大人の自閉症スペクトラム症と感覚の「しんどさ」とは?
2026/01/23
みなさん、こんにちは。
神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
普段の臨床で自閉症スペクトラム症(ASD:旧アスペルガー障害)において、感覚という刺激に起因するしんどさを訴える方は珍しくありません。
実際に、成人の自閉症スペクトラム症において感覚処理の問題は非常に重要であり、かつ高頻度で見られることが、研究によって明確に示されています。
そこでこのブログでは、研究論文を踏まえつつ大人の自閉症スペクトラムの「生きづらさ」「しんどさ」についてシェアしたいと思います。
※本投稿は公認心理師としての一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の方の診断・治療を行うものではありません。
※気になる症状がある場合は、必ず医療機関等の専門機関にご相談ください。
1.成人の自閉症スペクトラム症と感覚処理

先述しましたように、自閉症スペクトラム症で外部からの刺激に対する感覚処理によって生じるしんどさを訴える方は珍しくありません。
自閉症スペクトラム症…と言えばコミュニケーション上の問題で語られることが多いのですが、この刺激の受けやすさも見過ごしてはならない問題と言えるでしょう。
1-1.感覚処理異常は、成人の自閉症スペクトラム症でも「非常に高頻度」
自閉症スペクトラム症を考える上で重要なポイントの一つは、感覚処理の特異性が成人の自閉症スペクトラム症においても例外ではなく、非常に一般的であるという点です。
今回参照にしている研究では、成人の自閉症スペクトラム症の多くが、音や光、触覚、温度や匂い、加えて身体感覚といった複数の感覚領域で、定型発達成人とは異なる処理特性を示していました。
これらは幼少期のころより生じるものですが、大人になってからも感覚特性は持続され、生活の質や疲労、ストレスに深く関与することが示唆されています。
実際に臨床でも「社会的には何とか適応しているが、毎日とても消耗している」という方は珍しくありません。
これは成人の自閉症スペクトラム症の方の背景には、感覚処理の負荷が隠れているケースが少なくないと考える必要があるでしょう。
1-2.成人の自閉症スペクトラム症の感覚処理パターンは「一様ではない」
もう一つ、参照にしている論文が強調している重要な点があります。
それは、成人の自閉症スペクトラム症の方の感覚処理は一律ではなく、非常に多様であるということです。
感覚の困りごとというと、「過敏(刺激に弱い)」だけが注目されがちですが、実際には以下のような幅があります。
✔ある感覚には非常に過敏だが、別の感覚には鈍い
✔日によって感覚のしんどさが大きく変わる
✔環境やストレス量によって反応が変動する
これらの感覚処理の多様性は、「自閉症スペクトラム症の方の特性ははこうだ」と単純化できない理由でもあります。
1-3.成人の自閉症スペクトラム症と定型発達成人の感覚処理の違い
論文では、成人の自閉症スペクトラム症と定型発達成人を比較した際の違いも整理されています。
まず定型発達成人では、感覚刺激に対する調整が比較的自動的に機能し、必要に応じて感覚情報をフィルタリングできるようになっています。
これによって外部からの刺激があっても、心理的負担に直結しにくいという傾向があります。
一方、成人の自閉症スペクトラム症では感覚刺激が「生のまま」入ってきやすく、刺激の取捨選択に大きなエネルギーが必要となってしまいます
その結果、感覚負荷が情緒の不安定さや疲労に直結しやすいという特徴が見られます。
これは非常に重要なのですが、この違いは能力の優劣ではなく、神経系の処理様式の違いだという点です。
そのため、努力での解決には限界があります。
1-4.感覚処理の問題が、なぜ「生きづらさ」につながるのか
感覚処理の負荷は、それ単体で問題になるのですが、影響はそれだけにとどまりません。
過度な刺激の感受により慢性的な疲労が生じやすく、イライラや不安の増大を招いてしまいます。
また感情調整の難しさや対人関係での消耗といった二次的な困難の原因ともなります。
成人の自閉症スペクトラム症の方の多くは、「理由は分からないけれど、いつも疲れている」、「人と会うと消耗する」という経験をされます。
このように感じる背景には、見えにくい感覚負荷の積み重ねがあることが少なくないんですね。
2.大人の自閉症スペクトラム症のセルフケア~感覚のしんどさは「治す」ものではなく「整える」もの~

自閉症スペクトラム症の方が抱える感覚に対するしんどさは、生まれ持った神経の働き方の違いであり、「なくす」対象として捉えるのは妥当ではありません。
