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強迫症の不安はどう変わるのか~強迫症における抑制学習アプローチとは~

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強迫症の不安はどう変わるのか~強迫症における抑制学習アプローチとは~

強迫症の不安はどう変わるのか~強迫症における抑制学習アプローチとは~

2026/05/03

みなさん、こんにちは。

神戸や芦屋、西宮などの近隣都市で活動しているこころのケア心理カウンセリングルームの心理カウンセラー(公認心理師) 駒居義基です。

 

強迫症(強迫障害)は、手洗いや確認、数え直し、祈り直し、考え直し、安心確認などをやめたいと思っていても、不安や違和感が強くなり、どうしても繰り返してしまうという心の病です。


そのため、ご本人にとっては強迫行為をしないと、何か悪いことが起こるように感じたり、不安や罪悪感に耐えられないように感じたりしてしまいます。

 

この強迫症のトリートメントで用いられるのが「暴露妨害法」です。

 

暴露妨害法とは、「不安になる状況にあえて身を置き(曝露)、いつもやってしまう安心するための行動を我慢する(反応妨害)」ことで、強迫観念や強迫行為を軽減あるいは解消するものです。

 

この強迫症における曝露反応妨害法は、単に「不安に慣れる練習」ではありません。


近年の抑制学習モデルでは、強迫観念が浮かんでも、強迫行為をしなくても、恐れている結果は起こらない、または不安や不確実性には耐えられる、ということを脳が理解することが重要だと考えます。

 

つまり、曝露療法は「恐怖を消す方法」ではなく、古い恐怖学習に対抗する新しい安全学習を作る方法として捉え直す必要があるということです。

 

また曝露反応妨害法が強迫症に対する有効な心理療法である一方、長期的な効果をさらに高めるために、抑制学習の考え方を活用できる可能性もあります。

 

そこで今回は研究論文をもとに、強迫症のトリートメントについてシェアしたいと思います。

 

※本投稿は公認心理師としての一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の方の診断・治療を行うものでも効果を保証するものでもありません。

※気になる症状がある場合は、必ず医療機関等の専門機関にご相談ください。

 

1.強迫症のトリートメントの目的は「不安に慣れる」だけではなく、新しい学習をつくること

 

 

先述しましたように、強迫症では、不安や違和感をなくすために、確認、手洗い、安心確認、やり直し、回避などを繰り返してしまうことがあります。


曝露反応妨害法は、こうした強迫行為を少しずつ減らしていく代表的な心理療法です。

 

近年は、この方法を単なる「不安に慣れる練習」としてではなく、不安があっても強迫行為をしなくて大丈夫だと学ぶ練習として理解されています。


これが、抑制学習モデルです。

 

1-1.この論文が伝えていること

 

いつも通り、研究論文を参考にしていますので、その内容についてサラッと触れておきたいと思います。

 

Jacoby & Abramowitz(2016)の論文は、曝露療法がどのように恐怖を弱めるのかを整理し、その考え方を強迫症に応用したレビューです。

 

この研究論文の大切な点は、強迫症の曝露反応妨害法を、単に「怖いものに慣れるための練習」としてではなく、強迫観念や不安に対する新しい意味づけを学ぶ方法として捉えているところです。

 

従来は、曝露を続けることで不安が下がり、その結果として恐怖が弱まると考えられてきました。


しかし、抑制学習の考え方では、恐怖の記憶そのものが完全に消えるわけではありません。


つまり、古い恐怖の学習に対して、新しい安全の学習が上書きされるのではなく、並んで存在すると考えます。

 

つまり、怖さを完全に消すというより、「怖いと感じても、実際には強迫行為をしなくてよかった」という新しい学習を増やしていくことが大切なのです。

 

1-2.曝露反応妨害法とは何か

 

強迫症に対する代表的な心理療法に、曝露反応妨害法(エクスポージャー)があります。

 

これは、不安や違和感を引き起こす状況に少しずつ向き合いながら、手洗い、確認、安心確認、回避、心の中での打ち消しなどの強迫行為を控える方法です。

 

