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境界性パーソナリティ障害に対する支援の方法~神戸、芦屋、西宮のカウンセリングより~

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境界性パーソナリティ障害を理解する「別の視点」からのアプローチとは?

境界性パーソナリティ障害を理解する「別の視点」からのアプローチとは?

2026/01/01

みなさん、こんにちは。

神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。

 

境界性パーソナリティー障害の方が持つ特有の困りごとを臨床で伺っていると、「自分の内側がまとまらない感じ」が、とても大きな苦痛として語られることが多々あります。

 

ここで言う「自分の内側がまとまらない感じ」とは、気持ち・考え・欲求・判断がバラバラに動いて、ひとつの「自分の方針としてつながりにくい状態」のことを指します。

 

もう少し具体的に言いますと、境界性パーソナリティー障害の方は次のような体験をされる傾向が非常に多く見られます。

 

✔気分が強く揺れて、さっきまでの決意や考えが一気に別物に感じる

✔「本当はどうしたいか」が分からず、その場の感情に引っぱられて行動してしまう

✔後から落ち着くと、やったことが自分らしくない、あるいは他人事のように感じて自己嫌悪になる

✔人への気持ちが、好き・信頼・怒り・不安の間で切り替わり、関係が安定しにくい

 

まとめると、「今の自分」ははっきりしているのに、「時間をまたいで同じ自分」としてのつながりの難しさと言えるでしょう。

 

ここでテーマとなってくるのは「自律性」です。

 

そこで今回のブログでは、Ryan(2005)の論文をもとに、境界性パーソナリティー障害を「自律性の阻害/混乱」という軸で捉える見方を紹介します。

 

また「自律性の障害として理解する」という観点から、境界性パーソナリティー障害の問題を見ていきたいと思います。

 

1.そもそも「自律性」って何?

 

 

境界性パーソナリティー障害の問題は「自律性の阻害である」という観点から考えると、臨床像がより明確になっていきます。

 

では、そもそも「自律性」とは何でしょうか?

 

私たちは日常で「自律」「自立」という言葉をよく使いますが、今回参考にする論文が扱う「自律性(autonomy)」の核心は、とてもシンプルです。

 

自律性とは、行動や選択が「自分の内側から出てきたものだと感じられる状態」のことです。

 

1-1.自律性とは「自分で納得して動けている感覚」

 

研究論文では自己決定理論(Self-Determination Theory: SDT)の枠組みの中で、自律性を次のように定義しています。

 

自律性とは、統合的で内省的な気づきに基づき、自分自身が是認できるかたちで行為できている状態
 

ここで重要なのは、その行為や選択が「正しいか」「合理的か」ではありません(もちろん、正しさや合理性は重要ですが)。

 

その行動をした理由を後から振り返ったときに「これは自分が選んだ」と感じられるかどうかが、自律性のポイントです。

 

例えば、次のような状態をイメージすると分かりやすいと思います。

 

✔不安はあるけれど、自分なりに考えて決めた

✔迷いながらも、「今の自分にはこれしかなかった」と納得できる

✔人に勧められた選択でも、「それでいこう」と自分の中で腹落ちしている

 

一方で、境界性パーソナリティー障害特有の「勢いでやってしまった」「断れなくて従った」「後から『なんであんなことを…』と自分でも分からない」という体験は、行動はしていても自律的とは言えないという整理ができます。

 

1-2.自律性の語源は「self-rule(自己統治)」

 

また研究論文では、自律性という言葉の語源にも触れています。

 

autonomy = auto(自己)+ nomos(規則)、つまり「self-rule(自己統治)」

 

ここでいう自己統治とは、「誰にも縛られない自由」という意味ではなく、自分の内側に「判断の軸」があり、それに沿って調整できている状態を指します。

 

具体的に言うと、選択や行為が自分から始まっており、状況に応じて、自分でブレーキや修正をかけられる状態です。

 

また行動や選択が感情・価値・判断がある程度つながっているという状態が「自己による統治=自律性」です。

 

