うつ病の「回復」とは?症状が良くなるだけではない心理療法のゴール
2026/08/23
うつ病の「回復」とは?症状が良くなるだけではない心理療法のゴール
1.うつ病の症状が減れば、それで「回復」なのか?
心理カウンセリングでうつ病の方の支援を行っていると、症状の改善と、ご本人が感じている回復が必ずしも一致しないことが多々あります。
眠れるようになった、以前より動けるようになった、抑うつ気分も少し軽くなった…。
それでも、「以前の自分に戻った感じがしない」「これからどう生きていけばよいのか分からない」と感じる方は珍しくないんですね。
反対に、多少つらさが残っていても、「以前より自分のことが分かるようになった」「人との付き合い方が変わった」「つらくなっても対処できそうだ」と感じられるようになることもあります。
De Smetら(2020)の研究は、まさにこの違いに注目しました。
研究から見えてきたのは、うつ病からの回復とは、症状がなくなることだけではなく、自分の人生を自分で扱える感覚を取り戻し、自分や周囲とのバランスを作りながら、残っている問題とも付き合えるようになることだということです。
2.「うつ病の方にとって良い治療結果とは何か」を調べた研究
De Smetらは、大うつ病性障害のうつ病の方が心理療法を受けた後、「良くなった」とはどのような状態なのかを調べました。
研究では、認知行動療法(CBT)または精神力動的心理療法(PDT)を受けたうつ病の方のデータが使われています。治療は原則16~20回で、平均週1回、1回約45分でした。
特徴的なのは、うつ症状の点数だけで評価を終わらせなかったことです。
BDI-II(ベック抑うつ質問票)による評価に加えて、治療終了後にうつ病の方自身へインタビューを行い、「本人は何が変わったと感じているのか」を詳しく調べました。
そのうち、統計上「回復」と判定された28人と、「改善」と判定された19人の語りが分析されています。
3.研究上の「改善」と「回復」はどう違うのか?
研究では、治療前後のBDI-IIが9.6点以上低下した場合を、測定上の誤差だけでは説明しにくい「改善」と判定しました。
さらに、9.6点以上改善し、治療後の点数が11.3点未満まで低下した場合を「回復」としています。
シンプルにに言えば…
改善=以前より明らかに症状が軽くなった
回復=症状が明らかに軽くなり、さらに一般的な非臨床域まで改善した
…という違いです。
しかし、うつ病の方自身の話を聞いてみると、この数字だけでは分からない回復の姿が見えてきました。
4.うつ病の方が感じる「良い治療結果」には3つの側面があった
インタビューを分析した結果、うつ病の方にとっての良い治療結果は、大きく3つのテーマに整理されました。
それは、以下の3つです
①「自分の力を取り戻すこと」
②「自分なりのバランスを見つけること」
③「まだ残っている問題と付き合っていくこと」
興味深いのは、「症状が完全になくなった」ということだけが回復として語られていないことです。
つまり、うつ病の方はもっと広い意味で、自分自身や人生の変化を捉えていました。
5.自分の人生を自分で扱える感覚を取り戻す
回復のテーマの一つ目は、自分自身の力を取り戻すことです。
治療後には、自信が持てるようになった、自分の意見を言えるようになった、周囲に合わせすぎなくなった、自分なりに問題へ対処できるようになったといった変化が語られていました。
これは単に「悲しくなくなった」という変化ではありません。
むしろ、「以前より、自分で自分の人生を選べるようになった」という主体性の回復です。
うつ病への支援では、症状を軽くすることはもちろん重要です。
しかし、それと同時に「自分で決める」「自分の希望を大切にする」「困ったときに自分なりに対処する」といった力を取り戻していくことも、回復の大切な一部であることが、この研究からは見えてきます。
6.自分自身や人間関係とのバランスが変わっていく
うつ病の方にとっての二つ目のテーマは、自分なりのバランスを取り戻すことです。
うつ病の方からは、人間関係が改善した、自分自身について理解できるようになった、以前より心が穏やかになったといった変化が語られました。
例えば、自分の気持ちを大切にできるようになったことで、必要以上に周囲へ合わせなくなったり、反対に大切な人とは以前より深く関われるようになったりします。
また、「自分はなぜこうなったのか」という理解だけではなく、現在の問題に自分がどのように関わっているのかを理解することもあります。
このように、自分自身との関係が変わることで、人との関係や日常生活にも良好な変化が生まれていくことがうかがえます。
7.回復しても、問題がすべてなくなるわけではない
うつ病の方にとっての三つ目のテーマが、まだ残っている問題との付き合いです。
この点は、うつ病からの回復を考えるうえで特に重要です。
統計上「回復」あるいは「改善」と判定されたうつ病の方にも、気分の波、意欲の低下、再発への不安、解決していない問題などが残っていました。
つまり、「回復=2度とつらくならない状態ではない」、ということなんですね。
気分が落ち込む日があっても、それを「また全部元に戻った」と捉えずに済む、問題が起こっても、以前とは違う方法で対処できる…。
そうした変化も回復に含まれます。
