感情をうまく扱えないのは、子供の頃に否定され続けたから?
2026/09/19
感情をうまく扱えないのは、子供の頃に否定され続けたから?
心理カウンセリングにおいて、「自分の感情に振り回されてしまう」と言う方は珍しくありません。
さらにお話を聞いていくと、子どもの頃に、「泣くな」「そんなことで怒るな」「お前の感じ方がおかしい」「どうしてそんなこともできないんだ」といった言葉を繰り返し受けていたという方もおられます。
そのような経験があると、大人になってからも、自分自身の感情をうまく扱えなかったり、あるいは自分自身の感情を否定するという傾向を持ってしまうリスクが高くなります。
この問題に対してAmini-Tehraniら(2026)は、多数の研究をまとめ、幼少期の心理的虐待と成人後の感情調整との関係を検討しました。
その結果、心理的虐待を多く経験していた人ほど、成人後に嫌な感情を避けたり、繰り返し考え続けたり、感情を受け入れたり耐えたりすることに難しさを抱える傾向が確認されました。
そこで今回は、幼少期の虐待等と大人になってからの感情との関わり方についてシェアしたいと思います。
1.心理的虐待とは、殴られることだけではない
本題に入る前に、まず虐待について考えてみましょう。
「虐待」という言葉を聞くと、身体的な暴力を想像する方が多いかもしれません。
しかし心理的虐待には、繰り返し侮辱する、存在を否定する、強く脅す、恐怖を与えるといった行為も含まれます。
具体的には、「お前なんかいらない」「お前のせいで家族がおかしくなった」「そんな性格だから誰からも嫌われる」といった言葉を繰り返されることです。
もちろん、親から一度厳しく叱られたからといって、それだけで心理的虐待と判断するわけではありません。
重要なのは、否定・侮辱・恐怖を伴う関わりがどの程度繰り返され、その方にどのような影響を与えていたかです。
2.研究で特に目立ったのは「感情を避けること」
Amini-Tehraniらのメタ分析では、幼少期の心理的虐待が強かった方ほど、大人になってから感情を避けようとする対処を使いやすい傾向が確認されました。
つまり、感情を感じないようにする、という傾向です。
これは比較的小さな違いではなく、複数の研究をまとめても一貫してみられた弱~中程度の関連でした。
例えば…
✔悲しいことを考えないようにする。
✔怒りを感じる場面から逃げる。
✔嫌な感情が出ると、別のことで頭をいっぱいにする。
…といった反応です。
こうした対処は一時的には楽になることがあります。
しかし、「嫌な感情が出たら避けなければならない」という状態が続くと、感情そのものへの怖さが強くなってしまうことにつながります。
3.非常に多い「反すう思考(ぐるぐる思考)」
また研究では、反すう(ぐるぐる思考)との関連も比較的はっきりしていました。
反すうとは、同じ問題について繰り返し考え続けることです。
✔「なぜあんなことを言われたのだろう」
✔「どうして自分はこうなんだろう」
✔「あのとき、こうしていればよかった」
このような思考が頭の中を何度も回ってしまいます。
一見すると、これは感情から逃げているようには見えません。
むしろ「感情に向き合いすぎている」ように感じるかもしれません。
しかし、「感情そのものを感じることと、その感情について考え続けること」は同じではありません。
悲しいときに、「私は今、悲しい」と感じる代わりに、「なぜこんなことになったのか」を何時間も考え続けるという場合があったとします。
すると、悲しみそのものを受け止めたり、必要な行動へ移ったりすることが難しくなることにつながってしまいます。
4.「感情に気づけない」ことが中心ではない
この研究で特に興味深い点があります。
「幼少期の心理的虐待と、自分の感情に気づく能力そのものとの関連は、かなり小さかった」のです。
つまり、「心理的虐待を受けた人は、自分が何を感じているか分からない」と単純には言えません。
むしろ、「感情には気づいているけれど、その後の扱いが難しい」という状態が考えられます。
例えば、「私は今、怒っている」ことは分かっているとします。
しかし、子供の頃の親や大人たちからの否定の影響によって、「怒ってはいけない」「こんなことで怒る自分はおかしい」と思い、その怒りを抑え込むという事態が生じてしまう可能性が高くなります。
しかし、感情そのものは確かにその方の中に存在しています。
そのため、感情はそう簡単には消えてくれません。
そのため感情は消えず残り続け、頭の中で何度も考え、最後には爆発してしまう…
こうした流れが生じやすくなってしまうんですね。
5.感情を「受け入れられない」ことも関係している
研究では、心理的虐待を経験した程度が強いほど、「自分の感情を受け入れにくい傾向」も確認されました。
例えば、一次的には、「悲しい」という感情が出たとします。
その後、「こんなことで悲しんではいられない」「もっと強くならなければ」という反応が加わる可能性が高くなります。
すると、「悲しさ+悲しんでいる自分への自己否定」という構図が生まれます。
本来の悲しみだけなら、時間とともに変化していく可能性があります。
しかし、「悲しむ自分は駄目だ」という自己批判が加わると、さらに苦しくなります。
そのため心理カウンセリングでは、感情そのものだけでなく、「その感情を持っている自分に、どのような評価をしているか」を見ることが重要になってきます。
6.つらい感情に耐えることも難しくなる
研究では、幼少期の心理的虐待は、成人後の苦痛への耐えにくさとも関連していました。
例えば、「不安が出る」「怒りが出る」「悲しくなる」という状態があったとします。
その感情は当然不快ですから、感情が生じた瞬間に、「早くこの感情を消さなければ」という方向に進んでしまいがちになります
すると回避する、何度も確認する、誰かを責める、衝動的な行動を取るといった適切ではない方法で、できるだけ早く感情を終わらせようとすることにつながってしまいます。
しかし心理療法では、「感情があることと、その感情のまま行動しなければならないことは別」と考えます。
