大人のASD(自閉スペクトラム症・アスペルガー)とは?~「カモフラージュ」と「スティミング」から心の負担を読み解く~
2025/12/13
みなさん、こんにちは。
神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
自閉症スペクトラム症(アスペルガー障害)を抱えている方は、特有の生きづらさを感じておられます。
「人付き合いがとても疲れる」
「雑談が苦手で、職場の人間関係に入り込まない」
「音や光で一気に消耗する」
自閉症スペクトラム症の方は、こうした悩みを抱えながらも、周囲からは「普通に見えるための努力」を重ね、ひとりで抱え込んでしまう方が少なくありません。
そして成人期の自閉スペクトラム症は、子どもの頃からの特性が土台にありつつ、社会・仕事・パートナーシップという現実の中で課題が強まり、初めて「これはASDの特性かもしれない」と気づくケースも珍しくありません。
自閉症スペクトラム症か否かについては、自己判断を行うべきものではありませんし、また周囲の方に対して安易に自閉症スペクトラムだと決めつけるのも問題があります(ウェブサイトにあるチェックリスト等は参考『程度』にすることが妥当です)
実際、自閉症スペクトラム症か否かを正式に診断できるのは医師のみであり、また厳密に言うとA-ASDやAQといったスクリーニング検査を行い判断されます。
ただ、自閉症スペクトラムの方がどのようなものか、そしてどのような症状を持ち、そして対処が必要なのかを理解することは、当事者の生きづらさを解決するうえでとても大切です。
そこでこのブログでは、成人期ASDについて、今回参照する論文を整理しつつ重要ポイントをシェアしたいと思います。
1.成人期自閉症スペクトラムの有病率と社会的影響

まずは自閉症スペクトラムの影響についてみていきたいと思います。
1-1.有病率:世界的には「生涯有病率約1%」が目安
今回参照にした論文では、自閉スペクトラム症(ASD)の世界的な生涯有病率はおおよそ1%前後とされています。
これは小児期・青年期・成人期を通じた推定値であり、近年の疫学研究の総合的な見解と一致しています。
ただ重要なのは、この数値が「1%という、ごくまれな障害」ではなく、社会の中に一定数、安定して抱えている方が存在する特性であることを示している点です。
また一方で、成人期自閉症スペクトラムの実際の有病率は、報告値より高い可能性があるということも論文では示唆されています。
実際に私自身の臨床でも、うつ病や不安障害、適応障害、そしてパーソナリティ特性の問題として捉えられてきたが、しかし人になってから自閉症スペクトラムの特性が背景にあると気づかれるケースは珍しくありません。
1-2.社会的影響~仕事・対人関係に長期的な制限が生じやすい~
論文は、成人期の自閉症スペクトラムが社会参加の様々な領域に対して、長期的な影響を及ぼしやすいことを強調しています。
特に影響が大きいとされるのが…
✔就労・キャリア形成
✔職場での人間関係
✔親密な対人関係(パートナー・友人)
✔社会的自立の維持
…といった領域です。
私たちが社会で生活するうえでは暗黙のルールが多かったり、素早い判断が求められたり、そして環境的な感覚刺激が多く、集団内での同調が前提となる、というものがあります。
これらは私たちが生きる現代社会の構造なのですが、この構造が自閉症スペクトラムの特性とミスマッチを起こしやすいことが、凶器にわたるネガティブな影響の背景要因として示唆されています。
1-3.「能力の問題」ではなく「環境との相互作用」の問題
これは最も強調したいところなのですが、「成人期の自閉症スペクトラムの社会的困難は、能力不足や努力不足の結果ではない」という点です。
自閉症スペクトラムの特性は、一対一の関係では比較的カバーされやすいという傾向がありますが、しかし一方で、集団場面(職場・会議・雑談・チーム作業)では困難が顕在化しやすい、ということが指摘されています。
これは、ルールが明示されていなかったり、当事者の方の役割が曖昧である、そして同時並行的なコミュニケーションに難があったり、感覚刺激に過剰になりやすいといった要素が重なることで、自閉症スペクトラムの特性を持つ方の認知・感覚負荷が一気に高まることが原因として考えられます。
そのため自閉症スペクトラムの方への支援は、「本人を変える」のではなく、「職場や社会環境、人間関係をを当事者の方に合わせて調整する必要性」があるんですね。
そもそも、自閉症スペクトラムというのは脳の特性ですので、ある程度はソーシャルスキル等によって補えますが、それでも限界はあります。
そのため当事者の方を取り巻く環境調整(ルールの明確化やコミュニケーションの工夫)が、長期的な社会参加を支える上で大切であると言えるでしょう。
2.成人の自閉症スペクトラムの主な症状
さて、ここからは自閉症スペクトラムの症状についてみていきたいと思います
こうした場合、主にDSM-Ⅴ-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル)が用いられるのですが、参考にしている論文ではICD-11(国際疾病分類)が用いられているので、ICD-11にそって解説したいと思います。
