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幼少期の虐待やネグレクトが与える影響~神戸、芦屋、西宮のカウンセリングより~

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虐待・ネグレクトが大人の脳と社会行動に与える影響とは

虐待・ネグレクトが大人の脳と社会行動に与える影響とは

2026/02/08

みなさん、こんにちは。

神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。

 

私たちは、誰かにほめられたり、笑顔で迎えられたりしたとき、胸がほんのり温かくなるものです。


また友人関係や同僚、上司部下等との関係が良好になってい行ったとき「生きやすさ」が増したという感覚が生まれます。

 

こうした「他者とのつながり」で得られるポジティブな体験を、心理学や神経科学の世界では 「社会的報酬」 と呼んでいます。

 

社会的報酬とは、具体的には以下のようなものを含んでいます。

 

✔親しい人の笑顔

 

✔仲間に受け入れられる感覚

 

✔ありがとうと言われる体験

 

✔支え合う関係のなかで感じる安心

 

これらは単なる「気分の良さ」に限定されるものではありません。

 

人が社会の中で生きるうえでの動機づけ(モチベーション)という役割を果たします。

 

というのは、私たちはは社会的報酬を求めて行動し、それが私たちの学習・信頼・関係性構築の基盤になっていくからです。

 

しかし、幼いころに十分な社会的報酬が得られなかったり、逆に人間関係がいつも「危険」や「拒絶」と結びついていた場合、大人になってからの社会的報酬処理が変わってしまうことがあります。

 

これが、大人になってからの「生きづらさ」に影響します。

 

そこで今回も、いつものように研究論文を参考にしながら、幼少期の逆境体験と生きづらさについてシェアしたいと思います。

 

1.社会的報酬処理と幼少期の逆境

 

 

1-1,研究デザイン

 

論文ですので、どのような調査がされたかをご説明した方がよいかと思います。

 

そこで、コンパクトに研究デザインについて触れていきたいと思います。

 

2026年に発表された研究では、成人になってから不安やうつ症状がある人を対象に、幼少期に受けた虐待とネグレクトが、それぞれ脳内での「社会的報酬を受け取る前の反応」にどう影響しているのかを調べました。

 

この研究では、被験者はfMRI(脳画像)を用いて社会的報酬の予測(例:笑顔がもらえる可能性がある状況)に反応する脳の領域を測定しました。

 

これにより、報酬に向かって行動しようとする動機づけの神経反応がどのように変わるかが評価されました。

 

1-2.虐待 vs ネグレクト~違いが脳の反応に現れる~

 

研究の重要な発見は、虐待とネグレクトが社会的報酬処理に対して逆方向の影響を与えていたということです。

 

● ネグレクト経験者の特徴

 

ネグレクトとは、必要な愛情・関心・感情的なサポートが十分に与えられなかった環境を指します。


このような環境では、「ほめられる」「愛される」「認められる」という「ポジティブな社会的報酬」が十分に得られません。

 

そのため大人になってから、社会的報酬に対して脳が敏感に反応しやすくなるという特徴が観察されました。

 

これは「社会的なつながりを求める脳の動機づけが高い」ことを示しています。

 

つまり、「つながりに飢えていた分、大人になってから社会的報酬を強く求める傾向」が神経レベルで見える形になったと解釈できます。

 

● 虐待経験者の特徴

 

一方で、虐待は「繰り返し危険・威嚇・拒絶」を体験することを意味します。


このような背景を持つ方の脳では、社会的報酬を予期したときの反応が抑えられていることが観察されました。

 

つまり、「報酬を期待しにくい」「良いことがあるかもしれないと予測する力が弱い」という神経反応が見られたのです。

 

これは、人との関係性に対して「近づく」よりも、「警戒してしまう」傾向と対応する可能性が示唆されます。

 

1-3.虐待とネグレクトがもたらす心理的影響の違い

 

心理カウンセリングの現場でよく扱うテーマとして、虐待とネグレクトはともに「つらい幼少期の経験」ですが、その意味合いや臨床像は異なります。

 

● ネグレクトの影響

 

ネグレクトを経験した方の特徴はおおむね以下のようなものがあります。

 

✔愛情や応答が不足 → 無視されている・悪く評価されていると思いやすい

 