「完全に問題がなくなること」を目標にすると、小さな落ち込みさえ失敗に感じてしまいます。
むしろ、多少の揺れがあっても生活を続けられる力を作ることがうつ病からの回復では重要になってきます。
8.数字では「改善」していても、本人は良くなったと感じていないことがある
この研究には、非常に興味深い結果があります。
統計上「改善」と判定された19人のうち、8人は自分では良くなったと感じていない、あるいは一度改善した後に再び悪化したと話していました。
19人中8人ですから、およそ4割です。
つまり、症状尺度を見ると明らかに改善しているにもかかわらず、本人の実感としては「まだ良くなっていない」ということが、それほど珍しくなかったのです。
たとえば、非常に重いうつ状態だった人の症状が半分まで改善しても、仕事に戻れない、人と会えない、楽しみを感じられない状態が続いていれば、「良くなった」とは感じにくいでしょう。
だからこそ心理カウンセリングでは、点数だけを見るのではなく、「ご自身では、どのくらい良くなったと感じていますか」と確認することが大切になってきます。
9.同じ「改善」でも、スタート地点が違うことが影響する
さらに研究では、治療開始時のBDI-II平均点が、回復群では29.2点、改善群では38.5点でした。
BDI-IIでは29点以上が重度の目安ですから、どちらも平均として重いうつ状態でしたが、改善群のほうが開始時点でさらに症状が強かったことになります。
両群の差を示すCohen's d(コーエンのd)は1.28で、これは統計的には「かなり大きな差」です。
つまり、改善群は治療開始時から、回復群よりも明らかに重症だったと考えられます。
したがって、「回復まで到達しなかったから治療効果が小さかった」と単純には言えません。
治療結果を見るときには、どこまで到達したかだけでなく、どこからどれだけ変化したかを見る必要があります。
10.うつ病の方は「症状」だけで回復を語っていない
この研究からもう一つ見えてくるのは、うつ病の方自身が回復を語るとき、必ずしも「抑うつ気分」「睡眠」「食欲」といった症状だけを中心に話していなかったということです。
自信、人間関係、自分への理解、自分で決めること、問題への対処、心の落ち着きなど、より幅広い変化が語られていました。
これは、心理カウンセリングのゴールを考えるうえでも重要です。
うつ病からの回復を、「症状がなくなること」だけではなく、「自分らしく生活できるようになること」まで含めて考えることが必要であるということです。
そのため私は、症状の程度だけではなく、自分で選択できているか、自分を必要以上に責めなくなったか、人との関係が変化したか、困ったときに対処できそうか、そして本人自身がどのくらい回復を実感しているかを確認することも大切だと考えるようにしています。
うつ病からの回復とは、単純に以前の自分に完全に戻ることだけではありません。
残っているつらさとも付き合いながら、自分自身や周囲との関係を作り直し、もう一度自分の人生を歩めるようになっていくこと、これもまた、大切な「回復」の形だと言えるでしょう。
よくある質問
Q1.うつ病の症状が残っていると、回復したとは言えないのでしょうか?
必ずしもそうではありません。
症状の改善は大切ですが、この研究では、残っている問題とうまく付き合えるようになることもうつ病の方にとっての回復の一部として語られていました。
症状が完全にゼロになることだけを回復と考える必要はありません。
Q2.検査の点数は良くなっているのに、自分では良くなった気がしません。
それはうつ病のケアにおいてよくみられる現象です。
この研究でも、統計上「改善」と判定された19人のうち8人が、自分では十分な改善を感じていない、あるいは一時的に良くなった後に再び悪化したと報告していました。
つまり、症状尺度と本人の回復実感が一致しないことがあるんですね。
Q3.うつ病が良くなると、以前の自分に戻れるのでしょうか?
以前の状態に戻ることが回復になる人もいますが、必ずしもそれだけではありません。
治療を通じて、自分自身への理解や人との付き合い方が変わり、以前とは違う形で生活を作っていくこともあります。
Q4.気分が落ち込む日があると、再発したということでしょうか?
一時的に落ち込むことだけで、直ちに再発とは判断できません。
回復した人にも気分の波やつらい日はあります。
大切なのは、落ち込みがどの程度続いているか、生活への影響がどのくらいあるか、そして自分なりに対処できているかです。
Q5.カウンセリングでは、何を目標にすればよいのでしょうか?
症状の軽減だけでなく、「どのような生活を送りたいか」まで考えるのが良いと言えるでしょう。
つまり、自分の気持ちを大切にできる、人との関係を築ける、仕事や趣味に戻れる、困ったときに対処できるなど、その人にとっての「良くなった状態」を一緒に明確にしていくことが大切です。
参考論文
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こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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