そのため、セルフケアの方向性も、感覚と折り合いをつける、つまり「上手に付き合う」ことを中心にすることが現実的です。
では、具体的なセルフケアの方法を見ていきましょう。
2-1.まずは「自分の感覚特性」を知ることから始める
セルフケアの第一歩は「自分はどんな刺激に弱く、どんな刺激で疲れやすいのか」というものを把握することです。
例えば音が重なると急に消耗する方もおられれば、明るい光や人混みで集中力が落ちるという方もおられます。
また、触覚や温度の違和感でイライラしやすくなるという方もおられるでしょう。
自閉症スペクトラム症を抱える方の感覚過敏は人それぞれです。
そのため、自分自身の傾向に気づくだけでも、「なぜ疲れるのか分からない」という状態を軽減することが可能になります。
2-2.環境を「耐える対象」から「調整できるもの」と捉える
セルフケアでは、環境を変えられないものと決めつけず、少しでも負荷を下げる工夫を探すことが大切です。
例を挙げると、イヤーマフやノイズキャンセリングを使ったり、照明を落とす、間接照明に変える、あるいは人混みの時間帯を避けるといった工夫も考えられます。
これらは自分の神経を守るための実用的な工夫として捉えることが大切です。
2-3.休息と回復を「後回しにしない」
感覚の負荷は、気づかないうちに蓄積します。
そもそも、ストレスというものは意外と自覚されにくいという性質を持っています。
そのため、自閉症スペクトラム症のセルフケアでは、疲れ切ってから休むのではなく、回復を意識することが大切になります。
例えば刺激の多い予定の後に、意図的に休憩を入れたり、あるいは「あえて何もしない時間」をあらかじめ予定に組み込むといった「回復前提の生活リズム」を意識しましょう。
2-4.「疲れやすい自分」を責めないセルフトークを育てる
感覚のしんどさがあると、「自分はダメだから、こんなことで疲れてしまう」と自分を責めてしまいやすくなります。
実際、臨床でも自閉症スペクトラム症の方が自己否定的になっているケースは多々あります。
そのためセルフケアでは、こうした自己否定に気づき「感覚が敏感だから疲れやすいだけ」、あるいは「これは自分がダメだからではなく、特性の問題」と、説明の言葉を自分の中に持つことが有効です。
2-5.無理のない「自分用の対処パターン」を作る
セルフケアに絶対的な正解はありません。
というのは、自閉症スペクトラム症の方が抱えるストレスの内容は人それぞれだからです。
そのため大切なのは、「一般的なやり方」よりも自分に合った対処パターンを見つけることです。
例えば、疲れたら早めに人との距離を取る、あるいは刺激の多い日は予定を減らすという工夫も有効です。
また(オーバーワークにならない程度に)調子の良い時間帯に重要なことをまとめるということもできるでしょう。
こうした工夫を積み重ねることで、感覚のしんどさは「振り回されるもの」から「付き合い方が分かっているもの」へと変わっていきます。
まとめ
このブログでは、成人の自閉症スペクトラム症における感覚処理の特徴について、論文の知見をもとに整理してきました(私の悪いクセでいつも通りの長文となりましたが…)。
感覚処理のしんどさは、成人の自閉症スペクトラム症でも非常に多いことであり、感覚の感じ方には大きな個人差があり、「一つの型」で説明できるものではありません。
これらは、「自分が弱い・ダメ」という訳ではないという理解につながります。
日常のセルフケアや環境調整は、とても大切な第一歩です。
感覚の負荷を減らし、休息をとり、自分に合った生活リズムを整えることは、大きな助けになります。
ただ、もしも…
「工夫しても疲れが抜けない」
「仕事や人間関係が限界に近い」
「感覚のしんどさから不安や抑うつが強くなっている」
というような状態が続く場合、一人で抱え続けることはお勧めできません。
そうした場合は医療機関や心理カウンセラーによる専門的な支援を受けることが「最も自分に優しい選択」となります。
感覚のしんどさを理解し、必要に応じて人の力を借りることも、成人の自閉症スペクトラム症と向き合う大切なセルフケアの一部だと言えるでしょう。
自閉症スペクトラム症の特性を否定的に考える必要はありません。
付き合い方を工夫すれば、むしろ自閉症スペクトラム症の特性は武器にもなります。
ぜひ、上手に付き合ってくださいね。
参考論文
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こころのケア心理カウンセリングRoom
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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