抑うつや疲労で動けないときに「やる気」に頼ってはいけない理由
2026/07/10
みなさん、こんにちは。
神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
抑うつ等を抱えておられる方のお話しを聞いていると、「気分が沈んで動けない」「日常生活ももままならない」という悩みを抱えている方が大勢おられます。
抑うつや強い疲労があるとき、人はどうしても「やる気が出たら動こう」と考えます。
ところが、ここに大きな落とし穴があります。
抑うつ状態では、やる気そのものが出にくくなっているため、やる気を待っていると行動の機会がどんどん減ってしまうのです。
そのため、抑うつや疲労で動けないときほど、やる気に頼りすぎないことが大切です。
それよりも気分が整ってから動くのではなく、今の状態でできる小さな行動を先に作ることが、回復のきっかけになります。
これは「無理をして頑張る」という意味ではありません。
つらさや疲労を抱えたままでも、生活の中に小さな動きを戻していく方法です。
心理療法では、こうした考え方を行動活性化と呼びます。

1-1.抑うつや疲労が強いと、行動が減りやすくなる
抑うつ状態では、気分の落ち込みだけでなく、意欲の低下、疲労感、集中力の低下、楽しさを感じにくい状態が起こりやすくなります。
すると、外出、家事、人との連絡、仕事、趣味、運動など、これまで行っていた活動が少しずつ減っていきます。
活動が減ると、一時的には楽になることがあります。
しかし、長期的には次のような悪循環が起こりやすくなります。
動かない時間が増える。
達成感や楽しさを得る機会が減る。
生活リズムが乱れる。
「今日も何もできなかった」と自分を責める。
これらによって、さらに気分が落ち込み、もっと動けなくなってしまいます。
この悪循環に入ると、「やる気がないから動けない」という感覚が強くなります。
しかし、実際には「動けない状態が続くことで、さらにやる気が出にくくなる」という面もあります。
だからこそ、回復のためには、気分を先に変えようとするだけではなく、行動の方から少しずつ生活を立て直す視点が必要になります。
1-2.やる気は行動の前提ではなく、後から出ることもある
抑うつや疲労があるとき、「やる気が出たら片づけよう」「元気になったら散歩しよう」「気分が上がったら人に連絡しよう」と考えがちです。
しかし、実際には、行動した後に気分が少し変わることもあります。
例えば、最初は面倒でも、顔を洗った後に少し目が覚めることがあります。
外に出るまでは億劫でも、5分歩いた後に身体が少し軽くなることがあります。
人に短い連絡を返した後に、「少しだけ進んだ」と感じることもあります。
行動活性化では、このような「行動が気分を変える可能性」に注目します。
もちろん、動けば必ず気分が良くなるわけではありません。
疲労が強いときには、動いた後に休息が必要な場合もあります。
それでも、生活の中に小さな行動を戻すことは、抑うつの悪循環を弱める重要な一歩になります。
1-3.ACTの視点~つらさを消してから動くのではない~
つらい感情があるとき、私たちは「不安がなくなったら」「気分が晴れたら」「疲れが取れたら」と考えます。
しかし、感情や身体の重さが完全に消えるのを待っていると、生活が止まりやすくなります。
私の専門の心理療法であるACT(アクト:アクセプタンス&コミットメントセラピー)の文脈では、つらい感情を無理に消そうとするよりも、「その感情がある状態で、自分が大切にしたい方向へ何ができるか」を考えます。
たとえば、疲労感があるままでも、窓を開けることはできるかもしれません。
気分が沈んだままでも、洗面所まで行くことはできるかもしれません。
不安が残っていても、短いメッセージを一通だけ返すことはできるかもしれません。
大切なのは、「元気な自分ならできる行動」ではなく、「今の自分でもできる最小の行動」を選ぶことです。
1-4.行動活性化の目的は、「頑張り」でなんとかすることではない
行動活性化というと、「無理に動けということですか」と不安に感じる方がいます。
しかし、行動活性化は精神論ではありません。
むしろ、抑うつや疲労で動けない方に対して、行動のハードルを極限まで下げる方法です。
たとえば、「部屋を片づける」では大きすぎる場合があります。
その場合は、「床にある紙を1枚だけ捨てる」で十分です。
「散歩する」が難しければ、「玄関まで行く」「ベランダに出る」「靴を履くだけ」でも構いません。
「仕事を進める」が重すぎるなら、「資料を開くだけ」「タイトルだけ書く」「5分だけ確認する」といった形にします。
重要なのは、行動の量ではありません。
止まっていた生活に、小さな動きを戻すことです。
1-5.動けないときの行動活性化:4つの実践
では、以下では動けない時の行動活性化の方法をお伝えいたします。
