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双極症では人の気持ちを読み取りにくくなる?「社会的認知」から考える人間関係~神戸、芦屋、西宮のカウンセリングより~

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双極症では人の気持ちを読み取りにくくなる?「社会的認知」から考える人間関係

双極症では人の気持ちを読み取りにくくなる?「社会的認知」から考える人間関係

2026/08/25

双極症では人の気持ちを読み取りにくくなる?「社会的認知」から考える人間関係

1.双極症が安定しているのに、人間関係では困ることがあるのはなぜ?

 

心理カウンセリングで双極症の方のお話を伺っていると、躁状態や抑うつ状態はかなり安定しているにもかかわらず、職場や家庭などの人間関係では困りごとが続いているという方が数多くおられます。

 

相手が怒っているように感じる、ちょっとした言葉が気になる、相手の反応から「嫌われているのではないか」と考えてしまう、あるいは相手の意図をうまく理解できず、後になって「そういう意味だったのか」と気づく、ということもあります。

 

もちろん、こうした問題がすべて双極症によるものだと考えることはできません。

 

しかしGillissieら(2022)のシステマティックレビューとメタ分析では、双極症の方では、健康な人と比較して、相手の感情や考え、意図などを読み取る「社会的認知」に平均的な弱さがみられることが報告されています。

 

29研究をまとめた結果、社会的認知全体では中程度の差が確認されました。

 

つまり、双極症を理解するときには「気分の波」だけではなく、先述した「社会的認知」の弱さが生じやすいため、人間関係の中で情報をどのように受け取り、解釈しているのかにも目を向ける必要があります。

 

そこでこのブログでは、双極症にともなう人間関係の難しさについてシェアしたいと思います。

 

2.「社会的認知」とは何か

 

社会的認知(social cognition:社会的認知)とは、簡単にいえば、人と関わるために必要な心理的な情報を理解する力です。

 

例えば、相手の表情から「少し怒っていそうだ」と読み取ったり、相手がなぜそのような行動をしたのかを想像したり、その場の人間関係や状況を考えて行動したりすることが含まれます。

 

今回の研究では、社会的認知を主に「感情認識」「心の理論」「社会的判断」という3つの領域に分けて調べました。

 

3.双極症では社会的認知に中程度の差が

 

研究では、双極症群と健康な対照群を比較したところ、社会的認知全体について、d=0.59という結果が示されました。

 

dは「効果量」と呼ばれる数値で、2つのグループにどのくらいの差があるかを表します。

 

一般的には、0.2程度なら小さな差、0.5程度なら中程度、0.8程度なら大きな差の目安として使われます。

 

したがって、d=0.59は中程度の差です。

 

ただし、「双極症の人は社会的認知能力が59%低い」という意味ではありません。

 

また、すべての双極症の方に同じ特徴があるという意味でもありません。

 

あくまでも、多数の人をまとめて比較したときに、社会的認知課題の成績に平均的な差が確認されたということです。

 

4.特に差が大きかったのは「相手の感情を読み取る力」

 

3つの領域を詳しく見ると、以下のようになりました。

 

✔感情認識:d=0.70
✔心の理論:d=0.66
✔社会的判断:d=0.38

 

最も大きかったのが、感情認識のd=0.70です。

 

これは中程度から比較的大きな差と考えられます。

 

感情認識とは、相手の表情や声などから、「怒っている」「悲しんでいる」「喜んでいる」といった感情を読み取る力です。

 

日常生活で考えると、たとえば相手が少し無表情だったときに、「怒っている」と捉えるのか、「疲れているのかもしれない」と捉えるのかによって、その後の行動は大きく変わります。

 

例えば、双極症の方では、相手の表情や声の調子から感情を読み取る際に、相手が実際に感じていることと、自分が受け取った印象にズレが生じることがあります。

 

具多的には、相手が疲れて無表情になっているだけでも、「怒っているのではないか」「自分に不満があるのではないか」と受け取ってしまうことがあります。

 

ただし、これはすべての双極症の方にみられるわけではなく、研究ではあくまで集団として平均的に感情認識の成績が低い傾向が示されたという意味です。

 

つまり、この研究が示したのは感情認識課題全体の成績差です。

 

そのため「双極症では相手の表情を必ず悪く受け取る」という単純な結果ではないことに注意が必要です。

 

5.「相手は何を考えているのか」を想像する力にも差が

 

心の理論(Theory of Mind:心の理論)は、「相手は何を考えているのだろう」「なぜこの人はこんな行動をしたのだろう」と、自分とは異なる相手の心の状態を推測する力です。

 

この領域でもd=0.66という中程度以上の差が報告されました。

 

たとえば、LINEの返信が来ないとします。

そこで、「嫌われた」と考えることもできますが…

 

✔「仕事中なのかもしれない」
✔「疲れているのかもしれない」
✔「返信を忘れているだけかもしれない」

 

…という可能性もあります。

 

ここで重要なのは、自分が推測している相手の気持ちと、実際の相手の気持ちは同じとは限らないということです。

 

人間関係でつらくなったときほど、「相手は絶対にこう思っている」という確信が強くなることがあります。

 

そのようなときには、相手の心について一つの答えを決めるのではなく、複数の可能性を残しておくことが役立つ場合があります。

 

それを支えるのが「心の理論」なんですね。

 

6.社会的な出来事を判断する力にも小~中程度の差が

 

社会的判断ではd=0.38でした。

 

これは小さいものから中程度の差にあたります。

 

この結果からも分かるように、双極症において社会的認知のすべての領域が同じ程度に弱くなるわけではありません。

 

