「安全な場所」を失った心~対人トラウマと愛着困難がPTSD・発達性トラウマ障害に及ぼす影響とは~
2025/11/23
みなさん、こんにちは。
神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
さて、日々の心理臨床の中で「人を信じることができない」「人と関わると疲れる」「人が怖い」と訴える方は決して珍しくありません。
もちろん、これらの原因の全てがトラウマや幼少期の経験によって生じたものとは言い切れません。
しかし、明確なトラウマ体験だけでなく「関係性の中で安心を得られなかった経験」「愛着が深く傷ついた経験」が、成人期のこころや身体に長く影響を残しているというケースも多々あります。
そこで今回は、研究論文(Spinazzola et al、2018)を踏まえつつ、トラウマや愛着、生活機能という観点から「なぜ苦しみが続くのか」「どうすれば回復の道に進めるのか」という内容をシェアしたいと思います。
1. 対人トラウマ・愛着トラウマとは何か

まずは、トラウマ、特に対人関係や養育によって生じるトラウマについて考えてみたいと思います。
まず前提として、ある特定の出来事があったら、全ての方がトラウマを抱えるわけではありません。
これは、トラウマを抱えている方が「性格的に弱い」という意味ではなく、トラウマの形成には様々な要素が絡んでいるというこです。
実際、今回参考にしている研究論文でも、トラウマは「出来事そのもの」ではなく、その方が育ってきた人間関係・環境・経験の積み重ねとして理解する視点が重要であることを示しています。」
その点を踏まえつつ、中核となる2つのトラウマ概念について整理したいと思います。
1-1.対人トラウマ(Interpersonal Trauma)とは
対人トラウマとは、人から与えられた痛みや恐怖によって心が傷つけられた経験を指します。
このトラウマのが問題になるのは、自然災害や事故などの「非人為的な出来事」とは異なり、「人間関係そのものが脅威」となってしまう点です。
そのため、このトラウマは社会的な生活において大きな影を落とすこととなります。
具体的な原因としては、虐待や家庭内暴力(DV)の目撃、いじめや何かしらの理由によって人間関係の中で孤立状態に置かれてしまうというものがあります。
対人トラウマが特に深刻な影響を残す理由を別の観点から考えると、次のように言えるでしょう。
守ってくれるはずの人、信頼すべき存在が脅威となる
そのため、人間不信や裏切りや攻撃されることを常に想定するという状態になってしまいます。
その結果、成人期になっても過剰に人と距離を取ったり、あるいは逆に過度に依存する、また人間関係において恐怖が先に立つなど、対人行動に支障が出ることとなります。
1-2.愛着困難・愛着トラウマ(Attachment Adversity)とは
一方、愛着トラウマとは成育歴の中で「安心できる関係の土台が築けなかった経験」を指します。
これは当然虐待も含まれますが、それ以外にも養育者や周囲の大人の情緒が不安定である場合も指します。
具体的には、以下のようなケースです
✔養育者や周囲の大人が情緒的に不在だった
✔養育者の養育スタイルが一定しない
✔子供に対する過度な期待
✔子供が問題に遭遇したり失敗した時に理不尽に叱責される
✔養育者や周囲の大人が子供の感情を理解せず否定・無視する
こうした状態が続くと子供にとっては「安全基地(安心できる場所)が存在しない」ということになります。
これが愛着障害へと繋がっていきます。
そして、その結果本人は、大人になってからも人に対する恐怖や逆に過度に依存する、周囲の人たちの言動に敏感になりネガティブに解釈するという困難を抱えることになります。
1-3.発達性トラウマ障害(Developmental Trauma Disorder:DTD)とは
発達性トラウマとは診断名ではなく、また一般にはまだよく知られていない概念です。
この発達性トラウマ障害とは、養育環境での慢性的な対人トラウマや愛着トラウマが原因となり、心の発達そのものに影響が及ぶ状態を指します。
発達性トラウマ障害の特徴は、いわゆる「発達障害」と重なる部分が多々あります。
しかし、発達障害と異なり発達性トラウマは成育歴における逆境体験が原因となっているため、臨床的には区別して判断し対処することが求められます。
その発達性トラウマ障害の特徴は以下の3つの領域に現れます
(Ⅰ)感情・身体の調整困難
これはイメージしやすいように具体例をお伝えしますね。
✔刺激に対する過敏な反応(そして刺激に対するネガティブな解釈)
✔怒りや涙が止まらない・コントロールできない
✔感情が空白になり「何も感じられない状態となる
✔身体症状(頭痛・疲労感・解離・睡眠障害)として現れる
これは脳の神経系が今まで「安心」というものを経験していなかったがゆえに、慢性的に警戒モードになっていることから生じます。
(Ⅱ)対人関係・自己イメージの困難
これは多くの方にとって最も大きな困りごとになるものです。
というのは、これによって社会的な活動だけでなく、パートナーシップにも影響を与えるからです。
では、具体例を見ていきましょう。
✔人が怖いのに、孤独には耐えられない
✔相手を信じていいかわからない
✔過度な依存か過度な回避に偏りやすい
✔自分には価値がないと感じやすい
✔自己否定的思考が慢性的に存在する
こうした問題が生じる要因は、成育の中で「安心して他者と繋がる体験」が育まれなかったことが大きく影響しています。
(Ⅲ)行動・学習の困難
これは発達障害と混合されやすいのですが、発生する要因が別なので、個別的な対応が求められるものです。
具体的には以下の通りです。
✔衝動的な行動が出る
✔注意が散漫になりやすい
✔習慣づくりや継続が難しい
✔自己管理や生活の維持が負担になる
つまり、発達性トラウマ障害の方は、単純に「過去に傷ついた」ではなく、「発達の土台」となる部分がトラウマの影響を大きく受けた結果と言えます。
1-4.なぜ成人期まで影響が残るのか?
上記の内容を踏まえると、対人トラウマと愛着トラウマの影響は次のようにまとめることができるでしょう。
幼少期・思春期の対人トラウマと愛着トラウマは、後のPTSDや発達性トラウマ障害のリスクを大きく高め、さらに成人期の生活機能にも影響を及ぼす
発達性トラウマの影響は深刻なのですが、その背景には成育歴の対人トラウマや愛着トラウマが存在しています。
これが結果的に成人期にまで持ち越される理由なんですね。
2. 安心できる場所を持てなかった方の苦しみ~研究論文より~

