境界性パーソナリティ症と愛着の関係:境界性パーソナリティ症の対人不安について
2026/10/04
境界性パーソナリティ症と愛着の関係:境界性パーソナリティ症の対人不安について
境界性パーソナリティ症(境界性パーソナリティ障害)の方の場合、人間関係、特にパートナーシップにおいて困難を抱えがちになってしまいます。
例えば、パートナーから返信が来ないだけで、「嫌われたのかもしれない」「見捨てられるのではないか」という不安が急激に大きくなるというものが典型例です。
こうした背景があるため、安心したくて何度も連絡したり、相手の気持ちを確認したりしてしまいます。
しかし、それでも安心できない。ときには不安が怒りに変わり、関係を壊すような行動を取ってしまい、その後に強く後悔することもあります。
こうした問題は、単に「依存心が強い」「見捨てられ不安がある」という言葉だけでは十分に説明できるものではありません。
Hashworthら(2021)は、境界性パーソナリティ症の特徴が強い人では、不安定な愛着だけでなく、「自分の人生や心理状態に、自分自身がある程度影響を与えられる」という感覚が弱いことを報告しています。
つまり、「相手がどうするかは分からない。でも私は自分の行動を選べる」という感覚が持ちにくく、「相手が安心させてくれなければ、私はどうすることもできない」という状態になりやすい、と言う事なんですね。
この「自分で選べる」という感覚をパーソナル・エージェンシーといいます
このパーソナルエージェンシーは境界性パーソナリティ症を理解する上で非常に重要です。
そこでこのブログでは、パーソナルエージェンシー、として境界性パーソナリティ症と愛着の関係についてシェアしたいと思います。
1:パーソナル・エージェンシー(personal agency)とは?
この言葉は少し難しい言葉ですが、簡単に言えば、「自分の人生や自分の状態に、自分自身も影響を与えられる」という感覚です。
例えば、パートナーから返信が来ないとします。
返信するかどうかは相手が決めることなので、自分では完全にコントロールできません。
しかし、「もう一度連絡するのか」「少し待ってみるのか」「不安になっていることに気づくのか」「別のことをしながら待つのか」といった、自分自身の行動には選択肢があります。
これがパーソナルエージェンシーです。
エージェンシーとは、すべてを自分でコントロールすることではありません。
自分にはコントロールできないことがあっても、その中で自分が選べる部分を見つけられる感覚です。
2:境界性パーソナリティ症では「自分ではどうにもできない」と感じやすかった
Hashworthらの研究では、境界性パーソナリティ症の特徴が強い方は、対照群と比較して、パーソナル・エージェンシーが低い傾向を示しました。
また、エージェンシーが低い人ほど、境界性パーソナリティ症の症状も強い傾向がみられました。
ここから考えられるのは、境界性パーソナリティ症の対人関係では、「見捨てられるのが怖い」という問題だけではなく、「この状況を自分ではどうにもできない」という感覚も重要であるということです。
例えば、「相手の機嫌がよければ安心できる」「返信があれば落ち着ける」「好きだよ」と言ってくれれば、自分には価値があると思える…。
反対に、相手が少し距離を取ると、自分の存在そのものまで否定されたように感じてしまう…。
この状態では、自分の心理状態を安定させる鍵が、かなり相手側に置かれることになります。
3:愛着では「近づきたいのに怖い」という特徴がみられる
Hashworthらは、成人の愛着についても調べました。
その結果、境界性パーソナリティ症の特徴が強い方では、とらわれ型や恐れ型の愛着が強く、安定した愛着が少ない傾向がみられました。
とらわれ型では、人とのつながりを強く求める一方、「相手が自分を大切にしてくれるか」「嫌われていないか」ということが非常に気になりやすくなります。
一方、恐れ型では「人とつながりたい」という気持ちがありながら、「近づくと傷つけられるかもしれない」という恐れもあります。
すると…
近づきたい
↓
不安になる
↓
相手の気持ちを確認する
↓
十分に安心できない
↓
怒ったり距離を取ったりする
↓
相手が離れる
↓
さらに見捨てられ不安が強くなる
…という循環が起こるリスクが高まります。
4:「見捨てられ不安」と「自分ではどうにもできない感覚」は関係している可能性がある
この研究で特に興味深いのは、愛着とパーソナル・エージェンシーが別々の問題ではなかったことです。
不安定な愛着が強いほど、「自分の心理状態は自分以外のものによって決まる」という感覚も強い傾向がありました。
反対に、安定した愛着は、より高いエージェンシーと関連していました。
例えば、「相手に嫌われたかもしれない」と思ったとき、「嫌われたなら私はもうどうしようもない」となる場合があるとします。
しかし一方で「嫌われたように感じて、とても不安になっている。でも、実際に相手がどう思っているかはまだ分からない。私は今どうするかを選べる」となるのでは、大きな違いがあります。
後者では、不安がなくなったわけではありません。
しかし、不安があっても自分の行動を選べる余地が残っています。
この「自分の行動を選択できる」ということが重要になってきます。
5:「相手の気持ち」と「自分が感じていること」を分ける
境界性パーソナリティ症では、感情が強くなるほど、「私は見捨てられたと感じている」ことと、「相手は私を見捨てようとしている」ことが、一つになってしまうことがあります
しかし、両者は同じではありません。
そこでカウンセリングでは、以下の点を検討することになります。
