社交不安は「考え方」だけの問題ではない?頭に浮かぶ嫌な映像との関係
2026/09/01
社交不安は「考え方」だけの問題ではない?頭に浮かぶ嫌な映像との関係
心理カウンセリングで社交不安についてお話を伺っていると、「人から悪く思われるのではないか」「失敗したらどうしよう」といった考えだけでなく、頭の中に具体的な映像が浮かんでいることがあります。
例えば、人前で話す前から、顔を真っ赤にして言葉に詰まっている自分が見える、周囲の人が冷たい表情で自分を見ている場面が浮かぶ、あるいは、過去に人前で失敗して笑われた記憶が何度もよみがえる…。
こうした頭の中の映像を「心的イメージ(mental imagery)」と呼びます。
Thunnissenら(2024)は、社交不安におけるネガティブな心的イメージを直接扱った21研究をまとめ、心理療法によってどの程度改善するのかを検討しました。
その研究の結果、ネガティブなイメージを直接扱う心理的介入は、社交不安そのものや、そのイメージから受ける苦痛を中程度改善する可能性があることが示されています。
一方で、イメージそのものが完全に消えたり、鮮明でなくなったりするとは限りません。
つまり、社交不安からの回復では、嫌なイメージをなくすことより、そのイメージに支配されなくなることが大切な場合があるのです。
そこで、このブログでは社交不安症におけるイメージを用いた心理療法についてシェアしたいと思います。
1.社交不安でみられる「ネガティブな心的イメージ」とは
心的イメージとは、実際には目の前で起きていない出来事が、頭の中に映像や場面として浮かんでくることを指します。
社交不安では、人前で何も話せなくなっている自分や、顔を真っ赤にしている自分、周囲から笑われている自分、相手から嫌そうな表情を向けられている自分などが、まるで実際に見ているかのように頭の中に浮かぶことがあります。
また特徴的なのは、こうしたイメージの中で、自分自身を第三者の視点から眺めているように感じることがある点です。
実際にはそれほど顔が赤くなっていなくても、頭の中では「真っ赤な顔をして、みんなから変に思われている自分」が見えていることがあります。
そうなると、現実に相手がどう反応しているかよりも、頭の中にある自分の姿のほうが現実らしく感じられてしまうことがあります。
2.なぜ頭の中の映像が不安を強くするのでしょうか
「失敗するかもしれない」と言葉で考えることと、「失敗している自分」を鮮明な映像として想像することには違いがあります。
心的イメージは、実際の知覚に近い心理過程を伴うため、言葉だけで考えるよりも感情を強く動かすことがあります。
例えば、「発表で失敗するかもしれない」と考えるだけの場合と、「壇上で頭が真っ白になり、周囲が冷たい目で見ている自分」を鮮明に思い浮かべる場合では、後者のほうが強い不安を感じることがあります。
すると…
嫌なイメージが浮かぶ
↓
不安が強くなる
↓
自分の表情や声を過剰に気にする
↓
視線を避ける、発言を控えるなどの安全行動が増える
↓
「やはり人前は危険だ」という考えが維持される
…という循環が生まれる可能性が高まってしまいます。
3.研究による効果の程度の検証
いつものように論文を使用していますので、軽くないように触れますね。
Thunnissenらは、ネガティブな心的イメージを直接扱った21研究、28の介入条件を分析しました。
その中には、社交不安症と正式に診断された人を対象とした研究もあれば、強い社交不安傾向やスピーチ不安を持つ人を対象とした研究も含まれています。
研究で用いられていた代表的な方法が、Imagery Rescripting(イメージ・リスクリプティング/イメージ書き換え法)です。
さらに、EMDR、イメージ曝露、将来の最悪な出来事を思い描く「フラッシュフォワード・イメージ」を扱う方法なども検討されていました。
4.社交不安症状には「中程度」の改善が
比較対象のある研究を統合すると、社交不安症状への効果は、Cohen's d=−0.50でした。
Cohen's d(コーエンのd)は、心理療法を受けたグループと比較対象のグループに、どの程度の差があったのかを表す数字です。
一般的には、0.2程度なら小さな差、0.5程度なら中程度、0.8程度なら大きな差と考えます。
したがって、d=−0.50は中程度の改善と考えられます。
また正式に社交不安症と診断された人だけを分析すると、d=−0.61であり、こちらも中程度の効果が確認されました。
つまり、ネガティブな心的イメージを直接扱うことには、社交不安を軽減する一定の効果が期待できることになります。
5.特に改善したのは「イメージから受ける苦痛」
さらに興味深い結果があります。
頭の中に浮かぶネガティブなイメージから受ける苦痛については、d=−0.64でした。
これも中程度の改善です。
そして、正式に社交不安症と診断された方だけを見ると、d=−0.91という比較的大きな効果がみられました。
つまり、嫌な映像そのものが浮かばなくなるというより、その映像が浮かんだときに受ける苦痛が弱くなる可能性が示唆されました。
これは心理療法を考えるうえで非常に重要です。
6.イメージ・リスクリプティングでは何をするものか
イメージ・リスクリプティングは、嫌な記憶を無理に楽しい記憶へ変える方法ではありません。
例えば、中学生のころに教室で発表を間違え、周囲から笑われた経験があったとします。
その出来事をきっかけに、「人前で失敗すると馬鹿にされる」「自分は人前では何もできない」といった受け止め方が、その後も残っていることがあります。
イメージ・リスクリプティングでは、そうした過去の場面をイメージの中で振り返りながら、現在の自分だからこそ持てる視点や新しい情報を加えていきます。
