嫌なことがあった日のセルフケア~心を回復させる「セイバリング」とは~
2026/05/30
みなさん、こんにちは。
神戸や芦屋、
嫌な出来事があった時、当然私たちの感情はネガティブな方向に向いてしまいます。
また多くの場合、その嫌な出来事は対人関係で発生しやすいものです。
特に、発表、面接、会議、対人場面、SNSでの反応など、人から評価される場面のあとには、気持ちが揺れやすくなります。
嫌な出来事のあとに心を立て直すには、無理に前向きになることよりも、今ここにある小さな良い感覚を丁寧に味わうことが役立ちます。
この「良い感覚を味わい、ポジティブ感情を広げる心の働き」は、心理学ではセイバリングと呼ばれます。
そこで今回は、対人関係のみならず、感情がネガティブに触れた際の対処として効果的なセイバリングについてシェアしたいと思います。
1.嫌な出来事のあと、気分が沈んだときにできる「セイバリング」

仕事や人間関係で嫌なことがあり、そのあとも気分が沈んでしまった…。
そのような時、頭では「気にしすぎかもしれない」と思っていても、心はなかなか簡単には切り替わらないものです。
嫌な出来事のあとに大切なのは、無理に前向きになることではありません。
それよりも落ち込んだ気持ちを否定せずに、今この瞬間にある小さな安心感や心地よさにも、少しだけ注意を向けてみることが効果的です。
心理学では、このように良い感覚やポジティブな感情を丁寧に味わうことを「セイバリング」と呼びます。
以下では、このセイバリングを研究論文を参照にしつつ解説したいと思います。
1-1.この論文は何を調べた研究なのか
毎度毎度のことですが、論文を参照にしているため、論文の内容を軽くご紹介します。
Klibertらの論文は、社会的評価を伴う小さなストレスのあとに、セイバリング介入がポジティブ感情を高めるかどうかを調べたものです。
ここで言う社会的評価を伴うストレスとは、「人からどう見られるか」「自分がどう評価されるか」が気になるような場面です。
具体的にば、人前で話す、相手の反応を気にする、うまくできたかどうかを考える、といった状況です。
この研究では、参加者に社会的評価を伴うストレス課題を行ってもらい、その後、いくつかの介入に分けてポジティブ感情の変化を調べました。
その結果、特に「今この瞬間を味わうセイバリング」を行った人たちは、対照群や過去を振り返るセイバリング群よりも、介入後のポジティブ感情が高くなったと報告されました。
ここで大切なのは、嫌な出来事のあとでも、今この瞬間の良い感覚に注意を向けることで、気分の立て直しを助けられる可能性があるということが示されたということです。
1-2.セイバリングとは何か
セイバリングとは、ポジティブな経験や感情を、意識的に味わい、広げ、長く感じようとする心の働きです。
日本語では、「味わう力」「良い感情を丁寧に受け取る力」と言うとわかりやすいかもしれませんね。
例えば…
温かい飲み物を飲んだときに、ほっとする感覚を味わう。
外の空気が心地よいと感じた瞬間に、少しだけ注意を向ける。
今日できた小さなことを、「少しできた」と認める。
好きな音楽を聴きながら、その心地よさを丁寧に感じる。
こうした行為は、すべてセイバリングに含まれます。
セイバリングは、単に「楽しいことをする」ことではありません。
多くの場合、楽しいことや心地よいことがあっても、私たちはそれに気づかず通り過ぎたままにしがちです。
特に、嫌な出来事があった日は、心がネガティブな方向に引っ張られやすくなるので、楽しい出来事や心地よいことが「残りにくい」という状態が生まれてしまいます。
そのためセイバリングでは、小さな良い感覚に意識を向け、心の中で丁寧に受け取っていきます。
1-3.なぜ嫌な出来事のあとにセイバリングが役立つのか
繰り返しになりますが、嫌な出来事があったあと、人の注意はどうしてもネガティブな方向に向きやすくなります。
そのネガティブな考えが続くと、当たり前ですが気分はさらに沈んでしまいます。
特に、人から評価される場面では、自分の言動や相手の反応を何度も思い返しやすくなり、気が付いたら「一人反省会」が行われる…という状況が生まれてしまいます。
例えば…
会議でうまく発言できなかったあと、帰宅してからも「あの場面で変に思われたのではないか」と何度も考えてしまう。
友人との会話で相手の反応が少し薄かっただけで、「嫌われたのかもしれない」と不安になる。
SNSの反応が少なかっただけで、自分の価値まで下がったように感じてしまう。
こうした状態では、心の中が「反省」と「自己批判」でいっぱいになりやすくなります。
ここで役に立つのがセイバリングです。
セイバリングは、こうしたネガティブな考えを無理に消す方法ではありません。
むしろ、嫌な気持ちがある中でも、良い感覚や安心できる感覚にも注意を向けるというアプローチです。
