大人の発達障害(ASD・ADHD)の悩みと二次的なメンタルヘルスの問題を防ぐケアとは?
2026/09/03
大人の発達障害(ASD・ADHD)の悩みと二次的なメンタルヘルスの問題を防ぐケアとは?
発達障害をお持ちの方、あるいはグレーゾーンの方は、どうしても日常生活や仕事において上手く行かないことが増えがちになってしまいます。
そして、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)の特性そのものだけでなく、「何度努力してもうまくいかなかった」「周囲から怠けていると思われた」「普通に振る舞おうとして疲れてしまった」といった経験が積み重なり、不安や抑うつ、自己否定につながっていることが珍しくありません。
一般には、こうした問題を発達障害の「二次障害」と呼ぶことがあります。
ただし「二次障害」はDSM-5-TRやICD-11などにおける正式な診断名ではありません。
そのためこの記事では、ASD・ADHDの特性と環境とのミスマッチや繰り返される失敗体験などに伴って生じる、不安、抑うつ、自己評価の低下などを「二次的なメンタルヘルスの問題」と表現します。
そして大人の発達障害のケアでは、ご本人を無理に「普通」に近づけることより、自分の特性を理解し、環境を調整し、苦手な部分を仕組みで補い、心が疲れ切る前に対処することが重要です。
そこで、このブログでは大人の発達障害に伴う二次的なメンタルヘルス上の問題についてシェアしたいと思います。
1.大人のASD・ADHDでは「頑張っているのにうまくいかない」が起こりやすい
まずASD(自閉症スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)では困り方が異なります。
ASDでは、相手の意図を読み取ること、曖昧な指示への対応、予定変更、感覚刺激、人間関係の調整などが負担になることがあります。
一方ADHDでは、注意を持続すること、忘れずに覚えておくこと、作業の順番を組み立てること、時間を管理すること、衝動をコントロールすることなどに難しさが生じる場合があります。
ここで大切なのは、これらを努力で補うのは限界があるという理解です。
たとえばADHDの方に「忘れないように気をつけましょう」と伝えても、それだけで解決させることには無理があります。
またASDの方に「もっと周囲に合わせましょう」と求め続ければ、その場では適応できても、本人の心理的負担が大きくなってしまう場合があります。
つまり、ご本人の努力を増やすことと、問題を解決することは必ずしも同じではありません。
2.ASDでは不安や抑うつが重なることがある
Hollocksら(2019)は、成人ASDにおける不安症と抑うつについて35研究をまとめたメタ分析を行っています。
その結果、成人ASDでは、以下のものが推定されました。
✔現在何らかの不安症がある割合:約27%
✔生涯で不安症を経験する割合:約42%
✔現在の抑うつ:約23%
✔生涯での抑うつ:約37%
シンプルに言えば、研究対象となった成人ASDの方では、およそ4人に1人程度に現在の不安や抑うつが認められたことになります。
ただし、研究によって対象者や評価方法が大きく異なっており、これらの数字をすべてのASDの人にそのまま当てはめるべきではありません。
そして重要なのは、「ASDだから不安症やうつ病になる」という単純な因果関係ではないことです。
人間関係での失敗、感覚的な負担、環境とのミスマッチ、社会的な孤立など、さまざまな要因が影響します。
しかし、ASDは不安症やうつ病のリスク要因として理解することができるでしょう。
3.「普通に見せようとすること」が負担になる場合も
ASDを理解するときに知っておきたいのが、camouflaging(カモフラージュ/社会的な擬装)です。
これは、自閉的な特性を目立たなくしたり、周囲に合わせるために社会的な振る舞いを意識的・無意識的に調整したりすることを指します。
例えば、本当は雑談が非常に負担なのに笑顔で話し続ける、相手の表情や話し方を覚えて模倣する、感覚的につらくても我慢するといったことです。
2024年のシステマティックレビュー・メタ分析では、16研究を統合した結果、カモフラージュの強さは、不安、抑うつ、社交不安の高さと中程度の関連があり、心理的ウェルビーイングとは小さい負の関連が確認されました。
ただし、これは「カモフラージュがうつ病を引き起こす」という因果関係を証明したものではありません。
