「自傷行為に隠れた苦しみ~精神障害・パーソナリティ障害とそのケア~
2025/12/09
みなさん、こんにちは。
神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
リストカット等の自傷行為は、心の痛みを言葉にできない時、あるいは言葉では救われないと思えるときに、体を通じて「なんとかしようとする行動」と言えるでしょう。
しかし、こうした行動の背後には、しばしば「心の病」や「人格の構造に関わる問題」が隠れています。
臨床研究では、リストカットをはじめとする自傷を経験する方の多くに、診断可能な心の病やパーソナリティ上の問題が見られる、という事実が示されています。
そこで、このブログでは、2001年に発表されたHaw C, Hawton K, Houston K, Townsend E (2001)の研究結果を踏まえながら、「なぜ自傷が起きるのか」「どのような診断が関係するのか」「支えの手がかりはあるのか」という内容をシェアしたいと思います。
1.自傷行為とは~まずは定義から~

自傷行為(deliberate self-harm; DSH)という言葉はリストカットを想像される方も多いと思います。
しかし、自傷行為には一般的に想像される以上に広い意味があります。
そのため、今回参考にする研究で扱われる自傷とは、「自分自身に意図的な損傷を与える行為」 として位置づけられています。
これは、リストカットや切創といった分かりやすい行動だけではなく、別の行為も自傷行為として扱われることになります
具体的に自傷行為には、多様な方法・形態が存在し、以下のようなものが含まれます
1-1.様々な自傷行為の種類
● 切る・傷つける行為
✔リストカット(手首を切る)
✔腕や脚を刃物や鋭利なもので傷つける
✔皮膚を掻き壊す、引き裂く
✔熱いもので皮膚を焼く(熱傷)
● 満腹薬・薬物を過量に摂取する
✔鎮痛薬・睡眠薬の過量摂取
✔薬の誤用による自傷的な身体負荷
つまり、「身体を傷つける」という意図のある行為であれば、それは自傷に含まれます。
● 身体を危険にさらす行為
✔自ら転倒・衝突を誘発する
✔故意に高所・交通に近づく
✔極端な拒食や嘔吐を繰り返す(身体を損なう目的がある場合)
● 一見「自傷」とわかりにくい行動
自傷は必ずしも「見える傷」を伴うとは限りません。
例えば…
✔爪をむしり続けて出血させる
✔傷が治らないように繰り返し触る
✔皮膚を噛む
✔過度に自分を叩く・殴る
こうした行動も、本人が「意図的に身体を傷つけている」という意味では自傷の範囲に含まれます。
1-2.自傷は「最悪の結果を招く」という意志だけでは説明できない
自傷行為を見ると「最悪の結果を招こうとしている」思われがちですが、実際には、それよりも広く、ニュアンスも異なります。
つまり行為の動機が違うんですね。
そして、自傷の動機には以下のようなものがあります
✔生きづらさから逃れたい
✔圧倒的な感情を一時的に落ち着かせたい
✔頭の中の混乱を何とか鎮静化したい
✔自分の存在を確認したい
✔内側の痛みを外側に「置き換えたい」
✔誰かに気づいてほしい(必ずしも操作的意図ではなく、心のSOSという意図)
✔感情を言語化できない苦しさを表現したい
つまり自傷とは「最悪の結果を生じさせたい」という動機ではなく、「苦痛をどうにかして乗り越えようとする試み」として行われることが多いんですね。
この観点を理解することで、自傷を単なる「危険な行為」だけで終わらせず、「なぜその行動が必要だったのか」という心理的背景に目を向けることがで着るようになります。
1-3.背景は単純ではない~心理的要因が多層的に絡む~
この定義を前提とすると、自傷行為は以下に挙げるものが多層的に重なって生じているということと理解できることになります。
✔感情調整の困難さ
✔トラウマ歴
✔対人関係の不安
✔人格の傾向(境界性、回避性など)
✔抑うつ・不安などの精神状態
✔自己肯定感の低下
✔認知の歪み(自分は価値がない、など)
✔孤立感・見捨てられ不安
✔過剰なストレスや環境的困難
…こうやっていると、本当に多種多様ですよね。
このように自傷行為とは単一の理由で説明できるものではなく、「その人の心の歴史」「知覚の仕方」「対処方法」「環境」などが積み重なった結果」として理解する必要があります。
1-3.なぜ「自傷の多様性」を知る必要があるのか
これまで見てきたように、自傷行為はリストカットに限らず、その方法は多種多様です。
このように自傷行為が多様性を持つ理由は二つあります。
(1)本人が「自分の行動に名前をつけられる」
多くの方は、自傷の定義を狭く捉えてしまいがちです。
しかし、その結果「切っていないから自傷ではない」「私はただ叩いているだけ」「爪をむしっているだけ」など、自分の行動を過小評価したり、逆に悪化させてしまう場合があります。
ただ、そうした理解でとどまってしまうと適切なケアに結びつきにくくなります。
そのため、自傷行為に対する正しい理解は、周囲や本人の気づきとケアの第一歩になります。
(2)周囲が「責めずに理解できる」
