「好きなのに関係が安定しない」無秩序な愛着障害の問題とは?
2026/09/08
「好きなのに関係が安定しない」無秩序な愛着障害の問題とは?
愛着障害を抱えている方のパートナーシップにおいては、「本当はパートナーと仲良くしたいのに、なぜか関係を壊すようなことをしてしまう」という問題が発生しがちです。
連絡が少し遅れただけで「嫌われたのではないか」と不安になる、相手がほかの人と楽しそうにしているだけで、自分が必要とされていないように感じる、不安になると何度も愛情を確認したり、相手を責めたりする、しかし、相手が近づいてくると今度は距離を取りたくなる…。
また愛着障害を抱えているご本人にとっても、「そばにいてほしいのか、離れたいのか、自分でも分からない」という混乱した状態になることがあります。
こうした問題を単純に「依存的な性格」「恋愛に不安になりやすい人」と捉えるだけでは、十分な理解とは言えません。
Jacobvitz & Reisz(2019)は、成人期の無秩序な愛着状態を考えるうえで、fear(恐怖)が重要であると指摘しています。
また成人の無秩序化は、恋愛関係におけるパートナーへの恐怖という観点からも研究されています。
そして親密な関係が不安定になる方の中には、「相手に近づいて安心したい」という気持ちと、「近づくと傷つけられるかもしれない」という恐怖が同時に動いている場合が多くみられます。
そのため大切なのは、「もっと相手を信じよう」と無理に考えることではありません。
現在のパートナーとの出来事に、過去の人間関係で経験した恐怖がどのように入り込んでいるのかを理解し、「今起きていること」と「過去から持ち込まれた恐怖」を少しずつ区別できるようにすることが重要になります。
そこで、今回は愛着障害における「恐怖」についてシェアしたいと思います。
1.愛着とは「安心できる場所を求める仕組み」
愛着(attachment)は、単に「人を好きになること」ではありません。
不安になったとき、怖いことがあったとき、心細いときに、信頼できる相手とのつながりを求めて安心を取り戻そうとする心理的な仕組みです。
子どもにとって重要な愛着対象は主に養育者ですが、大人になると恋人や配偶者などのパートナーが重要な愛着対象になります。
そのため、パートナーとの関係は、ほかの人間関係より感情が大きく動きやすくなります。
職場の同僚から数時間返信がなくても平気なのに、パートナーから返信がないと強い不安になる、友人が予定を変更しても許せるのに、パートナーだと「大切にされていない」と感じる…。
これは、パートナーとの関係が本人の安心感に深く関係しているためと考えることができます。
2.「近づきたい」と「近づくのが怖い」が同時に起こる
愛着の問題を理解するときに重要なのが、安心を求めて相手に近づきたいのに、その相手との親密さそのものが恐怖を呼び起こす場合があるということです。
たとえば、幼少期の重要な人間関係で、「安心したくて近づいたのに拒絶された」「優しいときもあれば、突然怖くなることもあった」「助けてほしい相手から傷つけられた」といった経験が繰り返されていたということがあった場合、次のことが発生します。
つまり…
「親密な関係=安心できるもの」であると同時に、「親密な関係=傷つけられる可能性があるもの」として同時に経験されることがあります。
Jacobvitz & Reiszは、こうした成人期の愛着の無秩序化において、過去の恐怖を伴う記憶が十分に統合されていないことが関係する可能性を論じています。
その結果、大人になって安全なパートナーと関係を築いていても、親密さが高まった瞬間に昔の「危険」が心理的に呼び起こされることに繋がってしまいます。
3.「近づく→怖くなる→離れる→不安になる」という循環
こうした状態では、パートナーとの間で特徴的な循環が起こることがあります。
相手にそばにいてほしいと思う。ところが、相手との距離が近くなると「いつか裏切られるのではないか」「傷つけられるのではないか」という恐怖が強くなる。
↓ ↓ ↓
すると、自分から距離を取ったり、冷たい態度を取ったり、先に関係を終わらせようとしたりする。
↓ ↓ ↓
しかし相手が本当に離れると、今度は見捨てられる不安が強くなるため、必死に関係を取り戻そうとする。
つまり、近づきたい→ 親密になる→ 怖くなる→ 相手を遠ざける→ 相手が離れる→ 見捨てられ不安が高まる
→ 再び相手を求める、という循環です。
これは本人自身にも矛盾しているように感じられますが、心理的には「安心を求める力」と「危険から逃れようとする力」が同時に働いていると考えることができます。
4.些細な出来事が「見捨てられる証拠」に変わることも
愛着に関する恐怖が強くなると、現在の出来事を冷静に判断することが難しくなる場合が発生するリスクを高めます。