例えば、失敗したように感じた会話のあとでも、「今日は帰り道の風が心地よかった」「温かいお茶を飲んで少し落ち着いた」「ひとまずその場を乗り切れた」「相手の反応が全部悪かったわけではない」といった小さな感覚を受け取っていきます。
これは、嫌な出来事を否定することではありません(実際、否定は一切しません)。
心の中に、嫌な感情だけでなく、それと同時に少しの安心や回復の感覚も置いていくというものです。
1-4.「今この瞬間を味わう」ことの意味
Klibertらの研究で特に効果が示されたのは、過去の良い出来事を思い出す方法よりも、今この瞬間を味わうセイバリングでした。
これは、とても実用的な視点です。
嫌な出来事のあとには、過去の楽しい記憶を思い出すことも役立つかもしれません。
しかし、ストレスを受けた直後には、過去の楽しい記憶を探しに行くのは想像以上に大変な作業です。
それよりも、今この瞬間にある感覚に注意を向けるほうが、気持ちの立て直しにつながりやすい可能性が高まります。
例えば…
深呼吸したときの体のゆるみを感じる。
手に持ったカップの温かさを感じる。
椅子に座っている身体の支えを感じる。
窓の外の光や空気を感じる。
今、少しだけ落ち着いている部分に注意を向ける。
ここで大切なのは、「幸せを感じなければならない」と頑張らないことです。
というのは、落ち込んでいるときに、無理に大きな喜びを探そうとすると、かえって苦しくなることが珍しくないからです。
セイバリングで大切なのは、ほんの少しでもよい、ほんの少しが大切、ということです。
つまり、今この瞬間にある心地よさ、安心、穏やかさ、達成感に気づくことです。
1-5.セイバリングはポジティブ思考ではない
セイバリングは、いわゆるポジティブ思考とは少し違います。
ポジティブ思考というと、「前向きに考えよう」「嫌なことにも意味がある」「大丈夫、きっと良くなる」と自分に言い聞かせるイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。
しかし、セイバリングは、無理に前向きな解釈を作ることではありません。
また嫌だったことを「良かったこと」に置き換える必要もありません。
例えば、嫌な会議のあとに、「失敗したけど、全部よかったことにしよう」と無理に考える必要はないということです。
それよりも、例えば…
「会議はつらかった。でも今、少し静かな場所にいて、呼吸はできている」
「今日は疲れた。でも帰って温かいものを飲めた」
「不安は残っている。でも一日を終えられた」
…と、現実の中にある小さな良い感覚を受け取ることです。
セイバリングは、現実逃避ではありません。
つらさを否定せずに、心が回復するための小さな資源にも目を向ける方法なんですね。
1-6.社会的評価のストレスにどう使えるか
社会的評価のストレスとは、人から見られること、判断されること、評価されることに関わるストレスです。
具体的には、人前で発表するしたり上司や先生に評価されること、仕事で成果を問われることなどがあります。
また初対面の人と話したり、自分のSNSの反応を見るといったものも含まれます。
こうした場面で思い通りにいかなかった場合、頭の中では「一人反省会」が始まりやすくなります。
「あの言い方はまずかったかも」
「変に思われたかもしれない」
「もっとちゃんとできたはず」
「相手の表情が冷たかった」
もちろん、振り返りそのものが悪いわけではありません。
次に活かせる反省であれば、成長につながることもあります。
しかし、振り返りが自己批判ばかりになってしまうと、心はどんどん疲れてしまいます。
建設的な反省ではなく、「自分はだめだ」「また失敗した」という方向に進むと、気分の落ち込みが長引きやすくなり、そして問題解決からどんどんと離れて行ってしまいます。
そのようなとき、セイバリングは気持ちの切り替えに役立つことが期待できます。
大切なのは、反省をゼロにすることではありません。
反省だけで心をいっぱいにしないことです。
つまり「嫌だったことを整理する時間」と同時に、「小さな良い感覚を受け取る時間」を意識的に作ることがセルフケアにつながります。
1-7.日常でできるセイバリングの練習
セイバリングは、特別な道具がなくても日常の中で行えます。
まずは、短い時間で構いませんので、以下の方法を実践していきましょう。
(1)温かさを味わう
お茶やコーヒーを飲むときに、温かさ、香り、喉を通る感覚に注意を向けてください。
「少し落ち着く」「ほっとする」という感覚があれば、それを数秒だけ味わいます。
気分が大きく変わらなくても構いません。
大切なのは、心地よい感覚に気づき、通り過ぎずに受け取ることです。
(2)今日できたことを一つだけ認める
この場合、大きな成果でなくて構いませんし、むしろ小さなことに着目することが効果的です。
「出勤できた」
「返信できた」
「一食食べられた」
「嫌なことがあっても帰ってこられた」
「落ち込んだけれど、休むことを選べた」