自傷行為のケアで必要となるのは、「その行為の理由を問うのではなく、背景にある苦しみを理解する」という姿勢です。
「どうしてそんなことをするの?」という問いかけは、自傷行為をしているご本人にとっては責められているという印象を持ってしまいます。
それよりも「どんな苦しさがあったの?」と問うことで、適切な支援の姿勢に視点を変えることができます。
このように自傷の多様性を知ることは、ご本人の痛みに名前を与え、孤独を減らすことにつながるという意味で重要です。
2.なぜ自傷と心の病やパーソナリティ障害は関係するのか~背景にある心理構造~

この研究では、自傷行為が「心の病」や「人格障害」と高い割合で併存することが調査によって示されています。
そして、その背景には、単なる気分の落ち込みや一時的な衝動以上の、心理構造的な脆弱性が存在することが示唆されています。
そこで、ここでは、その主要な要因を臨床的視点から詳しく解説します。
2-1.研究結果より~自傷行為の背景にある「見えにくい心の病」~
まずは、少々マニアックですが研究結果から自傷行為と心の病の関係についてみていきましょう。
この研究では、故意に自分を傷つけてしまった方(自傷行為で病院に運ばれた方)150名を詳しく調べています。
その結果、次のような重要な特徴が明らかになりました。
(1)9割以上の方に、何らかの精神疾患があった
調査対象のうち 92% の方が、うつ病・不安・アルコール問題など、何らかの精神疾患を抱えているという結果になりました。
特に多かったのは うつ病(72%) で、ここからほとんどの人が深い落ち込みや絶望感と戦っていたことが分かります。
(2)約半数は「複数の問題」が重なっていた
こうした自傷行為と心の病の関係は1つだけでなく、あくまでも例えばですが
✔うつ病+アルコール問題
✔不安障害+摂食の問題
等々の、2つ以上の心の病が同時に起きている方が46%いました。
つまり、症状が重なり合うことで、本人が抱える苦しさはさらに大きくなることが想像できます。
(3)パーソナリティ(性格の特徴)の問題は約半数にみられた
1年後の追跡調査では45%の人にパーソナリティ障害が確認されました。
「パーソナリティ障害」という言葉は誤解されやすいですが、ここでは人間関係が不安定になりやすい、感情が大きく揺れやすい、自己否定が強い、など「生きづらさのパターン」が強い状態とお考え下さい。
ここから、疾患とは別に、こうした「生きづらさの傾向」が自傷行為の背景にあるケースも多いことが分かります。
(4)精神疾患とパーソナリティの問題は重なりやすい
調査結果では、精神疾患とパーソナリティ障害の両方がある人は 44%にのぼることが分かりました。
つまり…
心の病気(うつ・不安・依存)による苦しさ+生きづらさのパターン
の二重の負担を抱えている方が多いということが、ここから言えるでしょう。
2-2.感情のコントロールや調整が難しい(情動調整困難)
人格障害、とくに境界性パーソナリティ障害(BPD)をはじめとする多くの心の病では、感情の起伏が大きく、持続しやすく、調整が難しい という特徴が認められます。
この「情動調整の困難さ」は、自傷行為と強く関連するとされています。
● なぜ情動調整の困難が自傷につながるのか
自傷行為を抱えている方の多くは、激しい怒りや不安、悲しみに圧倒されたり、感情の高まりによって思考がまとまらなくなるという経験にさらされています。
また上記の理由から、感情が「耐えられないもの」「圧倒的なもの」と感じられてしまい、内側の混乱をすぐにどうにかしたくなる、という衝動が強くなります。
その結果、身体に痛みを与えることで精神的苦痛をリセットしようとしたり、外側の痛みで内側の痛みを上書きして一瞬でも落ち着こうとする、という心理メカニズムが働いてしまいます
このような状態が限界に達したとき、その痛みを「自傷」という形で表れてしてしまうんですね。
これは単なる気持ちの問題ではなく、感情制御機能の脆弱さに根ざした現象と言えるでしょう。
2-3.慢性的な内的苦痛と自己肯定感の低さ
この研究では、自傷行為を行う当事者の多くに、慢性的な自己否定感や深い内的苦痛が存在することが示されています。
つまり、心の病やパーソナリティ障害(人格障害)を抱えているがゆえに、自分には価値がないと感じやすくなったり、生きる意味や存在価値が見えなくなる、と言った問題を抱えるようになります。
また過去の失敗や人間関係の葛藤を抱え込みやすく、自責的・悲観的な思考が習慣化しやすいという傾向も持っておられます。
そして、このような状態が続くと「自分を傷つけることが当然だ」「苦しみは当然だ」といった歪んだ自己像が形成されることに繋がります。
2-4.なぜこれが自傷につながるのか
今まで紹介した要素は、心の病やパーソナリティ障害を抱えている方であれば、大なり小なり体験するものです。
しかし、それが自傷行為に結びつく理由として、「この苦しみを外側に出したい」「痛みを感じると、自分の存在が確認できる」このような内的対話が、自傷という行動を支える心理的土台になることがあります。
これは決して「注意を引きたいから」ではなく(もちろん、そうしたケースもありますが)、深い痛みと葛藤の中で見つけた唯一の対処法である場合が多いのです。