2-1.ICD-11の柱は2つ~「社会・コミュニケーション」と「限定的反復行動+感覚特性」~
ICD-11(国際疾病分類第11版)に基づくと、成人期の自閉症スペクトラムの症状を大きく2つの中核領域に整理されます。
ただ、これは「症状を2つに単純化する」という意味ではなく、成人期ASDの困難を構造的に理解するための枠組みとお考え下さい。
2-2.社会的相互作用/コミュニケーションの持続的な困難
成人期ASDでまず目立ちやすいのが、社会的相互作用とコミュニケーションの質に関わる困難です。
以下、その内容を詳しくみていきましょう
● 「社会的判断」が働きにくい
成人の自閉症スペクトラムの特徴として、状況に応じた振る舞いを「感覚的に判断」することが難しい、そして暗黙の了解や空気を読むことに負荷がかかる、といった点が挙げられます。
ただ、自閉症スペクトラムの方の特性として「共感がない」と語られることが多いのですが、実はそれは正しくはありません。
むしろ、ルールや意味を言語化・明示化されると理解しやすく、論理的・明示的な理解を得意とするという、社会的な認知特性の違いによるものです。
つまり、自閉症スペクトラムの方が捉える人間関係や社会と、一般の方が捉える人間関係や社会の「枠組み」が違うということなんですね。
ただ、こうした特性のために、会議や雑談で話をするタイミングの判断が難しかったり、その場の雰囲気が変わった理由が分からず戸惑ったり、相手の期待や意図が言語化されていないと対応が難しい、といった困りごとが生じやすくなります。
● 非言語サインの読み取りにくさ
先に上げた内容と少し重なりますが、自閉症スペクトラムの方の場合は非言語的なコミュニケーションに対しても困難を感じることが少なくありません。
具体的には…
✔表情の微妙な変化
✔視線や身振り
✔声のトーン
✔間(沈黙)の意味
…といった言葉以外の情報を統合的に理解することに負荷がかかりやすいとされています。
その結果、相手は冗談のつもりだったが、真剣に受け取ってしまったり、遠回しな表現や皮肉を字義通りに解釈してしまう、「察してほしい」コミュニケーションが成立しにくいといったズレが生じやすくなります。
● 言語理解の特徴:「字義通り」に受け取りやすい
成人のアスペルガー障害の言語理解の特徴として、比喩や曖昧な表現、暗示的な指示などを、を そのままの意味で解釈しやすい傾向が挙げられます。
ただ、これはマイナス面だけではなく、曖昧さを排除し一貫性や正確さを重視できるという強みの裏返しでもあります。
ただ職場や人間関係では、どうしても「適当にやっておいて」「いい感じでまとめて」といった曖昧な表現が頻出するため、具体的な困難として現れやすい領域になってしまいます。
2-3.限定的な興味・反復行動 +感覚特性
成人期の自閉症スペクトラムのもう一つの柱が、限定的・反復的な行動や興味、そして感覚特性です。
● 限定的な興味・反復行動
限定的な興味や反復行為とは、「特定の分野に強く集中する」「興味の範囲が比較的狭く、深い
日課や手順、秩序への強いこだわり」「変化への強いストレス反応」というものが挙げられます。
成人期ではこれが、専門性の高さや正確さ・継続力、そして集中力の持続といった強みとして機能することもあります。
しかしながら一方で、予定変更への強い不安、想定外の出来事へのパニック、ルーティンが崩れた際の消耗といったストレス要因にもなりやすいと論文は示唆しています。
● 反復運動(スティミングを含む)
反復的な身体運動(手指の動き、揺れ、関節を鳴らす等)は、成人期の自閉症スペクトラムでも重要な特徴として位置づけられています。
一見、意味のない行動に見えますが、実はこれらが不安や過覚醒の調整、感覚入力の制御、集中の維持といった自己調整機能を持つ可能性があることが示されています。
つまり、これらは自閉症スペクトラムの方特有の「クセ」ではなく、神経系を安定させるための行動として理解する必要があります。
2-4.感覚特性~過敏と鈍麻の両方があり得る~
成人期の自閉症スペクトラムにおいては、感覚特性が診断上も支援上も非常に重要という点です。
成人期の自閉症スペクトラムでは…
✔音(雑音、話し声、機械音)
✔光(蛍光灯、画面の明るさ)
✔触覚(衣類の素材、肌触り)
✔嗅覚・味覚
…などに強い過敏さが見られることがあります。
しかし、意外かもしれませんが一方で以下のものに対して鈍感な場合もあります。
✔痛み
✔温度変化
✔空腹や疲労感
この「過敏と鈍麻が同時に存在し得る」点が、本人にも周囲にも理解されにくい特徴であり、それがゆえに問題を抱え込んでしまう、あるいは気づかずに悪化してしまう要因となってしまいます。
2-5.感覚特性とストレスの関係を「同時に捉える」重要性
今回参照にした論文が示唆している重要なポイントは、成人期の自閉症スペクトラムの困難を「社会性の問題」だけで説明しないことです。
実際には、感覚過敏による疲労や環境刺激の蓄積、予定変更や曖昧さによるストレス等がが重なった結果として、社会的困難(対人疲労や衝突、キャリアやパートナーシップの問題)が表面化することが多いんですね。
