なぜADHDでは不安が起きやすいのか~感情のコントロールとセルフケアの視点から~
2025/12/05
みなさん、こんにちは。
神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
ADHDの診断を受けていたり、あるいはその可能性を考えておられる方なら、いつも頭が散らかっている、あるいは集中できない、忘れ物が多く時間の管理が難しい、という困りごとを抱えておられるのではないでしょうか?
しかし、心理カウンセリングを通してADHDの方と接していると、先述した経験とともに、不安感や抑うつを抱えている方も珍しくありません。
実際、近年の臨床研究ではADHDの特性と「不安・抑うつなどの心理的不調」が併存する割合が高く、その背景にあるのが「情動調整の困難さ」であることが示されています。
そこで、このブログでは、なぜADHDのある方が「不安や心の揺れやすさ」を感じやすいのか、そして「その辛さとどう向き合い、少しずつ軽くしていけるのか」というテーマをシェアしたいと思います。
1.ADHDと不安・情動調整の関係
では、ADHDの方が不安等を感じやすいメカニズムを、研究論文から読み解いていきましょう
1-1.ADHDと不安の併存の多さ
ADHD(注意欠如・多動性障害)は「不注意」「多動性」「衝動性」といった行動面の特性で知られています。
しかし臨床研究では上記の行動特性だけでなく情動面の困難(不安・抑うつ・情動不安定)を併せ持つケースが非常に多いことが繰り返し報告されています。
2017年の臨床研究では、成人ADHDの25%前後が不安障害を併存していると報告されました。
これは「4人に1人が不安を抱えている」という非常に高い割合です。
さらに重要なのは、この併存がADHDの核心にある神経心理学的特性が不安を高める方向に作用している可能性が高いという点です。
少しマニアックな内容で恐縮ですが、研究では次のような関係性が指摘されています
✔ADHD特性の一部は「予測不能な状況への脆弱性」を高める
✔多動性・衝動性は「危険予測の難しさ」「後悔・自己否定」を生みやすい
✔不注意特性は「失敗体験の蓄積」や「自己評価の低下」につながり、不安の温床になりうる
そして何より重要なのが、論文で強調されている以下の点です。
ADHDと不安をつなぐ「カギ」は、情動調整能力の困難さである
つまり、不安の併存は感情処理の神経メカニズムの特性とADHDの本質的特性が相互に影響する結果と考えられているんですね。
1-2.感覚刺激への過敏さと情動の揺れ
論文では、不安障害を併存するADHDの特徴として、「感覚刺激(光・音・人間関係・雑音など)への高い反応性」が指摘されています。
補足研究でも、ADHDと感覚処理の異常には明確な関連性があり、日常の刺激が予想以上に強く感じられたり、感覚刺激の変化に適応しづらいという特性。
また刺激の多い環境で強いストレス反応が生じやすく、刺激の「予測不能性」に対して過剰反応しやすい、といった傾向が報告されています。
これにより、以下の心理的プロセスが生まれます
✔外部刺激への過敏反応
→音が気になる、光が苦手、人の気配に疲れやすい
✔生理的ストレス反応の活性化
→落ち着かない、緊張が続く、心拍が早まる
✔情動状態が不安定になる
→イライラ、混乱、不安の高まり
✔感情を整理しにくくなる(情動調整困難)
→気持ちがうまく切り替えられない
→不安・抑うつの慢性化
このように…
外側の刺激に敏感
↓ ↓ ↓
内側の情動が揺れやすい
↓ ↓ ↓
感情調整が困難
↓ ↓ ↓
不安の慢性化
…というメカニズムが、研究によって明確になってきました。
1-3.ADHDの不安は「後からつく」ものではなく「構造的に生じやすい」
少しややこしい内容ですが、研究は次の重要な点を示しています。
まず、ADHDの脳機能特性(前頭前皮質の働き・実行機能の弱さ)は感情調整と密接に関連しているということです。
つまり、ADHDの脳の特性が感情調節に影響を与えているという事なんですね。
そうした背景があるため、研究では情動調整困難をADHDの「二次症状」ではなく、主要症状として位置づけるべき、と提唱しています。
つまり、従来考えられていた多動性や不注意等によって代表されるADHDの特性の中に、情動調節困難、つまり不安といったネガティブな感情に巻き込まれやすいというものも、主要な症状として位置付ける必要性があるとしています。
また、ADHDの情動調整困難は、感情・行動・不安は相互に影響し循環しやすい、つまり悪循環を生じやすいことも明らかにされています。
これらをまとめるとADHDでは、もともと「情動を感じ取り、整え、コントロールする」チカラそのものが揺らぎやすい、ということが言えるんですね。
そのため、不安が「脳の特性上、自然に発生しやすい構造」を持っているということが言えるでしょう。
また、「気にしすぎる」「心配性」という性格の問題では決してないため、周囲の理解不足により自己否定が強まりやすくなる、といった問題が現れやすくなります。
この「構造的な脆弱性」を理解することで、ADHD当事者の苦しみを科学的な視点に転換することができるため、ADHDを抱えるご本人も周囲の方も、ADHDを正しく理解することができるようになるでしょう。
1-4.そもそも、ADHDの不安・抑うつの背景にある「情動調整の困難」とは何か
少し話が前後しますが、ADHDの方が持つ上等調整の困難とはそもそも何なのか、ということを考えてみたいと思います。
論文では、情動調整困難の特徴を次のように整理しています
✔感情の強度を調整できない
