自閉スペクトラム症で「感情のコントロールが難しい」のはなぜ?
2025/12/27
みなさん、こんにちは。
神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
自閉症スペクトラム症(アスペルガー障害)と聞くと共感性の問題やこだわり行動を思い浮かべる方も多いと思いますが、それと同じくらいに重要なものは感情調節の難しさです。
そのため研究者たちは、自閉症スペクトラム症の多くの困りごとを理解する軸として「感情調節」という概念に注目しています。
感情調節とは、感情の強さや持続を(自動的に、あるいは意図的に)調整し、状況に合わせた行動や目標に沿った行動につなげる働きのことです。
自閉症スペクトラムの場合、この部分に難しさが生じることが珍しくありません。
そこでこのブログでは、Mazefskyらの研究論文をもとに、自閉症スペクトラム症における「感情の調整の難しさ」がどのように整理されているか、そして臨床・支援の現場で何がヒントになるかをお伝えしたいと思います。
1.自閉症スペクトラム症(アスペルガー障害)で「感情の調整」が問題になりやすい理由

先述しましたように、自閉症スペクトラム症は、「社会的コミュニケーションの特性(相手の意図の読み取りにくさ、やり取りの負荷など)」、そして「こだわり・反復行動」が中心症状として語られている場合がほとんどです。
しかし実際の臨床では「感情が高ぶったときに自分で落ち着かせるのが難しい」「気持ちの切り替えに時間がかかる」といった、「感情の調整」に関する困りごとを抱えている方が珍しくありません。
ここで言う感情調節とは、感情の強さや持続を自分なりに調整して、状況に合った行動を選べる状態に自分自身を近づける働き、と考えるとイメージしやすいかと思います。
しかし、この感情調節に難しさがあるため、自閉症スペクトラム症の当事者の方は、日常の中でストレスが重なると感情や行動の調節が難しくなり、以下のような状態に至ってしまいやすくなります。
✔易刺激性(いら立ち):些細な刺激で不快が強くなり、機嫌が急に崩れる
✔攻撃性:言葉や行動が強くなり、周囲との衝突が起きる
✔自傷:強い緊張や混乱の中で自分を傷つける行動が出る
✔不安:先の見通しが立たない状況で極端に不安が高まり、回避や固まりにつながる
✔衝動性:考える前に動いてしまい、あとで自分でも困ってしまう
こうした状態は、ストレス反応が一定の限界を超えたときに、いわゆる「メルトダウン(爆発的な混乱)」として語られることもあります。
メルトダウンは周囲の方から見ると突然起きたように見えるかもしれませんが、実際にはその前から緊張や不快が積み重なっていて、ある瞬間に一気にあふれ出てしまう、という形を取ることがあります。
このメルトダウンが生じると、ご本人も周囲の方も「何が引き金だったのか分からない」「止め方が分からない」という感覚になりやすく、対応が難しくなります。
そのため、支援の現場では、「目の前の困りごと(行動)」だけを単独で扱うのではなく、その背景にある感情の高ぶり・持続・切り替えの難しさという「調整の問題」として整理することが、理解と支援の出発点になりやすいと言えます。
つまり、単に感情的な言動そのものに対しての対処だけではなく、自分なりに感情の調整ができるように支援することが大切だ、という事なんですね。
2.「併存症」?それとも「感情調節の問題」?

ちょっと専門的なお話しになるのですが…
自閉症スペクトラム症の支援では、いわゆる「重ね着症候群」と呼ばれる状態が問題となる場合があります。
これは、「不安障害」「抑うつ」「双極性」「行為障害」など、別の診断が、まるで重ね着のように複数のものが併存している状態です。
これにたいして研究論文は、不適応な感情調整と精神疾患には相互関係にあるとしています。
つまり、感情調整の難しさが精神症状のリスクを高め、逆に精神症状が調整をさらに難しくするという悪循環があるという事です。
しかし注意が必要なのは、自閉症スペクトラム症の「見え方」が、他の診断の症状に似てしまい、「診断が過剰につきやすい(行動の意味が取り違えられやすい)」ということです。
実際、自閉症スペクトラム症の子どもは地域サンプルでも高率に併存診断が報告される一方、自閉症スペクトラム症の特性を踏まえて面接を調整すると、過去の診断の多くが支持されなかったという報告も紹介されています。
この視点は、支援上とても重要です。
自閉症スペクトラム症の症状を見ると、どうしても「診断名が増える」という傾向に至ってしまいます。
確かに、重ね着症候群のようにいくつもの併存疾患を抱えているという場合も珍しくなく、その可能性は否定するべきではありません。
しかし、その人の困りごとを一番シンプルに説明できる軸は何かを見立てた方が有効な支援につながる場合もあるということなんですね。
3.何が「感情の調整」を難しくしているのか