1-3.自律性の反対は「他律」

 

自律性を理解する上で、反対側から見ると分かりやすいかもしれません。

 

自律性の反対概念は「他律(heteronomy)」となります。

 

他律とは、行動が自分のものとして感じられず、「何か」の力に「動かされている感覚」が強い状態です。

 

例えば、強い不安や衝動に押されて動いている、あるいは怒りや見捨てられ不安に突き動かされている、というものが挙げられます。

 

加えて、「やらされている」「止められない」感じがあるというケースも散見されます。

 

境界性パーソナリティー障害の方のこうした行動は「自己にとって異物のように感じられる力に支配されている」と表現することができます。

 

つまり、自律性の問題とは「自己とのつながり方」の問題なんですね。

 

まとめると、自律性とは「自分で自分の行動を引き受けられる感覚」ともいえるでしょう。

 

つまり自律性とは、自分の内側の感情・考え・価値を感じ取ることができ、それらをある程度まとめた上で「これでいこう」と「自分で是認できる」というものです。

 

そして、行動の結果を、自分の選択として引き受けられるという主観的な納得感・統合感を指します。

 

心理療法の文脈で自律性がなぜ重要視されるかというのは、心理療法が目指すのが境界性パーソナリティー障害の方の行動を単に変えるためではなく、「自分の人生を生きている感覚」を取り戻す核心に関わるから、なんですね。

 

2.なぜ境界性パーソナリティ障害は「自律性の阻害」と言えるのか

 

 

境界性パーソナリティ障害(BPD)の問題とは、「自律性の障害」として位置づけることができます。

 

そこで、ここで言う「自律性の障害」というものを、もう少し深堀していきたいと思います。

 

2-1.行動しているのに「自分で決めた感じがしない」

 

境界性パーソナリティ障害の方は、外から見ると自分の意見をはっきり主張し、感情表現が強く、そして衝動的に行動しているように見えることがあります。

 

しかし、重要なのはパーソナリティー障害の方の「内側の体験」、つまり、その時ご本人の中で何が生じているかというものです。


境界性パーソナリティ障害では行為が意図的に見えても、当事者の方の主観的体験としては「自分で選んだ」「自分がそうしたかった」という感覚が非常に弱いという状態が起きやすいんですね。

 

つまり、行動そのものは確かに「能動的」でも、内側では「突き動かされている」「止められない」感覚が強いということが言えるでしょう。


ここに、自律性の問題との関連が見えてきます。

 

2-2.強迫的・衝動的・解離的になりやすい理由

 

この「自分で選んだ感じの薄さ」は、行動の質にも影響します。


具体的には、境界性パーソナリティ障害の行動が次のような形になりやすい傾向があります。

 

● 強迫的
→「やりたくてやっている」というより、「そうせざるを得ない」「駆り立てられる」感覚

 

● 衝動的
→ 感情が一気に高まり、自分で調整する前に行動が出てしまう

 

● 解離的
→ 行動後に「自分がやった気がしない」、「現実感が薄い」、そして「まるで他人事のよう」という感じがする


これらの問題は、「行動が自己として統合されにくい状態」が続いている、と理解すると分かりやすいでしょう。

 

そしえ、その結果「行動と感情」「感情と価値」、「今の自分と後の自分」がつながりにくくなり、自己の統合と納得感が弱くなってしまいます。


これが、境界性パーソナリティ障害を「自律性の阻害」と捉える核心です。

 

2-3.「真正な自己」と「偽りの自己」のズレ

 

この研究論文では、境界性パーソナリティ障害の特徴を説明するために、「真正な自己(true self)」と「偽りの自己(false self)」という表現も用いられています。

 

ここで言う「偽りの自己」とは、否定されないように、見捨てられないように、そして傷つかないように「環境に適応するために身につけた“生き残りの人格」のことを指します。

 

非受容的・無効化的な環境の中で育つと、自分の本当の感情や欲求をそのまま出すことが危険になってしまいます。


そのため、「偽りの自己」が全面にでた状態、つまり「本当は感じていないけれど、そう振る舞っている」という状態になりやすくなってしまします。

 