そして、出来事そのものを変えるのではなく、その経験に対して今も抱いている意味づけを少しずつ見直していきます。
目的は過去をなかったことにすることではありません。
過去の出来事が、現在の自分について何を意味しているのかを変えていくことです。
7.「映像の鮮明さ」は必ずしも変わりませんでした
この研究で興味深いのは、イメージの鮮明さについてです。
イメージの鮮明さについての効果量は、d=−0.72でした。
数字だけを見ると大きな変化に見えますが、95%信頼区間は−1.67~0.23で、統計的には明確な効果とは判断できませんでした。
つまりシンプルに言えば、「治療をすると嫌な映像そのものが薄くなる」とまでは確認できなかった、ということです。
しかし、その一方で、社交不安やイメージから受ける苦痛は改善していました。
この結果から考えると、心理療法の目標は、必ずしも「嫌な映像を消すこと」ではないと言えるでしょう。
例えば、昔失敗した場面を今でも鮮明に思い出すことがあったとしても、その記憶を理由に「だから自分は人前に出てはいけない」と考えなくなることがあります。
つまり、記憶そのものは残っていても、その記憶に現在の行動や生き方を支配されなくなるということです。
このように、過去の記憶を消すのではなく、記憶との付き合い方が変わっていくことも、回復の大切な一つの形だと考えられます。
8.「考え」だけではなく「映像」を確認することが重要
社交不安の心理カウンセリングでは、「そのとき、どんなことを考えましたか」という質問をすることがあります。
もちろん、これはとても大切な質問です。
しかし今回の研究を踏まえると、「そのとき、どのようなことを考えましたか」と尋ねるだけでなく、「頭の中に何か映像は浮かびましたか」と確認することも大切です。
もし何らかの映像が浮かんでいるのであれば、その中で自分がどのように見えているのか、どの視点からその場面を見ているのか、似たようなイメージにつながる過去の経験があるのかを丁寧に確認していきます。
また、「これから最悪のことが起こるとしたら、どのような場面が浮かびますか」と尋ねることで、ご本人が予想している将来のイメージを明らかにすることもできます。
こうして頭の中に浮かぶ映像を具体的に整理していくことで、社交不安がどのような経験や予測によって強まり、維持されているのかが見えやすくなる場合があります。
9.過去・現在・未来のイメージがつながっていることがある
例えば「過去:学校で発表に失敗して笑われた」という経験があり「現在:人前で真っ赤になっている自分が見える」、そして、「未来:また失敗して、周囲に笑われる場面が浮かぶ」というつながりがあるかもしれません。
この場合、単に「失敗しても大丈夫ですよ」と考え方を変えようとしても、頭の中の映像が強ければ、なかなか不安は下がらないものです。
「理屈では大丈夫だと分かっている。でも、人前に立つと怖くなる」という場合には、言葉による考えだけでなく、こうしたイメージの存在を確認することが一つの手がかりになります。
10.まとめ
社交不安には、回避、安全行動、自己注目、否定的な認知、過去の経験など、さまざまな要因が関係します。
そのため、ネガティブな心的イメージに対するアプローチは、その中の重要な治療標的の一つとして考えるのが適切です。
また心理カウンセリングでは、「何を考えているのか」だけではなく、「頭の中にはどんな自分が見えているのか」にも目を向けることで、これまで見えていなかった不安の仕組みが理解できることがあります。
そして大切なのは、嫌な記憶や映像を完全に消すことではありません。
その映像が浮かんでも、それを現実そのものだと受け取らず、自分の行動を選べるようになること。
それもまた、社交不安からの回復における大切な変化だといえるでしょう。
よくある質問
Q1.人前に出ると「失敗している自分」が頭に浮かびます。これは社交不安と関係がありますか?
関係している可能性があります。
社交不安では、自分が恥をかいている姿や、周囲から悪く見られている姿が心的イメージとして浮かぶことがあります。
今回の研究でも、こうしたネガティブな心的イメージが治療対象として検討されています。
Q2.過去の恥ずかしい出来事を思い出すことが社交不安の原因なのでしょうか?
一つの要因になっている可能性はありますが、すべての社交不安を過去の経験だけで説明することはできません。
現在の自己イメージや回避、安全行動など、複数の要因を一緒に考える必要があります。
Q3.イメージ・リスクリプティングでは嫌な記憶を消すのでしょうか?
記憶を消すことが目的ではありません。
その出来事について現在も残っている「自分は駄目だ」「また同じことが起きる」といった意味づけを見直していくことが中心になります。
Q4.嫌な映像がまだ浮かぶなら、治っていないのでしょうか?
必ずしもそうではありません。
今回の研究では、イメージの鮮明さについて明確な改善は確認されませんでしたが、社交不安やイメージによる苦痛は改善していました。映像が思い出せても、それに振り回されなくなることはあります。
Q5.通常の認知行動療法とイメージへの治療はどちらがよいのでしょうか?
今回の研究は両者の優劣を決めたものではありません。
認知再構成やエクスポージャーなどの通常の認知行動療法に加えて、強いネガティブな心的イメージがある場合には、それを直接扱うことが役立つ可能性があります。
参考論文
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こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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