この研究では、自閉症スペクトラム症における感情調節の難しさを理解するために、要因を大きく2つに分けて整理しています。
1つは、不安や抑うつなど他の臨床群でも見られやすい「共有されやすい要因」。
もう1つは、自閉症スペクトラム症の認知特性や感覚特性など、より「自閉症スペクトラム症に結びつきやすい要因」です。
この2つの要素で捉えると、「同じ『感情の爆発』に見えても、背景が複数あり得る」ことが整理しやすくなります。
3-1共有されやすい要因~生理的覚醒(過覚醒)と感情の質~
自閉症スペクトラム症では次のような要素が絡むことで感情調節の難しさが関係し得ることとなります。
ざっと挙げますと…
✔ネガティブ感情が強く生じやすい・続きやすい(不快、怒り、不安、緊張などが高まりやすい)
✔過覚醒(生理的に高ぶりやすく、身体が『戦闘・逃走モード』に入りやすい)
✔ポジティブ感情が低い・立ち上がりにくい(安心や楽しい感覚が得にくい、回復の足場が弱くなる可能性)
ここでいう過覚醒は、気持ちの問題だけではなく、身体側の反応としても捉えた方が、より実情に合っていると言えます。
たとえば、当事者の方の中では、心拍が上がったり呼吸が浅くなる、そして筋肉がこわばったりします。
また、音や光が非常に強く感じるということも生じます。
こうした状態になると、「落ち着こうとしても身体が落ち着かない」状態になってしまいます。
また少しマニアックな話ですが、研究では心拍や心拍変動(HRV/RSA)など、自律神経系の指標から、覚醒の高さや調整の柔軟性に関わる所見もまとめられています。
つまり、自閉症スペクトラム症の感情調節困難の背景には生理的な反応、もう少し言うと身体的な反応が大きく影響しているという事なんですね。
そのため大切になるのが、感情調節を「認知・気持ち」だけでなく、「身体の調整(覚醒の調整)」としても捉える必要がある、という視点です。
これを臨床的に置き換えると、自閉症スペクトラム症の方が感情の高ぶりや混乱が起きているときに、「言い聞かせ」や「理屈の説明」だけで収束しないことは珍しくありません。
ご本人はこの感情を何とかしようとするのですが、しかしなかなか収まらないんですね。
その原因は感情の高ぶりが生理的な要素が大きく絡んでいるため、身体の高ぶりが強く、そのため「考えるモード」になかなか戻ることができない、という当事者の方への理解につながります。
3-2.自閉症スペクトラム症に特徴的かもしれない要因~認知の柔軟性・見通し・感覚特性~
この研究が特に重視するのが、自閉症スペクトラム症の認知特性・情報処理の方法です。
そもそも感情調節とは、「感情が出た後に抑える」ということも含みますが、何が起きているか把握し先を見通した後、いくつかの対処を柔軟に選択し、そして状況に合わせて切り替えるという流れになります。
これを「実行機能的」なプロセスというのですが、このプロセスに自閉症スペクトラム症の特性が重なると、難しさが増す可能性が高まります。
具体的には次の通りです。
(Ⅰ)認知の硬さ(柔軟性の弱さ)
例えば、私たちは置かれている状況が変わったときに「次は別のやり方に切り替える」、「一旦距離を取って考える」「優先順位を変える」といった認知(考え)の切り替えを自然と行っています。
しかし自閉症スペクトラム症の場合はここに難が生じる場合があり、なかなか考えが切り替わりません。
そのため、考えを切り替えることができないため感情が高まったまま固定化しやすくなります。
その結果として、「感情調節の方略を選ぶ」段階でつまずきが生じやすくなります。
(2)他者視点の取りにくさと「再評価」の難しさ
感情調節の方法の一つに、出来事の意味づけを捉え直す再評価があります。
例えば、相手の意図を複数可能性で考えたり、自分の解釈が唯一ではないと考えていったん保留にする、といったものですね。
こうやって、一見ネガティブなものに思えるものも、違う視点から考えて「再評価」することができると、感情面でも行動面でも柔軟性が生まれます。
しかし自閉症スペクトラム症の特性として、こうした視点切り替えは不得意であったり、あるいはやろうとしてもストレスを感じるという場合が多々あります。
その結果、誤解やフラストレーションが増え、再評価が機能しにくくなってしまいます。
(3)感覚過敏・鈍麻、変化への抵抗と「リソースの消耗」
自閉症スペクトラムの場合、外からの刺激に対して過敏であったり、あるいは逆に鈍感であったりする、ということがよくあります。
こうした感覚刺激(音、光、匂い、触覚など)が強い負担になる場合、日常的に刺激を避けたり、あるいは耐え続ける、または予測できない状況に備えるといったことが必要になります。
そして、そうしたことに対して多くのエネルギーを使わざるを得ない、という方も多数おられます。
すると、感情が高ぶった瞬間に「調整に回せる余力」が少なくなり、感情調節が破綻しやすくなる、ということが生じやすくなります。
