「やる気が出ない。だから動こう」うつ病に行動活性化が役立つ理由
2026/09/06
「やる気が出ない。だから動こう」うつ病に行動活性化が役立つ理由
うつ病になってしまうと、どうしても行動量が減ってしまいがちになります。
朝起きても身体が重い、以前は楽しめていたことにも興味が湧かない、人と会うことも億劫になる、そして周囲から「少し散歩したら?」「気分転換した方がいいよ」と言われても、それすら負担に感じてしまう…。
さらに、「それさえできない自分は駄目なのではないか」と自分を責めてしまう方も珍しくありません。
こうした状態に対して用いられる心理療法の一つがBehavioural Activation(BA:行動活性化)です。
これは、行動を活性化させることによって、うつ病の症状の改善を図るというものです。
ただし、最初に強調しておきたいことがあります。
行動活性化は、「つらくても頑張って動きましょう」という精神論ではありません。また、無理に活動量を増やす治療でもありません。
むしろ、抑うつによって生活の中から何が失われ、何を避けるようになり、その結果としてさらに気分が落ち込んでいるのかを整理しながら、今の状態でも実行できる小さな行動から生活との接点を取り戻していく心理療法です。
そこで今回のブログでは、その行動活性化についてシェアしたいと思います。
1.うつ病になると生じる「動けないから、さらに動けなくなる」という悪循環
うつ病では、抑うつ気分だけでなく、意欲の低下、疲れやすさ、集中力の低下、興味や喜びを感じにくくなることなどが生じます。
すると、以前なら行っていたことが少しずつ減っていきます。
友人からの誘いを断る、外出しなくなる、趣味をやめる、家事を後回しにする、ベッドで過ごす時間が増える…。
こうした行動には、その瞬間の苦痛を減らす働きがあります。
人に会うのがつらいときに予定を断れば、その瞬間は楽になります。失敗するのが怖いときに行動を避ければ、不安を感じずに済みます。
しかし、それが長く続くと、以下のような悪循環が生じます。
✔抑うつ・疲労
↓
✔活動や人との関わりが減る
↓
✔達成感や楽しさ、社会とのつながりが減る
↓
✔生活がさらに狭くなる
↓
✔抑うつがさらに強くなる
行動活性化では、この循環を変えていくことを目的にしています。
2.行動活性化は「たくさん行動すること」ではない
ここが非常に大切です。
行動活性化という名前を聞くと、「家から出ましょう」「運動しましょう」「友人と会いましょう」「趣味を見つけましょう」と活動量を増やす治療を想像するかもしれません。
しかし、本来の行動活性化はそうしたものではありません。
Uphoffら(2020)のCochraneレビューでも、行動活性化は、本人と環境との関わり方を変える心理療法として説明され、活動のモニタリング、活動の予定化、行動と気分の関係の確認などが含まれています。
つまり、「もっと行動する」のではなく、「どの行動を、なぜ行うのか」を考えるのです。
そのため、今の体調で到底できないことを無理に予定へ入れるのは、行動活性化の趣旨とは異なります。
3.「やる気が出たら動く」だけでは回復が進みにくい
うつ病では、「元気になったら散歩しよう」「気分が良くなったら友人に連絡しよう」「やる気が戻ったら仕事について考えよう」と思うことがあります。
もちろん、十分な休養が必要な時期もあります。
一方で、気分が改善するまで完全に行動を止めていると、生活の中から気分を変えるきっかけそのものが減ってしまうというリスクを高めてしまいます。
そこで行動活性化では、「気分が良くなる → 行動する」という一方向だけでなく…
「小さく行動する → 新しい経験が生じる → 気分や意欲が少し変化する」という方向に注目します。
これは強調したいのですが「やる気がなくても頑張れ」という意味ではありません。
むしろ、やる気を必要としない程度まで行動を小さくすることが重要です。
4.最初の行動はスモールステップから
たとえば、以前は毎日30分散歩していた方がいるとします。
そしてうつ病になり、現在は玄関から出ること自体が大変なのに、「健康のために30分歩きましょう」という目標を立てれば、失敗する可能性がありますし、そもそも非現実的です。
これを無理に進めると、「やっぱり自分にはできない」という自己否定がさらに強くなることがあります。
その場合には、「着替える」「玄関まで行く」「家の外に1分出る」というところから始めても構いません。
重要なのは、行動の大きさではありません。
現在の自分が実行できる行動を選び、それによって生活との接点を少しずつ増やすことです。
5.行動活性化は「楽しいことをしましょう」ではない
うつ病では、以前好きだったことをしても楽しく感じられないことがあります。
これはanhedonia(アンヘドニア:快感消失)と呼ばれる症状の一つです。
そのような状態の方に、「好きなことをしましょう」「趣味を楽しみましょう」と言っても、「楽しめないから困っているのです」となってしまいます。
そのため行動活性化では、「楽しいかどうか」だけを行動の基準にはしません。
日々の生活を維持するために必要なことや、小さな達成感につながること、誰かとのつながりを保つこと、そして自分が大切にしたいことに関わる行動も含めて考えていきます。
食器を一つ片づける。シャワーを浴びる。家族と5分だけ話す。郵便物を一つ開封する…。
その時点では「楽しい」と感じなくても、生活を少し前へ動かしている行動には意味があります。
6.実際に行動活性化には効果があるのか?
