自閉症スペクトラム症の支援のあり方について~神戸、芦屋、西宮のカウンセリングより~

お問い合わせはこちら

発達障害の生きづらさは本人だけの問題?ニューロダイバーシティから考える支援のあり方について

発達障害の生きづらさは本人だけの問題?ニューロダイバーシティから考える支援のあり方について

2026/10/07

発達障害の生きづらさは本人だけの問題?ニューロダイバーシティから考える支援のあり方について

心理カウンセリングで発達障害や自閉スペクトラム症の傾向がある方のお話を伺っていると、次のようなお悩みが出てくることが珍しくありません。

 

✔「雑談がうまくできません」

✔「急な予定変更があると頭が真っ白になります」

✔「音や人の話し声が多い場所にいると、ものすごく疲れます」

✔「周りの人は普通にできているのに、自分だけできません」

 

こうなると、つい当事者の方は、「自分のコミュニケーション能力をもっと高めなければ」「周りに合わせられるようにならなければ」と考えやすくなります。

 

もちろん、生活しやすくするために新しいスキルを身につけることは大切です。

 

しかし、困りごとが生じるたびに、すべてを「自分を変えなければならない問題」と考えるのは妥当ではありません。

 

Pellicano & den Houting(2022)はこの問題に対して、自閉スペクトラム症研究をニューロダイバーシティの視点から捉え直し、困難を本人の中だけにある問題として考えるのではなく、本人の特性と環境との組み合わせによって生じる問題として見る必要があると論じています。

 

つまり、「自分のどこを直せば普通になれるか」だけではなく、「今の環境は、自分の特性に合っているだろうか」と考えることも大切だというのが研究で指摘されているんですね。

 

そこで今回は自閉症スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害:ASD)の支援についてシェアしたいと思います。

 

1:これまでの研究は「何ができないか」を調べることが多かった

 

自閉スペクトラム症については、これまで多くの研究が行われてきました。

 

具体的には、人の気持ちを読み取ることが難しい、コミュニケーションが苦手、柔軟に考えることが難しい、予定変更への対応が難しい、といった特徴です。

 

こうした研究によって、自閉スペクトラム症について理解が進んだことは確かに間違いありません。

 

しかし一方でPellicano & den Houtingは、研究そのものが、「定型発達の人と違うところを探し、その違いを問題として捉える」方向へ偏りすぎてきたのではないかと問いかけています。

 

同じ特徴でも、見方によって意味は変わります。

 

つまり同じ問題であっても、例えば「周囲に合わせにくい」と見ることもできますし、「周囲に流されず、自分の関心を深く追求できる」と見ることもできますよね。

 

ここで大切なのは、何でも長所として捉えることではありません。

 

大切なのは「違い=欠陥」と自動的に判断しないことです。

 

2:ニューロダイバーシティから支援を考える

 

ニューロダイバーシティとは、人間の脳や認知のあり方には多様性があり、定型発達だけを唯一の正しい発達と考えないという考え方です。

 

ここは誤解されやすいところですですが、ニューロダイバーシティは、「発達障害には困りごとはない」「全部個性なのだから支援はいらない」という意味ではありません。

 

強い感覚過敏で生活に支障が出ている、人との関係で苦しんでいる、仕事が続かない、実行機能の問題で日常生活が回らない…。

 

こうした困難があれば、当然支援が必要になる場合があります。

 

ただ重要なのは、「困難がある=本人を定型発達に近づけなければならない」とは考えないことです。

 

3:困りごとは「本人」と「環境」の組み合わせで変わってくる

 

たとえば、職場で口頭指示を受けることが苦手な人がいるとします。

 

従来なら、「聞き取り能力を高めましょう」「メモを取れるように練習しましょう」と本人側の改善だけを考えがちでした。

 

もちろん、それが役立つこともあります。

 

しかし、「指示を文章でもらう」「締切や優先順位を明確にしてもらう」だけで問題が大幅に減るなら、困りごとは本人の能力だけが原因ではありません。

 

同じように騒音が苦手な方に、「もっと音に慣れましょう」とだけ考えることも妥当ではありません。

 

座席を変える、ノイズキャンセリング機能のついているヘッドフォンを使う、静かな休憩場所を確保するという環境調整も立派な支援です。

 

大切なのは、「本人を変えるか、環境を変えるか」という二択ではなく、どちらをどの程度変えると生活しやすくなるのかを考えることです。

 

4:「人の気持ちが分からない」のは一方向の問題と言えるのか?