例えば、パートナーから3時間返信がなかったという出来事があったとします。
この場合、確認できる事実は、「3時間返信がなかった」というところまでです。
しかし愛着への不安が強くなると、「自分に冷めた」「ほかの人の方が大切なのだ」「もう捨てられる」というところまで、一気に意味づけが進むことに繋がりがちになります。
そして、この解釈によってさらに不安が強くなり、何度もメッセージを送る、相手の気持ちを確認する、責める、試す、別れを口にするといった行動につながることがあります。
すると今度は、その行動によってパートナーが疲れ、距離を取るようになります。
その結果として、「やっぱり自分は捨てられる」という考えがさらに強化されてしまうのです。
5.過去の相手と現在のパートナーが重なってしまう
こうした問題はパートナーが別の方に代わっても発生しがちになります。
心理カウンセリングでは、「頭では今のパートナーは昔の親や元恋人とは違うと分かっています」と話される方も珍しくありません。
それでも感情的には、同じような恐怖が出てきてしまうんですね。
これは、現在のパートナーを意識的に「昔の人と同じだ」と考えているという意味ではありません。
むしろ、「現在の出来事が、過去に経験した恐怖と似た感情を呼び起こす」と考えた方が分かりやすいでしょう。
例えば、過去に突然関係を断たれた経験があると、現在のパートナーの返信が少し遅れただけでも、当時の「突然いなくなるかもしれない」という恐怖が呼び起こされることがあります。
ここで重要なのは、「いま感じている恐怖が強い」ことと、「現在、本当に危険が起きている」ことは同じではない、という点です。
この区別をできるようにすることが、現在の人間関係を過去の経験から少しずつ切り離していくことにつながります。
6.「無秩序型愛着=不安型+回避型」ではない
ここは愛着について調べる際に注意したいところです。
インターネットでは、成人の「無秩序型愛着」が、「不安型と回避型の両方を持っている」「恐れ・回避型のこと」と説明されることがあります。
しかし研究上は、必ずしも同じ概念ではありません。
Jacobvitz & Reisz(2019)は、成人の無秩序化を、単なる愛着不安と愛着回避の組み合わせとは異なる概念として扱う研究を紹介しています。
また、一般に「大人の愛着障害」という表現が使われることがありますが、成人のこうした愛着スタイル自体が精神医学上の診断名というわけでもありません。
そのため、「私は無秩序型だからこうなる」と自分を分類することより、「どのような状況になると、親密さが恐怖に変わるのか」を理解する方が臨床的には役立ちます。
7.パートナーへの確認行動は安心を長続きさせない
見捨てられ不安が強いと、「私のこと好き?」「別れるつもりはない?」「さっきの態度は何だったの?」と確認する方は珍しくありません。
この場合、確認して「大丈夫だよ」と言ってもらえば、その瞬間は安心できます。
しかし、不安になるたびに確認することが必要になると、「不安 → 確認 → 一時的な安心 → 再び不安 → また確認」という循環になることがあります。
そのため、支援では確認行動を一方的にやめさせるのではなく、まず「確認したくなる直前にどのような気持ちが生じていたのか」「そのとき、何が起こると考えていたのか」「実際に確認できている事実はどこまでなのか」といった点を丁寧に振り返ることになります。
さらに、過去の人間関係で経験した不安や傷つきが、現在のパートナーとの出来事に重なっていないかを整理していくことも大切になってきます。
この目的は不安をなくすことではありません。
不安がある状態でも、すぐに関係を壊す行動を取らずにいられる余地を作ることです。
8.「相手を信じましょう」だけでは解決しない
愛着の問題を抱えている方に、「パートナーをもっと信じてください」と言うだけでは十分ではありませんし、そもそも信じるということが困難だから問題となって表れています。
また、本人も信じたいと思っていることが多くみられます。
必要なのは、信じるか疑うかという二択ではなく、「今、自分の愛着システムが強く反応しているのかもしれない」と自分の状態を理解できるようになることです。
そして、「相手が実際にしたこと」「自分がそこから解釈したこと」「恐れていること」を分けて考えると効果的です。
例えば…
✔事実:帰宅が予定より1時間遅い
✔解釈:自分よりほかの人を優先している
✔恐怖:いずれ自分は必要とされなくなる
…というように整理すると、「1時間遅い」という現在の出来事と、「いつか捨てられる」という恐怖が別のものであることが見えてきます。
9.パートナーとの関係の中で「安全」を学び直すこと