1.今の状態を責めずに確認する
まず、「動けない自分はダメだ」と責めるのを少し止めます。
抑うつや疲労があるときに動きにくくなるのは、意志が弱いからではありません。
心身のエネルギーが低下している状態では、普段なら簡単にできることも重く感じられるものです。
そのため最初に行うのは、「今は疲労が強い」「気分が落ちている」「行動の開始が難しくなっている」と状態を言葉にすることです。
このように自分を責めるより、状態を把握する方が次の一歩につながります。
2.「やるべきこと」ではなく「動き始め」を決める
抑うつ状態では、タスクを大きく考えるほど動けなくなります。
「掃除しなければ」
「仕事を終わらせなければ」
「生活を立て直さなければ」
このように考えると、負担が大きすぎて開始できません。
そこで、「完了」ではなく「開始」を目標にします。
掃除を終えるのではなく、ゴミを1つ捨てる。
仕事を終えるのではなく、資料を1分見る。
運動するのではなく、立ち上がって伸びをする。
連絡を全部返すのではなく、1人だけに短く返信する。
このように、動けないときは、結果よりも開始が重要です。
3.大切にしたい方向と結びつける
行動活性化では、単に予定を詰め込むのではなく、その行動が自分にとってどのような意味を持つかを考えます。
たとえば、散歩は「運動しなければならない」ではなく、「自分の身体を少し大切にする行動」と捉えることができます。
洗濯は「家事をこなす」だけではなく、「明日の自分を少し助ける行動」と考えられます。
人に返信することは、「義務」ではなく、「大切な関係をつなぐ小さな行動」と位置づけることができます。
行動が価値とつながると、つらさがあっても動く意味が見えやすくなります。
4.行動後の変化を記録する
行動した後は、気分がどう変わったかを短く記録します。
「顔を洗った。少し目が覚めた」
「5分だけ外に出た。疲れたが、少し空気が吸えた」
「資料を開いた。進まなかったが、完全にゼロではなかった」
「返信を1通した。少し安心した」
ポイントは、大きな成果を探すことではありません。
行動によって何が少し変わったかを確認することです。
この記録が増えると、「動けないと思っていても、少しなら動けることがある」という実感が育ちます。
1-6.if-thenで行動を自動化する
動けないときは、その都度「やるかどうか」を考えるだけで疲れてしまいます。
そこで役立つのが、if-then、つまり「もし〇〇したら、△△する」と事前に決めておく方法です。
たとえば、次のように設定します。
朝起きたら、カーテンを開ける。
歯を磨いたら、白湯を飲む。
昼食後に、外の空気を1分吸う。
布団に入る前に、明日の最小行動を1つ書く。
パソコンを開いたら、資料名だけ確認する。
これは意志の力で頑張る方法ではありません。
判断の回数を減らし、行動を始めやすくする工夫です。
抑うつや疲労があるときは、「どうしよう」と考える時間が長くなるほど、動きにくくなります。
だからこそ、あらかじめ小さな行動を決めておくことが助けになります。
1-7.注意点:動くことより休むことが必要な場合もある
行動活性化は、抑うつや疲労に役立つ方法ですが、すべての場面で「動けばよい」という意味ではありません。
睡眠不足が続いている、発熱や身体疾患がある、最悪の選択肢を考えてしまう、日常生活が著しく困難になっている場合は、まず医療機関や専門家に相談することが大切です。
また、疲労が強い方にとっては、「休むこと」自体が必要な行動になる場合もあります。
その場合の行動活性化は、無理に活動量を増やすことではなく、回復に役立つ休息を計画することです。
例えば、スマートフォンを見ながら横になるのではなく、20分だけ目を閉じる。
寝る前に照明を落とす。
食事を抜かず、簡単なものを食べる。
これらも回復のための行動です。
まとめ:やる気を待つより、小さく動くことが回復のきっかけになる
抑うつや疲労で動けないとき、「やる気が出たら動こう」と考えるのは自然です。
しかし、抑うつ状態では、やる気そのものが出にくくなっています。
そのため、やる気を待つほど行動が減り、さらに気分が落ち込む悪循環に入りやすくなります。
行動活性化では、気分が整ってから動くのではなく、今の状態でできる小さな行動を先に作ります。
顔を洗う、カーテンを開ける、1分だけ外に出る、資料を開く、短い返信をする、床の物を1つ片づける…。
小さすぎると思える行動で構いません。
大切なのは、抑うつや疲労がある自分を責めることではありません。
つらさがあるままでも、自分が大切にしたい方向へ、ほんの少し動いてみることです。
その小さな一歩が、気分、生活リズム、自己効力感を少しずつ回復させるきっかけになります。
よくある質問(FAQ)
Q1.うつっぽくて何もできません。無理に動いた方がいいのでしょうか?
