双極症に心理教育がなぜ大切なのか
2026/04/29
みなさん、こんにちは。
神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。
双極症では、気分の落ち込みや高まりだけでなく、その症状とどう付き合って行けばいいのかという悩みが生じやすくなります。
そのため、双極症の支援では、症状が出たときだけ対応するのではなく、自分の病気を理解し、再発の前触れに気づき、生活の安定を守る力を育てることが大切になります。
こうした内容を理解することを、「心理教育」と言います。
今回参考にした論文では、双極症における心理教育が、再発、気分エピソード、入院を減らし、機能や生活の質を改善するうえで重要な支援になりうることを示しています。
そのため、心理教育は「病気の説明を聞くこと」だけではなく、双極症とつき合うための実践的なスキルを身につける支援だと位置づけられるでしょう。
そこでこのブログでは当事者の方が双極症について知ること、つまり心理教育についてシェアしたいと思います。
1.双極症の心理教育は「知識」ではなく、安定して暮らすための実践的な支援
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双極症の支援では、薬物療法が大切な土台になります。
そのうえで、日常生活の中で気分の波に気づき、再発の前触れを見つけ、生活リズムを整える力も重要です。
心理教育とは、単に「双極症について知ること・勉強すること」ではありません。
それらも含まれますが、双極症の心理教育とは自分の状態を理解し、生活の中で安定を守るための具体的な方法を身につける支援です。
では、その内容を具体的にお伝えしますね。
1-1.この論文は何を調べた研究なのか
相変わらず研究論文を参考にしていますので、論文の内容をサラッと触れますね。
この研究では、心理教育がどのような形で行われているのか、他の心理社会的支援と組み合わせられているのか、再発、入院、生活の質、機能などにどのような結果が示されているのかを検討しました。
このレビューで重要なのは、心理教育を単なる「知識提供」として見ていない点です。
心理教育には、双極症の定義や原因、症状、薬物療法、気分エピソードの早期発見、生活リズム、ストレス管理、問題解決などが含まれます。
つまり心理教育とは、双極症の方が自分の状態を理解し、日常の中で安定を保つための具体的な方法を学ぶ支援なのです。
1-2.心理教育で大切にされること
双極症の心理教育で大切なのは、「双極症とは何か」を知ることだけではありません。
臨床的には、自分の気分の波を理解し、生活の中で再発を防ぐ力を育てることが重要です。
まず大切なのは、自分の気分の波に気づくことです。
双極症では、気分が落ち込む時期だけでなく、調子が上がって活動量が増える時期にも注意が必要です。
ご本人にとっては「元気になった」「調子が戻ってきた」と感じられても、実際には再発の前触れであることがあります。
たとえば、睡眠時間が短くなる、予定を詰め込みすぎる、考えがどんどん広がる、買い物や対人行動が増える、といった変化です。
次に大切なのは、生活リズムを整えることです。
Levratらは、双極症に特化した心理社会的支援では、睡眠・覚醒、食事、休息、活動の時間を一定にすることが、生体リズムの乱れを減らすという考えが重視されていることを示しています。
これは、双極症の支援で生活リズムが重要視される大きな理由です。
そしてもう一つ大切なのが、再発のサインを早く見つけることです。
「自分の場合、落ち込みが始まる前に何が起こるのか」
「軽躁に向かう前にどんな変化が出るのか」
…といった内容を知っておくと、早めに休む、予定を減らす、主治医に相談する、周囲に助けを求める、といった対応が取りやすくなります。
1-3.Colom & Vietaモデル~再発予防を重視した心理教育~
このレビューで重要なモデルの一つが、Colom & Vietaモデルです。
このモデルは、21回で構成された構造化された心理教育です。
目的は、病識を高めること、治療を続けること、再発や前駆症状を早期に見つけること、生活リズムを整えることです。
対象は、薬物療法を受けている気分安定期の双極Ⅰ型・双極Ⅱ型の方で、急性エピソードの再発を予防する補助的治療として設計されています。
臨床的に見ると、このモデルの大きな意味は、双極症を「症状が出てから対応する病気」としてではなく、再発の前から備える病気として扱う点にあります。
双極症では、いったん大きく気分が崩れてから立て直すのは大きな負担になります。
だからこそ、気分の変化を早く見つけること、生活リズムを守ること、治療を中断しないことが重要になります。
Colomらの研究では、通常治療と比べて、心理教育を受けた方は、再発率、再発回数、抑うつエピソード、入院回数や入院期間などでよい結果を示しました。
さらに、再発までの期間も長くなり、その効果は5年後の追跡でも維持されたと報告されています。
このモデルから学べることは、心理教育は「説明を受ける時間」ではなく、再発しにくい生活を作るための準備だということです。
1-4.Bauer & McBrideモデル~自己管理力を高める心理教育~
もう一つ重要なのが、Bauer & McBrideモデルです。
これは、患者の自己管理スキルを高めるために作られた心理教育モデルで、8回構成です。
この心理教育では双極症、躁状態、うつ状態、双極症の治療についての知識を深めることを目的としています。
このモデルの特徴は、ご本人が自分の病気と生活を管理する力を育てることにあります。
双極症では、すべてを医療者任せにするだけでは、日常の変化に対応しきれないことがあります。
たとえば、睡眠不足が続いている、仕事量が増えている、家族との摩擦が強くなっている、気分が高まりすぎている、という変化は、診察室やカウンセリングルームの外で起こります。
だからこそ、本人が自分の状態を観察し、早めに対処する力が大切になります。