今回の研究では…

 

感情認識 > 心の理論 > 社会的判断

 

という順で差が大きくなっていました。

 

そのため、「双極症では社会性が低い」と一括りにするのではなく、特に相手の感情や心の状態をどのように読み取っているのかに注目する方が適切でしょう。

 

7.症状が落ち着いていても、人間関係の問題が残る可能性がある

 

Gillissieらの研究には、躁状態や抑うつ状態にある人だけでなく、寛解期、つまり気分症状が比較的安定している人も含まれています。

 

著者らは、社会的認知の弱さが症状期だけでなく寛解期にもみられることを指摘しています。

 

ただし、この研究では、躁状態・抑うつ状態・寛解期の違いによって社会的認知の低下がどの程度変わるのかを直接比較したわけではありません。

 

後続研究でも、この点には注意が必要だとされています。

 

それでも臨床では、「気分は安定しているのに、なぜ人間関係だけうまくいかないのだろう」という場合に、社会的認知という視点を加えることには意味があります。

 

というのは、症状が安定した後にも、対人関係について別の支援が必要なことがあるからです。

 

8.「人の気持ちが分からない性格」と考えなくてもよい

 

社会的認知に弱さがみられるからといって、それを「思いやりがない」「人の気持ちを考えられない」「性格に問題がある」といった、その人自身の性格や人間性の問題として捉える必要はありません。

 

本人は相手の気持ちを理解しようとしていても、双極症の影響により、表情や言葉などの情報を読み取り、その意味を解釈する過程で難しさが生じている可能性があるからです。

 

そう考えると、支援の方法も変わってきます。

 

単に「もっと相手の気持ちを考えましょう」と促すのではなく、「相手が怒っていると感じた根拠は何だったのか」「実際に確認できた事実は何か」「ほかにはどのような解釈が考えられるか」といった点を一つずつ整理しながら、より具体的に検討していくことによって回復していくことが期待できます

 

9.「事実」と「解釈」と「相手の気持ち」を分けてみる

 

セルフケアで使いやすい方法の一つが、出来事を分けて考えることです。

 

例えば、「事実:上司が挨拶を返さなかった」という出来事があったとします。

 

そこから…

 

解釈:「自分に怒っている」

 

と考え、さらに、

 

相手の意図についての推測:「昨日のミスを根に持っている」

 

…と考えたとします。

 

しかし、確認できている事実は「挨拶が返ってこなかった」というところまでです。

 

上司が怒っていることも、昨日のミスを根に持っていることも、その時点ではまだ推測です。

 

こうして、事実と、自分の解釈と、相手の心についての推測を分けることで、一つの考えに巻き込まれにくくなるようになっていきます。

 

10.双極症の支援では、気分の安定だけを目標にしないことも大切

 

双極症の治療では、躁状態や抑うつ状態を予防し、安定した状態を維持することが非常に重要です。

 

一方で、症状が安定した先には、仕事、人間関係、家族との関係、社会生活などを取り戻していく課題があります。

 

Gillissieらの研究は、双極症における社会的認知の弱さを、今後の治療や支援で検討すべき重要な領域として位置づけています。

 

そのため、人間関係の問題が繰り返される場合には…

 

✔「相手が実際に何をしたのか」
✔「自分はそれをどう解釈したのか」
✔「相手の気持ちをどのように推測したのか」

 

…という点を丁寧に分けて考えることは、問題を理解するための一つの方法になります。

 

双極症は、気分の波だけでその人のすべてを説明できるものではありません。

 

症状が落ち着いた後にも人間関係で困りごとが続いているのであれば、自分を責めてしまう考えではなく、対人場面で情報をどのように受け取り、どのように意味づけているのかというところから問題を見直してみることも大切になってきます。

 

よくある質問

 

Q1.双極症になると、人の気持ちが分からなくなるのでしょうか?

 

そういう意味ではありません。

 

研究では双極症の人を集団として比較したときに、社会的認知課題の成績が平均的に低かったことが示されています。

 

しかし個人差は大きく、すべての双極症の方に同じ特徴があるわけではありません。

 

Q2.症状が落ち着いているのに、人間関係がうまくいかないのは双極症の影響でしょうか?

 

可能性の一つとして社会的認知を検討する意義はありますが、それだけで説明することはできません。

 

性格、これまでの経験、職場環境、相手との関係など、さまざまな要因を一緒に考える必要があります。

 

Q3.「相手が怒っている」と感じることが多いのですが、私の思い込みなのでしょうか?

 

実際に相手が怒っている場合もありますので、単純に思い込みとは言えません。

 

大切なのは、「怒っていると思った根拠」「実際に確認できた事実」「ほかに考えられる可能性」を分けて検討することです。

 

Q4.社会的認知の問題はカウンセリングで扱えますか?

 

対人場面での出来事を振り返り、事実と解釈を分けたり、相手の立場について複数の可能性を検討したりすることは可能であり、そこから回復していくことは期待できます。

 

Q5.人間関係で失敗すると「自分は双極症だから仕方がない」と思ってしまいます

 

診断だけですべての対人問題を説明する必要はありません。

 

社会的認知に平均的な弱さがあるという研究結果は、「変えられない」という意味ではなく、どの部分で行き違いが生じているのかを具体的に考えるための一つの視点として利用するのが適切です。

 

参考文献

Gillissie et al.(2022)Deficits of social cognition in bipolar disorder: Systematic review and meta-analysis

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この記事の執筆者

駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)

心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。

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