Uphoffら(2020)は、成人のうつ病・抑うつ症状に対する行動活性化について、53研究、5,495人を対象としたCochraneレビューを行いました。
そして通常治療との比較では、短期的な治療効果について、RR=1.40、95%信頼区間=1.10~1.78という結果でした。
これは、行動活性化を受けた人では、通常治療を受けた方に比べて、治療反応や寛解といった良い結果が得られる割合が約1.4倍だったという意味です。
ただし、より厳しい条件でデータを分析すると差が明確ではなくなる分析もあり、研究者らは結果の解釈には慎重さが必要だとしています。
したがって、「行動活性化を行えば必ず良くなる」と断定することはできません。
しかし、成人うつ病に対する治療選択肢として、行動活性化を支持する一定の研究結果があると考えてよいでしょう。
7.「休むこと」と行動活性化は矛盾しない
「行動活性化」という言葉を聞くと、直感的に「休んではいけないの?」と思われるかもしれません。
しかし、休養が必要な状態であれば、休むことも重要です。
問題になるのは、休むことそのものではありません。
例えば、「今日は体力を回復するために午後まで休む」という休息と、「何をしても失敗するのが怖いので1日中ベッドから出ない」という回避では、同じ「横になっている」という行動でも機能が違います。
そのため行動活性化では、「その行動が短期的に何をもたらし、長期的には生活にどのような影響を与えているのか」を確認します。
したがって、休むか動くかを一律に決める心理療法ではありません。
8.「できたかどうか」だけで評価しない
行動活性化を行うときに注意したいのが、「今日は散歩できたから成功」「今日はできなかったから失敗」という評価です。
うつ病には症状の波があるため、昨日はできたことでも、今日は難しく感じることがあります。
そのようなときは、できなかったことを失敗と捉えるのではなく、なぜ今日は難しかったのか、設定した行動が大きすぎなかったか、時間帯を変えた方が取り組みやすいか、何が行動を妨げていたのかといった点を振り返り、次に取り組む行動を無理のない形に調整していきます。
これは精神論との決定的な違いです。
精神論であれば、「もっと頑張る」となります。
行動活性化では、「できなかった理由を分析し、できる条件を作る」と考えます。
9.大切なのは「生活を取り戻すこと」
うつ病からの回復を、単に「気分が落ち込まなくなること」だけで考えるべきではありません。
人と話せるようになる、朝起きられるようになる、仕事や家事に少しずつ戻れる、以前大切にしていたものに、再び関われるようになる…。
行動活性化が目指しているのは、こうした生活とのつながりの回復です。
だからこそ、「今日は楽しかったですか?」だけではなく…
✔「少しでも達成感がありましたか」
✔「生活が少し広がりましたか」
✔「自分にとって大切なことに近づけましたか」
…という視点も大切になります。
10.行動活性化は「頑張る治療」ではなく「頑張らなくても動ける仕組みを作る治療」
うつ病になっている方に、「もっと外に出た方がいい」「何かやった方がいい」と伝えるだけなら、それは行動活性化ではありません。
行動活性化では、まず現在の生活を理解します。
何をすると一時的に楽になるのか、その行動を続けると長期的にはどうなるのか、以前は何から達成感やつながりを得ていたのか、今のエネルギーで実行できることはどこまでなのか…。
そして、無理のない大きさに行動を調整します。
「できないなら頑張る」のではなく、「できないなら、できる大きさまで小さくする」
ここに行動活性化の重要な考え方があります。
心理カウンセラーとして私が大切だと考えているのは、うつ病の方に「動いてもらうこと」ではありません。
抑うつによって狭くなってしまった生活を、その人が今できるところから少しずつ取り戻していくことです。
行動活性化は、そのための一つの有効な方法です。
よくある質問
Q1.うつ病なのに無理に動くと、かえって悪化しませんか?
無理に動くことは行動活性化の目的ではありません。
現在の体力や症状を確認し、実行可能な大きさから行動を設定します。
設定した行動で疲労が強くなる場合には、行動量や内容を調整する必要があります。
Q2.やる気がまったくなくても行動活性化はできますか?
やる気が十分になるまで待つことを前提にはしていません。
ただし、気力を振り絞って大きな課題を行うわけでもありません。
「今の状態でもできそうなこと」を探し、小さな行動から始めます。
Q3.散歩をすればうつ病は良くなるのでしょうか?
散歩そのものが行動活性化なのではありません。
その人にとって散歩がどのような意味や機能を持っているかが重要です。
人によっては散歩より、家事、人との交流、生活リズムを整える行動などの方が適していることもあります。
Q4.行動しても全然楽しくありません。それでも続ける意味がありますか?
うつ病では「楽しい」と感じる力そのものが低下することがあります。
そのため、最初から楽しさだけを求めません。達成感、生活維持、人とのつながり、自分にとって意味のあることなども含めて変化を見ていきます。
Q5.重いうつ病でも行動活性化だけで対応できますか?
状態によっては心理療法だけでの対応が適切でないことがあります。
強い抑うつ、最悪の選択肢を考える、著しい食事・睡眠の問題などがある場合には、精神科・心療内科などでの医学的評価や薬物療法を含めた治療も検討する必要があります。
行動活性化は、必要な医療を置き換えるものではありません。
参考文献
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こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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