→気持ちが一度高まると落ち着くまでに時間がかかる。
✔感情の切り替えが難しい
→新しい状況への移行が困難で、気分の負のループに入りやすい。
✔感情の「意味づけ」が苦手
→「なぜ今こう感じているのか」という自分の中で生じた感情の因果関係がわからず混乱する。
✔衝動的に反応してしまう
→焦り・怒り・不安が行動に直結しやすい。
✔ストレス耐性が低くなる
→小さな刺激でも負荷が大きく感じられる。
これらはADHDの特性と密接に絡んでいるため、どうしても不安や抑うつが慢性的に続きやすいという心の構造が形成されやすくなってしまいます。
2.自分でできるセルフヘルプ~感情の扱い方を育てるには?~

先述したように、ADHDの場合、不安等のネガティブな感情は「自然発生的」に生じる傾向があります。
そのため、不安が強いときや気持ちが揺れやすいときに「どう対応したらよいのだろう?」と考える場面も多いかと思います。
そのため、ここでは情動調整を助けるために「今日からできる小さな実践”」をまとめています。
2-1.「いま何を感じているのか」を言葉にしてみる
不安やモヤモヤは、はっきりした形を持たずに突然押し寄せてくることが珍しくありません。
そうした時は、次のように「感情に名前をつける(ラベリングをする)」というアプローチをしてみてください。
「今、胸がざわざわしているな」→「これはもしかして不安かもしれない」「ちょっとイライラしてるかも」
ただ言葉にするだけなのですが、これで気持ちが整理され始め、曖昧な苦しさが 「扱えるもの」 に変わっていきます。
感情は、見える化されると落ち着きやすくなる性質を持っています。
そのため、まずは「名前を付ける(ラベリングをする)ことで感情を明確化する」ことが大切です。
2-2.感情を否定せず、そのまま受け止める
私たちはついネガティブな感情そのものを「感じるべきでないもの」として否定しようとしてしまいます。
しかし、そうした方法はネガティブな感情を持っている自分を責めることにつながりやすくなります。
また、感情を押し込めるほど、心の負担は大きくなっていくんですね。
そのため、否定する代わりに、こんなふうに言ってみてください。
✔「こんな気持ちになるのも無理はないよね」
✔「今日はつらいんだな。仕方ない」
このようにネガティブな感情を認めることは、心を安定させるための大事な行動です。
否定せずに、あえて受けとめるという対処は、逆説的ですが感情の波を静める効果を持っています。
2-3.刺激を調整して「心が落ち着きやすい環境」をつくる
ADHD傾向のある方は、刺激(音・光・人の多さなど)に敏感なため、日常のちょっとした環境でも気持ちが揺さぶられ、それによって不安定化する傾向があります。
そのため、次のような環境に対する工夫が、不安や疲れを和らげる助けになります。
✔静かな場所で過ごす時間をつくる
✔強い音や明るすぎる光を避ける
✔休息と作業のバランスを意識する
環境が私たちに与える影響は、実は想像以上に大きいものです。
そのため、環境を整え刺激を抑えることは優先するべき心を守るためのセルフケアといえるでしょう。
2-4. 感情を扱うスキルを少しずつ身につける
情動調整は「習慣化で身につくスキル」であり、努力をするというよりも、やりやすいレベルのものから継続的に行うのが有効です。
つまり、小さな習慣から始めると、気持ちの揺れが徐々に扱いやすくなるんですね。
情動調整、つまり感情と「上手に付き合う」方法をざっと挙げると、以下のようなものがあります。
✔深く息を吸い、ゆっくり吐く
✔手足や身体の感覚に意識を向ける
✔自分に対してやさしい言葉をかける
✔感情をノートに書き出して整理する
こうした行動は、心が揺れたときの「拠りどころ」になります。
もしかしたら、すぐに変化は出ないかもしれません。
しかし、続けることで確かな土台が育っていきます。
2-5.つらさが長引くときは、一人で抱え込まない
セルフヘルプはとても効果的ですが、不安や落ち込みが続くとき、感情の揺れが激しく生活に影響しているときは、誰かと一緒に扱うことも選択肢に入れておくことが大切です。
というのは、一人ではどうすることもできないという場面が生じる場合もあるからです。
そのため、例えば心理カウンセラーや気持ちを共有できる友人や家族と繋がるということは、心の回復を支える大切な選択といえます。
サポートを受けることで、自分では気づけなかった視点が得られ、回復のスピードが上がることも期待できます。
最後に
今まで見てきたように、ADHDの特性がある場合、感情が揺れやすかったり、不安が強く出たりするのは自然なことです。
しかしそれは、「ADHDという『欠点』の現れ」という意味ではありません。
そのため、少々ドライな表現ですが、感情との付き合い方をこれから育てていけばいいだけのこと、と言えるでしょう。
環境を整え、感情に気づき、少しずつ扱う練習をしていくことで、心は確実に安定しやすくなっていきます。
セルフヘルプは、自分自身のペースで進められる、心を守るための大切な道具です。
できる日もできない日も当然ありますが、継続が何よりも大切です。
そのため、今日できる小さな一歩から始めてみてくださいね。
参考論文
ADHD and Anxiety: Clinical Significance and Treatment Implications
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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