マインドフルネスや呼吸法にも禁忌があるため、慎重な導入が求められます。

 

● 考え方の見直し

→自己否定や「私は悪い人間だ」といった思い込みを少しずつ書き換えていきます。

 

● トラウマの語り直し

→過去の体験を安全な場で言葉にし、「物語」として整理していきます。

 

● 対人関係の再構築

→人を信じる練習や、安心して距離をとる方法を身につけます。

 

● 身体的アプローチ

→身体の緊張をゆるめ、安心感を取り戻すために、ヨガや軽いストレッチを取り入れることもあります。

 

これらは、どれも「心と体を少しずつ安心に戻す」ための方法です。

 

研究では、特にトラウマ教育や感情調整のスキル訓練が初期段階の支援として効果的とされています。

 

まとめ:複雑性PTSDを理解し、癒しの道を歩むこと

 

幼少期の養育逆境体験が、心の構造に深く影響を与え、それが複雑性PTSDという形で現れることは珍しくありません。

 

しかし、それは もちろん「壊れている」 という意味ではなく、長年にわたり耐えてきた結果としての「生き延びの知恵と痛みの重なり」であり、変化と癒しを紡ぐ希望もまたそこにあります。

 

複雑性PTSDは、単なるトラウマ症状以上の深さを持つため、治療や支援もまた慎重で多面的なアプローチを要します。

 

そのため、安全性の確立から始まり、感情調整・記憶処理・自己統合へと段階を踏むことが求められます。

 

複雑性PTSDの克服は確かに簡単な道のりではないかもしれませんが、しかし未来に希望はあります。

 

苦しさ、生きづらさを抱えている方が1日も早く複雑性PTSDを克服されることを願ってやみません。

 

参考論文

Complex PTSD: A Syndrome in Survivors of Prolonged and Repeated Trauma

 

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この記事の執筆者

駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)

心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。

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