✔他者からの承認や評価を上手く受け取れない

 

✔社会的つながりへの渇望感が強まる(結果として依存的な関係の形成につながりやすい)

 

✔社会的報酬に対する敏感さが成人後に残る可能性

 

このような背景は、つながりへの強い欲求として現れるという側面があることを意味します。

 

そのため、関係を築きたいというモチベーションが強い一方、期待が裏切られたときに深い失望を感じやすい、という形で影響を色濃く残してしまいます。

 

● 虐待の影響

 

虐待を経験した方の社会的報酬、つまり他者との関係で得られるポジティブな結果に対して、以下のような反応を示します。

 

✔他者との関わりが「危険」と結びつき、恐怖や不安を感じやすくなる

 

✔本来ポジティブであるはずの社会的刺激を脅威として知覚してしまう

 

✔安全・安心を感じにくくなる

 

1-4.ネグレクトと虐待の違い

 

幼少期のネグレクトと虐待は、社会的報酬を予期する、つまり人とのつながりに対する期待について神経応答に反対方向の影響を与えていました。

 

具体的には…

 

ネグレクト → 社会的報酬への反応が過剰に高くなる

 

虐待 → 社会的報酬への反応が低くなる

 

この違いは、ネグレクトと虐待が脳や社会的動機づけのメカニズムに対して異なる影響経路を持つことを示唆します。

 

このような経路は、人間関係への警戒心や「良いことを期待しにくい」というスタイルを育てやすくなります。

 

このように、ネグレクトと虐待によっては臨床像が異なるため、回復への道筋においても別のアプローチが必要になってきます。

 

2.当事者の方が必要とするケア~社会的報酬の「ズレ」を前提にした支援設計~

 

 

これまで見てきたように、幼少期の環境(虐待・ネグレクト)の違いによって臨床像は大きく異なってきます。

 

具体的には、成人期の「社会的報酬(受け入れ・称賛・安心など)」「社会的罰(拒絶・批判など)」に対する脳の反応の仕方が変わりうる、ということです。


つまり当事者の生きづらさは、「性格」や「頑張りの不足」ではなく、相当程度脳の仕組みによって生み出されているということです。

 

そのため対人場面をどう予測し、どう学習してきたかという、これまでの成育歴による「学習の履歴」と関係している可能性が高い、という視点が重要になります。

 

ここから臨床・支援で大切になるのは、当事者が必要としているケアを 「つながりを増やす」だけで終わらせず、つながりの感じ方・予測の仕方を整えるところまで含めて設計する、ということになります。

 

以下、そのネグレクトと虐待によって生じる違いとケアの方向について考えていきたいと思います。

 

2-1.ネグレクト歴がある方に起きやすい困りごとと、必要なケア


● 起きやすい困りごと(当事者の体感)

 

ネグレクトは「必要な応答が返ってこない」「関心や安心が十分に与えられない」という経験が中心になりやすく、社会的報酬が不足した状態のまま、大人に成長します。


その結果、成人期に次のような体感が起きやすくなります。

 

✔人とつながりたい気持ちは強いが、反応が少し薄いだけで見捨てられた感覚になりやすい

 

✔承認や好意を強く求める一方で、満たされないと急に落ち込む・空虚感が出る

 

✔相手の評価に敏感で、「好かれるために無理をする → その後に燃え尽きる」というプロセスが発生する

 

✔「優しさ」や「褒め言葉」を受け取っても、実感として入りにくい(うわべに感じる)

 

研究的にも、ネグレクトは社会的報酬に対する反応の偏り(敏感さ)が関連しうる、という示唆があり、「つながり」が当事者にとって重要なテーマになりやすいことと整合します。

 

● 必要なケア(支援の柱)

 

ネグレクト歴の方に必要なケアは、「もっと人と関わる」より前に、「つながりを安全に受け取れる脳の回路」を育てることです。

 

そのため、以下のアプローチが必要となります。

 

(1)反応の量より質を増やすケア

 

✔大人数・頻回の交流より、小さく確実な肯定的相互作用(短時間の雑談、挨拶、1往復のやりとり)を積む

 

この目標は「仲良くなる」ではなく、「感じられる程度の安心を日常に増やす」ことを意図しています。

 