たとえば、汚染への不安がある方であれば、あえて不安を感じるものに触れ、その後すぐに手を洗わない練習をします。


確認強迫がある方であれば、鍵やガスを一度確認した後、何度も確認し直さない練習をします。


加害恐怖がある方であれば、「自分が誰かを傷つけてしまうかもしれない」という不安を避けずに扱い、確認や回避をしない練習を行います。

 

大切なのは、そして本当に重要なのは、曝露反応妨害法は「ただ怖いことをさせる方法」ではないということです。


本来の目的は、強迫行為をしなくても、恐れていた結果が必ず起こるわけではないことや、不安や違和感があっても生活を続けられることを脳が理解するようにすることです。

 

1-3.従来の「慣れ」の考え方とその限界

 

曝露療法は長いあいだ、不安に慣れることを中心に説明されてきました。


つまり、怖い状況にとどまっていると、時間とともに不安が自然に下がる。だから曝露は効果がある、という考え方です。

 

もちろん、実際に不安が下がることはあります。

 

また最初は強かった不安が、時間がたつにつれて少しずつ落ち着いてくることもあります。

 

ただし、抑制学習モデルでは、不安がその場で下がったかどうかだけを成功の基準にしないことが大切だと考えます。

 

なぜなら、曝露中に不安が下がっても、後でまた不安が戻ることがあるからです。


反対に、曝露中に不安があまり下がらなくても、長い目で見ると改善につながることもあります。

 

ここで大切なのは、曝露療法の目的を「その場で不安をゼロにすること」と考えすぎないことです。


不安が下がったかどうかよりも、不安があっても強迫行為をしなくて済んだという学習が残ることが重要になります。

 

1-4.抑制学習モデルとは何か

 

抑制学習モデルをシンプルに言うと、怖さの記憶を消すのではなく、それに対抗する新しい記憶を脳が作れるようにするモデルです。

 

強迫症では、ある刺激や考えに対して、次のような意味づけができていることがあります。

 

「ドアノブは汚い」


「確認しないと事故が起きる」


「悪い考えが浮かぶのは危険だ」


「個の不安は、まだ安全ではないからだ」


「この違和感はやり直さないと消えない」

 

こうした意味づけが強くなると、不安を下げるために強迫行為をしたくなります。


しかし、強迫行為をすると一時的には安心できても、「やはり確認しないと危険だった」「手を洗わないと危なかった」という学習が残りやすくなります。

 

曝露反応妨害法では、この脳の古い学習を完全に消すのではなく、次のような新しい学習を作っていきます。

 

「ドアノブに触れても、必ず病気になるわけではない」


「確認を繰り返さなくても、事故は起こらなかった」


「悪い考えが浮かんでも、それは行動とは別である」


「不安が残っていても、生活は進められる」


「違和感があっても、やり直さなくてよい」

 

つまり、抑制学習では、恐怖を消し去ることよりも、恐怖があっても別の反応ができるようになることを重視します。

 

1-5.「不安が下がるまで待つ」よりも「予測を検証する」

 

抑制学習モデルでとても重要なのが、予測を検証することです。

 

これは、「何が怖いのか」「何が起こると予測しているのか」をはっきりさせたうえで、その予測が本当に起こるのかを確認していくことです。

 

たとえば、確認強迫がある方なら、次のような予測があるかもしれません。

 

「確認しなければ火事になる」


「もう一度見ないと事故が起こる」


「完全に確認できていなければ危険だ」

 

また汚染強迫がある人なら、次のような予測があるかもしれません。

 

「触ったら病気になる」


「手を洗わないと家族にうつす」


「汚れが残っていると危険だ」

 

加害恐怖がある方なら、次のような予測があるかもしれません。

 

「この考えが浮かぶということは、本当に誰かを傷つける危険がある」


「不安があるなら、自分は危険な人間かもしれない」


「確認しないと取り返しのつかないことになる」

 