✔「今、何を感じていますか」
✔「何が起こったと思っていますか」
✔「実際に確認できている事実は何でしょうか」
✔「相手が何を考えているかは、どこまで分かっていますか」
これは「あなたの考えは間違っています」と否定するためではありません。
自分の感情と相手の心を少し分けて考えられる余地を作るためです。
6:カウンセリングで目指すのは「誰にも頼らない人」ではない
ここは非常に重要です。
この研究は、「人に依存しているのだから、一人で何でもできるようにならなければならない」と言うことを言いたいわけではありません。
人は誰でも他者とのつながりを必要とします。
安心したいときに誰かに話を聞いてもらうことも、つらいときに助けを求めることは自然なものであり、それ自体は全く問題ではありません。
目指すのは、「誰にも頼らないことではなく、人との関係を持ちながらも、自分の選択肢を失わないこと」です。
例えば…
✔相手から返信がなくても、「返信させることはできない。でも、自分がどう過ごすかは選べる」
✔相手が怒っていたとしても、「相手の感情を完全に変えることはできない。でも、自分が何を伝えるかは選べる」
✔関係が不安定になっても、「関係がどうなるかは一人では決められない。でも、自分がどのような人でありたいかは考えられる」
…という状態です。
7:「私はどうしたいのか」を少しずつ取り戻していく
不安が非常に強いときには、「相手はどう思っているのか」「嫌われていないか」「離れていかないか」ということばかりに注意が向きやすくなります。
すると、「私はどうしたいのか」が見えなくなります。
そこでカウンセリングでは、「相手に何をしてほしいか」もそうですが、同時に「あなた自身は、この関係の中でどうありたいですか」ということも考えていきます。
もちろん、最初から答えられなくてもかまいません。
✔「今日は連絡を10回するのではなく、一度だけにしてみる」
✔「怒りのまま別れを切り出す前に、一晩待ってみる」
✔「相手の返事を待つ間、自分の生活を続けてみる」
このような小さな選択も、エージェンシーを取り戻す経験になります。
8:回復とは「相手を必要としなくなること」ではない
Hashworthら(2021)の研究から見えてくる重要なことは、境界性パーソナリティ症の回復を、「見捨てられ不安をなくす」だけで考えないことです。
人間関係の中で不安になっても…
✔「私は今、とても見捨てられそうに感じている」
✔「でも、相手が何を考えているかはまだ分からない」
✔「そして、この状況で私は何をするかを選ぶことができる」
…という余地が少しずつ増えていくというのが回復の形です。
境界性パーソナリティ症の回復とは、相手の存在を必要としなくなることではありません。
人とのつながりを大切にしながら、自分の人生のハンドルをすべて相手に渡さないことです。
そして、「相手がどうするか」だけではなく、「私はどうしたいか」を考えられるようになること。
境界性パーソナリティ症の心理カウンセリングでは、こうした「自分で選べる感覚」を少しずつ取り戻していくことも、大切なテーマの一つになってきます。
よくある質問
Q1.パートナーから返信がないと何度も確認してしまいます。確認しない方がよいのでしょうか?
一律に「確認してはいけない」と考える必要はありません。
ただ、確認して一時的に安心しても、すぐまた不安になり確認を繰り返している場合には、確認だけでは不安の根本的な解決になっていない可能性があります。
そのため、まず「確認したくなる直前に何を感じたのか」「何が起こると思ったのか」を整理することが役立ちます。
Q2.「相手は変えられない」と言われると、全部自分が我慢しなければならないように感じます
境界性パーソナリティ症からの回復は、我慢大会ではありません。
相手に改善を求めたり、自分の希望や境界線を伝えたりすることはできます。
ただし、最終的に相手がどう行動するかは相手が決めることです。
その中で「自分は何を伝えるか」「どこまで関係を続けるか」など、自分が選べる部分を明確にしていきます。
Q3.恋人がいないと強い空虚感があります。これは依存なのでしょうか?
人とのつながりを求めること自体は依存ではありません。
ただ、「誰かから必要とされていないと自分には価値がない」と感じる場合には、自己評価が相手の反応に強く左右されている可能性があります。
人との関係を大切にしながら、自分自身で感じられる価値や生活の支えも増やしていくことが一つのテーマになります。
Q4.見捨てられ不安は完全になくせますか?
確かに見捨てられ不安の克服は重要ですが、完全になくすことだけを目標にする必要はありません。
不安が出ても、それをすぐ事実だと判断せず、「私は今、不安になっている」と捉えられることや、不安のままでも衝動的な行動を選ばずに済むことも重要な改善です。
Q5.「自分で選べる」と思えるようになるには、何から始めればよいでしょうか?
大きな人生の決断から始める必要はありません。
「今すぐ返信するか、10分待つか」「怒ったまま話すか、落ち着いてから伝えるか」など、小さな選択を意識することから始められます。
「私は何もできない」という状態から、「少なくともここは選べる」という部分を増やしていくことが重要です。
参考文献
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こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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