(2)承認の渇望と落胆の波を整えるケア

 

✔「返信が遅い=拒絶」「そっけない=嫌われた」を自動変換しないための、状況の幅を広げる練習

 

「期待→落胆」の振れ幅が大きいときは、期待の置き場所を分散する、つまり一人の相手に集中させず、ある程度の人数の方と軽いタッチでもよいので関わりを持つということです。

 

(3)肯定的体験の「受け取り練習」

 

✔褒め言葉・好意に対して「否定」や「冗談化」で返す癖がある場合、いったん「ありがとう」「そう言ってもらえると助かる」のように受け取る反応を固定化する

 

これは自己肯定感という抽象論より、対人関係の在り方を整えるという文脈で扱うのがコツです。

 

2-2.虐待歴がある方に起きやすい困りごとと、必要なケア


● 起きやすい困りごと(当事者の体感)

 

虐待は「他者が危険」「近づくと傷つく」という学習が強化されやすく、社会的報酬よりも社会的罰(批判・拒絶)の予測が前面に出やすい、という方向性が示唆されます。


その結果、当事者の体感としては、次のようになりやすくなります。

 

✔人と関わる前から、「嫌なことが起きる予感」が強い(予期不安)

 

✔好意を向けられても「裏があるのでは」と疑ってしまう

 

✔距離を取ることで安全は保てるが、孤立が深まりやすい

 

✔親密さが高まるほど、身体が緊張し、言葉が出なくなる、あるいはイライラする

 

✔「良いことを期待する」こと自体が怖い(期待→裏切りの経験が多い)

 

● 必要なケア(支援の柱)

 

虐待歴の方に必要なケアは、「安心が確保された関係で、少しずつ『安全を実感』すること」です。

 

そしてポイントとなるのはスピードではなく、当事者の方のコントロール感と予測可能性です。

 

そのため、以下のアプローチが重要となります。

 

(1)安全確保を「最優先の介入」として扱う

 

例えば、相談の場・関係の中で、境界(話す範囲、連絡頻度、同席者の有無)を明確にするというものがあります。

 

あるいは当事者が「嫌だ」と言える状態を守る(同意なき踏み込みをしない)ということが当てはまります。

 

これは対人関係の問題に発生による、再トラウマ化を防ぐアプローチです。

 

(2)予期不安への介入(『起きる前』を扱う)

 

予期不安については、対人場面の前に高まる不安を出来事ベースで分解すると役立ちます。

 

具体的には…

 

✔何が起きそう?

 

✔その確率は?

 

✔もし起きたら、どう対処する?

 

…というものです。

 

ここでのゴールは「不安ゼロ」ではなく、不安があっても対処法を選べる状態を作ることにあります。

 

(3)安全な関わり方の繰り返し

 

虐待を受けていたご本人に対しては、いきなり親密さを求めず、例えば目を合わせる時間を少し増やす、断り文句を練習する、1回だけ信頼できそうな人に相談してみるといった小さなステップが「関わっても大丈夫だった」という経験、そして記憶になっていきます。

 

ここでは、当事者の方が主導権を持つことが最重要となります。

 

2-3.共通して大切なケア:症状軽減より「記憶の再更新」

 

虐待・ネグレクトのどちらにも共通するのは、対人場面が「報酬」や「罰」として学習され、その学習が成人期まで持ち越されうる、という点です。


だからこそケアは、単に気分を良くすることだけに留まるということはありません。

 

どんな状況で、何を予測し、どんな反応が自動的に出て、その結果どうなるか

 

このような「対人学習の回路」を、当事者の方のペースで組み替える支援になります。

 

まとめ

 

虐待やネグレクトと言った逆境体験を経た方が感じる人との関わりでしんどさは、過去の環境の中で身につけた「身を守る反応」であったことが少なくありません。

 

大切なのは、無理に社交的になることではなく、当事者の方のペースで「安全に受け取れるつながり」を少しずつ増やしていくことです。

 

過去を乗り越えて、良好な人間関係の構築を、ぜひ目指してくださいね。

 

参考論文

Differential associations of childhood abuse and neglect with neural responses to social reward and punishment in adults with anxiety or depression

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この記事の執筆者

駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)

心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。

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