抑制学習モデルでは、曝露の目的を「不安が下がるまで待つこと」だけに置きません。


それよりも、恐れていた結果が本当に起きるのか、不安や不確実性を抱えたままでも過ごせるのかを学ぶことに焦点を当てます。

 

1-6.強迫症では「不確実さに耐える学習」も大切

 

強迫症では、恐れている結果がすぐに確認できないことも多くあります。


例えば、日本ではあまり多くありませんが宗教的・道徳的な強迫観念では、「悪い考えを持ったから罰が当たるのではないか」「自分は悪い人間なのではないか」といった不安が出ることがあります。

 

この場合、「絶対に大丈夫」と確認することは難しいです。


また、確認しようとすればするほど、かえって疑いが強くなることもあります。

 

そのため、強迫症の支援では、単に「何も起こらなかった」と学ぶだけでなく、不確実なままでもやっていけるという学習が重要になります。

 

たとえば、次のような練習です。

 

「完全に安心できるまで確認する」のではなく、確認しないまま次に進む。


「確信が100%になるまで考える」のではなく、確信が不十分でも行動を終える。


「違和感が消えるまでやり直す」のではなく、違和感を残したままやめる。

 

これは簡単な取り組みではありません。


不安や違和感が強く出るため、大きな負荷がかかることもあります。


だからこそ、取り組む場合は、何を恐れているのか、どの程度なら可能なのかを丁寧に見ながら進めることが大切となります。

 

1-7.「望ましい困難」とは何か

 

Jacoby & Abramowitzの論文では、抑制学習を強めるために、曝露に望ましい困難を取り入れるという考え方が示されています。

 

望ましい困難とは、短期的には少し難しいけれど、長期的には学習を強くするために役立つ工夫のことです。

 

例えば、いつも同じ場所、同じ順番、同じ強さで曝露をするのではなく、場所や状況を変えて練習することがあります。

 

自宅だけでなく外出先でも確認を減らす。


落ち着いている日だけでなく、少し不安がある日にも練習する。


一つの不安刺激だけでなく、複数の刺激を組み合わせる。


家族がそばにいるときだけでなく、一人の場面でも練習する。

 

このような工夫によって、「特定の場面だけ大丈夫」ではなく、さまざまな場面で新しい学習が思い出されやすくなります。

 

ここでの目的は、無理に難しいことをすることではありません。


少し負荷を変えながら、いろいろな状況でも強迫行為をしなくてよいという学習を広げていくことです。

 

1-8.安全行動や儀式をどう見るか

 

強迫症では、強迫行為は多くの場合、「安心するため」に行われます。


手を洗う、確認する、やり直す、家族に大丈夫か聞く、心の中で打ち消す…。


こうした行為をすると、一時的には安心できることがあります。

 

しかし長期的には、その行為が不安を維持してしまうことになります。

 

たとえば、手を洗ったから安心できた場合、脳は「洗わなかったら危険だった」という学習が成立してしまいます。


何度も確認したから安心できた場合、「確認しないと危険」という学習が強まります。


家族に「大丈夫?」と聞いて安心した場合、「自分の判断は当てにならない」という感覚が残りやすくなります。

 

抑制学習モデルでは、強迫行為をしないことによって、次のような新しい学習を脳に作っていきます。

 

「儀式をしなくても恐れていた結果は起こらない」


「不安や違和感は苦しいが、耐えられる」


「安心確認をしなくても生活は続けられる」

 

つまり、反応妨害は単なる我慢ではありません。


儀式がなくても安全でいられる、という脳の学習の機会なのです。

 

1-9.強迫症のさまざまな症状にどう応用できるか

 

強迫症にはさまざまな症状があります。


汚染への恐怖、確認強迫、加害恐怖、性的・宗教的な侵入思考、対称性や完全性へのこだわりなど、人によって困りごとはかなり違います。

 

抑制学習モデルの良い点は、「症状名」だけではなく、何を恐れているのか、何を新しく学ぶ必要があるのかに焦点を当てられることです。

 

例えば、汚染強迫では、次のような学習が必要かもしれません。

 