 

自閉スペクトラム症について、「人の気持ちを理解するのが苦手」と言われることが多々あります。

 

しかし、近年注目されているのが「ダブル・エンパシー問題」です。

 

これは、自閉スペクトラム症の方が定型発達の人を理解しにくいだけでなく、定型発達の人も自閉スペクトラム症の人を理解しにくいのではないか、という考え方です。

 

つまり、「一方だけに共感能力が欠けている」というより、「考え方や感じ方が異なる人同士では、お互いに理解しにくくなることがある」と考えます。

 

例えば、本人は率直に事実を伝えただけなのに、相手には「冷たい」と受け取られるという状況。

 

逆に、周囲は遠回しに配慮して伝えたつもりでも、本人には何を求められているのか分からないという状況。

 

これはどちらか一方だけが悪いとは限りません。

 

双方ともが相手に対する理解の難しさによって生じている問題なんですね。

 

5:「普通に見えるように頑張る」ことが負担になる

 

発達障害のある方の中には、「変に思われないようにしなければ」「相手の表情を常に確認しなければ」「雑談が苦手だと気づかれないようにしなければ」と考え、周囲に合わせ続ける方は少なくありません。

 

このように自分の特性を隠し、周囲に合わせることはマスキングやカモフラージュと呼ばれます。

 

社会生活の中では、確かにある程度周囲に合わせるスキルが役立つこともあります。

 

しかし、常に「本当の自分を隠さなければならない」と感じていると、大きな疲労やストレスにつながることがあります。

 

そのため、「どうすればもっと普通に見えるか」だけではなく、「どこまでなら合わせられるのか」「どこでは無理に合わせなくてもよいのか」を考えることも大切になってきます。

 

6:支援を行う際に必要な視点

 

支援では、何を「改善すべき問題」とするかも重要です。

 

例えば、一人で過ごすことを好む人がいたとします。

 

周囲から見ると、「もっと友達を作った方がよいのでは」と思うかもしれません。

 

しかし、本人が一人で過ごすことに満足しており、困っていないのであれば、それを必ずしも治療目標にする必要はありません。

 

一方で、「本当は人とつながりたいのに、会話がうまくできず孤独でつらい」のであれば、コミュニケーションを一緒に考える意味があります。

 

つまり、「一般的にはこうした方がよい」ではなく、「本人は何に困っていて、どのような生活を望んでいるのか」から支援目標を考えることが重要になってくるんですね。

 

7:支援とは「本人を変えること」だけを目的にするべきではない

 

心理カウンセリングでも、自閉症スペクトラム症を抱えているご本人に変化を求めることがあります。

 

例えば、自分の疲労に早めに気づく、相手に自分の希望を伝える、予定変更への対処方法を増やす、対人場面で使えるコミュニケーションスキルを増やす、と言ったものです。

 

こうした取り組みは確かに有用です。

 

しかし同時に、「環境側で変えられるところはないか」も検討することは非常に重要です。

 

と言うのは、全てをご本人の努力だけに任せてしまうと「うまくいかないのは自分の努力不足だから」という自己否定につながるリスクが高まります。

 

また、自閉症スペクトラム症において環境整備も非常に重要な要素であるため、これを見落としてしまうと効果的な支援が成立しなくなります。

 

そのため、ご本人と環境の両方を見ることで、「自分の努力で変えられる部分」と「環境調整を求めてもよい部分」を分けられるようになり、それが効果的な支援につながっていくことになります。

 

8:「普通に近づくこと」より「自分に合った生活」を考える

 