それでも臨床では、「社会に適応できているように見えること」と「本人が無理なく生活できていること」は別という視点が重要であると言えるでしょう。
4.ADHDでは「できない自分」を責め続けてしまうことにつながりやすい
ADHDでも、不安症や抑うつなどの精神疾患が重なりやすいことが知られています。
大規模研究をまとめたレビューでは、ADHDのない成人と比較して、成人ADHDでは不安症のオッズが約5倍、大うつ病性障害が約4.5倍高いという結果が報告されています。
この数字は「ADHDの人は5倍の確率で必ず不安症になる」という意味ではありません。
ADHD群では、比較群より不安症や抑うつが多く認められたという集団レベルの結果です。
また、32研究をまとめた別のシステマティックレビューでも、成人ADHDでは物質使用障害、気分障害、不安症、パーソナリティ障害などの併存が多いことが報告されています。
例えば、「また提出期限を忘れてしまった」「周りの人はできているのに、自分だけうまくできない」「何度注意されても同じことを繰り返してしまう」といった経験が重なっていくと、問題は単なる注意力や忘れやすさだけにとどまらなくなります。
つまりADHDに起因する問題であるにもかかわらず、失敗を繰り返すうちに、「自分は何をやっても駄目なのではないか」と考えるようになり、自己評価の低下につながりやすくなってしまいます。
5.ADHDでは感情の調整にも注目する必要もある
ADHDというと、「忘れっぽい」「集中できない」「落ち着かない」という特徴が注目されがちです。
しかし成人ADHDでは、emotion dysregulation(感情調整の難しさ)も重要です。
Beheshtiら(2020)は13研究、2,535人を対象としたメタ分析を行い、成人ADHD群では健康な対照群と比較して感情調整の難しさが大きく、効果量はHedges' g=1.17でした。
Hedges' gは、「2つのグループの間に、どのくらい大きな差があるか」を表す数字です。
一般的な目安では、0.2程度なら小さな差、0.5程度なら中くらいの差、0.8以上なら大きな差と考えます。
そのため、g=1.17はかなり大きな差を意味します。
つまりこの研究では、成人ADHDの人はADHDのない人と比べて、平均すると、感情が大きく揺れやすい、気持ちを落ち着かせにくい、感情を切り替えにくいといった「感情調整の難しさ」がかなり強くみられたということです。
ただし、ここで注意したいのは、「ADHDの人は感情調整能力が117%悪い」という意味ではないことです。
また、すべてのADHDの方に強い感情調整の難しさがあるわけでもありません。
あくまで、多くの人を集団として比較したときに、平均的に大きな差が確認されたという意味で考える必要があります。
ただ、ADHDの方は特に、気分が急に変わる「感情の不安定さ」で大きな差がみられました。
そのため、「注意はできるようになったけれど、失敗すると一気に落ち込む」、「注意されると感情が大きく動いてしまう」といった問題も、支援の対象として考える必要があります。
6.二次的な問題を防ぐ第一歩は「自分の特性を正しく理解すること」
大人になって発達特性に気づいた方の中には、「もっと早く知っていればよかった」と感じる方もいます。
今まで上手くできなかったことが発達障害に起因すると理解できるだけでも、当事者の方にとっては非常に大きな意味を持ちます。
しかし、診断や特性理解の目的は、自分に新しいレッテルを貼ることではありません。
それよりも、従来の「努力や能力が足りなかったからできなかった」という説明を、「自分にはこういう条件だと負荷が高くなる」という具体的な理解に変えていくことが重要です。
たとえば、「私は忘れっぽい人間だ」ではなく「口頭指示だけでは保持しにくいので、文字にした方がよい」
と理解できれば、対応方法が見えてきます。
7.苦手なことは「努力」ではなく「仕組み」で補う
またADHDで記憶や段取りに負荷があるなら、予定を外部化する、チェックリストを作る、一度に一つの指示にする、作業を小さな単位に分ける、リマインダーを使う、といった方法があります。
ASDで曖昧さや予測不能な状況が負担なら、予定を具体化する、変更を事前に伝える、曖昧な指示を明確にする、感覚刺激を調整する、といった対応が考えられます。
これは発達障害と上手く付き合っていくための「工夫」あるいは「仕組み化」です。