これらに対して多くの方は「出来て当たり前」と思い、味わうことなくすぐに忘れてしまいます。
しかし、こうした小さな行動を、できたこととして受け取ることで、心のネガティブさが和らいでいきます。
落ち込んでいるときほど、私たちはできなかったことばかりに目が向きます。
だからこそ、ほんの小さなことでも「できた」と認めることが、気分の回復を助けることにつながります。
(3)心地よい感覚を探す
空気、光、音、肌触り、座っている安定感など、今この瞬間にある心地よい感覚を探しましょう。
特別な幸福感でなくて構いません。
ほんの少し不快ではない感覚でも十分です。
例えば、「この椅子は少し楽だ」「部屋が静かで助かる」「布団の感触が落ち着く」といった程度で構いません。
セイバリングでは、大きな喜びを無理に探す必要はありません。小さな安心を見つけることが大切です。
(4)良かった瞬間を短く言葉にする
「さっきの店員さんの対応が優しかった」
「外の空がきれいだった」
「友人の一言がありがたかった」
「帰り道に少しだけ気分が落ち着いた」
こうした小さな良い出来事を、短く言葉にしてみてください。
言葉にすることで、良い感覚が心に残りやすくなります。
日記に一行だけ書くのもよい方法です。
この場合、長く書く必要はありません。
「今日、少し助かったこと」「少しよかったこと」を一つ残すだけでも十分効果があります。
(5)誰かと分かち合う
良い出来事を一人で味わうだけでなく、誰かに話すこともセイバリングになります。
「今日、少し嬉しいことがあった」
「これがおいしかった」
「この景色がきれいだった」
「少しだけ落ち着けた」
このように伝えることで、ポジティブな感情が広がりやすくなります。
ただし、無理に明るく話す必要はありません。
信頼できる方に、ほんの少しだけ良かったことを共有するだけでも十分です。
1-8.セイバリングを使うときの注意点
強いトラウマ反応、深い抑うつ、強い不安発作があるときには、「良いことを味わおう」とすること自体が負担になる場合もあります。
そのようなときは、無理にセイバリングをしようとしないでください。
まずは安全を確保し、休むこと、誰かに相談すること、必要であれば専門家につながることが大切です。
セイバリングは、「つらい気持ちを消す方法」ではなく、「つらい気持ちがある中でも、心が回復する小さな資源に気づく方法」と考えると使いやすくなります。
まとめ
Klibertらの研究は、社会的評価を伴う小さなストレスのあとに、セイバリング介入がポジティブ感情を高める可能性を示した研究です。
特に、今この瞬間を味わうセイバリングは、ストレス後の気持ちの立て直しに役立つ可能性が示されました。
セイバリングとは、良い感情や心地よい感覚を意識的に味わうことです。
それは、無理に前向きになることではありません
つらさを否定せず、今ここにある小さな安心や喜びを受け取ることです。
嫌な出来事があったあと、心はどうしても反省や自己批判に向かいやすくなります。
そのようなときに、ほんの少しでも心地よい感覚を味わい、心の回復を助ける小さな一歩を進めていきましょう。
よくある質問
Q1. セイバリングとは何ですか?
セイバリングとは、ポジティブな経験や心地よい感覚を意識的に味わい、良い感情を広げたり長く感じたりする心の働きです。
日本語では「良い感覚を味わう力」と言うとわかりやすいでしょう。
Q2. セイバリングはポジティブ思考と同じですか?
同じではありません。
ポジティブ思考は、物事を前向きに考えようとする側面があります。
一方、セイバリングは、無理に前向きに解釈するのではなく、今ある小さな安心感や心地よさを丁寧に受け取る方法です。
Q3. 嫌な出来事のあとにセイバリングは役立ちますか?
役立つことが期待できます。
Klibertらの研究では、社会的評価を伴う小さなストレスのあとに、今この瞬間を味わうセイバリングがポジティブ感情を高めることが示されました。
ただし、大きな喪失や深刻なトラウマにそのまま当てはめることはできません。
Q4. セイバリングはどのように行えばよいですか?
たとえば、温かい飲み物の感覚を味わう、今日できたことを一つ認める、心地よい音や光に注意を向ける、良かった出来事を短く言葉にするなどの方法があります。
大切なのは、特別な幸福を探すことではなく、小さな良い感覚に気づくことです。
Q5. 対人関係のストレスにもセイバリングは使えますか?
使えます。
人からどう見られたかが気になる場面のあと、反省や自己批判だけに意識が向くと気分が沈みやすくなります。
そのようなときに、今この瞬間の安心感や小さな良い感覚を味わうことで、気持ちの立て直しを助けられることが期待できます。
参考論文
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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