「怒っているけれど、今すぐ相手を責めなくてもよい」「不安だけれど、今すぐ確認しなくてもよい」という余地を作ることが、感情調整では重要になります。
7.「考え方を変えることができない」わけではない
認知行動療法では、出来事の捉え方を見直す認知再構成法を使うことがあります。
これは考え方を変えることによって、しんどい感情が緩和されること、あるいは感情と向かうことが出来るようになることを目的としています。
そして認知再構成法では認知、つまり考え方に柔軟性を持てるようにすることが重視されます。
しかし今回の研究では、幼少期の心理的虐待と、この認知再構成法との関連はかなり小さいものでした。
これは「心理的虐待を受けたから、考え方を柔軟に変えられなくなる」という意味ではありません。
むしろ問題になりやすいのは、「感情を避ける」「感情について考え続ける」「感情を受け入れられない」「感情が高まると衝動を抑えにくい」といった部分でした。
そのため、支援でも「考え方を変える」という認知構成法だけでは十分でない場合があります。
8.心理カウンセリングでは「感情をなくす」のではなく「扱えるようにする」
過去に心理的虐待を経験している方の支援では、「もっと感情をコントロールしようとする」ということだけでは、かえって、「また自分は感情をうまく扱えない」という自己否定につながることがあります。
大切なのは、感情をなくすことではなく、感情が出ても自分で扱える経験を増やしていくことです。
例えば、まずは「今、私は怒っている」と気づくことから始めます
そして「怒るのは悪いことだ」とすぐ判断せず、その怒りが何を伝えているのかを確認します。
そして、怒ったままでも、どの行動を選ぶかは自分で決めることができるというスタンスを取ります。
このような過程を少しずつ積み重ねていきます。
9.過去は変えられなくても、現在の感情との付き合い方は変えられる
Amini-Tehraniら(2026)の研究から、「幼少期の心理的虐待を受けたら、大人になってもずっと感情調整が難しい」と結論づけるべきではありません。
この研究は、過去の心理的虐待経験と現在の感情調整との間に関連があることを示したもので、心理的虐待が現在の問題を直接引き起こしたことを証明した研究ではありません。
また、研究全体でも個人差は大きくみられました。
同じような経験があっても、その後の人間関係、支えてくれた人の存在、気質、生活環境などによって影響は異なります。
それでも、この研究から一つ重要なことが分かります。
過去に起きたことそのものは変えられなくても…
✔「怒りをどう扱うか」
✔「悲しみにどう向き合うか」
✔「嫌な感情が出たとき、すぐ逃げるのか少し留まるのか」
✔「感情を持っている自分をどう評価するか」
というものは、現在から見直すことができます。
そのため心理カウンセリングでも、「なぜ昔こんなことが起きたのか」を理解するだけでなく、「その経験によって身についた感情への対応を、今の自分に合うものへ変えていく」ということが重要になります。
もし、「感情的な自分が嫌い」「怒る自分が嫌」「悲しくなると、自分自身まで否定してしまう」と感じているのであれば、「自分は感情をコントロールできない人間だ」と結論づける前に、「私はこれまで、感情をどのように扱うことを学んできたのだろう」と考えてみることが、一つの入り口になると言えるでしょう。
よくある質問
Q1.子どもの頃に親から否定されていましたが、今の感情の問題はすべてそのせいなのでしょうか?
必ずしも、そうとは言えません。
今回の研究で確認されたのは関連であり、因果関係ではありません。
気質、現在の人間関係、ほかの体験など複数の要因が関係します。
ただ、幼少期にどのように感情を扱われてきたかを振り返ることが、現在の反応を理解する手がかりになる場合はあります。
Q2.私は自分が怒っていることは分かります。それでも感情調整が苦手なのでしょうか?
状況によっては、あり得ます。
今回の研究では、「感情に気づくこと」よりも、「気づいた感情を受け入れる、耐える、整理する、感情が強いときに行動を調整する」といった部分との関連の方が目立っていました。
しかしながら、気づけていること自体は大切な力だと言えます。
Q3.嫌なことを何度も考えてしまいます。ちゃんと向き合っているということではないのですか?
場合によります。
振り返ることで整理が進むこともあります。
一方、同じ問いを繰り返しても新しい理解や行動につながらない場合には、反すうになっている可能性があります。
「考えた結果、少し整理されたか、それともさらに苦しくなったか」を一つの目安にするとよいでしょう。
Q4.怒りや悲しみは、なるべく抑えた方がよいのでしょうか?
感情そのものを抑えることが常に必要なわけではありません。
感情は自分に何かを知らせる反応でもあります。
大切なのは、「怒りを感じないこと」ではなく、「怒りを感じても、どのような行動を取るかを選べること」です。
Q5.子どもの頃のことを詳しく話さないと、カウンセリングでは改善できませんか?
必ずしもそうではありません。
過去を扱うことが役立つ場合もありますが、現在の「感情が出たときに何をしているか」「どのように自分を責めているか」といったところから支援を始めることもできます。
過去をどこまで扱うかは、その方の状態や希望に応じて考えることが大切です。
参考文献
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こころのケア心理カウンセリングRoom
兵庫県芦屋市浜芦屋町1-27 サニーコート浜芦屋302号
電話番号 : 090-5978-1871
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この記事の執筆者
駒居 義基(こころのケア心理カウンセリングルーム 代表)
心理カウンセラー(公認心理師)。20年以上の臨床経験と心理療法の専門性を活用して、神戸市や芦屋市、西宮市の近隣都の方々にお住いの心のお悩みを抱えている方に対して、芦屋市を拠点に最適なサポートを提供しています。
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