NICEの成人ASDガイドラインでも、心理的介入を行う際には、より具体的で構造化された方法、文章や視覚情報の活用、曖昧な表現を避けること、本人に合った環境調整などが推奨されています。
つまり、本人を環境に一方的に合わせるのではなく、本人と環境の両方を調整することが重要になってくるんですね。
8.心が疲れてからではなく、疲れ切る前にケアする
大人の発達障害への心理的支援では、「困ったことが起きた後に治す」だけではなく、予防的な視点も重要です。
そのためには、自分が苦手な状況を知ること、疲労のサインを知ること、無理な適応を続けないこと、生活を仕組み化すること、そして自分を責める思考に気づくことが役立ちます。
心理カウンセリングでは、ASDやADHDそのものを「なくす」ことが目的ではありません。
というのは、脳の特性である以上、『なくす』ことを目標にするのは妥当ではないからです。
それよりも特性によって生じている困りごとを整理し、以下の内容を共に検討していくことが有益です。
✔「何を変える必要があるのか」
✔「何は変えなくてもよいのか」
✔「どこを環境で補えるのか」
✔「どのような心理的負担が積み重なっているのか」
9.「できるようになること」だけがケアではありません
発達障害の支援では、つい「苦手なことを克服する」方向に目が向きます。
確かににそれは非常に重要なのですが、しかし、すべての苦手を克服することは無理があり、現実的ではありません。
大切なのは、ご本人が生活できる方法を増やすことです。
できないことを減らすだけでなく、得意な方法を使う。苦手な環境を調整する、助けを求める方法を身につける、疲れる前に休む…。
そして、失敗したときに「自分には価値がない」というところまで自分を否定しない。
ASDやADHDの特性そのものよりも、長い間、自分に合わない方法で頑張り続けることが心を疲れさせる場合があります。
だからこそ、大人の発達障害へのケアでは、「もっと頑張れるようになること」ではなく、「無理をしなくても生活を回せる方法を増やすこと」が重要になってきます。
発達特性を知ることは、自分の可能性を狭めるためではありません。
自分に合う方法を知り、必要以上に傷つかずに生活していくための手がかりになるものとして理解することが大切と言えるでしょう。
よくある質問
Q1.発達障害の「二次障害」とは何ですか?
一般には、ASDやADHDの特性に伴う困難や失敗体験、対人ストレスなどが重なる中で生じる、不安、抑うつ、自己評価の低下などを指して使われます。
ただし正式な診断名ではないため、「二次的なメンタルヘルスの問題」や「併存する精神的な問題」と考える方が正確です。
Q2.ASDやADHDがあるとうつ病になりやすいのでしょうか?
研究では、ASD・ADHDの成人では不安症や抑うつなどが高い割合でみられることが報告されています。
ただし、発達障害が直接うつ病を引き起こすと単純に考えることはできません。
環境、人間関係、生活上の負担、ほかの心理的要因なども含めて考える必要があります。
Q3.仕事で同じミスを繰り返します。努力が足りないのでしょうか?
必ずしもそうではありません。
ADHDではワーキングメモリ、注意、計画、時間管理などに負荷がかかる場合があります。
そのため、「覚えておく」ことに頼るより、メモ、チェックリスト、リマインダーなどで記憶を外部化する方が機能することがあります。
Q4.周りに合わせることに疲れました。ASDと関係がありますか?
ASDでは、自分の特性を隠したり周囲に合わせたりするカモフラージュがみられることがあります。
研究ではカモフラージュと不安・抑うつなどとの関連も報告されています。
ただし、周囲に合わせること自体が必ず悪いわけではありません。重要なのは、それによってどの程度の負担が生じているかです。
Q5.発達障害はカウンセリングで治せますか?
カウンセリングの目的はASDやADHDという発達特性そのものをなくすことではありません。
困りごとの仕組みを整理し、環境調整、行動上の工夫、感情調整、自己理解などを通して、日常生活での負担を減らしていくことが主な目的になります。
参考文献
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こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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