Bauerらの研究では、この心理教育プログラムにより、躁状態の期間が有意に減少しました。
また、仕事や親としての役割を含む社会機能全体には利益があり、生活の質では精神面の領域に改善が見られました。
臨床的には、これはとても現実的な結果です。
双極症では、軽躁や躁に向かう変化は、本人にとって「調子がよい」と感じられることもあります。
そのため、早めに気づき、活動量や睡眠を調整することが大切です。
Bauer & McBrideモデルは、そのための自己管理力を高める支援として理解できます。
1-5.認知行動療法との組み合わせ~考え方と行動のパターンも整える~
心理教育は、認知行動療法と組み合わせて使われることもあります。
認知行動療法とは、気分や行動に影響する考え方のパターン、生活行動、問題への対処法を整理し、より現実的で役立つ反応を増やしていく心理療法です。
Levratらのレビューでは、認知行動療法のプログラムは、最初に心理教育の段階を置き、その後に自己観察や認知行動的な方法を扱い、最後に定着を図る構成が多いと説明されています。
心理教育だけでは、「知識は増えたけれど、実際の場面でどう使えばよいかわからない」ということがあります。
そこで認知行動療法を組み合わせると、日常生活の中で知識を使いやすくなります。
例えば、次のような支援がしやすくなります。
調子が上がったときの「まだ大丈夫」という考えを見直す
落ち込んだときの自己否定に気づく
活動量を調整する
ストレス場面での対処を具体化する
睡眠や生活リズムを守る行動計画を立てる
レビューでは、標準的な短期心理教育に認知行動療法を加えた研究で、1年間の抑うつ気分の日数が少なく、抗うつ薬の増量も少なかったと報告されています。
また、治療抵抗性の双極症を対象に、薬物療法と心理教育・認知行動療法を組み合わせた研究では、12か月時点で入院率が低く、6か月・12か月時点で抑うつと不安が低く、その結果は5年後にも維持されていました。
そのため臨床的には、知識を得るだけで行動の方法が不明瞭な方、抑うつや不安が残りやすい方、考え方のクセが生活の安定を妨げている方には、認知行動療法的な支援を加える意味があると考えられます。
1-6.心理教育の臨床的な意味~「知ること」は回復の手段になる~
双極症の心理教育で大切なのは、知識そのものではありません。
大切なのは、知識を通して、自分を責める見方から、自分を理解し管理する見方へ変わることです。
例えば調子が上がりすぎたときに「自分はまた失敗した」と責めるのではなく…
「睡眠が短くなっていた」
「活動量が増えすぎていた」
「予定を詰め込みすぎていた」
「早めに相談するタイミングだった」
…と整理できるようになることです。
また、落ち込みが続くときに「自分は何もできない」ではなく…
「今は抑うつ症状が強く、活動量を細かく調整する時期だ」
…と考えられるようになることです。
このように、心理教育は単なる知識提供ではなく、症状と生活を結びつけて理解する力を育てる支援です。
双極症と長く付き合っていくうえで、自分の変化に気づき、必要な対処を選びやすくするための大切な土台になります。
まとめ
Levratら(2024)のレビューは、双極症における心理教育が、再発、気分エピソード、入院の減少、機能や生活の質の改善に役立つ可能性を示しています。
特に、Colom & VietaモデルとBauer & McBrideモデルは、維持療法、つまり急性期ではない時期の支援として強い根拠があると整理されています。
心理カウンセラーとして強調したいのは、双極症の心理教育は「病気について勉強すること」だけではないという点です。
それは、気分の波を理解し、再発の前触れに気づき、生活リズムを整え、必要な支援につながるための実践的な土台です。
双極症と長くつき合っていくうえで、心理教育はとても重要な支援の一つだと考えられるでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 双極症の心理教育とは何ですか?
双極症の心理教育とは、病気の特徴、症状、治療、再発の前触れ、生活リズム、ストレス対処などを学び、日常生活で安定を保つ力を育てる支援です。
単なる知識提供ではなく、再発予防や自己管理に役立てることが目的です。
Q2. 双極症の心理教育は何に役立ちますか?
心理教育は、再発や気分エピソード、入院の減少、機能や生活の質の改善に役立つ可能性があります。
また、病気や治療への理解を深め、服薬を続けやすくしたり、自己否定を減らしたりする効果が示された研究もあります。
Q3. Colom & Vietaモデルとは何ですか?
Colom & Vietaモデルは、双極症の再発予防を目的とした構造化された心理教育モデルです。
病識、治療継続、前駆症状の早期発見、生活リズムの安定を重視し、気分安定期の双極Ⅰ型・双極Ⅱ型の人を対象にした補助的支援として設計されています。
Q4. Bauer & McBrideモデルとは何ですか?
Bauer & McBrideモデルは、双極症の人が自分の病気や症状、治療を理解し、自己管理力を高めることを目的とした心理教育モデルです。
研究では、躁状態の期間の減少、社会機能の改善、精神面の生活の質の改善が示されています。
Q5. 心理教育と認知行動療法はどう違いますか?
心理教育は、双極症について理解し、再発予防や生活管理の力を高める支援です。
認知行動療法は、考え方や行動のパターンを見直し、気分の安定に役立つ対処を身につける支援です。
両者は重なる部分もあり、組み合わせることで、抑うつや不安、生活上の困りごとへの対応がしやすくなる場合があります。
参考論文
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こころのケア心理カウンセリングRoom
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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