2-5. 対人関係や環境の不安定さ(人間関係の脆弱性)
パーソナリティ障害、とくに情緒不安定なパーソナリティでは、対人関係が極端に近くなったり、突然遠くなったりする「不安定な関係パターン」 を持つという特徴的な性質を持っているケースが珍しくありません。
具体的には見捨てられる不安が強かったり、過剰に相手に依存し、同時に相手を拒絶するという対人関係の不安定さ、そして対人関係でちょっとした誤解や摩擦が大きな傷になる、という感情の揺れを大きく感じるという傾向があります。
そして、そのような関係の揺れは「自分には居場所がない」「誰にも受け入れてもらえない」「助けを求めても届かない」といった深い孤立感に基づくものが珍しくありません。
2-6.そして、自傷が「破滅的なコミュニケーション」になる
研究では、自傷行為が次のような役割を果たすことも指摘されています
つまり、内面の苦痛を他者に「見える形」で示すが助けを求めたいけれど言葉にできない、そして捨てられたくないという強い不安の表現、というものです。
これは、「対人関係の操作」ではなく、適切に言語化できないままの痛みによる行動化である点が重要です。
2-7. 衝動性と苦痛耐性の弱さ
自傷行為は、しばしば 「事象でしか可決できない」という認知(考え)を生じさせます。
また心の病やパーソナリティ障害の方の中には、衝動性が高い特徴を持っている方も珍しくありません。
「気が付いたら自傷をしていた」という行為が典型例です
その背景には苦痛が高まるとすぐに反応してしまったり、不快感に耐え続けることが難しい、あるいは感情が高ぶると行動の抑制が効かなくなる、という傾向があります。
2-8.衝動性は「脳が持つ機能」
こうした衝動性は、前頭前皮質の働きや脳の情動制御機能と関連しており、心の病の方やパーソナリティ障害の方に伴う神経心理学的な特徴として説明されます。
つまり、自傷とは「耐えられない苦痛を、衝動的に止めようとした結果」として起きる場合が多いのです。
ただし、感情に圧倒されたときに、意識的かつ計画的に自傷行為に及んでしまうというケースも珍しくないという点は注意が必要です。
3.なぜ自傷行為への理解が重要なのか~ケアの視点より~
自傷行為に向き合うとき、多くの方は自分を傷つける行為に対して当惑を感じる方が珍しくありません。
確かに、自分に苦痛を与える行為が理解しがたいのは事実です。
しかし、このような「理解できなさ」から進んでいくと当事者の苦しみを正しく理解することを妨げ、むしろ傷つけてしまうことさえあります。
そのため研究や臨床の現場が示しているのは、次のような大切な事実です。
3-1.自傷を「行動」ではなく「心理的な苦痛の表現」として理解する
自傷は単なる問題行動ではなく、心の深いレベルにある精神的・人格的な困難と密接に関連する行為です。
つまり自傷を抱える多くの当事者は、どうしていいかわからない苦しさ、耐えがたい感情、孤立感、自己否定などを抱えています。
そして、その負荷に耐えきれない「瞬間」や「状況」において自傷という手段を選んでしまうのです。
3-2.多くのケースで、背景には「診断可能な心の痛み」がある
研究では、自傷をする人の多くにはうつや不安、トラウマ関連症状、パーソナリティなど、診断可能な精神的苦痛が存在することが示されています。
つまり、自傷は心の状態に対する「サイン」なんですね。
3-3.理解のなさ、苦しみを深める
自傷は誤解されやすく、またその行為は理解されにくいという性質を持っています。
しかし、誤解や理解のなさは当事者をさらに孤立に追い込み、「誰にも理解されない」という絶望感を強め、むしろ自傷が悪化する可能性があります。
3-4.だからこそ、「理解」 がケアになる
そうした背景から、自傷行為については…
✔「なぜそれほど苦しかったのか」
✔「何が心の限界を超えてしまったのか」
✔「今、どうやって支えればよいのか」
という、こうした問いに目を向けることこそが、ケアの第一歩となります。
理解が深まることで、適切な支援につながり、安心して感情を語れる関係が生まれます。
そして同時に回復のための選択肢も広がっていきます。
つまり、「理解そのものがケアの一部」となる のです。
そしてケアとしての姿勢は、まずは理解しそして「寄り添う」ことが大切です。
自傷行為に悩む人を支援するときに大切なのは、「やめさせること」ではなく、それ以前に苦しみの背景にある痛みを見つけ、支えることです。
つまり、自傷の理解は、「どうしてこんなことをするの?」から「どれほどつらかったのだろう?」という視点の転換が大切です。
これこそが、当事者が孤独から解放され、回復に向けて動き出すための土台になっていきます。
参考論文
Psychiatric and personality disorders in deliberate self-harm patients
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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