A.無理に頑張る必要はありません。ただし、今の状態でできる「小さな動き」を作ることは回復の助けになります。
抑うつや疲労が強いときに、「普通に動かなければ」「一気に生活を立て直さなければ」と考えると、かえって負担が大きくなります。
まずは、カーテンを開ける、顔を洗う、コップ一杯の水を飲む、玄関まで行くなど、小さすぎるくらいの行動で構いません。
目的は、完璧に動くことではなく、止まっていた生活に少しだけ流れを戻すことです。
Q2.やる気が出るまで待っているのに、なかなか動けません。どうすればいいですか?
A.抑うつや疲労があるときは、やる気を待つほど動けなくなることがあります。
やる気は、行動の前に必ず出るものではありません。
少し動いた後に、気分や身体の感覚がわずかに変わることもあります。
「やる気が出たら動く」ではなく、「1分だけ動いてみる」「5分だけ始める」と考えてみてください。
やる気を出すことを目標にするより、今できる最小の行動を決める方が現実的です。
Q3.休んでいるのに疲れが取れず、何もできない自分を責めてしまいます。
A.疲労が強いときに動けない時に重要なのは、まずは自分を責めるより、疲労の状態を確認することです。
抑うつや疲労があると、普段なら簡単にできる家事や連絡、外出も重く感じます。
その状態で自分を責めると、さらに気力が落ちてしまいます。
「今日は疲労が強い」「開始する力が落ちている」と状態として捉えたうえで、休息も行動の一つとして考えてみてください。
スマートフォンを見続ける休み方ではなく、目を閉じる、照明を落とす、温かい飲み物を飲むなど、回復につながる休み方を選ぶことも大切です。
Q4.少し動いても気分が良くならないと、意味がないように感じます。
A.行動活性化の目的は、すぐに気分を大きく上げることだけではありません。
顔を洗った、外の空気を吸った、返信を1通した、資料を開いた…。
このような小さな行動でも、「完全にゼロではなかった」という経験になります。
抑うつのときは、達成感や楽しさを感じにくくなっているため、行動してもすぐに効果を実感できないことがあります。
それでも、小さな行動を積み重ねることで、生活リズムや自己効力感が少しずつ戻ってくることが期待できます。
Q5.動いた方がいいのか、休んだ方がいいのか分かりません。
A.判断の目安は、「回復に近づく行動かどうか」です。
疲れているのに無理に頑張り続けることは、回復を遠ざけることがあります。
一方で、何日も横になったまま何もできず、自分を責め続けている場合は、小さな行動が回復のきっかけになることもあります。
「今の自分にとって、回復に近づく最小の行動は何か」と考えてみてください。
休むなら、回復につながる休み方を選ぶ。
動くなら、1分だけ、1つだけ、できる範囲にする。
こうした発想が大切です。
ただし、最悪の選択肢を考えてしまう、著しい不眠、食事が取れない状態が続く場合は、医療機関や専門家への相談を優先してください。
参考論文
Uphoff E, et al. Behavioural activation therapy for depression in adults. Cochrane Database of Systematic Reviews, 2020.
NICE Guideline NG222. Depression in adults: treatment and management.
Gollwitzer PM, Sheeran P. Implementation Intentions and Goal Achievement: A Meta-analysis of Effects and Processes.
Hayes SC, Strosahl KD, Wilson KG. Acceptance and Commitment Therapy.
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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