この研究では、多数の児童・青年を対象に「どんなトラウマ・愛着経験があるか」を測定し、PTSDおよび発達性トラウマの発症につながる要因を分析しました。
そして、主な結果として次のものが浮かび上がってきました。
①対人トラウマだけでなく、愛着トラウマ(養育者との繰り返しの断絶や無視、虐待)も発達性トラウマ障害を予測する有意な要因であった。
②「対人+愛着」の複合経験がある方ほど、症状・機能低下ともに重篤化していた。
つまり、「安全な拠り所(安心できる関係・場)」を持てなかったまま育ったということが、心と身体に長期間にわたって影響を与え続ける傷を残すということです。
また成人期においては、これが次のような形で現れることがあります
✔対人関係が不安定(人を信じづらい・裏切られやすく感じる)
✔情緒が乱れやすい(怒り・悲しみ・浮き沈みが激しい)
✔生活機能が上手く回らない(仕事・学校・家庭の維持が難しい)
このように、「養育期における関係性の傷」は、現在の生活そのものを支えるチカラを弱めてしまうという側面もあるのです。
3. セルフケアとしてできること

もしも、過去の経験から「常に不安を感じ続けている」「人との関係が苦しい感覚」を抱えているのなら、まず知っていただきたいことがあります。
それは、変化は少しずつ起きていく、起こしていける、ということです。
確かに発達性トラウマ障害を抱えながら生きることは、とても大変なことです。
しかし、回復への道はちゃんとあります。
そこで、ここでは日常生活で実践できるセルフケアの視点をまとめました。
手の付けやすいカンタンなものから、無理なく試してみてください。
視点1:安心できる「場所や人」を見つける
トラウマや愛着の傷があると、「どこにも安心できる場所がない」と感じやすくなります。
つまり、通常あるべき当たり前の「安心感」を感じることができないということです。
そのため、次の問いを静かに自分へ向けてみましょう。
✔どこなら少し呼吸が楽になるだろう?
✔誰の前なら、気を張りすぎずにいられただろう?
✔どんな状況だったらリラックスできるだろう?
それは人ではなく、カフェや自然、香りや音楽でも全く問題ありません。
大切なのは、「安全基地」をまずはちゃんと作ることです。
そのため「安全基地」をまずは確保しましょう。
そして可能であれば複数の「安全基地」を確保してください。
安全基地を見つけることは、セルフケアの大切な入口です。
視点2:できないこと=欠点ではなく、「機能の負荷」と理解する
人前が苦手だったり疲れやすい、あるいは刺激は人の言葉にすぐに過剰に反応してしまう…
これらは発達性トラウマ障害の影響であり、自分自身を責める必要はありません。
こうした心と身体の反応は、過去の環境を生き抜くために必要だったのです。
そこで、次のように言葉を置き換えてみましょう。
「私はダメ」→「今は機能が疲れている」
「弱いからこうなる」→「負担が大きかったから反応している」
つまり、抱えている問題を「機能に負荷がかかってしまっている状態」と見立てるんですね。
この視点の転換は、自己否定ではなく自己理解へつながりますので、セルフケアを続けやすくします。
視点3:小さな回復体験を積み重ねる
変化は、一気に起きるものではありませんし、急激な変化は逆に心理的なストレスになってしまいます。
そのため、小さな回復体験の積み重ねを大切にすることが、大きな変化の土台になります。
例えば…
✔信頼できる人に、ちょっとしたSNSのメッセージを送ってみる
✔感情がネガティブな方向に動いたとき、「今、不安なんだな」と言葉にしてみる
✔生活の中で、ひとつだけ習慣を整えてみる(睡眠・食事・散歩)
ここでは、完璧さを決して求めないでください。
取り組んでいる中で、中断してしまったり止まってしまうことも当然あります。
たとえそうしたことが発生しても、そして取り組んでいるものが小さなものでも、それは回復へと繋がっていきます。
さいごに
いま抱えている生きづらさは、決して偶然ではなく、過去の経験の負の産物です。
しかし過去がどうであれそれを乗り越えるチカラがちゃんとあることを、どうか忘れないでください。
もし途中で疲れたときは、その時は立ち止まって休みましょう。
ゆっくり、自分自身のペースで進んでいけばよいのです。
その積み重ねが、未来の安心と回復につながっていきます。
参考論文
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こころのケア心理カウンセリングRoom
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電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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