Jacobvitz & Reisz(2019)が最後に重視しているのが、修復と再組織化という視点です。
成人期の無秩序な愛着状態の回復においては、どのような経験が修復や再組織化を支えるのかを明らかにすることが重要となってきます。
つまり、過去の愛着経験が現在の関係を永久に決めてしまうわけではありません。
現在の人間関係の中では、以下の経験が積み重なることに大きな意味があります。
✔「不安になっても相手はいなくならなかった」
✔「意見が違っても関係は終わらなかった」
✔「怒っても、話し合えば再びつながることができた」
✔「少し距離を取っても、見捨てられなかった」
安全とは、「絶対に傷つかない関係」を作ることではありません。
関係の中で問題が起きても、それを修復できるという経験を積み重ねることも安全な関係の一部です。
10.過去を忘れることではなく、「今」と区別できることが回復につながる
愛着の問題から回復するというと、「子どもの頃の傷を完全に癒す」過去を思い出しても何も感じなくなる」という状態を想像するかもしれません。
しかし、過去を忘れる必要はありません。
昔傷つけられたことを思い出せば、悲しみや怒りが出てくることもあります。
そのため重要なのは、「あのとき起きたこと」と「いま目の前で起きていること」を少しずつ区別できるようになることです。
パートナーから返信が遅れたときに、以前なら「捨てられる」と確信していたものが、「今、私は見捨てられるような怖さを感じている。でも、本当に見捨てられるかどうかはまだ分からない」と考えられるようになる。
これは小さな違いに見えますが、親密な関係を安定させるうえでは非常に大きな変化です。
Jacobvitz & Reisz(2019)の論文は、成人期の無秩序な愛着状態において、過去の恐怖に関連する経験と現在の愛着関係との関係を理解することの重要性を示しています。
パートナーとの関係で「近づきたいのに怖い」「好きなのに相手を遠ざけてしまう」ということが繰り返されているのであれば、それを単に性格の問題として責めるのではなく、「親密になったとき、自分の中で何が怖くなるのだろう」というところから考えてみることが、関係を見直す一つの手がかりに繋がります。
よくある質問
Q1.パートナーが少し冷たいだけで「捨てられる」と感じます。愛着の問題でしょうか?
愛着に関連する不安が影響している可能性はありますが、それだけで判断することはできません。
実際のパートナーとの関係、過去の経験、不安症状など複数の要因を考える必要があります。
まずは「実際に起きたこと」と「自分が恐れていること」を分けてみることが役立ちます。
Q2.相手を好きなのに、近づかれると距離を取りたくなるのはなぜですか?
親密さが安心だけでなく、傷つけられる可能性や支配される恐怖などと結びついている場合があります。
その場合、「近づきたい」と「離れたい」が同時に生じることがあります。
矛盾した気持ちがあることだけで、相手を愛していないとは言えません。
Q3.何度も「私のこと好き?」と確認してしまいます。やめた方がよいでしょうか?
確認すること自体を一律に悪い行動と考える必要はありません。
しかし、良好なパートナーシップの形成という観点で考えると、確認行動が頻繁に発生すると相手が疲れてしまうリスクがあります。
そして不安になるたびに確認しなければ安心できなくなっている場合には、確認が一時的な安心だけを作っている可能性があります。
そのため、「確認したくなる直前に何を恐れていたのか」を振り返ることが重要です。
Q4.過去の親子関係が悪かったら、恋愛関係もずっと不安定なのでしょうか?
そのようには言えません。
Jacobvitz & Reisz(2019)は、成人期の愛着の無秩序化について、修復や再組織化を支える経験を研究する重要性を指摘しています。
これは過去の経験が現在に影響することはあっても、将来の人間関係が固定されるという意味ではありません。
Q5.パートナーとの関係を安定させるためにカウンセリングでは何をしますか?
ケースによって異なりますが、どのような場面で見捨てられ不安や恐怖が強くなるのかを整理し、事実と解釈を分けること、衝動的な確認や攻撃・回避の前に立ち止まること、過去の関係と現在のパートナーを区別することなどを扱います。
必要に応じて、感情調整やメンタライゼーション、認知行動療法、愛着に焦点を当てた支援などを組み合わせます。
参考文献
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こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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