その結果、外側では適応しているように見えますが、内側では「本当の欲求や感情が分からなくなる」「深いニーズと表現された行動のあいだにズレが生じる」という分裂が起こりやすくなります。

 

2-4.境界性パーソナリティ障害の苦しさの正体

 

このように見ると、境界性パーソナリティ障害の苦しさは、感情が激しいから、あるいは人間関係が不安定だからというものだけではないことが分かります。

 

境界性パーソナリティー障害の問題の根本には、「自分が自分の人生を選んで生きている感じが持てない」という、深い自律性の困難があります。

 

だからこそ、境界性パーソナリティ障害の方は自分の選択に自信が持てなかったり、あるいは人の反応で自己評価が大きく揺れやすく、そして行動した後に強い後悔や空虚感を感じやすいといった体験を繰り返します。

 

2-5.境界性パーソナリティ障害は「わがまま」ではなく「自律性の困難」

 

今まで見てきた内容のポイントは非常にシンプルです。

 

境界性パーソナリティ障害とは、「自分勝手に振る舞っている状態」ではなく、「自分で選び、納得し、引き受ける感覚が育ちにくかった状態」ということが言えます。

 

この理解に立つことで、問題行動をただ止める、あるいは感情を抑え込ませるといった対応ではなく、自分の内側を感じ、整理し、選べるようになる支援が、心理療法の中心課題として見えてきます。

 

そしてそれこそが、境界性パーソナリティ障害に対する心理療法が「効く」理由の核心だと考えられます。

 

3.心理療法は何を変えるのか?~効果の「核」としての自律性~

 

 

では、今まで見てきた内容を踏まえて、境界性パーソナリティー障害のケアの在り方を見ていきたいと思います。


3-1.受容・承認は、なぜ重要か?

 

境界性パーソナリティー障害のケアでの「経験の承認」と「受容」、そして「より内省的・マインドフルな自己調整の育成」が、自律性の障害という見立てから導美くことができます。

 

境界性パーソナリティー障害の方に対する承認や受容は、当事者本人の主観的体験に筋道を与え、自己の統合を助ける足場になります。

 

3-2.マインドフルネス:衝動・解離から「一歩引く」チカラ

 

この研究論文では、境界性パーソナリティー障害を含むパーソナリティ障害治療でもマインドフルネスによる介入が効果があるため増加していることを指摘しています。


自律性の観点から言えば、マインドフルネスは「正解探し」ではなく、「今、自分に何が起きているか」を観察し、選択の余地を取り戻すアプローチと言えます。

 

3-3.スキルトレーニング:ただ教えるのではなく「共同で作る」

 

また、承認・受容・気づきに加えて、自己モニタリング、問題解決、目標設定、自己主張などのスキル訓練が、気分の不安定さや衝動性への対処に非常に役立ちます。


ただし重要なのはやり方です。

 

というのは、境界性パーソナリティー障害の方の特性を考えると、協働的で自律性を支える関わりが求められます。

 

まとめ:境界性パーソナリティー障害を「自律性の回復」として捉える意味

 

今まで見てきましたように、この論文では境界性パーソナリティ障害を「自律性の障害(自律性の阻害)」として位置づけ、発達・関係性・治療を一本の線でつなげて考える枠組みを示しています。


この見立てに立つと、ケアの焦点は「問題行動を止める」だけではなく、体験を承認・受容し、内省と気づきを育て、協働的にスキルを積み、そして「自分で選べる感じ」を取り戻す

という、回復の道筋として整理できます。

 

つまり、境界性パーソナリティー障害の方のケアは、単に衝動的で不安定な言動を抑えるのではなく、「自分自身の人生を取り戻す」ということがいえるでしょう。

 

参考論文

The developmental line of autonomy in the etiology, dynamics, and treatment of borderline personality disorders

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この記事の執筆者

駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)

心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。

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