Pellicano & den Houting(2022)の研究が問いかけているのは、「自閉スペクトラム症を持つ人にとっての『良い生活』を、誰が決めるのか」という問題でもあります。

 

就職している、友達が多い、結婚している、一人暮らしをしている…。

 

一般的には、こうした状態が「自立している」「うまくいっている」と評価されることがあります。

 

しかし、それが全ての方にとって同じように望ましいとは限りません。

 

重要なのは、「ご本人がどのような生活なら無理が少なく、意味や充実感を感じられるのか」という点です。

 

そのため心理カウンセリングでも、「普通になれるようにする」ことを目標にするのではなく、「この方にとって生活しやすい形を一緒に探す」という視点が大切になります。

 

9:本人を変えなくても解決できる問題もある

 

発達障害や自閉スペクトラム症の特性によって困っていると、「自分はもっと変わらなければならない」と思いやすくなります。

 

しかし、全てを自分一人で変える必要はありません。

 

本人が新しいスキルを身につけることで楽になることも、確かにあります。

 

一方で、環境を少し変えるだけで大きく改善することも実際にあります。

 

そして、特性そのものは変えなくても、困りごとだけを減らせる場合があります。

 

Pellicano & den Houting(2022)の論文から得られる大切な視点は、「この方の何ができないのか」だけを見るのではなく、「この人はどんな環境なら力を発揮しやすいのか」を考えることです。

 

そのため「自分を変えるべきか」だけではなく、「環境を変えられないか」「必要なスキルだけ身につけられないか」「自分は本当はどのように暮らしたいのか」という問いを加えることが重要になってきます。

 

発達障害の支援では、そのように選択肢を広げていくことが大切な視点でありアプローチです。

 

よくある質問

Q1.苦手なことを「特性だから仕方ない」と諦めてもよいのでしょうか?

諦める必要はありません。

 

ニューロダイバーシティは、苦手なことをすべてそのままにする考え方ではありません。

 

ご本人が改善したいことや、生活上どうしても必要なスキルは練習できます。

 

ただし、「定型発達の人と同じにすること」自体を目標にする必要はないということです。

 

Q2.職場で配慮をお願いすると、甘えているように感じます

 

配慮によって仕事の質や継続性が高まるのであれば、単なる甘えとは限りません。

 

眼鏡を使うことで見えやすくなるのと同じように、指示の文章化や静かな環境が、その人の力を発揮するための条件になる場合があります。

 

Q3.コミュニケーションが苦手でも、無理に練習しなくてよいのでしょうか?

 

ご本人が困っていなければ、すべてのコミュニケーション能力を高める必要はありません。

 

一方、仕事や人間関係で本人自身が困っている場合には、「何をできるようになると生活しやすいか」に絞って練習することは役立ちます。

 

Q4.自閉スペクトラム症の特性を受け入れることと、成長を諦めることは同じですか?

 

同じではありません。

 

受け入れるとは、「今の自分にはこういう特徴がある」と理解することです。

 

そのうえで、必要なスキルを増やしたり、環境を調整したりすることはできます。

 

自己否定を出発点にしなくても、人は変化できます。

 

Q5.どこまで自分が頑張り、どこから環境に配慮を求めればよいのでしょうか?

 

一つの目安は、「本人の努力だけで続けると過剰な疲労や不調が生じないか」です。

 

本人が少し工夫すれば対応できることなのか、環境を変えた方が合理的なのかを分けて考えます。

 

そのため心理カウンセリングでは、本人の特性、環境、本人が望む生活の3つを整理しながら考えるというアプローチを取ります。

 

参考文献

Pellicano, E., & den Houting, J.(2022)Annual Research Review: Shifting from “normal science” to neurodiversity in autism science.Journal of Child Psychology and Psychiatry, 63(4), 381–396.DOI: 10.1111/jcpp.13534

----------------------------------------------------------------------
こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27   サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871

お問い合わせはこちら


----------------------------------------------------------------------

この記事の執筆者

駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)

心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。

プロフィールはこちら

カウンセラー紹介

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。