境界性パーソナリティ障害と「生きづらさ」ののメカニズム
2025/11/17
みなさん、こんにちは。
神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
パーソナリティ障害、特に境界性パーソナリティ障害の一番の問題は、「生きづらさ」にあるのではないでしょうか。
実際に心理カウンセリングで境界性パーソナリティ障害のケアを行っていると、「生きづらさ(生きていることに生じる違和感)」というものを訴える方が大勢います。
もちろん、人間関係や仕事、恋愛や夫婦関係に実際的な影響を及ぼすという側面もあるのですが、その根底にあるのが「生きづらさ」です。
そして、「生きづらさ」という感覚が、単なる気質や性格の問題ではなく、「生きるということを上手くやるスキル(適応機能)」や「パーソナリティ構造」の問題が深く関わっていることが、心理学研究から明らかになってきました。
そこで、このブログでは研究の知見を踏まえつつ、「なぜ境界性パーソナリティ障害において生きづらさが生じるのか」「それが成人の生活にどう影響するのか」という観点で解説したいと思います。
1.生きづらさと(適応機能の低下)と精神症状の関係

では、境界性パーソナリティ障害の方はどのような苦しみを抱えているのでしょうか
今回参考にした論文ででは、境界性パーソナリティ障害の方が、日常生活のあらゆる領域で「生きづらさを抱えている(適応機能が低い)」という点です。
1-1.適応機能の低さ(生きづらさ)とは?
ここでは、生きづらさを「適応機能の低さ」としています。
これは論文の翻訳なのですが、しかし「適応機能が低い」という言い方は専門的で少し分かりにくいですし、誤解されやすい表現かなぁ…と書きながら考えています
そこで「適応機能が低い」というものを解説しますと、日常生活を「普通にこなすチカラ」が弱くなっている状態 のことです。
もう少し具体的に言うと、本来であれば自然とできるはずのことが、うまくできなくなっている状態を指します。
ただ強調しておきたいのは「適応機能が低い=劣っている」ということではない、ということです
適応機能の低さというのは、単純に境界性パーソナリティ障害の特性上、人間関係や仕事や親密な関係で「不一致が出やすい」ということであり、それ以上でもそれ以下でもありません。
では、生きづらさ(適応機能の低下)が考えられる領域を以下に分けて研究では検証しました。
✔学業(学校生活や成績、授業への参加)
✔職業(アルバイト・実習・職場での活動)
✔対人関係(友人・家族・恋愛関係など)
✔家庭内の役割(家事・家族との関わり)
これらすべての領域で、境界性パーソナリティ障害の方は一般の方に比べて、一貫して機能が低いことが明らかになりました。
その原因は、境界性パーソナリティ障害の特徴である「感情の不安定さ」や「対人関係の揺れ」が、「日常の暮らし全体」に影響を及ぼしているということなんですね。
実際に境界性パーソナリティ障害の方のカウンセリングをしていると「普通の人がやっていることができない」という悩みを仰る方が珍しくありません。
そして、それは単純に「上手くやれていない」という感覚に留まるのではなく、精神症状に至ってしまっているということなんですね。
1-2.精神症状も境界性パーソナリティ障害群が最も重かった
また境界性パーソナリティ障害の方は「生きづらさ(適応機能の低さ)」だけではなく、以下の精神症状も抱えていることが分かりました。
✔うつ症状
✔不安症状
✔行動化(衝動的な行動、感情爆発など)
つまり、境界性パーソナリティ障害では、「生きづらさ(適応)と心の苦しさ(症状)が同時に起きている」という構造が見えてきます。
これは、境界性パーソナリティ障害の方が抱える「生きづらさ」は当然ストレス因や自分を責める・否定する要因となるため、どうしても精神症状が出やすくなってしまうんですね。
実際にクライエント様がカウンセリングに訪れた際に仰る「気分が沈んで言う」「不安感が強く」というものを丁寧に見ていくと、パーソナリティ障害の傾向が考えられるというケースは珍しくありません。
2.境界性パーソナリティ障害がが成人のライフコースに与える影響