また、刺激とは少し違う話しですが、予定変更や突然の中断など「変化」そのものがストレスとなり、感情反応が強まってしまうという場合もあります。
3-3.今までのまとめ
少し長々と書いてしまいましたが、これまでの内容をまとめると次のようになります。
つまり自閉症スペクトラム症の感情調節の難しさは、「身体の高ぶり(覚醒度)」の問題だけでも、認知の問題だけでも説明しきれず、むしろ両方が重なりやすい、という構造が存在しているということです。
そのため支援では、「何を言えば落ち着くか」も大切ですが、どの要因がその人に強く影響しているか(身体・注意・認知の切り替え・感覚負荷など)を見立てて、支援の優先順位をつけるという発想が重要になります。
4.研究から考える支援の方向性

今まで見てきたように、自閉症スペクトラムの方が抱える感情調節は悩ましい問題です。
そこで研究結果を踏まえつつ支援のポイントを、日常に落とし込んでいきたいと思います。
4-1.まずは「感情調整」の言葉で、状況を説明できるようにする
感情が崩れた後の話し合いは、本人も家族もつらくなりがちですし、単なる「反省会」で終わってしまう可能性もあります。
だからこそ、落ち着いている時期に…
✔どんなときに高ぶりやすいか
✔その時、身体はどうなるか
✔いつも使っている“やり方”回避、抑え込み等)が役立つ場面・逆効果な場面はどこか
…という内容を関係者で共有することで、対処法を検討するということが重要な意義を持ちます。
4-2.家族・支援者の「いつも使う対処」も点検する
感情調整で難しいところは、ケアを行う側が気づかないうちに不適応な対処を繰り返し、それがご本人を苦しめてしまうという可能性があることです。
そのため、感情の高ぶりや爆発があった時、まずは責めるのではなく、「このやり方は火消しにはなるけど、長期的にはどうだろう?」と一緒に検討する姿勢が重要になってきます。
どうしても感情調節となった場合、短期的に効果のあるものを用いる傾向が高くなります。
しかし、そうした対処法が長期的にも効果があるかと言えば話は別です。
そのため、「いつも使う対処」が長期的にもプラスの効果をもたらすのかどうかを検討し、長期的な悪影響からご本人を守ることが求められます。
4-3.「内側のサイン」に気づく練習
感情というものは、高ぶったり爆発してから止めるのはなかなか難しいものです。
そして感情は身体感覚として経験されます。
そのため、感情の高ぶりや爆発を事前に察知するには、身体感覚を手掛かりにするのが非常に有効です。
感情調整困難を事前に察知する、あるいは事前に備えるためには、ご本人が自分の内側(緊張、心拍、暑さ、息苦しさ等)に気づけるようになると、対処がしやすくなります。
4-4.「受容」という方法を使う
感情調整には様々なスキルがありますが、実際に使えないと意味がありませんよね。
そして実際に変えるようになるという意味で「受容」という方法は有効性が高いものです。
ここで言う受容とは、自らの感情を文字通り受容し優しく受け止めることです。
ここでいう受容とは、決して「我慢して耐える」という意味ではありません。
まず起きている感情の反応を把握し、次の行動を選べる余地を作る、という意味合いで理解すると受容というスキルは感情調節に役立つものとなるでしょう。
4-5.覚醒度(高ぶり)を下げるという視点
認知行動療法の技法には、身体感覚に働きかけるものがあります。
こうした身体感覚へのアプローチは、覚醒度をさげ、感情調節を容易にするという効果があります。
つまり、認知的(考え)による「気持ちの説得」より先に、身体の高ぶりを扱う技法を「常備薬」として持っておくことが、セルフケアや周囲の方、支援者にとって大きな意味がある、ということです。
まとめ
自閉症スペクトラム症特有の「感情の調整の難しさ」は、性格的な問題では決してありません。
むしろ身体・認知・環境が絡み合って起きる「調整の難しさの問題」として考えることが大切です。
感情の波が大きいほど、ご本人も周囲も消耗しやすくなってしまいます。
そのため、自分を責めたり無理に感情の高ぶりを消そうとする方向ではなく、仕組みとして理解し、少しずつ「整え方」を増やすことが支えになります。
感情は生理反応と言えるので、身体的な感覚に対する働きかけ等は非常に有効です。
また、刺激に対する調節も感情調節には効果があります。
ぜひ、自分自身に合った感情調節の方法を獲得するようになさってくださいね。
参考論文
The Role of Emotion Regulation in Autism Spectrum Disorder RH: Emotion Regulation in ASD
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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