「触ったら必ず病気になるわけではない」


「不快感があっても洗わずに過ごせる」


「完全に清潔でなくても生活できる」

 

確認強迫では、次のような学習が必要かもしれません。

 

「確認を繰り返さなくても事故は起きない」


「完全な確信がなくても行動を終えられる」


「不安が残っていても、次の行動に進める」

 

加害恐怖では、次のような学習が必要かもしれません。

 

「侵入思考があることと、実際に危害を加えることは同じではない」


「不安があっても、危険人物である証拠にはならない」


「考えを消そうとしなくても、行動は選べる」

 

このように、強迫症の症状が違っても、中心には共通点があります。


それは、恐れている予測と、新しく学ぶ必要があることです。

 

1-10.抑制学習モデルから見た曝露反応妨害法の意味

 

抑制学習モデルから見ると、曝露反応妨害法は「不安を消すための方法」ではありません。


むしろ、不安があっても、強迫行為をしなくても、生活を進められることを脳が学ぶ方法です。

 

この視点があると、曝露中に不安が下がらなかったとしても、それだけで失敗と考える必要はありません。


不安が残っていても、儀式をしなかった。


不確実なままでも、その場を終えられた。


恐れていた結果が起こらなかった。

 

これらはすべて、脳の新しい学習になりえます。

 

強迫症では、「完全に安心したい」「確実に大丈夫だと知りたい」という気持ちが強くなりやすくなります。


しかし抑制学習モデルでは、完全な安心を得ることよりも、安心が完全でなくても進める力を育てることが大切になります。

 

よくある質問(FAQ)


Q1. 強迫症の曝露反応妨害法(エクスポージャー)は、ただ不安を我慢する方法ですか?

 

いいえ、ただ我慢する方法ではありません。


曝露反応妨害法は、不安や違和感があっても、確認・手洗い・やり直し・安心確認などをしなくても大丈夫だったという新しい学習を作る方法です。

 

目的は不安を無理に消すことではなく、強迫行為をしなくても生活を進められる感覚を育てることです。

 

Q2. 曝露中に不安が下がらないと、失敗なのでしょうか?

 

失敗とは限りません。


抑制学習の考え方では、その場で不安が下がったかどうかよりも、不安が残っていても強迫行為をしなかったことが大切です。

 

例えば、不安が残ったままでも確認を繰り返さなかった、手を洗い直さなかった、安心確認をしなかったなら、それ自体が新しい学習になります。

 

Q3. 強迫症では、なぜ「確認」や「手洗い」をすると不安が長引くのですか?

 

確認や手洗いは、その場では安心につながります。


しかし長期的には、脳が「確認したから事故を防げた」「洗ったから危険を避けられた」と学習しやすくなります。

 

すると、次に不安が出たときも、また強迫行為をしないと安心できなくなります。

 

これが、強迫症の悪循環を長引かせる一因になります。

 

Q4. 強迫症で「絶対に大丈夫」と思えないときは、どうすればよいですか?

 

強迫症では、「100%大丈夫」と確信しようとするほど、かえって不安が強くなることがあります。


そのため大切なのは、完全な安心を得ることではなく、不確実さが残っていても次に進む練習です。

 

「まだ少し不安だけれど確認しない」「違和感があるけれどやり直さない」という経験が、少しずつ強迫症の悪循環を弱める助けになります。

 

Q5. 加害恐怖や不謹慎な考えにも、曝露反応妨害法は関係しますか?

 

関係します。


加害恐怖や不謹慎な考えでは、「こんな考えが浮かぶ自分は危険なのではないか」と不安になることがあります。

 

曝露反応妨害法では、考えを消そうとしたり、安心確認を繰り返したりするのではなく、侵入思考が浮かんでも、それは実際の行動とは別であると学ぶことが大切になります。

 

考えが浮かぶこと自体を危険の証拠とみなさない練習です。

 

参考論文

Jacoby, R. J., & Abramowitz, J. S. (2016). Inhibitory learning approaches to exposure therapy: A critical review and translation to obsessive-compulsive disorder.

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この記事の執筆者

駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)

心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。

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