なぜ「何をしても虚しい」と感じるのか?~その感覚はどこから来るのか~
2026/09/15
なぜ「何をしても虚しい」と感じるのか?~その感覚はどこから来るのか~
心理カウンセリングでお話を伺っていると、「虚しさ」が大きなテーマになることがあります。
仕事には行けている。
人とも会っている。
趣味を楽しめる時間もある。
それなのに、一人になった瞬間に「結局、何のためにこんなことをしているのだろう」と感じる…。
あるいは、人と一緒にいても自分だけが取り残されているように感じたり、「自分の中に何もない」「何をしても満たされない」と感じたりすることもあります。
このようなときに、「気分転換をしましょう」「楽しいことを増やしましょう」と言われても、多くの場合当事者の方にはフィットしません。
D’Agostinoら(2020)は、虚しさを単なる落ち込みではなく、「身体の感覚」、「他者とのつながり」、「自分自身の充足感や人生の目的」などに関係する複雑な心の状態として整理しています。
虚しさは境界性パーソナリティ症でよく知られていますが、うつ病など複数の精神的な問題でもみられるため、「虚しいから○○の病気だ」と単純に判断することはできません。
そして虚しさを抱えているときに大切なのは、無理に何かで埋めようとすることより、「自分にとって、この虚しさは何が欠けている感覚なのか」を丁寧に理解することです。
そこで今回は、虚しさについて心理カウンセラーの視点から解説したいと思います。
1.そもそも「虚しさ」とは何か
虚しさには大きく3つの要素があります
D’Agostinoら(2020)は、虚しさという体験には、大きく分けて3つの要素が含まれていると整理しています。
一つ目は、身体的な空虚感です。
虚しさは単なる「考え」ではなく、「胸の中に穴が空いている」「お腹の中が空洞のように感じる」「自分の中身が抜け落ちている」といった身体感覚として現れることがあります。
人によっては、言葉で説明するよりも「身体の中が空っぽ」という感覚の方が近い場合もあります。
二つ目は、他者とのつながりが失われたように感じることです。
実際には家族や友人、パートナーがいても、「誰とも本当にはつながっていない」「自分だけが周囲から切り離されている」と感じることがあります。
そのため、単に一人でいることによる孤独とは異なり、人と一緒にいても虚しさが続くことがあります。
三つ目は、自分自身の充足感や人生の目的が感じられないことです。
「何をしても満たされない」「自分が何をしたいのか分からない」「毎日を過ごしていても意味を感じられない」といった体験です。
この場合、虚しさは単なる寂しさではなく、自分自身や人生とのつながりが薄れている感覚として現れます。
つまり、同じ「虚しい」という言葉でも…
✔身体の中が空っぽに感じる虚しさ、
✔誰ともつながっていないと感じる虚しさ、
✔自分自身や人生に意味を感じられない虚しさ
という、それぞれの内容では、その背景にある心理状態が異なる可能性があります。
そのため心理カウンセリングでは、「虚しい」という言葉だけで判断するのではなく、その人にとって何が失われたように感じられているのかを丁寧に整理することが重要です。
2.虚しさと「退屈」は同じではない
退屈しているときには、「何か面白いことをしたい」という気持ちがあります。
映画を観たり、友人と出かけたり、新しいことを始めたりすると気分が変わることもあります。
ところが虚しさが強いと、「何かをしたいと思わない」あるいは、「何をしても結局同じだ」と感じることがあります。
この違いは重要です。
虚しさと退屈は全く異なるため、単なる退屈だと考えて予定をたくさん入れても、予定が終わった後に再び虚しさが戻ってくるということにつながります。
その場合には、「活動が足りない」というより、活動と自分自身との間につながりを感じられているかを見る必要があります。
3.「孤独」とも異なる
孤独の場合には、「誰かとつながりたい」という気持ちが比較的はっきりしています。
そのため会いたい人に会えたり、自分の気持ちを理解してもらえたりすると、孤独感が和らぐことがあります。
一方で虚しさの場合には、「誰かと一緒にいても満たされない」ということが多々あります。
人と会っているのに虚しい。恋人がいるのに虚しい。家族と過ごしていても、一人のように感じる…。
この場合、人がいないことではなく、「人とつながっている実感が弱くなっている」可能性があります。
そのため、「もっと人と会えばよい」と単純には考えられません。
4.「何も感じない」という感覚とも区別が必要
つらい出来事の後などに、「悲しいはずなのに、何も感じない」という状態になることがあります。
これは感情の麻痺や鈍化として理解できる場合があります。
一方、虚しさでは「感情を感じない」だけでなく、「自分そのものに中身がないように感じる」ことが多くみられます。
そのため心理カウンセリングでは「何も感じないのでしょうか」だけではなく、「自分自身がなくなってしまったような感じでしょうか」「何かをしても意味を感じられないのでしょうか」といったことを丁寧に確認する必要があります。
5.境界性パーソナリティ症と虚しさ
虚しさは、境界性パーソナリティ症でよく知られている症状の一つです。
D’Agostinoらのレビューでは、境界性パーソナリティ症における虚しさは、自己像の不安定さ、つらい感情、人との関係の難しさなどと関連していることが整理されています。
また、他の症状が改善してきた後にも、虚しさが比較的長く残る場合があることも指摘されています。
例えば、「相手に必要とされているときは自分が存在している感じがする。でも、一人になると自分が分からなくなる」という状態があります。
この場合、問題は単に寂しいことだけではありません。
「自分はどのような人間なのか」「何を大切にしたいのか」という自己の感覚そのものが安定しにくいことが、虚しさと関係している可能性があります。
ただし、「虚しい=境界性パーソナリティ症」という単純な図式で表せるという意味ではありません。
6.うつ状態でも虚しさを感じることがある