そのため成人期支援では、どんな場面で感覚的に消耗するか、どの刺激がストレス反応を引き起こすか、そして、その結果対人行動にどう影響するかということを一体として理解・支援する視点が不可欠になります。
3.自閉症スペクトラム症とメンタルヘルス~カモフラージュ、スティミング、併存疾患との案系~

いつも私のブログは非常に長文なのですが、今回はちょっとチカラが入りすぎて長くなってしまいました(汗)。
ただ、成人期の自閉症スペクトラム症で外してはならないのが、「カモフラージュ」「スティミング」、そして併存疾患です。
上記の内容をできるだけ簡潔にお伝えしたいと思います。
3-1.カモフラージュ(Camouflaging)とは何か?~「普通に見せる努力」と心の負担~
カモフラージュとは、成人期ASDの人が社会的困難が目立たないようにするために用いる行動や認知的戦略を指します。
具体的には、反復行動(スティミング)を抑えたり、無理に視線を合わせる、定型的な会話フレーズを覚えて使ったり、感情や違和感を表に出さないという工夫が含まれます。
ここで大切なのは、カモフラージュは一概に「悪い適応」ではないということです。
実際にカモフラージュは、対人関係や就労、社会的排除を避けるために役立つ場合も珍しくなく、またある種のソーシャルスキルとして機能している面もあります。
しかし一方で、研究の多くでカモフラージュが強いほど、抑うつ・不安・ストレス知覚が高まるという関連が示されています。
臨床的には、人前では問題なく振る舞えるが、家に帰ると疲れて動けなくなったり、常に緊張を強いられる、といった形で、慢性的な疲弊や燃え尽きにつながりやすい点が問題になります。
そのため支援では、どの場面でカモフラージュが必要になっているか、そしてそれが本人を何から守っているのか、また代替となる、より負担の少ない適応が可能かどうかという点を一緒に整理することになります。
3-2.スティミングとは何か~「やめるべきクセ」ではなく自己調整~
スティミング(自己刺激行動)とは、手や指を動かす、関節を鳴らす、噛む、ハミングなどの反復的な身体・感覚行動を指します。
これらは以前は「減らすべき行動」と見なされがちでしたが、最近ではスティミングが強い感情(不安・高揚)の調整や落ち着きを取り戻す、さらに感覚過多による圧倒感を下げるといった 自己調整機能を持つことが示されています。
ただ、見落とされやすいのは、「周囲の目」による二重の負担です。
これは、スティミングに関連する行動は社会的に否定的に受け取られやすく、抑え込もうとすると、かえってストレスが増す可能性があるという問題があるんですね。
そのため、「これは落ち着くための行動だ」と周囲に機能を説明することで、理解を得ることができるようになり、その結果としてスティミングが改善したという報告もあります。
この場合の支援のポイントは、そのスティミングが「何を調整しているのか」を理解することから始まります。
そして必要に応じて、ご本人に合った「目立ちにくい自己調整法」を一緒に探すということを行います。
つまり、無条件に止めさせるべきことではない、という事なんですね。
3-3.成人期ASDに多い併存症~困りごとの入口は自閉症スペクトラム症の特性とは限らない~
成人期ASDでは、特性そのものに加えて、併存症によって生活のしんどさが大きくなるケースが非常に多いことが論文で示されています。
具体的には、頻度が高い併存症として…
✔うつ:30–70%
✔不安障害:45–56%
✔ADHD:約30%
…というものが示されています。
そのため、臨床的に重要になってくるのは、支援の入口が必ずしも「自閉症スペクトラム症の特性」とは限らない、という点です。
実際には、不安が強かったり、抑うつで動けない、あるいは注意の散りやすさから自己否定が強いといった主訴で相談に来らる方も珍しくありません。
そして、そうした症状の背景に自閉症スペクトラム症の特性があると後から分かるケースも、かなりあるんですね。
そのため、カウンセリングや心理療法では、「自閉症スペクトラム症かどうか」だけに焦点を当てるのではなく、今いちばん苦しい症状(不安・抑うつ・ストレス反応)を同時に扱うことが現実的かつ重要になります。
…さて、少々(いや、かなり)長くなってしまいましたが、自閉症スペクトラム症(アスペルガー)の臨床像をご紹介しました。
自閉症スペクトラム症は障害という位置づけよりも「特性」という位置づけの方が、より良いケアにつながっていきます。
ただ、自閉症スペクトラム症のケアは一人では大変です。
必要に応じて、医師や心理カウンセラーのチカラを借りながら、「生きやすい毎日」を目指してくださいね。
参考論文
Autism Spectrum Disorders in Adulthood—Symptoms, Diagnosis,and Treatment
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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