これまで、境界性パーソナリティ障害を「生きづらさ(適応機能の低下)」と精神症状に分類して解説しましたが、境界性パーソナリティ障害の最も重大な問題は別のところにあります。
それは、境界性パーソナリティ障害に関連する「生きづらさ(適応機能の低下)と精神症状は、成人期のアイデンティティ形成やライフコースそのものにも深い影響を残す、ということです。
ライフコースという言葉はあまり聞きなれませんよね。
ここで言うライフコースとは「個人の人生全体における『経歴』や『道筋』」を指し、進学、就職、結婚、出産などのライフイベントに対する影響と考えると良いかと思います。
2-1.「生きづらさ(適応機能の低下)」は年齢とともに消えるわけではない
境界性パーソナリティ障害では、感情調整の難しさや対人関係の不安定さが背景にあるため、どうしても学校生活・家庭・セルフケアなどの生活基盤が不安定になりやすくなってしまいます。
そして重要なのは、これらの生きづらさは、思春期を過ぎても「自然には解消されない」ことが多いという点です。
実は境界性パーソナリティ障害をはじめとするパーソナリティ障害は年齢を重ねるごとに社会経験が積み重なり、それによって改善されるという側面もあります。
ただ、それは相当期間の年月が必要であるため、「成人したら解決した」ということに繋がりにくいんですね。
そのため、成人期においては以下のような形で影響が続くことがあります。
2-2.成人のライフコースに表れやすい影響
境界性パーソナリティ障害に関連した生きづらさ(適応機能の低下)は、成人になってから次のような領域に影響します。
● 仕事面
✔仕事が長続きしない
✔職場での対人トラブルが増える
✔突発的な欠勤・休職につながる
✔ストレス耐性が弱く、環境変化に対応しづらい
✔感情の揺れで自己効力感が下がりやすい
働くうえでの基礎力(生活リズム、持続力、柔軟性)が揺らぐため、就労維持が大きな課題となることがあります。
● 親密な対人関係・パートナーシップ
✔人との距離の取り方が極端になりやすい(急に親密/急に断絶)
✔見捨てられ不安が関係を不安定にする
✔衝動的な行動で関係が断絶しやすい
✔相手の反応に過剰に敏感で疲れやすい
これにより、恋愛・友人関係・家族関係の維持が困難になるケースが少なくありません。
● 生活自立・セルフケア
✔睡眠・食事・お金の管理が安定しない
✔情緒不安定さから自傷・リスク行動に結びつく
✔生活リズムの乱れから悪循環が進む
“✔自分で自分を支える力”が揺らげやすい
成人期の生活自立は、仕事・健康・対人関係すべての土台なのですが、ここが崩れやすいというのは、長期的な生活不安定につながる重要なポイントです。
● 家族形成(結婚・出産・育児など)
✔安定したパートナー関係が築きにくい
✔情緒不安定さが子育てストレスを増幅する
✔家族内のコミュニケーションが混乱しやすい
✔支えてもらう側になりやすく家族負担が増える
これは境界性パーソナリティ障害の方が「結婚できない」という意味では決してはなく、何かしらの支援があった方が円滑になりやすいということです。
3.境界性パーソナリティ障害の方への支援のあり方

この研究から得られた知見を踏まえると、境界性パーソナリティ障害の方を支援するうえで考慮すべき重要なポイントが見えてきます。
ここでは、カウンセラーだけでなく家族等の支援者が境界性パーソナリティ障害の方を支えケアする際に押さえておくべきポイントをお伝えいたします。
● ポイント1:「生きづらさ(適応機能)」を支援の中心に置く
境界性パーソナリティ障害では、感情の不安定さや対人関係の困難さが背景にあるため、生活の基盤そのものがどうしても不安定になってしまいます。
そのため支援ではではまず、「日常のどの部分でつまずきが生じているのか」を丁寧に把握することが大切です。
例えば…
✔職場・学業:遅刻や欠席が増える、始業の立ち上がりがつらい
✔対人関係:友人やパートナーと関係が安定しない、距離が極端になりやすい
✔セルフケア:睡眠・食事・身だしなみなどが乱れやすい
これらは、境界性パーソナリティ障害の方が抱える「生きづらさ(機能低下)による苦しさ」としてすることが、まずは大切になります。
そして、「どうしたら生活が少しでも回りやすくなるか」「何を整えれば本人が日常を取り戻しやすいか」というものを一緒に検討する姿勢が支援の軸となります。
● ポイント2:症状だけでなく「構造」を見る
境界性パーソナリティ障害の方は、うつや不安になりやすさ、そして悪化すると自傷行為に至るとうリスクを抱えています。
そして、それらは比較的目に見える傾向があるため、そこに注意が向かいがちになります。
しかし、重要なのは、症状や問題のある行動は「必ずしも本質ではない」ということであり、むしろ重要なのは、その症状や問題行動の背景です。
その背景には、人間関係の困難や感情調節困難といった、より深い構造が存在している場合がほとんどです。
そのため、支援する側はこの構造に着目するようにして、症状や問題行動に対して「あなたの苦しみに『理由』がある」という理解を示すことです。
こうすることによって、境界性パーソナリティ障害の方は「自己否定」ではなく「自己理解」の方向へ進みやすくなります。
これが境界性パーソナリティ障害からの回復の土台となります。
● ポイント3:支援では「機能回復」と「再構築」を並行する
ドライな表現かもしれませんが、境界性パーソナリティ障害であっても「生活は自分で支える」ことが求められます。
しかし、境界性パーソナリティ障害を抱えている方が最初から自分で支えるというのは無理があります。
そのため、最終的に自分を自分で支えることができるということを目指した支援が必要となります。
つまり、境界性パーソナリティ障害の方の支援では精神的ケアも十分ですが、働き続けるチカラや人との距離の取り方、規則的な生活リズム、そして問題が生じた場合に「助けて」と言えること(援助希求行動)の獲得を目指すことになります。
そして、そうした支援を通してご本人が「小さな成功体験」を認識し積み重ねていくことが回復へと繋がっていきます。
境界性パーソナリティ障害は不可逆的なものでは決してありません。
この研究が示しているのは、「構造としての困難を早めに捉えることによって機能を徐々に回復していくことが可能」だということです。
そのため、まずは境界性パーソナリティ障害が「生きづらさ(適応機能の低下)」と「精神書状(苦しさ)」を分けて考えることから始めてみてください。
こうした整理をすることによって、向かうべき方向性や自己理解がより深まっていくことでしょう。
参考論文
Adaptive Functioning and Psychiatric Symptoms in Adolescents With Borderline Personality Disorder
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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