うつ状態でも、「何をしても楽しくない」「意味がない」「自分の中が空っぽだ」という感覚が現れることがあります。
D’Agostinoらは、虚しさとうつ症状との関連を示す研究を紹介しています。
ただ、うつ状態で感じる虚しさと、境界性パーソナリティ症などで長期間続く虚しさが、まったく同じものなのかはまだ十分に分かっていません。
そのため「虚しいから、うつだ」と自己判断するよりも…
「いつから続いているのか」
「気分の落ち込みと一緒に強くなるのか」
「昔から繰り返している感覚なのか」
…というものを見ていくことが重要です。
7.なぜ虚しいと、自分を傷つけたくなることがあるのか
虚しさが非常に強くなると、自分を傷つける行動につながる場合があります。
これは必ずしも、「つらい感情を減らしたい」という理由だけではありません。
自傷行為を行う方にとっては、「何も感じないことが耐えられないから、何かを感じたい」という意味を持つことがあります。
つまり…
「虚しい→ 自分が存在している感覚が乏しくなる→ 強い刺激を求める→ 一時的に『何かを感じられる』」という流れが生じる場合があります。
D’Agostinoらのレビューでも、虚しさと自傷行為、さらに「最悪の選択肢」に関わる考えとの関連が指摘されています。
そのため、虚しさが強く、自分を傷つけたい気持ちや「最悪の選択肢」が頭に浮かぶ状態がある場合には、一人で抱え込まず、医療機関や心理職など専門家につながることが重要です。
8.「虚しさを埋めよう」としすぎないこと
虚しさを感じると…
「恋人ができれば満たされる」
「仕事で成功すれば変わる」
「もっと予定を入れれば考えなくて済む」
…と思うことがあります。
もちろん、人とのつながりや活動によって改善する場合もあります。
しかし、何をしても虚しさが戻ってくるのであれば、「何を足せば埋まるのか」だけを考え続けても、解決しないことがあります。
大切なのは…
「自分は何を大切にしたいのか」
「どのようなときに、自分が自分であると感じられるのか」
「誰といるときに、つながっている感覚があるのか」
「虚しくなる直前には何が起きているのか」
…といったことを整理することです。
9.虚しさに対する心理カウンセリングの支援とは
「虚しい」と感じている方に対して、すぐに答えを見つけることは無理があります。
むしろ、「その虚しさが何でできているのか」を一つずつ確認していくことが有効です。
✔悲しいのか。
✔寂しいのか。
✔何も感じないのか。
✔自分が分からないのか。
✔誰ともつながっていないように感じるのか。
✔何をしても意味を感じられないのか。
この違いによって、必要な支援も変わってきます。
D’Agostinoら(2020)の研究は、虚しさを一つの単純な感情として扱うことの難しさを示しています。
虚しさには身体感覚、人とのつながり、自分自身の感覚、人生の意味など、さまざまな側面が含まれている可能性があります。
そのため、虚しさがあることによって自分を責める必要はありません。
まずは、「私は何がなくなったように感じているのだろう」と考えてみることが大切です。
虚しさを何かで急いで埋めることよりも、その感覚が自分に何を伝えているのかを理解することが、回復への一つの入り口になってきます。
よくある質問
Q1.特に嫌なことがないのに虚しくなります。しかも理由が全く分かりません
理由がすぐに分からないことは珍しくありません。
虚しさは、その直前の出来事だけでなく、長く続いている人間関係、自己評価、生活の意味、自分自身の感覚などと関係している場合があります。
そのため、「原因を特定する」より、どのような場面で強くなるのかを少しずつ確認していくことが役立ちます。
Q2.恋人がいれば虚しさがなくなる気がします。本当にそうでしょうか?
人とのつながりによって和らぐことはあります。
ただし、人と一緒にいても虚しさが続く場合には、「一人であること」だけが原因ではない可能性があります。
相手とのつながりを感じられているか、自分自身の価値を相手の存在だけに頼っていないかも考える必要があります。
Q3.趣味をしても楽しくありません。それでも無理に何か始めた方がよいですか?
必ずしも活動量を増やせばよいわけではありません。
というのは、うつ状態などで楽しさを感じにくくなっている可能性もあるからです。
そのため「楽しめるか」だけでなく、生活を維持できているか、少し達成感があるか、自分にとって意味があるかといった視点も大切です。
Q4.昔からずっと虚しいのですが、これは性格なのでしょうか?
長期間続いているからといって、必ずしも変えられない性格という意味ではありません。
長年の人間関係、自分自身についての捉え方、感情への対処方法などが関係している可能性があります。
長く続いている場合ほど、「いつから」「どんなときに強くなるか」を専門家と整理する価値があります。
Q5.虚しさが強いと、自分を傷つけたい気持ちや「最悪の選択肢」が浮かぶことがあります。クリニックや心理カウンセラーに相談した方がよいでしょうか?
むしろ、そのような状態では早めに相談してください。
虚しさと自傷行為や「最悪の選択肢」に関わる考えとの関連は研究でも指摘されています。
一人で対処し続ける必要はありません。
強い衝動がある場合には、心理カウンセリングだけでなく、精神科・心療内科など医療機関につながり、安全を確保することを優先してください。
参考文献
----------------------------------------------------------------------
こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
兵庫でメンタルケアを実施
----------------------------------------------------------------------
この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
プロフィールはこちら


